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H28/12/12 モーニングセミナー
がん疼痛コントロールについて
がん患者サポートチーム
林 章人
痛みのマネジメントの意義
がん患者の痛みは消失させることができる症状であり、
消失させるべき症状である。
そのため・・・
すべての診療科の医師が
効果的な痛みのマネジメントに取り組むべきである。
WHO(世界保健機関)は
「痛みに対応しない医師は倫理的に許されない」
と述べている。
がん患者の痛みの発生頻度と特徴
終末期がん患者の2/3以上で痛みが主症状となり、
しばしば複数の部位に痛みが起こる。
もっと早い病期で、
がん病変の治療を受けている患者の1/3にも痛みが発生する。
大部分が持続性の痛みである。
50%は強い痛み、30%は耐え難いほど強く、不眠をもたらし、
食欲を低下させ、QOLのすべての側面を妨げるようになる。
全人的苦痛 (total pain)
• がん患者の苦痛は多面的であり、全人的に捉えなければ
身体的苦痛
ならない
痛み
他の身体症状
日常生活動作の支障
精神的苦痛
不安
いらだち
うつ状態
社会的苦痛
全人的苦痛
(total pain)
スピリチュアルな苦痛
生きる意味への問い
死への恐怖
自責の念
経済的な問題
仕事上の問題
家庭内の問題
淀川キリスト教病院編, ターミナル
ケアマニュアル(第2版), 最新医
学社, 1992.
Saunders, C.M., ED. The
management of terminal illness,
2nd ed. London, Edward Arnold,
1985.
スピリチュアルな苦痛
• がんの診断や治療、進行に伴う身体の変化や機能の喪失な
どにより、日常性の維持が困難となり、他者への依存が増え
ていかざるを得ない状態に置かれたとき、患者はこれからの
生き方や人生の意味や目的などへの問を抱くようになる。
• 患者は自己の価値観の再吟味や、生のあり方を深めること
を否応なく求められるようになり苦悩する。
• 人間の心の奥深いところにある究極的・根源的な叫びであり、
スピリチュアルな苦悩・苦痛である。
疼痛のパターン
疼痛のパターンには、大きく分けて、持続痛(1日を通してずっと痛い)と、
突出痛(普段の痛みは落ち着いているが、1日に数回強い痛みがある)がある。
定期投与とレスキュー投与を必ず併用処方しておく。
疼痛の性状と特徴
・疼痛の性状について特に「ぴりぴり電気が走る・しびれる・じんじんする」
疼痛があるかを確認する。
オピオイドの効果が乏しい神経障害性疼痛である可能性があるため、
難治性であり鎮痛補助薬を必要とすることが多い。
WHO方式がん性疼痛治療法の5原則
①経口投与を基本とする。
②時間を決めて定期的に投与する。
・「疼痛時」のみに使用しない。(定期投与とレスキューを併用する)
・毎食後ではなく、8時間ごと、12時間ごとなど一定の間隔で投与する。
③WHOラダーに沿って痛みの強さに応じた薬剤を選択する。(変更でなく、上乗せ)
・原則として非オピオイド鎮痛薬(NSAIDs,またはアセトアミノフェン)をまず投与し、
効果が不十分な場合はオピオイドを追加する。
・オピオイドは疼痛の強さによって投与し、予測される生命予後によって
選択するものではない。
④患者に見合った個別的な量を投与する。
・適切な量は鎮痛効果と副作用のバランスが最も取れている量であり、
「常用量」や「投与量の上限」があるわけではない。
⑤患者に見合った細かい配慮をする。
・オピオイドについての誤解を解く。
・定期投与の他にレスキューを指示し、説明する。
・副作用について説明し、適切な予防および対処を行う。
WHO 三段階除痛ラダー
担癌患者が痛みを訴えている
がん患者であるから癌性疼痛であろう!
WHOラダーにのっとって
すぐにNSAIDs投与、効果がなければオピオイド!
ではなく、その前に・・・
それは本当に癌からくる痛みなのかどうか?
痛みの評価を先に行うことが大切。
①疼痛部位の確認。
帯状疱疹や、蜂窩織炎、外傷など癌と関連しない疼痛が合併していないか。
→合併していればそちらの治療を行う。
②疼痛の病歴を確認。
「10年前から腰痛持ちです。」→ 癌の骨転移ではなく、変形性脊椎症では?
「5年前に手術したあとからです。」→ 術後疼痛では?
「昨日の夜から急に痛くなった。」→骨折や、消化管穿孔、感染、出血の有無は?
③画像検査を確認。
疼痛の原因となるがん病変の存在を確かめる。
④NSAIDsの投与に備えて、
胃潰瘍、腎機能障害、出血傾向の有無を確認。
がん以外の痛みの原因があればそちらの原因治療も行う。
痛みの評価を行い、がん性疼痛と判断したら・・。
・NSAIDsやアセトアミノフェンの定期投与を行う。
鎮痛効果と副作用のバランスを考えて選択すること。
ジクロフェナクナトリウム(ボルタレン R )は鎮痛効果は
大きいが、消化管障害が強い。
胃潰瘍、腎機能障害があるときにはアセトアミノフェンを投与する。
・胃潰瘍の予防を行う。
PPI、またはH2ブロッカーを使用する。
・レスキューの指示を出す。
疼痛の悪化に備えてレスキューの指示を出しておく。
①NSAIDsの1日最大投与量を超えない範囲でNSAIDs
1回分、②すでに最大投与量に達している場合にはアセトアミノフェンか
オピオイドを使用する。
レスキューが必要な場合はNSAIDs単独での鎮痛が不十分であるので
オピオイドの導入を検討する。
メロキシカム(モービック)
ナプロキセン(ナイキサン)
プロクロルペラジン(ノバミン)
ブプレノルフィン(レペタン)
フルルビプロフェンアキセチル
(ロピオン)
(ポンタール)
(ロピオン)
(ナイキサン)
(ロキソプロフェン)
(ボルタレン)
(ボルタレンSR)
(ボルタレン座薬)
オピオイドの投与
NSAIDsの投与で疼痛が取りきれなかった場合にオピオイドを投与する。
痛みが非常に強い場合には、最初からオピオイドを投与しても良い。
・経口投与が可能か、腎機能障害があるかを確認。
・オピオイドは定期投与する。
「毎食後」や「疼痛時」ではなく、時間を決めて定期的に投与する。
NSAIDsは中止しないで併用する。
・
・腎機能障害のある患者はモルヒネの投与はできるだけ避ける。
(蓄積した代謝産物が有害事象を引き起こすことがあるため。)
・嘔気、便秘の予防(症状がなくても最初から投与しておく。)
悪心事の屯用として制吐剤をいつでも使用できる状況にしておく。
ほとんどの患者に便秘が生じるため、オピオイド導入時にあらかじめ下剤を併用する。
院内採用麻薬性オピオイド
★トラマドール
●院内採用
・トラマールOD錠25㎎
●レスキュー
・可能
●投与間隔
・4~6時間
●最高血中濃度
・30分~1.5時間
●その他
・ワントラム100㎎
(1回/日内服)
・トラムセット配合錠
(トラマドール:37.5㎎、
アセトアミノフェン325㎎)
モルヒネの副作用と対策
モルヒネの副作用と対策 続き
各種オピオイドの副作用について
投与可能な製剤
モルヒネ
フェンタニル
オキシコドン
ブプレノルフィン
経口
坐剤
貼付剤
経口
坐剤
注射
注射
注射
副作用
の頻度
嘔気・嘔吐
++
±
+
++
便秘
++
±
++
++
眠気
++
±
+
++
せん妄
++
±
+
±
+++
-
±
±
腎障害による影響
堀 夏樹、小澤桂子編集、ナーシングケアQ&A⑪ 一般病棟でできる緩
和ケアQ&A、P77、総合医学社、2006 より抜粋
レスキューの指示
・疼痛の悪化に備えて、必ずレスキューの指示を出す。
・徐放性製剤と同じ種類の速放性オピオイドを用いる。
・徐放性製剤定期処方1日量の1/6の速放性オピオイドを
1回分として処方する。
・1日最大投与回数を超えた場合は定期投与の増量を検討する。
痛みがあれば内服なら1時間、注射なら30分あければ何回でもOKと言っています。
レスキュードーズの基本
• レスキュー経口1回量は、基本投与されているオピオイドの1日量
の1/6が基本。
⇒1時間あければ追加投与可
• 注射なら1日量の1/24(1時間量)が基本。
⇒15分~30分あけて追加投与可
★患者の状態によって、調整は必要!!
・レスキューの効果はTmax(最高血中濃度到達時間:薬剤の血中濃度が最高に達
するまでの時間)で評価する!!
・体動時はTmaxを利用して食事や入浴、放射線治療などで動く30~60分前に使用
する。
オピオイドのレスキュー計算表
残存・増強した痛みの治療
残存した痛みの治療
①非オピオイド鎮痛薬(NSAIDsまたはアセトアミノフェン)を最大投与量まで増量する。
②嘔気や眠気が生じない範囲で、1日中続く痛みが軽くなるまでオピオイドを増量する。
オピオイドの投与量に絶対的な上限はない。
増量幅は経口モルヒネ換算120mg/日以下の場合は50%
120mg/日以上の場合や、体格の小さい者、高齢者、全身状態が不良の
場合は30%を原則とする。
強い痛みの場合は、前日に追加投与したレスキュー使用量の合計量を上乗せ
してもよい。
増量間隔は、1~3日(フェンタニルパッチは3日)とする。
定期オピオイドを増量したら、レスキューも計算して処方しなおすこと。
機械的でない場合もあるので、レスキュー薬の投与量は鎮痛効果と副作用を
評価し、患者の状態に応じて調節することが必要。
それでも痛みが続く場合は、オピオイドスイッチングを行う。
オピオイドスイッチングの適応となる状態は
鎮痛が十分でない、または副作用のためにオピオイドの種類を変更するときである。
フェンタニル
オキシコドン
モルヒネ
オピオイド力価表
トラマール
300mg
アンペック坐薬
30mg(40mg)
1/5
オキシコンチン
40mg
2/3
1/2
経口モルヒネ
60mg
フェントステープ
2mg
1/3
オキファスト注
30mg/d
塩酸モルヒネ注
30mg/d
フェンタニル注
0.6mg/d
オピオイド変換表
オプソ(mg/日)
経口
30
60
120
180
240
20
40
80
120
160
2.1
4.2
8.4
12.6
16.8
1
2
4
6
8
アンペック(mg/日)
15
30
60
90
塩酸モルヒネ注(mg/日)
10
20
40
60
80
フェンタニル注(mg/日)
0.3
0.6
1.2
1.8
2.4
オキファスト注(mg/日)
15
30
60
90
120
MS コンチン(mg/日)
オキシコンチン(mg/日)
オキノーム(mg/日)
デュロテップ MT パッチ(mg/日)
貼付
フェントステープ(mg/日)
坐薬
注射
緩和ケアマニュアル➡疼痛緩和マニュアルにあります
フェンタニル貼付剤(フェントステープ)への変更のときの注意
フェンタニルパッチの血中濃度が上昇するのに時間がかかるため、変更後12~24
時間は鎮痛効果が安定しないことが多い。
以下のようにする。また、レスキューの指示を出し、疼痛が悪化したら血中濃度が
安定するまでレスキューを使用するように指導する。
製剤ごとの
オピオイドスイッチのタイミング
前(先行)
オピオイド製剤
1 日 2 回の
オピオイド製剤
1 日 1 回の
オピオイド製剤
変更後(新規)
オピオイド製剤
フェンタニル貼付剤
先行オピオイドの最終投与と同時に貼付
オピオイド持続注入
先行薬の投与時刻に新規オピオイドを開始
(または半分の流速で開始、6~12 時間後に換算量とする)
フェンタニル貼付剤
最終の前オピオイド投与 12 時間後に貼付
オピオイド持続注入
先行薬の投与時刻に新規オピオイドを開始
オピオイド徐放製剤
オピオイド持続注入
タイミング
オピオイド持続注入
フェンタニル貼付剤
オピオイド徐放製剤
フェンタニル貼付剤
オピオイド持続注入
先行薬中止と同時に新規オピオイドを開始
貼付後6~12時間後まで持続投与を併用
先行オピオイド中止(剥離)の6~12時間後に新規オピオ
イドを開始
先行オピオイド中止(剥離)の6~12時間後に新規オピオ
イドを開始
(または 6 時間後に半分の流速で開始、8~12 時間後に換算
量とする)
緩和ケアマニュアル➡疼痛緩和マニュアルにあります
それでも痛みがなかなか取れないときは・・・・・。
神経叢浸潤や、脊髄浸潤などの痛み(ぴりぴり電気が走るような痛み、
しびれやじんじんする痛みなど)はNSAIDsやモルヒネの効果が薄い。
鎮痛補助薬を使ってみる。
有効率は40~60%。副作用(主
に眠気)があるので、鎮痛効果と
副作用のバランスを
とりながら処方すること。
保険適応のないものが
多いので注意が必要。
少量から開始し、効果を見な
がら3~4日で増量し、眠気が
出ない範囲で十分量まで
増量する。1~2週間で効果を
判定し、効果がなければ他剤
に変更する。
最後に
今日の話を要約すると大体こうなります。
・癌性疼痛であればNSAIDs、アセトアミノフェン開始。
(痛みが強ければオピオイドから投与することもあります。)
・そのうえで疼痛コントロール不十分ならNSAIDs、アセトアミノフェン増量し、
NSAIDs、アセトアミノフェンのレスキュー投与を行ったり、
モルヒネなどを併用。(切り替えではなく必ず併用してください。)
・モルヒネ処方の場合は副作用対策とレスキューも忘れずに。
・内服の場合、レスキューの量はオピオイド1日量の1/6である。
・鎮痛効果が弱ければオピオイドスイッチング、鎮痛補助薬追加。
ご清聴ありがとうございました。