ボンバルディアの新リジョナル機“CSeries”

(公財)航空機国際共同開発促進基金 【解説概要 17-1-2】
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ボンバルディアの新リジョナル機“CSeries”計画について
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背景
Bombardier の役員会は、懸案であった CSeries 旅客機のエアラインへの提案開始を
2005 年 3 月 15 日に承認(ATO;Authorization to Offer)した。その時点では 6 月のパ
リ・エアショーでの正式ローンチが目標であったが、これが 9 月に延期され、更に、7 月
の時点では今年中のローンチも危ぶまれている。
本資料では、わが国でのリジョナル機開発推進の一助になるよう、これまでの経緯とそ
の計画推進を妨げている様々な問題について述べる。
2
経緯
2.1 CRJ の成功
1980 年代末に Bombardier のビジネス・ジェット Challenger609 を 50 席のリジョナル
機に改造するという計画を支持する人は少なかった。この分野では既にターボプロップ機
の運航が確立されており、殆どの人は、速度を生かせない短距離市場でジェット機が利益
をあげられる、とは考えていなかった。しかし、まだ自由化の波が押し寄せていない欧州
で、当時半官半民であったドイツのルフトハンザ航空が子会社の地域運航にこの CRJ-100
を採用するとしたため、この計画は潰れないで生き残った。
その後 1990 年代中期に至って、Hub & Spoke 運航によって全米を支配していた大手航
空会社が、自由化の圧力に押されて、合理化のために旅客の少ない Spoke 路線の子会社へ
の運航委託を促進し、そこで親会社と同等のジェットによるサービスを要求したため、こ
の 50 席リジョナル・ジェット機の需要に火が付いた。そこでは、高速性を生かして Hub
空港の守備範囲を拡大する利点も見出された。このため、
販売を開始した 1990 年から 1996
年までの 172 機、年平均 25 機の受注は、1997 年から 2001 年までに 769 機、年平均 154
機に、これに胴体延長型の CRJ-700/-900 を加えれば 967 機、年平均 193 機に達した。
表-1 Bombardier の Challenger604 とリジョナル機の諸元
機種
Challenger604
CRJ-200ER
CRJ-700ER
CRJ-900ER
座席数
5~19
50
70
86
航続性能(nm)
4080
1650
2030
1732
全長(m)
20.9
26.8
32.4
38.9
全幅(m)
19.6
21.2
24.1
24.1
34.0
37.4
2.69
胴体幅(m)
最大離陸重量(t)
21.6
23.1
2.2 後を追う ERJ
ブラジルで 19 席の EMB110 や 30 席の EMB120 といったターボプロップ機を生産して
いた Embraer も Bombardier の後を追って 1994 年からリジョナル・ジェット市場に進出
してきた。最初は EMB120 をジェット・エンジンに換装しただけの案であったが、順次
主翼や胴体も大幅に改修した 35~45 席の ERJ135/140/145 を市場に送り出した。1996 年
1
までの 3 年間には僅か 40 機を販売しただけであったが、1997 年から 2001 年にかけては
Bombardier 同様に 788 機,年平均 157 機を販売した。
表-2 Embraer のリジョナル機の諸元
機種
EMB120(*)
ERJ145(LR)
Embraer170
Embraer190
座席数
30
50
70
98
航続性能(nm)
600
1620
1680
1680
全長(m)
20.0
29.9
29.9
36.2
全幅(m)
19.8
20.0
26.0
28.7
2.28
胴体幅(m)
最大離陸重量(t)
10.8
2.92
22.0
36.0
47.0
* ;ターボプロップ
2.3 両社の商品系列の充実
1990 年代後半の Bombardier の大成功の要因の一つに、1997 年から胴体延長型の 70
席及び 86 席の CRJ-700/-900 を開発・販売してファミリー化を完成させ、運航者に将来に
わたる幅広い選択肢を与えたことが挙げられる。同時に、自信を得た Bombardier は更に
100~130 席までの市場進出をめざした BRJ-X と称する新型機も検討したが、直接運航費
を現用機より 15~20%下げるという目標の達成見込みがないとして 2000 年に中断した。
一方、
30 席のターボプロップからの改造型で 3 列座席の細い胴体断面であった Embraer
は CRJ-700/900 のような 70~90 席の胴体延長型を提供できなかったところから、1999 年
からいち早く広い 4 列座席の胴体断面をもつ新型の Embraer-170/175/190/195 の開発・販
売に乗り出した。これらは各々最大 70/78/98/108 席機となる。
2.4 大型リジョナル機の需要
2002 年以降はテロ事件の影響で航空輸送の発展が滞り、その中で低コスト・エアライン
の進出と財務状況の悪化に苦しむ北米大手エアラインが、一層の合理化のために、リジョ
ナル・エアラインへ小路線の委託を進めたこと、更に、大型リジョナル機の運航を制限し
てきた操縦士組合との協定(所謂 Scope Clauses)が大幅に緩和されることになって、50
席以下のリジョナル機の需要が一巡、一服する中で、70 席以上の大型リジョナル機の需要
が急増してきた。
2.5 CRJ700/900 の競争力
こうなると CRJ200 との共通性で販売してきた CRJ700/900 もビジネス機を起源とする
細い胴体が新型 Embraer170~195 に見劣りして、競争力の不足が目立ってきた。
1997 年に発売された CRJ700/900 の 2004 年末までの受注機数は 312 機だったが、2 年
遅れて 1999 年発売の Embraer170~195 は 343 機を受注してこれを抜き去った。特に 90
席機では Embraer190/195 が 170 機受注しているのに対して、
CRJ900 は 45 機しかない。
最も典型的な例としては、2003 年 6 月に米国で急成長している低コストエアラインのジ
ェットブルー(JetBlue)が Embraer190 を選定して 85 機発注したことや、2004 年1月
に膝元のエア・カナダがリジョナル機 90 機発注に際して CRJ200/700 を 45 機と
Embraer190 を 45 機に分割発注したことが挙げられる。
2
図-1 Embraer170/190 と CRJ200/700/900 の胴体断面比較
Embraer170/190
CRJ200/700/900
即ち、ここにきて Bombardier がこの市場を守るには新型機の開発が不可避となった。
勿論このことは十分予想されたことであって、Bombardier は、BRJ-X 検討中止以後も
2002 年には倒産した Fairchild-Dornier が開発中であった 70~90 席ファミリー728/928 計
画の買収を真剣に検討したが実現に至らなかった経緯がある。
3 CSeries の開発
3.1 機体仕様
2004 年 3 月、Bombardier 航空宇宙部門は社内を機構改革し、航空機サービス、ビジネ
ス機、リジョナル機に加えて、元 Boeing 上級副社長の Gary Scott 氏を長とする新商用機
部門を新設し、新型機の開発体制を敷いた。7 月のファンボロー・エアショーで発表され
たこの“CSeries”は Competitive Continental Connector を意味する名前で、最早リジ
ョナル機ではなく、Boeing や Airbus の商品群の最小分野と競合する、米大陸横断も可能
な本格的商用機のファミリーと位置づけている。現在の案では Embraer170~195 より1
座席広い 5 列席胴体で、110 席と 130 席に各々航続距離が 1,800nm の STD(Standard)と
3,000nm の ER(Extended Range)バージョンがある 4 機種のファミリーとされている。
表-3 Bombardier 社;CSeries の諸元
C110
機種
STD
座席数
航続性能(nm)
C130
ER
STD
110(99:2 クラス)
1,800
130(119;2 クラス)
3,000
1,800
35
全長(m)
33.7
全高(m)
11.3
54.7
3,000
38.2
全幅(m)
最大離陸重量(t)
ER
60.4
3
59.8
66.2
図-2 CSerise-110 の三面図
図―3 CSeries-110 の客室配置
図―4 CSeries;胴体断面図
3.2 市場と狙い
対象は 90~150 席の市場で、今後 20 年間に現用旧型式機 DC9、F100、737Classic、
4
BAe146、
MD80 等の代替用 4,000 機を含む 6,000 機、
$250bnの潜在需要を予測している。
最新技術を適用した上で、110~130 席分野で最適化された機体を開発すれば、大型機か
らの縮小派生型である B737-600 や A318 或いは 70 席機からの胴体延長派生型である
Embraer190/195 といった分野で、現在生産中の機材に対して直接運行費の 15%減が旧型
式機に対しては 20%減とすることが可能で、潜在需要の 50%を販売できる、としている。
3.3 最新技術;機体とエンジン
“現用型式に対して直接運航費を 15~20%削減する”差別化には最新機体技術の適用が
不可欠である。それには、①中胴、後胴、尾胴、尾翼及び主翼の部分的な複合材化によっ
て、最終的に構造重量の 20%を複合材とする、②第 4 世代遷音速翼、③FBW 系統とサイ
ド・スティックによる先進操縦室の採用、等が含まれている。
しかし、最重要項目はエンジンである。2004 年 3 月の新商用機部門設立以来、エンジ
ン・メーカーと新エンジン開発について鋭意交渉してきた。だが、P&W が提案する A318
向け短距離機用 PW6000 の派生型は大陸横断能力をもつ中距離機の CSeries には不適当と
考えられ、又、この計画の市場性に疑問を持つ CFMI と IAE がこの 5 月に撤退を発表し、
残るは PWC(Pratt & Whitney Canada)だけとなった。最初のリジョナル・ジェットの
ブームに乗り遅れた PWC は、競争相手がいなくなったため、$1bn を投じて大型リジョナ
ル・ジェット機及び次世代最上級社用機向けに、新技術実証エンジン PW800 を基礎とし
た新型エンジンの開発を検討し始めた。中国の ARJ21 計画では GE の CF34 に、ロシア
の RRJ 計画では Snecma/Saturn の SaM146 に敗れた PWC は、この技術の適用機会を窺
がっていた。
3.4 開発費の調達
開発費は当初$1.5bn 程度とされていたが、前述の新技術採用もあって現在は$2.1bn ま
で膨張した。初期段階では、市場での競合回避と資金分担の可能性を求めて、Boeing 又は
Airbus との提携を模索したが、双方から採算見通しが無く投資の意思なしと拒否された。
そこで自己負担を 1/3 の$700M とし、残りを公的助成とエンジンを含む各種協力メーカ
ーに各 1/3 の$700M を頼る方針とした。公的助成の$700M はこの計画で創出される 2500
名の雇用機会を対象としたもので、カナダ、米国、英国及びそれらの国の州政府から最終
組立工場の設置場所を含めて与えられる公的助成を募る戦略がとられ、最終選定の段階で
カナダの Ontario 州 Toronto 市と Quebec 州 Montreal 市、米国の New Mexico 州
Albuquerque 市及び英国の北 Ireland 州 Belfast 市が残った。結局は、従業員 6300 名の
現有 Montreal 工場の組合が年間$120M の賃金削減を認めたこともあり、生産拠点を
Quebec 州に定め、最終組立工場を Montreal 近郊の Mirabel 空港に置くことで、カナダ
政府が$262.5m、Quebec 州政府が$87.5m を負担する一方で、英国政府は$340m(£180m)
の出資と Belfast に主翼、ナセル及び複合材尾翼の開発生産工場を提供することで合意し
た。これで公的助成$700m の目標はほぼ達成されたが、エンジンを含む協力メーカーに対
する交渉はこれからであり、自己資金の調達にも後述するように問題が残されている。
4
今後の問題点
4.1 自己資金の調達
50 席級のリジョナル・ジェット機の需要が一巡し、市場の焦点が Embraer との競争で
不利な 70~90 席に移ったこと、244 機にまで減少した受注残の 40%が、財政悪化が著しい
5
デルタ航空や倒産したユーエスエアウェイズ向けで、出荷が不透明なこと、航空機金融部
門も不調なこと、に加えて、CSeries への投資が重なることから、2004 年前半で株価は
56%下落し、証券評価は Junk(紙屑)に近づいた。このため、2005 年第1四半期は 32 年ぶ
りに配当を取り止め、金融部門の資産を$1.4bnで GE に売却する等で、$6.9bnに及ぶ長
期負債圧縮に努めているが、自己資金調達は容易ではなさそうである。Bombardier は、
安く資産を取得して慎重に新製品を加えてゆくのが従来の経営方針であった。この意味で
は、前述の Fairchild-Dornier の 728/928 計画買収を見送ったことが惜しまれる。
4.2 開発後に必要な資金
CRJ では出発信頼性 99%達成に顧客を機材導入後 1 年以上待たせたが、CSeries の顧客
となる大きな航空会社では出荷時にこの要求を満たす必要があり、プログラム・サポート
の水準向上と併せて技術開発費$2.1bnの他に追加投資が必要となる。
又、WTO で問題にはなったが、ブラジル政府は Embraer の輸出に 80%融資するのに対
して、カナダ輸出開発庁は過去 3 年間で 41%しか融資せず、Bombardier はカナダ政府の
支援強化を求めている。
4.3 販売能力
米大陸横断能力を備える 110~130 席機は、従来のリジョナル・ジェット機では縁の薄か
った主要航空会社に販売しなければならず、そこには強力な競争相手がいる。110~130 席
で最適化するというが、Airbus や Boeing の A320 や B737 後継機から安価に開発される
胴体短縮型に匹敵しうるのか、小型で大陸横断能力があれば小都市間の新路線や新たな
Hub & Spoke 路線網の開拓が可能だが、果たして 5 列席胴体でその運航をしようという航
空会社があるのか、
CSeries 最大の武器は A320/B737 後継機より少なくとも 2 年早い 2010
年に就航できることだが、果たしてこのリードを守れるのか、等々、種々の疑問がある。
4.4 バミューダ三角海域
Bombardier は前例のなかった 50 席リジョナル・ジェット機で成功したが、今度は少し
事情が異なる。100 席機市場は、多くの難破船を飲み込んだバミューダ三角海域のように、
今まで多くの機体を飲み込んできている。
1996 年には F100 開発後の Fokker が倒産した。2000 年には Avro RJ100 を飛行試験中
の BAe が市場からの撤退を決定し、Bombardier 自身も BRJ-X を諦めた。2002 年には
F728 初号機完成直前の Fairchild-Dornier が倒産した。Boeing でさえ B717 の生産を中
止し、Airbus も中国との 100 席機共同開発を諦めた経緯がある。
Bombardier は、この CSeries と成功しなかった従来の 100 席機計画と何が違うのかを
投資家やエンジン・メーカーをはじめとするパートナーに説明する必要がある。さもなく
ば開発費の調達は難しい、と考えられる。
KEIRIN
この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。
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