SFI研修会資料 67

SFI研修会資料 67
概要
種類
100μm
物理センサ
化学センサ
信号変換
放射線
ロボット
5mm
自動車
半導体
生産量
今後の技術
課題、キーワード
4μm
空港のセキュリティチェック(金属、
危険物、発熱症状、麻薬の検出)
32
概 要
センサは人の五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)に代表される感覚を人工的に再現する。ときには「感度」など人の
能力を超える性能を持つこともあるデバイス(装置)で、われわれの生活に不可欠なもの
生体系
センサ:自然現象・人工物の機械量(温度、圧力、流量、振動)・電
磁気・熱・光・音響・放射線量・化学的性質、あるいはそれらで示さ
れる空間情報・時間情報を、検知、検出する装置。検出データを一
般には電気信号に変換し、機器の操作、表示、制御、警報などに
反映。危険箇所、長時間連続検知など人の能力の及ばないところ
でも機能させることが可能。
センシング:センサを利用した計測・判別を行うこと
外界
からの
刺激
人工系
脳
感覚器官
センサ
筋肉
コンピュータ
認識
受容
略
分解能
どこまで細かい変化を検出することがで
きるかという指標
ゼロ・ポイント
出力が0Vのときの測定対象の大きさ
オフセット
測定対象が0のときの出力
感度
測定対象に対してどの程度敏感にセン
サが反応するかを表す指標
センサの仕事を増幅する
図67-2 センサ利用
のプロセス ④
数値変換
アナログ/ディジ
タル変換
増幅信号
増幅回路
電気信号
センサ
物理変化
測定対象
表67-2 センサ性能指標 ④
概
応答
図67-1 生体系と人工系の情報の流れ ①
ロボット、自動車、家電、携帯電話、宇宙機器その他種々の新鋭機械
には各種のセンサが組み込まれ、人が操作しなくても機器の正常な作
動を助ける働きをしている
種 類
アクチュエータ
マイコンボード
計測したい数
値に変換する
アナログ信号からディジ
タル信号へ変換する
表67-1 人の五感とセンサ ①
五 感
器官
対 象
センサ
原
理
視 覚
目
光
光センサ
光起電力効果(光→電気)
測定範囲
センサが検出できる値の範囲
聴 覚
耳
音波
圧力センサ
圧電効果(音波→電気)
再現性
同じ変化を繰返し測定した場合のズレ
の大きさ
触 覚
皮膚
動作環境
センサの動作が保証される環境条件。
温度や湿度など
圧力
温度
圧力センサ
温度センサ
圧電効果(圧力→電気)
ゼーベック効果(温度→電気)
嗅 覚
鼻
匂い物質
匂いセンサ
吸着効果(質量変化→周波数変化)
味 覚
舌
味物質
味覚センサ
電気化学的効果(相互作用→電気)
環境依存性
温度などの外部変動の影響の具体的な
大きさ
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センサは多種多様あり、分類方法も原理的、測定変量別、対応対象別などさまざまな考え方ができる
種 類
表67-3 センサの分類 (ことバンクほか)
分類基準
構成
機構
検知機能
変換方法
種
類
表67-4 モニタリング項目とセンサリング種別 ⑨
モニタリング項目
センサリング種別
振動
加速度、ひずみ(動的)
基本センサ(熱電対など)、組合せセンサ(乾湿球温度計による湿度計
など)、応用センサ(人体の放熱による赤外線センサなど)
傾斜角度
加速度、傾斜
変位、変形
構造型(例、圧力計(圧力→ダイヤフラム→変異→キャパシタンス)):精度、信
頼性に優れる
物性型(例、半導体、セラミックスの物理特性利用の圧力センサ、光セ
ンサなど):小型化、大量生産による低コスト化
変位、レーザ、加速度、GNSS/GPS、
ピーク
応力、ひずみ
ひずみ、光ファイバ
車両通過
加速度、ひずみ、圧力、赤外線、
磁気、超音波、イメージ
固有振動数
加速度
ケーブル張力
EM(Elasto-Magnetic)、ひずみ
周囲環境
温度、液面レベル、圧力(気圧)、
赤外線、CO・CO2、イメージ(画像)
コンクリートひび割れ、
剥離、亀裂
イメージ、レーザ、赤外線、超音波、
AE(動的)
コンクリート内部の
空隙、空気
超音波、電磁波レーダ
金属部材の腐食、
亀裂、破断
イメージ、超音波、磁気、AE(動的)
空間量、力学量、熱学量、電磁気学量、光学量、化学量、視覚、聴覚
など。 具体的には;温度、湿度、圧力、流量、回転数、ガス、光のセン
サなど
力学的、熱学的、電気的、磁気的、光学的、電気化学的、酵素化学的、
微生物学変化作用による分類
用途
工業用(大量生産)、民生用、医療用、理化学用、宇宙用など
材料
半導体センサ、セラミックセンサ、酵素センサなどセンサに使用するお
もな材料から分類
検出信号
形態
アナログセンサ(もっとも一般的)、デジタルセンサ、周波数形センサ、
二値形センサ(オンオフ検出)
原理現象
と導入例
温度/湿度センサ:室内環境測定、ビニルハウス
光センサ:防犯用照明、自動制御ブラインド
加速度センサ:自動車エアバック、航空機姿勢制御、スマートフォン
力覚センサ:高齢者起床センサ、ロボットハンド関節
距離センサ:自動車、タンク内レベル測定、ダムの長期的変位監視
画像センサ:顔認証、スマートフォン、工場工程内欠品/キズ検査
画像センサ
光センサ
温度センサ
加速度センサ
地磁気センサ
湿度センサ
図67-3 代表的なセ
ンサの種類 ④
34
●追加・更新資料
圧力センサ
(ローム)
6軸力覚センサ
((株)ワコーテック)
匂いセンサ (秋月電子通商)
可燃性ガス検出センサ ③
加速度センサ
GM計数管 Wikipedia
バイオセンサ (王子計測機器㈱ )
ガスセンサ (新コスモス電機 )
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図67-4 各種センサの例
物理センサ
センサは検出しようとする信号によって「物理センサ」と「化学センサ」に分けられる。物理センサは力、光、電気、
磁気、温度、音などの物理量を検出対象としたもの
物理センサは人の五感のうち「視覚」、「聴覚」、「触覚」に相
当する光、音波、圧力/温度を検知。センサとしてはそれぞ
れ「光センサ」、「圧力センサ(音、圧力)」、「温度センサ」とな
る。単一の物理量を測定するもので、古くから実用化
測定方法による分類 ⑦
1. センサが変換した物理量を人間が判読−例.水銀温度計
2. 変換物理量をさらに人間が判読し易い形式(ディスプレイ、
目盛等)に変換−例.電力計
3. 変換物理量を人間が判読しない−例.種々の電気機器に
組み込まれ、そのシステム制御に利用
視覚センサ:カメラでとらえた映像を画像処理することで、
面積、重心、長さ、位置など対象物の特徴量を算出し、
データや判定結果を出力するセンサ (Weblio)
聴覚センサ:マイクロフォンが代表的。超音波センサでは
人の可聴範囲以上の周波数をとらえることも可能。距離
や位置の測定に多く用いられる ②
触覚センサ:力覚センサと触覚センサに分類される。力覚
センサにはひずみゲージと力覚センサがあり、触覚セン
サには圧力センサや圧覚センサがある ②
物理センサ
化学センサ
図67-6 物理センサと化学センサ ①
明確な数値情報
感覚の定量化
聴 覚
視 覚
音の周波数
光の波長
味 覚
複数の味物質
複数の匂い分子
5基本味
基準となる匂い
の尺度がない
音 階
3原色
嗅 覚
数値化は困難
味覚センサによる数値化
図67-5 視覚、聴覚、味覚、嗅覚の比較 ①
視覚、聴覚、味覚では基本数値が存在する
ため、センサを使って感覚の数値化が可能。
しかし、嗅覚には基本臭が存在しないため、
匂いセンサの開発は容易でない
表67-5 おもな物理センサ ②
分
類
内
容
電磁波(光学的な性質)
波長、照度、偏光など
機械量(力学的な性質)
力、質量、位置、速度、加速度、
音波など
熱(熱力学的な性質)
温度、熱量、比熱など
電気信号(電気回路的な性質)
電圧、電流、抵抗、誘電率、静電
容量など
磁気(電磁気的な性質)
磁気、磁束密度、透磁率など
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化学センサ
化学センサは化学物質を検知する。ガス漏れや火災を伴うガスを検知する金属酸化物などを用いた「ガスセン
サ」、溶液中のイオンを検知する「イオンセンサ」、固化した酵素や微生物などを用いて生体物質の検知を行なう
「バイオセンサ」などがある (コトバンク)
反応
情報処理
分光分析法−物質が固有の波長の電磁波を吸収する性質を利用
する手法で、分子の赤外線の吸収を利用した「赤外線分光法」は
選択性に優れた気体成分分析法
吸着
電気
信号
増幅回路
液体
気体
・・・
分子
信号変換
素子
バイオセンサは化学センサの1つで、化学物質を酵素、抗体、
DNA、細胞、微生物を入れた受容膜で認識する。受容にともなう物
質の温度変化などを検出 ①
化学センサ
感応膜
化学センサには味センサ(味覚)、匂いセンサ(嗅覚)がある。化学
センサは多数の化学物質を測定し、総合的に出力する。たとえば、
「苦味」の測定では、カフェイン、クロロゲン酸分解物など多数の苦
味物質に対応して、その数値を出力することが求められる。 化学
センサは対象となる物質に対しては高い感度を持つが、共存する
ほかの物質に対しては感度を持たない選択性が重要。物質の種
類に対応して非常に多種のセンサが存在する
認識
結果
図67-7 化学センサの基本的な仕組み ⑧
化学物質
受容膜
トランスデューサ
代表的な用途 ⑧
1.鼻と舌の代理をする
1.1 食品の匂いや味を測定−果物の熟し方、ビールの風味の評価、生鮮
食品の鮮度の特定、日本酒の醸造制御 など
1.2 周囲の状態を監視−初期火災警報(くすぶる匂いをいち早く検知)な
ど
2.人間の五感を超える感覚を実現する
2.1 人が感じないもの、あるいは感じると手遅れのものを検出−病原体
(食品の安全性)、有害物質(環境測定)、危険物(地雷探査)など
受容
食品の品質管理 例;
ワイン、コーヒーの香りを検査(フルーティな香り、厚みのある香り、しなやかな香り
など人間の官能検査師の代わりに数値化)、
酒の醸造過程をコントロール(発酵の度合いを杜氏の代りにチェック)、
食品の鮮度・異状をチェック(タンパク質の分解生成物をモニタリング) など ⑧
変換
識別、認識
図67-8 バイオセンサの原理 ①
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味
匂い
危険
・・・
信号変換
センサは光、磁気などの物理量を信号として検出し、それを電気量(電圧、電流、電気抵抗、周波数など)に変換する。
出力信号は電気信号に変換することにより遠方への伝達、出力増幅、ノイズ分離、コンピュータ処理が容易となる ③
出力信号 ③
•アナログ・デジタル−大部分の入力信号は値が連続的に変化するアナログ量である。
出力もアナログにすると入力信号の正確な計測、対象の量的把握が重要。デジタル
の出力は明るさに応じて街路灯を点灯、消灯するなどオンオフ形が多い
自然界
力
人工物
音
液体
流れ
•伝達経路−有線、無線の両方式がある。有線では経路の占有、共有の二方式があ
る。システムの広域化、センサ数の増加に伴い無線伝送が採択される
エネルギー変換 : センサの信号変換はエネルギー変換と密接な関係がある ③
流れ
光
気体流
れ
•エネルギー変換型−情報、熱、光エネルギーの一部が電気エネルギーとして取り
出される(熱電対、フォトダイオードなど)
成分
分析
•エネルギー制御型−温度や光によって電気抵抗が変化、それによって外部電源
から出力へ流れる電気エネルギーを制御(サーミスタなど)
分析 : センサが収集したデータは目的に合わせた分析を行なうことで必要な付加価値
を生み出す
1. 可視化−蓄積されたデータは目的に合わせて集計、グラフ化することによりデータの内容
を「見える化」する
2. 発見−可視化した集計分析に加え、統計解析、機械学習などの手法でデータの傾向、規
則性、構造などを見出す
3. 予測−過去に蓄積されたデータから傾向、法則性を見出し、今後起こり得ることを把握
センサ
電気
エネルギー
(a) エネルギー
変換型センサ
情報
電気エネ
ルギー
サーミスタ
CdS
光センサ
熱・光 エ
ネルギー
熱電対
フォトダイオード
太陽電池
情報
センサ
情報
情報
電気エネ
ルギー
(b) エネルギー
制御型センサ
図67-10 エネルギー変換型/制御型センサ ③
電気信号
図67-9 各種信号変換の木 ③
対象の特徴
赤外線
強度
車体からの
音波反射
画像の
コントラスト
センサの信号変換
人体の接近を
検出するセンサ
自動車交通量を
計測するセンサ
電気信号
電圧
反射波の
パルス電圧
イメージセンサ
の出力電圧の
カメラのフォーカス 振幅
を検出するセンサ
図67-11 電気信号への変換例 ③
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放射線
放射線センサは放射線と物質との相互作用(電離作用・発光作用など)を利用して放射線を検出する。検出方法や用途
により種々のものがある;ガイガー-ミュラー(GM)計数管・電離箱・霧箱など (コトバンク)
簡易線量計は空間の線量率やエリアモニターとして使用
−電離箱、GM計数管、半導体検出器、シンチレータなど
積分型線量計は励起現象を利用したもので、主に個人被
ばく線量のモニタリングに使用−熱ルミネッセンス線量計、
ガラス線量計など
サーベイメータ(携帯用放射線測定器)−管理区域で作業
するときや、そこにどれだけの線量率の放射線がきている
のかをモニタリングする際に用いる。NaIシンチレータ、比
例計数管、GM計数管など ①
表67-6 検出原理から分類した各種放射線センサの特徴 ①
シンチレータ:放射線が当たると微弱な光を発する現象を
利用し、発光を感知して数値化することでどの程度の放射
線量に被ばくしたかを測定する装置 (新語時事用語辞典)
電離箱:放射線が気体中を通過する時の電離作用
で発生した電子とイオンとを再結合が起こらないよ
うに電場をかけて電極に集めて電気信号として取
り出し、放射線の強度・線量・エネルギーを知る
検出原理
放射線センサ
備
考
気体の電離
現象を利用
電離箱、DIS線量計
比例計数管
GM計数管
積分型もある
放射線のエネルギーを測定可能
β線用、γ線には感度が悪い
固体の電離
現象を利用
半導体検出器
集積化・小型化が可能
固体の励起
現象を利用
シンチレータ
熱ルミネセンス線量計
PSL線量計
ガラス線量計
エネルギースペクトルの計測が可能
個人被ばく線量計(積分型)
個人被ばく線量計(積分型)
表67-7 使用目的に応じた各種放射線センサ ①
使用目的
対象
検出器
対応機器
空間の放射
線量
γ線
サーベイメ
ータ
GM計数管:放射線によって空気やその他の気体
の中に生じたイオンをガス増幅して、その放射線の
量を測る検出器 (原子力防災基礎用語集)
シンチレータ
GM計数管
半導体検出器
モノ・人の表
面汚染
α線β線
γ線
GM計数管
シンチレータ
個人被ばく線量計:作業従事者の積算被ばく線量
をモニタリング ①
活動中の被
ばく量
γ線
ガラス線量計
PSL線量計
熱ルミネセンス線量計
個人被ばく
線量計
食品
α線β線
γ線
ゲルマニウム半導体
検出器
シンチレータ
スペクトロメ
ータ
内部被ばく
γ線
図67-12 様々なシンチ
レーション検出器とシン
チレーション結晶(中央)
半導体検出器
シンチレータ
ホールボデ
ィカウンタ
(Wikipedia)
(三省堂大辞林)
半導体検出器:半導体を利用した粒子あるいは放射
線検出器で 、主にシリコンまたはゲルマニウムが用
いられる。 シンチレーション検出器などに比べエネル
ギー分解能にすぐれており 、放射線のもつエネル
ギーを精密に測定できる (Wikipedia)
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ロボット
ロボットは周りの情報を取得するため人間の五感に相当する機能を持ったセンサの塊。生産工場向けだけでなく、知
。人間のごかンまり
能化されたロボットが軍事や原発現場などの危険な仕事に使用されるようになった
ロボット技術を支えるセンサ ②
1. ステレオビジョン−2つ以上のカメラを用い、視差を利用することで物体の三次
元情報を推定
2. 全方位視覚センサ−全方位カメラはミラーなどの光学的装置や複数のカメラ
を利用して360度すべての映像を一度に取得する。ロボットは前方だけでなく
周りの状況をすべて把握して行動計画に役立てる
3. 集音センサ−ロボット聴覚には基本的にマイクロホンを用いる。周辺の音をす
べて録音すると音声認識の精度が落ちるので、目的の音だけを抽出(サウン
ドフォーカス技術)や、不要な音の抑制(雑音除去技術)が必要。複数のマイク
ロホンを並べて入力音に遅延を与えたり、雑音方向にゼロ点を作ったりする
奥行き推定
PL、PRからPを推定
対応点探索
PLに対応する
PRを探索
対象物
対象物
カメラL
カメラR
カメラL
カメラR
図67-13 ステレオビジョン ②
圧力
電極
4. 圧覚センサ−対象物に触れたときの面に対してどのような力が働いているの
図67-14
圧覚センサ
②
かを検知。静電容量型センサ、感圧導電性ゴム型センサなどがある
5. 力覚センサ−ある点に加えられる力を検知。1軸−、3軸−、6軸力覚センサ
(縦・横・高さそれぞれの方向の力とモーメント)などがある
絶縁体
力検出器
電極
基板
6. 加速度センサ−電極の付いた重りと固定された電極部により加速度を検知。
ロボットの姿勢制御、バランス制御に利用
y
z
ロボット
センサ
③
外界センサ: ロボットの外部環境の状態を把握し、行動を計画決定する。
対象の認識や障害物の検知を視覚センサなどで行なうため
のセンシングシステム
停止時
内界センサ: ロボットの内部状態(腕の位置や角度、加わるトルク、
角速度など)を計測し、作業の操作を制御するための
重り
センシングシステム
ロボットは外界センサが優れているほど状況に対する融通性が高くなる
内界センサが優れているほど器用な仕事ができる
両方が充実し、情報を受け取るセンシングインテリジェンスの能力が
高いほど賢いインテリジェントロボットになる
x
x
加速度発生時
図67-15 力覚
センサ ②
変位
加速度方向
電極
静電容量が変化
固定点
図67-16 加速度センサ ②
40
自動車
初期の自動車には単に走ることに主眼が置かれていたが、現代では様々な規制、よりよい利便性の観点から自動車
の運行システムが複雑化しており、これを総合的に判断する多様なセンサが使われている ⑤
現在の自動車はセンサのかたまり
③、⑤
自動車の基本的なセンサは速度・距離系、エンジン関係の燃料・温度系、排ガス中の酸素濃
度測定などがある。酸素センサの出力を利用して空燃比を制御するための空気流量センサ、
点火時期を最適化するためにクランク軸の角度センサが使用される
アクセルの電子化でペダルの角度がセンサで電気信号に変換され、電子制御スロットルに伝達
利便性向上のためパワーステアリング、エアコンにも多くのセンサが使われる
衝突回避支援システム:前方の車・人などの距離をレーダやカメラのセンサで確認し、運転者の
負担を軽減。居眠り、よそ見を直接検出するセンサも開発されている
交通流を監視するセンサ:超音波を路面に向けて放射し、車体からの反射を検出。道路のレー
ンごとに設置し、交通量を調べ、多くのセンサの情報を照合し、渋滞の長さ、時間、場所を特定
自動車の持ち主を特定し、ドアのロック、アンロックを作動させる
図67-17 自動車搭
載センサの例 ⑤
横滑り防止などを自動制御するECU(電子制御ユニット)はステアリング舵角センサ、横方
向加速度センサ、速度センサ(車輪の回転速度)などの情報を総合的に判断し、危険な状
態とみると個々の車輪に適切なブレーキをかける
エアバッグ:過敏な作動はかえった危険であり、ある程度以上の勢いで衝突したときのみ
作動させる。センサとしては加速度センサや前後のバンパ内部での衝突センサなどの複
数の組合せとなる
測定気体
多孔質セラミック層
固体電解質
(ジルコニア)
(排ガス)側
ABS(Antilock Break System):強くブレーキを踏み込むとタイヤ回転がロック状態で滑り、
制動距離がかえって長くなる。ABSでは各タイヤにそれぞれ独立してセンサによる回転を
モニターして、ブレーキを踏み込んだ際にブレーキ力を強めたり、弱めたりして回転ロック
を防いでブレーキを作動させる ⑤
ETC:自動車と料金所ゲート
間に距離が離れていてもアン
テナ(センサ)から電波を使っ
て情報をやり取りする
Pt電極
大気側
起電力
Pt電極
図67-18 自動車用ジルコニア酸素センサ ①
図67-19 ABS作動原理 ⑤
41
半導体
半導体は金属など導体と絶縁体との中間の電気抵抗をもつ物質。センサでは代表的な半導体材料であるSiのほかに
InSb(インジウム-アンチモン)、金属酸化物(SnOなど)も使われる
半導体光センサ−入射光のエネルギーを受けて自由電子が増加し、電気抵抗が減
少する光導電型センサと光が当たると電流を発生させる光起電力型センサ(フォトダ
イオード)がある。対象とする光は可視光、紫外線、赤外線など。街路灯の自動点滅
装置、カメラの自動露光装置のセンサとして利用
③
半導体イメージセンサ−半導体光センサを2次元的に配置し、明るさ、色の配置を電
気信号として出力する。個々の光センサ(画素)はSiのフォトダイオード。デジカメ、ビ
デオカメラでは数百万∼数千万画素が配列されている
半導体磁気センサ−磁束を検出し電流との相互作用で電界を発生させるもの(ハー
ドディスク用磁気ヘッドなど)と、磁束の時間的変化による誘導電圧を利用する(テー
プレコーダーのヘッドなど)がある。いずれも磁気を介して対象の動きを非接触で検
出できるので多数生産されている
図67-20 フォトダイオード
(Wikipedia/Edmund)
半導体温度センサ−電気抵抗が温度により変化することを利用する
「サーミスタ」温度センサで、NiO、CoO、MnOなどの金属酸化物を主成
分としたもの。電子体温計、冷蔵庫、エアコン、電子毛布、自動車の冷
却水温度計などに広く使われている
MEMS技術−IC(集積回路)を生産するマイクロマシーニングの三次
元形状加工技術を基に超小型、精密なセンサデバイスの大量生産が
可能になり、マイクロ・エレクトロ・メカニカル・システム(MEMS)の技術
で高性能センサが大量に生産されるようになった
図67-21 サーミスタ ③
図67-22 MEMS圧力センサ ③
42
生産量
社会のインフラや産業のスマート化により「センサ活用」があらゆる場面で展開されている。「電子機器に搭載の市場」
伸びだけではなく、「産業/社会インフラでのセンサを使ったITシステム」が大きな付加価値を生み出す ③
世界のセンサ市場は2020年には約6兆円と推計 ⑤
億円
6兆円
世界需要額見通し
日本企業のセンサの生産・販売金額は、約1.2兆円と推計され、
約4割の世界シェアを持つ ⑨
産業/社会 自動車交通、農業、
エネルギー、ヘルスケア、
セキュリティ、FA
需 インフラ
要
部
電子機器
門
AV機器、送信機器、
コンピュータ、家電、
アミューズメント
3.5兆円
M2M化
クラウド化
ビッグデータ
処理
1.8兆円
スマートセンサ
MEMS
センサ
ネットワーク
図67-24 国内センサメーカ生産販売額 ⑧
立ち入り禁止区域の有無
大気汚染
森林火災
ワインの品質
2011年
スマートフォンの検知 電磁レベル
放射線レベル
交通状態
飼育動物の状態
運動中の体調
2015年
13%
温度センサ 3
磁界
センサ
15
圧力
センサ
20
慣性力
センサ
22
光イメージ 27
センサ
2020年
図67-23 センサ市場の未来
スマート照明
(JEITA@2012年12月/③より)
インテリジェントショッピング
都市の騒音
錠剤に搭載
水漏れ
自動車の自己診断
図67-25 多数のセンサ使用の応用例
その他
スマート道路
構造物の健康
輸送中の状態
5.9兆円
ケータイに搭載
モノの位置
水質
ゴミ箱のゴミの量
⑩
駐車スペース
ゴルフコースの芝の状態
図67-26 世界のセンサ需要予測 ⑩
43
●追加・更新資料
図67-27 トリリオン(1兆個)センサの時代 ⑫
図67-28 IoTを構成する4工程 ⑫
44
今後の技術
センサ自体の小型化、ビッグデータの高速処理、精度向上に伴って、ロボット、機械・設備の自動化、医療・健康、
安全・セキュリティなど多くの分野でセンサがシステム運用の発展に寄与している
センサは微細化、高感度化、高度知能化が進み、適用分野が拡大 ③
微細化:小さいセンサは応答も速くコストも下げる可能性が大きい。大きい
センサは設置の制約、検出対象の状況への影響などがある(例、大きい
温度センサは接触した対象物の温度を変化させる場合もある)。現在、セ
ンサはナノメータサイズへ向かって進んでいる
高感度化:センサの感度は年々高められてきている。化学センサでは、環
境の分野でより高い感度が要求されている
高度知能化:デジカメのイメージセンサで構図の中から「顔」を認識。対象
に関する知識と判断力が機械に埋め込まれる知能化が進んでいる
福祉IT分野
相互利用
医療IT分野
異なる分野のデータを相互に利用することで各分野の最適化がし易くなる
医療用センサ:人間の体を対象とするので、他のセンサとは異なる制約・
課題がある ③
(1) 非侵襲性−体内へセンサを挿入せずに体外での情報から内部の
状況を集める
(2) 生体情報は複合的−多数の情報から画像情報として形状の変化
を診断に活用
(3) 個体差が大きい−X線CTなど画像情報を診断に活用
(4) 具体的に普及しているセンシングシステムにはCTスキャン、X線撮
影、超音波検査、心電図、血液検査、MRI、内視鏡など多岐にわたる。とくに
内視鏡は人体の開口部からセンサを入れて直接観察するために超小型視覚
センサなど内視鏡の技術が急速に進歩 ②
PET-CT:陽電子放射トモグラフィー。陽電子を放出する試料を体
内に注射して正反対の方向に放出されるγ線光子発生源の像を再
構成する。代謝異常のガンの発見に有効
ワイヤレスセンサネットワーク:空間に散在するセンサ付き
無線端末を協調して環境や物理的状況を採取する無線
ネットワーク。戦闘地域の監視、省エネ管理、工業計装、健
康管理、交通状況、農業のモニターなど応用範囲は多岐。
M2M、HEMS/BEMS/CEMS/FEMS、IoTなどに必須の技術
ヘルスケアIT分野
図67-29 多様な情報のデータベースから相互利用 ⑩
磁石リング
MRI装置
X線CT
図67-30 医療用センサの利用 ③
図67-31 センサネットワーク概念図 (Wikipedia)
45
●追加・更新資料
図67-32 インフラの点検・監視に利用されるセンサの種類 (マイクロマシンセンター)
46
●追加・更新資料
図67-33 社会・産業インフラモニタリングシステムの概要 (マイクロマシンセンター)
47
●追加・更新資料
産業のマメ:MEMS (一財・マイクロマシンセンター/2015年4月改定)より
センサネットワークへの期待:社会の様々な課題への対応策として、センサネットワークを活用した常時・継続的なモニタリングが期待されて
いる。スマートモニタリングと言われ、様々な対象を常時継続的にモニタリングすることにより、適切なメンテナンスによる対象の長寿命化や、
障害や事故を事前に把握した適切な対応策を講ずることを目的としている
図67-34 今後期待されるスマートモニタリング
図67-35 道路インフラのモニタリング
図67-36 グリーンセンサ・ネットワーク
図67-37 産業インフラのモニタリング
48
●追加・更新資料
図67-38 センサによる新機能 ⑫
図67-39 指紋認証
49
課 題
自立型無線セ
ンサシステム
現状のセンサシステムの課題を克服し、橋梁、トンネル、高速道路、プラント、建築物、地盤等の社会インフラには自立
無線センサシステムの要求が強まっている。そのおもな要求特性は現状のものに対して、小型、低価格、高耐久性、自
立電源、無線、低消費電力、多数点常時計測のビッグデータ処理などが挙げられる
今後のロボット
視覚センサ
近年画像素子の発展や高速なカメラインターフェースの出現、コンピュータ性能の向上など高速動の対象物の把握、全
方位光学系など優れた能力を持つに至っている。一方で、照明条件、対象物の見かけが様々に変わる一般環境での安
定した環境認識の能力向上が望まれる ⑥
今後のロボット
聴覚センサ
人間は遠方の音でも聞き取ること、聞き分けることができるが、現在の聴覚センサには周囲の騒音や残響の影響を受け
て性能が著しく低下するという問題があって、今後、対騒音、残響性能を向上させ、より人間に近い聴覚センサを実現す
ることが期待される ⑥
今後のロボット
触覚センサ
人間は指先で能動的に対象の情報を取得し、それ以外に全身で受動的に接触を知覚する。ロボットではマニピュレー
ションのために指先で能動型の滑り検出機能を持つ小型触覚センサ、全身では配線の容易さ、柔軟性を損なわないセ
ンサが期待される。理想的な触覚センサの実現のためには、触覚と同時に力覚も計測してフィードバックする必要があ
る ⑥
今後のロボット
とセンサ
ロボット自体の発展、多様化、センサの小型化などでロボットに利用されるセンサも一層の発展が見込まれる。(1)ロボッ
ト以外の分野で開発済みのセンサの利用−各センサの作動範囲、形状、体積、重量などの性質を調査してロボットシス
テムとして実現。コンピュータ、アクチュエータも含めたシステム全体の効率化に注意。(2)ロボットのニーズからのセンサ
開発−ロボットの研究者がセンサを開発しており、物理、化学、電気工学専門の研究者がロボットニーズを理解してセン
サを開発することが想定され、各分野の研究者の共同研究体制が重要になる ⑥
項目
現在の課題
今後への要求
●図67-40 自立型無線センサシス
テム (マイクロマシンセンター)
50
キーワード
生体認証
本人以外の第3者の悪用が防止でき、忘却・紛失の恐れがない生体情報に基づく本人確認手段。バイオメトリックスと
もいう。指紋、掌形、網膜、虹彩、顔、血管、声紋、耳形、DNA、筆跡、まばたき、歩行などがある (Wikipedia)
ロータリエ
ンコーダ
スリット付円板と光センサの組合せでモータの回転角度を検出するセンサ。モータの回転角度はロボットがどの程度動
いたかを示す重要な情報で、ロボットアームの制御に適用。光電式、ブラシ式、磁気式等の種類がある ②
スマートセ
ンサ
別名インテリジェントセンサ。解析、情報処理の能力が付加されたセンサ。測定対象に複数のセンサで測定し、一度に
複数のデータを取得し、異常な値や例外値を除去し、データ処理してそれを蓄積する。これにより自動較正機能や自動
補償機能が備わっているといえる。他の種類のセンサとセンサネットワーク通信機能で組合わせて統合されたデータの
測定も可能(Wikipedia)。ロボットの自動化、知能化にも有効
センサ
フュージョ
ン(Wikipedia)
視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚などの多くの種類の感覚情報から融合した知覚を用いてセンシングすること。以下の4つ
に分類される。(1)複合;複数のセンサ得られた情報を並列的・相補的に組み合わせた出力を得る、 (2)統合;それぞれ
のセンサから得られた情報に演算処理を行い、まとまった情報を得る、(3)融合:ある現象を測定する複数のセンサの
出力から、データ同士の処理を行い、1つの知覚を得る、(4)連合;センサから得た情報間の関係を調べ出力を得る
微生物セン
サ
微生物が物質と反応する性質を利用して特定の物質を検知するセンサ。(1)呼吸活性測定型微生物センサ−微生物が
有機物と反応するときO2を消費することを利用して、透過してくるO2の量を測定することで有機物の存在を検知。(2)電
極活物質測定型微生物センサ−微生物が有機物を分解した結果生じる代謝物質が電極反応しやすい物質である場
合に直接それを利用してしまうセンサ ②
参考資料
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
⑩
⑪
⑫
センサのキホン 都甲潔ほか ソフトバンククリエイティブ 2012.5.30
センサが一番わかる 松本光春 OHM社 2012.4.12
トコトンやさしいセンサの本(第2版) 山崎弘郎 日刊工業新聞社 2014.12.27
IoT/センサの仕組みと活用 河村雅人(NTTデータ) 翔泳社 2015.3.17
よくわかるセンサーの基本と仕組み 高橋隆雄 秀和システム 2011.3.1
応用センサ工学(ロボティクスシリーズ) 川村貞夫ほか コロナ社 2012.9.3
「センサ」と「IoT」特集 I/O誌2015年1月号 工学社
環境計測、医療診断への化学センサ技術の応用 内田秀和准教授(埼玉大学)
センサ技術の現状と課題 (一財)マイクロマシンセンター 第2回社会インフラモニタリング技術活用推進委員会資料 2013.12.17
「1兆個センサ社会、始動」特集 日経エレクトロニクス 日経BP社 2014.4.28
● OTが変える世界−勝機はセンサにあり 日経ビジネス 2016.4.25
各HP、パンフレット、新聞・雑誌記事
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