臨床血液2a(12):2312∼2316,1988 膵に腫癌形成を認めたIgD骨髄腫の1例 * 博美保 口 ロ イ 不 不 藤林田 岡小松 * 樹子忍 茂恵 竹藤村 大伊中 * 敏子喬 正潤 野井田 神平吉 * * * IgD−TypeMultipleMyelomaAssociated with Tumor ofthe Pancreas MasatoshiKANNO*,ShigekiOHTAKE*,KazuhiroOKAFUJI* * * * JunkoHIRAl*,KeikoITOH*,KazumiKoBAYASHI* TakashiYosHIDA*,Shinobu NAKARURA*andTamotsuMATSUDA* A71year−01dmalewasadmittedtothehospltalbecauseofupperabdominaldiscomfbrt.Laboratry examination revealed monoclonalgammopathy withincreaseinIgD(650mg/dl).M−PrOtein was identifiedasIgD−typeuSlngelectrophoresis・IgG,IgA,andIgMlevelsweremarkedlydecreased,Bone marrow aspiration revealed84%atypicalplasma cells.Serum and urine amylase were elevated to 31,070IU/land21,512IU/l,reSpeCtively・BothamylaseisozymepatternSShowedsalivary(S)typF・ A tumor ofthe pancreas was con丘rmed by abdominalultrasonography,CT scannlng,endoscopIC retrogradecholang10PanCreatOgraPhyandanglOgraPhy・ThetumorbecameundetectabIeaftertreat− mentwithcyclophosphamide,Vincristine,melphalan,andprednisolone,Serumandurineamylasealso decreased・Thus,amylasewasthoughttobederivedfi−Ommyeloma,nOt丘omatumorofthepancreas. JprlJ Cli王1・Hematol・29(12):2312∼2316,1988 Keywords:multiplemyeloma,IgD,tumOrOfthepancreas,Stypeamylase 多発性骨髄腫の中でもIgD型は比較的まれであ 現病歴:1983年3月未に発熱,頭痛,全身倦怠 が出現し,同年6月頃より空腹時上腹部不快感を認 めたため近医受診,白血球増多,血中および尿中の り,全骨髄腫中に占める割合は5%前後である。ま た,他の型に比較して髄外腫痛を形成しやすいこと アミラーゼ高値を指摘され,7月19日金沢大学第 二外科を紹介され入院した。血管造影,ERCP,CT がよく知られている。今回著者らは血中,尿中アミ ラーゼの著明な高値を示し,膵に腫癌形成をともな スキャン,腹部エコーなどの検査により膵頭部に腰 痛を認め膵癌が疑われた。しかし,M−蛋白血症が ったIgD一入型骨髄腫を経験したので報告する。 あり,次第に貧血,食欲不振が増強し,骨髄穿刺に て異型形質細胞を多数認めたため,多発性骨髄腰が 疑われ,8月10日同病院第三内科に転科となった。 はじめに 症 例 71歳,男憧 主 訴:上腹部不快感 家族歴:父,肝疾患,姉,子宮癌 入院時現症:体格小,栄養状態不良。眼瞼結膜貧 血様,眼球結膜黄痘なし。心雑音はなく,肺野にラ 音は聴取されず。肝は右鎖骨中線上に2横指触知, 昭和63年3月22日受付 *金沢大学第三内科(TheThirdDepartmentofInternalMedicine,KanazawaUniversitySchoolofMedicine) −2312− 臨 床 血 液29:12 脾は左肋骨弓下2横指触知。上腹部から臍部にかけ て圧痛を認めた。神経学的所見異常なし。 入院時検査成績:血液学的検査(表1)では中等 度の貧血を認め,末棉血に骨髄球,赤芽球の出現を 認めた。骨髄穿刺ではhypercellular marrowで, 異型形質細胞が84% を占めていた。免疫グロブリ 下方よりの圧排像と胃十二指腸動脈根部の狭窄,背 膵動脈の上吻合枝に壁不整がみられた。なお,本例 の総肝動脈は,上腸管膜動脈より分枝していた。腹 部CTスキャンでは膵頭部にはenhanceされる腫 大,突出像がみられ(†)(図2),腹部エコーでも ほぼ同部位にエコーレベルの低い腰痛像が認められ 笠霊慧P ンの定量ではIgDが著明な高値を示したほかはす べて低下していた。 その他の検査所見(表2)では,尿中 Bence Jones蛋白陽性で,血沈の著明な元進を認め,血清 S密霊棚?鐙甲CS 総蛋白量は正常,γグロブリン量は正常上限であっ たが,セルロースアセテート膜電気泳動にてγ位 にM成分を認めた。腎機能は低下し,尿酸値は著 しく増加していた。アミラーゼ値は血清,尿中とも に著明に増加し,アイソザイムでは唾液腺型が優位 を占めていた。膵機能検査では膵外分泌能の低下を 認めた。腫瘍マーカーはいずれも正常範囲内にあっ た。血清免疫電気泳動(図1)では,抗IgDおよび 抗え血清との問にM・bowを形成,尿では え 塾 Iightchainを認めた。 全身骨レントゲン写真上,左後頭部に打ち抜き像 を認めた。ERCPで膵東部から休部移行部に主膵 管の狭窄を認め,上腸管膜動脈造影では総肝動脈の 図1血清免疫電気泳動 表1入院時検査成績(1) Hematologicaldata Peripheralblood RBC Hb Ht Bonemarrowpicture 280×104 8.1g/dJ 25.2% hypercelluarmarrow NormoPoly. 1.6% Normo Orth. 0.4% Platelets 21.7×104 Promyelocyte 1.2% WBC 6,400 Myelocyte O.4% Stab 4.4% Myelocyte l% Stab 3% Segment 58% Segment 4.8% Eosinophil O.8% Lymphocyte 36% Lymphocyte 1.2% Eosinophi1 2% Normoblast l/100WBC Atypicalplasmacel1 84% Megakaryocyte Normoplastic Bleedingtime 2′30〝 735mg/d/ 49mg/那 21mg/dJ 650mg/dJ 24IU/mJ −2313− ー臨 床 血 液− 表2 入院時検査成績(2) Otherlaboratoryfindin 39mg/郎 4.4mg/那 BUN Urinalysis + Protein 一 Glucose 十 BeneJonesprotein 一 Occult blood Creat Ccr. 11.0mg/min Uric acid 12.9mg/dJ 2.2U ZTT TTT Feces Occultblood (−) ESR O.2U Bilirubin,Total 120mm/1hr. l.03mg/dJ Direct O.15mg/dl Al−P 229IU/J Serum LDH 636IU/l CRP GOT 50IU/J TPHA GPT 14IU/l STS Ch−E 3.03IU/ml α−fetoprotein (−) T−Cho1 94mg/dl CEA 2.9ng/ml FBS 127mg/dl CA19−9 9U/mJ Serumamylase 31,070IU/l HBsantigen (−) (Urineamylase 21,512IU/l) HBsantibody (+) Amylaseisozyme Bloodchemistry Na 139mEq/l Serum S:P=8.7:13 (Urine S:P=8.3:1.7) K 5.4mEq// Cl lOOmEq/J Pancreatic function tests Ca 6.1mg/dl PFD 34.3% P 5.6mg/郎 Pure PABA 47.9% Total.protein 7.2g/dl D−Ⅹylose 572,4r680.0mg Alb. 56.6% Gl.α1 4.4% ACCR α2 11.1% Just afterERCP 3.0 β 9.5% 10dayslater 2,4 γ(M−Protein) 18.4% 臨 床 血 液29:12 図3 腹部エコー:(左)治療前(右)治療開始後52日目 た(†)(図3)。以上より,膵頭部腫癌を合併した IgD一入型多発性骨髄腫と診断し,骨髄腫に対する治 療を開始した。 臨床経過:第4病日よりサイクロフオスフアマイ また,血中IgDは本来ごく微量のため,IgD骨髄 腫では血清総蛋白量の上昇や,セルロースアセテー ト膜電気泳動でも M一成分がみられないことが多い が,本例でも M−成分は認められたものの血清総蛋 ド(CY)700mgdayl,ビンクリスチン(VCR)2 白量は正常であった。 mgdayl,メ)t/フアラン18mgdayl∼4,プレド 骨髄腫細胞の臓器浸潤は約70%に認められる5) が,明らかな腫癖形成をきたすことは少ない。しか ニゾロン(PSL)45mgdayl∼7を1クールとした 化学療法を開始した。治療開始後30日目に骨髄穿 刺を行ったところ,異型形質細胞は0.8%に著減 し,IgD骨髄腫では髄外腰痛を形成する頻度は高 く,約70%にみられるとされている1)。本例にお ける膵頭部腫癌については,当初膵癌が疑われてい し,血中IgDの量も65mg/dlに減少し,著明な治 療効果がみられた。BUN,クレアチニン,尿酸値 も58日目までにはすべて正常化した。血中,尿中 たが,腫瘡がCTスキャンでenhanceされ,化学 療法により画像診断上著明に縮小しており形質細胞 アミラーゼ値は治療と相関して増減し,尿アミラー ゼは一旦ほぼ正常値までに復した。膵腫癌について はCTスキャン,腹部エコーにて非侵襲的に経過を 厘と考えるのが妥当であろう。Hayes ら6)は,顕 微鏡的に骨髄月重細胞の髄外性浸潤を認めた多発性骨 髄腫182例のうち7例(3.8%)に膵浸潤がみられ 観察した。24日目のCTスキャン(図2),52日目 の腹部エコー(図3)で膵頭部腫瘡は不明瞭となっ たと報告し,またPasmantierら5)は,57例中3例 ており,化学療法が奏効したものと考えられ,化学 療法2クール終了した初回治療開始後61日目に退 (5.3%)に膵にgrossinvolvementが認められたと 述べている。本邦では,藤井ら7)が髄外腫癌を形成 した8例のうち,生前および剖検診断を含めて2例 院した。退院後は外来にて3クール目の化学療法を 行った。しかし,1984年12月3日の骨髄穿刺で骨 (25%)に膵腰痛形成がみられたも報告している。 このように多発憧骨髄腫で膵に腫癌を形成すること 随脛細胞の増加が認められたため,再度化学療法を 行う予定であったが,事故死した。 はまれであるが,IgD型では前述のように髄外腫癌 を形成する頻度が高く,エコー,CTなどの画像診 断による検索が必要であると考える。 考 案 IgD骨髄腫の90%はA型であり,尿中Bence Jones蛋白が高頻度に出現するといわれている1ト4)。 次に本例において認められた血中ならびに尿中高 アミラーゼ症につき若干の検討を加える。当初アミ ラーゼは膵由来と考えられたが,アミラーゼの高値 −2315− ー臨 床 血 液− が長期にわたり続き,また,アミラーゼ/クレアチ 2)高木敏之ほか:IgD骨髄腫の臨床的ならびに免疫化 こンクリアランス比もほぼ正常であり,原因不明で あった。その後のアイソザイムの検索の結果,S型 の増加であることが判明した。S型アミラーゼの増 3)FaheyJL,et al:Plasma cell myeloma with 加をきたす悪性腫瘍の代表的なものとして,肺癌, 上顎癌があるが,膵腫瘍がS塑アミラーゼを産生 した例はこれまで著者らの検索した範囲ではみられ ていない。屋形8)は,S型アミラーゼが高値を示す 疾患のひとつに骨髄腫を挙げており,さらにIgA 骨髄腫でS型高アミラーゼ血症をきたしたと報告 している9)。本例も骨髄腫に伴った高アミラーゼ血 症と思われる。この機序としては,腫瘍細胞から直 接産生される可能性もあるが,肺その他への mi・ croinvoIvementが異所性産生能を刺激した可能性 も考えられる10)11)。しかし,本例は剖検が許されな かったため原因不明であった。 結 語 膵に腫癌形成を認め,高アミラーゼ血症および尿 症を合併したきわめてまれなIgD−1塑骨髄腫の1 例を経験したので報告した。 学的特徴.臨床血液20:128∼139,1979 D−myeloma protein(IgD myeloma).AmJ Med 45:373′、380,1968 4)安田典正ほか:IgD M一蛋白血症の病像−その文献 的考察.IgD型骨髄腫(河合忠編)協和通信,東 京,plll,1981 5)Pasmantier MW,Azar HA:Extra skeletal Spreadinmultipleplasma cellmyeloma.Cancer 23:167∼174,1969 6)Hayes DW,et al:Extl−amedu11arylesionsin multiplemyeloma−reviewofliteratureandpath・ 010gicstudies.ArchPath53:262∼272,1952 7)藤井 浩ほか:腫瘡形成性骨髄腫の臨床病理学的検 討.癌の臨床29:903∼910,1983 8)尾形 稔:アミラーゼアイソザイム,メディチーナ 16:1882∼1883,1979 9)尾形 稔ほか:アミラーゼアイソザイムについて. LabFriendslO:3∼14,1979 10)WarshawAL,LeeKH:Characteristicalterations Of serumisoenzymes of amylasein disease of Iiver,panCreaS,SalivarygIand,lungandgenitalia. 文 献 1)JancelewiczZ,etal:IgDmultiplemyeloma,Arch InternMed135:87∼93,1975 −2316− J SurgRes22:362∼369,1977 11)宮本久夫ほか:血清または胸水アミラーゼの上昇を 伴った肺癌3例.和歌山医学32:185∼191,1981
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