(13-3)生前贈与の方法による税額の違い

13 -3
に口座に残った金額については使途を問
す(注)。
われず、領収書等の提出も不要となりま
■ 終了時の扱い ● 財産を贈与されたら ―贈与税の話―
生前贈与の方法による
税額の違い
結婚・子育て資金管理契約は、次の表
子育て資金に支出したが領収書等を提出
に掲載された事項のいずれかに該当する
しなかった場合などについては、口座の
まで継続します。
残高が0であったとしても、贈与税が課
暦年課税と相続時精算課税制度は選択
こでは、生前贈与を検討する場合、どの
結婚・子育て資金管理契約の終了時
税されます。なお、口座に拠出された額
制です。また、教育資金の一括贈与非課
ように贈与するのが有利なのか比較して
に、非課税拠出額から結婚・子育て資金
を結婚・子育て資金以外に利用すること
税制度などの非課税制度もあります。こ
みましょう。
支出額として払い出した額を差し引き、
も、50歳到達時等に贈与税が課税される
残額があれば50歳到達時(または残高が
ことにはなりますが、税法上は可能で
0になったとき)に贈与があったものと
す(注)。
して贈与税が課税されます。
結婚・子育て資金管理契約の終了時に
基礎控除額
特別控除額
すなわち、結婚・子育て資金以外の目
は、金融機関より受贈者の納税地の所轄
的で口座から引き出した場合や、結婚・
税務署長に調書が提出されます。
税率
暦年課税
課税財産の
評価時点
●終了時の扱い
下記のいずれかに該当して結婚・子育て資金管理契約が終了するまで
結 婚・ 子 育 て ①受贈者が50歳に達する
資 金 管 理 契 約 ②受贈者が死亡する
の期間
③口座の残高が0になる(受贈者と金融機関との間で結婚・子育て資金管理契約
を終了させる合意があった場合に限る)
・50歳到達時(または残高が0になったとき)
「非課税拠出額」から「結婚・子育て資金支出額」として払い出した残額があれ
結 婚・ 子 育 て
ば、50歳到達時(または残高が0になったとき)に贈与があったものとして贈与
資金管理契約
税を課税
終了時の扱い
・受贈者の死亡時
上記残額があっても贈与税は非課税
■ 口座内での運用 相続時精算課税制度
毎年110万円
複数年にわたり累計で2,500万
円
10%〜55%の累進税率
特別控除額を超える部分につ
いて20%
贈与時
贈与時(この時点で評価され
た贈与財産を相続財産に合算)
平成31年6月末まで、20歳以上の子や孫など1人あたり最
住宅取得等資金の 大3,000万円(金額は時期、住宅の種類等により異なる)
まで贈与税非課税で住宅取得等資金の贈与が可能(302ペ
非課税制度
ージ参照)
平成31年3月末まで、30歳未満の子や孫など1人あたり
教育資金の
1,500万円まで贈与税非課税で教育資金の一括贈与が可能
一括贈与非課税制度
(303ページ参照)
結婚・子育て資金 平成31年3月末まで、50歳未満の子や孫など1人あたり
の一括贈与非課税 1,000万円まで贈与税非課税で結婚・子育て資金の贈与が
可能(306ページ参照)
制度
前述したように、相続時精算課税制度
することができます。また、教育資金の
は、暦年課税が生前贈与に抑制的だった
一括贈与非課税制度など贈与税非課税で
の注意点は、教育資金の一括贈与非課税
点を改め、生前贈与を行いやすくするた
贈与できる制度もあります。
座内で運用することもできます。その際
制度と同様です(305ページ参照)
。
め導入されたという経緯もあり、基本的
これらを踏まえ、相続税の課税価格で
に暦年課税よりも相続時精算課税制度を
1億円の財産を持っている人が、子また
利用した方が有利です。
は孫に2,000万円の生前贈与を検討して
ただし、暦年課税の贈与については毎
いる場合で、4つの贈与方法によって、
年110万円の基礎控除があるため、複数
それぞれ贈与税および相続税の税額がど
年にわたって贈与を行うと贈与税を軽減
のように変わるのか試算してみます。
(注)税法上の規定です。実際の取扱いについて
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贈 与 税
贈与税非課税で拠出された資金を、口
は、取扱いの金融機関にご確認ください。
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贈与の方法による税額の試算
【前提条件】
相続人は、配偶者と子1人(20歳以上)
保有している財産は相続税の課税価格で1億円。
うち、2,000万円を子(または孫)に生前贈与することを検討している。
相続時は、残り8,000万円のうち5,000万円を配偶者に、子には3,000万円を
相続させる予定である。
【検討する贈与の方法】
ケース① 相続時精算課税制度で2,000万円贈与する
ケース② 暦年課税で一度に2,000万円贈与する
ケース③ 暦年課税で500万円ずつ4年にわけて贈与する
ケース④ 2,000万円を「教育資金の一括贈与非課税制度」で2人の孫に
1,000万円ずつ贈与する
(注)贈与の時期はケース②・ケース③の贈与は平成27年以後、ケース④の孫への贈与は平成
25年4月〜平成31年3月の間に行われるものとします。相続の時期は、いずれのケー
スでも平成27年以後で、かつ贈与から3年経過後に発生するものとします。ケース③
では連年贈与には認定されず、ケース④では2人の孫は「教育資金支出額」で1,000万
円を使い切るものとします。
【ケース① 相続時精算課税制度で2,000万円贈与する】
○贈与税の計算
課税価格 2,500万円まで特別控除が認められるので0円
贈与税額=0円
○相続税の計算
課税価格=8,000万円+2,000万円−4,200万円(基礎控除)=5,800万円
配偶者 5,800万円×1/2×15%−50万円=385万円
子 5,800万円×1/2×15%−50万円=385万円
相続税の総額 385万円+385万円=770万円
取得分の割合(配偶者5,000万円:子5,000万円)に応じて負担する相続税を計
算します。
配偶者 配偶者の税額軽減により0円
子 770万円×0.50(取得分の割合)=385万円
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【ケース② 暦年課税で一度に2,000万円贈与する】
○贈与税の計算
課税価格=2,000万円−110万円=1,890万円
贈与税額=1,890万円×45%−265万円=585.5万円
○相続税の計算
課税価格=8,000万円−4,200万円(基礎控除)=3,800万円
配偶者 3,800万円×1/2×15%−50万円=235万円
子 3,800万円×1/2×15%−50万円=235万円
相続税の総額 235万円+235万円=470万円
(各相続人の相続税額の計算)
取得分の割合(配偶者5,000万円:子3,000万円)に応じて負担する相続税を計
算します。
配偶者 配偶者の税額軽減により0円
子 470万円×0.37(取得分の割合※)=173.9万円
※ 小数点第2位未満の端数は相続税額が少なくなるように調整しました。
【ケース③ 暦年課税で500万円ずつ4年にわけて贈与する】
○贈与税の計算
1年あたりの課税価格=500万円−110万円=390万円
1年あたりの贈与税額=390万円×15%−10万円=48.5万円
4年分の贈与税額の計=48.5万円×4=194万円
○相続税の計算…ケース②と同じ
【ケース④ 2,000万円を「教育資金の一括贈与非課税制度」で2人の孫に1,000
万円ずつ贈与する】
○贈与税の計算…非課税制度により0円
○相続税の計算…ケース②と同じ
【試算結果】
贈与税額
①相続時精算課税制度
②暦年課税 一度に2,000万円
③暦年課税 500万円×4年
④教育資金の一括贈与非課税制度
相続税額
贈 与 税
(各相続人の相続税額の計算)
● 財産を贈与されたら ―贈与税の話―
合計
0円
385万円
385万円
585.5万円
173.9万円
759.4万円
194万円
173.9万円
367.9万円
0円
173.9万円
173.9万円
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13 -4
● 財産を贈与されたら ―贈与税の話―
贈与税の申告と納税・
贈与の時期と認定
◆暦年課税か、相続時精算課税制度か
たって贈与したケース③では、ケース②
ケース②のように一度に2,000万円の
と同じ2,000万円の贈与であっても贈与
贈与を行い暦年課税を選択すると、贈与
税額は4年分で194万円となっています。
税は585.5万円と高額になり、173.9万円
相続税額173.9万円と合わせた合計の税
の相続税額と合わせて、税負担は759.4
負担は367.9万円となり、相続時精算課
万円になります。
税制度を利用したケース①よりも合計の
一方で、一度に2,000万円の贈与を行
税負担が少なくなっています。なお、こ
っても、相続時精算課税制度を選択すれ
のように複数年にわたって贈与を行う場
ば贈与税はかからず、税負担は385万円
合は、連年贈与(下記参照)に該当しな
の相続税のみになります。相続時精算課
いよう注意する必要があります。
1月1日から12月31日までの間に贈与
することが要件となっています)。一度、
税制度では2,500万円までの特別控除が
◆非課税制度を利用
を受けた財産について贈与税額があると
届出書を提出した場合、撤回することは
あるため、贈与税の税負担が低く抑えら
ケース③よりも、さらに、税負担を抑
きは、翌年の2月1日から3月15日まで
できず、相続時精算課税制度から暦年課
れている(前述の試算ではゼロになって
える方法があります。それは非課税制度
に贈与税の申告を行います。平成28年
税に変更することはできません。同じ贈
いる)ことがわかります。相続時精算課
を利用する方法です。教育資金の一括贈
1月1日以後の贈与に係る申告書から
与者からの贈与により取得した財産につ
税制度で贈与した財産は、相続時の課税
与非課税制度により2人の孫に計2,000
は、個人番号(マイナンバー)の記入が
いては、最初の届出より相続時まで継続
価格に加えられるため、相続税額はケー
万円を贈与したケース④では贈与税は一
必要となっています。
して相続時精算課税制度が適用されます。
ス②よりもケース①の方が多くなってい
切かからず、かつ、その2,000万円は相
贈与税の申告・納税は暦年課税と相続
申告書は、贈与を受けた人の住所地の
ます。ただし、今回の試算では、相続税
続時の課税価格にも算入されません。そ
時精算課税制度で基本的に違いはありま
所轄税務署長に提出します。申告期限ま
は贈与税よりも適用される税率が低くな
の結果、贈与税と相続税を合わせた合計
せんが、相続時精算課税制度を適用する
でに贈与税の申告を忘れた場合や申告が
りますので、贈与税と相続税の合計の税
の税負担は173.9万円と、4つのケース
場合は、同時に、相続時精算課税選択届
遅れた場合でも、税務署から税額等の決
負担はケース②よりもケース①の方が少
で最も少なくなったのです。
出書を提出する必要があります(相続時
定通知があるまではいつでも申告書を提
なくなっています。
このように、
生前贈与の方法によって、
精算課税制度は、届出書を期限内に提出
出することができます(期限後申告)。
◆暦年課税で複数年の贈与
税負担は大きく変わってきますので、生
暦年課税の贈与でも複数年にわたって
前贈与を検討する際には、あらかじめ税
少しずつ贈与を行えば、税負担を抑える
理士等に相談することをお勧めします。
贈与税の申告と納税
延納の制度
延納を利用するには、延納税額に相当
までに完納しなければなりませんが、一
する担保(公社債・一定の株式・土地・
定の場合には延納が認められます。すな
建物など)を提供することが必要です。
わち、税額が10万円超で、かつ、納期限
もっとも、延納税額が50万円未満で、か
まで(または納付すべき日)に金銭で納
つ、延納期間が3年以下の場合は、担保
暦年課税の場合、毎年110万円までの贈与については贈与税の課税対象と
付することが困難である事由がある場合
を提供する必要はありません。延納が認
なりません。
に、その納付が困難な金額を限度として
められた場合は、延納税額に対し原則と
したがって、10年にわたって毎年100万円ずつ贈与した場合は、毎年の贈
5年以内の年賦延納が認められます。金
して6.6%(注)の利子税を分納税額とあわ
与額が110万円以下なので贈与税はかかりません。
銭で納付することが困難な金額の範囲
せて納めなくてはなりません。なお、相
ただし、最初から1,000万円の贈与をするという契約(約束)をし、100万円ず
は、贈与された財産のみでなく納税者の
続税と違い贈与税には物納の制度はあり
つ10年間の分割払いにするという、いわゆる連年贈与と認定されると、初年に
固有財産(現金や預貯金)も含めて判定
ません。
1,000万円の贈与の意思があったとして課税される点に注意しなければなりません。
が行われます。
連年贈与とは
贈 与 税
贈与税は原則として申告書の提出期限
ことができます。500万円ずつ4年にわ
複数年にわたって贈与する場合は、異なる時期に異なる金額の贈与を行う
方法であれば、連年贈与と認定される可能性が低くなると考えられます。
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(注)特例基準割合が年7.3%以下の場合は、利子
税の軽減が行われます。詳しくは394ペー
ジ参照
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