第 4 章 多自由度系の振動 第 4 章 多自由度系の振動 畔上 秀幸 名古屋大学 情報科学研究科 複雑系科学専攻 December 16, 2016 1 / 33 第 4 章 多自由度系の振動 はじめに (目標) 多自由度系の運動方程式を満たす変位の解を詳しく調べる.まず,外 力が作用しないときの運動方程式 (自由振動) は固有値問題になり,その解は固 有対 (固有振動数と固有振動モード) で構成されることを学ぶ.そのあとで,外 力が作用したときの運動方程式 (強制振動) の解の求め方についてみていくこと にする. 2 / 33 第 4 章 多自由度系の振動 固有値問題の基礎 §4.1 線形常微分方程式の基礎 多自由度系の運動方程式は 2 階 d 元連立線形常微分方程式で与えられ,自由 振動は固有値問題に帰着する.本論に入る前に,固有値問題の基礎事項をまとめ ておく.d を自然数とする. 問題 4.1.1 (標準固有値問題) A ∈ Cd×d に対して, Ax = κx (4.1.1) を満たす x ∈ Cd と κ ∈ C を求めよ. 問題 4.1.1 を標準固有値問題とよび,その問題の解 κ ∈ C を固有値,x ∈ Cd を固有ベクトル,(κ, x) を固有対とよぶ. 3 / 33 第 4 章 多自由度系の振動 固有値問題の基礎 式 (4.1.1) は,単位行列 I = (δij )ij ∈ Rd×d (δij = 1 (i = j), 0 (i ̸= j)) を用 いて, (A − κI) x = 0Rd (4.1.2) ともかける.ここで,x = 0Rd は式 (4.1.2) を満たす.これを自明の解という. 自明の解を除く解は, |A − κI| = 0 (4.1.3) を満たす.式 (4.1.3) を特性方程式とよぶ.特性方程式は κ についての d 次の方 程式になる. 複素係数の d 次方程式の解は,d 個存在する (Kronecker の定理).それらを r ∈ {1, · · · , d} に対して κr ∈ C とかく. κr を r 次の固有値とよぶ.また,r 次の固有値のときの x の解を xr ∈ Cd を r 次の固有ベクトルとよぶ. 4 / 33 第 4 章 多自由度系の振動 固有値問題の基礎 標準固有値問題の解の形式についてみておこう.ここでは次の定義を用いる. 定義 4.1.2 (正定値実対称行列) A = AT ∈ Rd×d とする.任意の x ∈ Rd に対して 2 x · (Ax) ≥ α ∥x∥Rd (4.1.4) を満たす α > 0 が存在するとき,A を正定値であるという.α ≥ 0 が存在する とき,A を半正定値であるという.また, 2 x · (Ax) ≤ −α ∥x∥Rd (4.1.5) を満たす α > 0 が存在するとき,A を負定値であるという.α ≥ 0 が存在する とき,A を半負定値であるという. 5 / 33 第 4 章 多自由度系の振動 固有値問題の基礎 定理 4.1.3 (標準固有値問題の解) 問題 4.1.1 において行列 A が次のような条件を満たすとき,r ∈ {1, · · · , d} 次 の固有対 (κr , xr ) はそれぞれ次のようになる. 1 2 3 A ∈ Rd×d (実行列) のとき,(κr , xr ) は実数か共役な複素数になる. A = AT ∈ Rd×d (実対称行列) のとき,(κr , xr ) は実数になる.同様に, T A = (Ac ) ∈ Cd×d (エルミート行列) のとき,(κr , xr ) は実数になる.ま た,r, p ∈ {1, · · · , d} に対して,κr ̸= κp のとき xr と xq は直交する. A ∈ Rd×d が正定値実対称行列のとき,κr は正の実数となる.同様に, A ∈ Rd×d が半正定値実対称行列,負定値実対称行列および半負定値実対称 行列のとき,κr はそれぞれ非負の実数,負の実数および非正の実数となる. 6 / 33 第 4 章 多自由度系の振動 固有値問題の基礎 (証明) 1 Axr = κr xr が成り立つとき, c c Axcr = (Axr ) = (κr xr ) = κcr xcr が成り立つ.そこで,κcr も解となり,κr = κcr が成り立つ.すなわち, κr ∈ R である. 2 A = AT ∈ Rd×d (実対称行列) のとき, ( ) κr xr · xcr = xcr · (Axr ) = xr · AT xcr = xr · (Axcr ) = xr · (κcr xcr ) = κcr xr · xcr より,κr = κcr ∈ R を得る.さらに,固有値が一致すれば固有ベクトルも一 致して,xr = xcr ∈ Rd を得る.エルミート行列のときも同様となる. 7 / 33 第 4 章 多自由度系の振動 固有値問題の基礎 また,直交性は次のように示される.r ̸= p に対して, Axr = κr xr , (4.1.6) Axp = κp xp , (4.1.7) が成り立つ.式 (4.1.6) の両辺に左から xT p をかけて,式 (4.1.7) の両辺を 転置して右から xr をかけて,両式の差をとれば,A = AT より, xp · (Axr ) − xp · (Axr ) = (κr − κp ) xp · xr = 0 (4.1.8) となる.そこで,κr ̸= κp のとき,xp · xr = 0 となる. 3 A = AT ∈ Rd×d かつ任意の y ∈ Rd に対して式 (4.1.4) を満たす α > 0 が 存在するとき, 2 2 xr · (Axr ) = κr xr · xr = κr ∥xr ∥Rd ≥ α ∥xr ∥Rd > 0 2 が成り立つ.よって,∥xr ∥Rd > 0 より,κr ≥ α > 0 を得る.同様に,α が 非負の定数のとき,κr は非負の実数となる. □ 8 / 33 第 4 章 多自由度系の振動 固有値問題の基礎 次に,一般固有値問題を考える.運動方程式は一般固有値問題の形式となる. 問題 4.1.4 (一般固有値問題) A ∈ Cd×d と B ∈ Cd×d に対して, Ax = κBx (4.1.9) を満たす x ∈ Cd と κ ∈ C を求めよ. 問題 4.1.4 を一般固有値問題とよぶ.その問題の解 κ ∈ C を固有値,x ∈ Cd を固有ベクトル,(κ, x) を固有対とよぶ. 9 / 33 第 4 章 多自由度系の振動 固有値問題の基礎 式 (4.1.9) は, (A − κB) x = 0Rd (4.1.10) ともかける.ここで,自明の解 (x = 0Rd ) を除く解は,特性方程式 |A − κB| = 0 (4.1.11) を満たす.式 (4.1.11) は κ についての d 次の方程式になる.複素係数の d 次方 程式の解は,d 個存在して,そのときの解 (固有値) を r ∈ {1, · · · , d} に対して κr ∈ C とかく.κr のときの式 (4.1.9) あるいは式 (4.1.10) を満たす r 次の固有 ベクトルを xr ∈ Cd とかく. 10 / 33 第 4 章 多自由度系の振動 固有値問題の基礎 定理 4.1.5 (一般固有値問題の解) 問題 4.1.4 において行列 A と B が次のような条件を満たすとき, r ∈ {1, · · · , d} 次の固有対 (κr , xr ) はそれぞれ次のようになる. 1 B ∈ Rd×d が正定値実対称行列のとき,一般固有値問題 (問題 4.1.4) は標準 固有値問題 Cz = κz (4.1.12) となる. 2 さらに,A ∈ Rd×d が正定値実対称行列のとき,κr は正の実数となる.同様 に,α が非負の定数 (半正定値実対称行列) のとき,κr は非負の実数となる. 11 / 33 第 4 章 多自由度系の振動 固有値問題の基礎 (証明) 1 B ∈ Rd×d が正定値実対称行列のとき,ある左下三角行列 L が存在して, Cholesky 分解 B = LT L とかける.このとき,z = Lx とおけば, ( ) x · (Bx) = x · LT Lx = z · z が成り立つ.そこで,式 (4.1.9) は, AL−1 z = κLT z ( )−1 ( −1 )T となる.この式の両辺に左から LT = L をかけれることによって ( L−1 )T AL−1 z = Cz = κz (4.1.13) とかける. 12 / 33 第 4 章 多自由度系の振動 固有値問題の基礎 2 さらに,A ∈ Rd×d が正定値実対称行列ならば,式 (4.1.13) において C = C T が成り立つ.また,任意の z ∈ Rd に対して,w = L−1 z とおけ ば,A ∈ Rd×d が正定値対称であることから, {( } ( )T ) ( ) z · (Cz) = z · L−1 AL−1 z = L−1 z · AL−1 z 2 = w · (Aw) ≥ α ∥w∥Rd > 0 を満たす α > 0 が存在する.したがって,C は正定値実対称行列となり, 定理 4.1.3 の (3) より,κr は正の実数となる.同様に,α が非負の定数 (半 正定値実対称行列) のとき,κr は非負の実数となる. □ 13 / 33 第 4 章 多自由度系の振動 固有値問題の基礎 固有ベクトルは大きさ不定である.実際,(A − κr B) xr = 0Rd が成り立つと き,任意の c ∈ R に対して, (A − κr B) (cxr ) = 0Rd が成り立つためである.そこで,大きさを決める必要がある場合には,次のよう な定義が使われる. 1 xr = (xri )i に対して, max i∈{1,··· ,d} xri = 1 (4.1.14) と定義する. 2 B に対して, xr · (Bxr ) = 1 (4.1.15) と定義する. 式 (4.1.15) を満たす xr は正規固有ベクトルとよばれる. 14 / 33 第 4 章 多自由度系の振動 非減衰自由振動 §4.2 非減衰自由振動 これより,d 自由度系の運動方程式にもどって,非減衰自由振動の解 u (t) : R → Rd を求めることを考える. d 自由度系の運動方程式は,非減衰のとき,質量行列 M ∈ Rd×d と剛性行列 M ∈ Rd×d を用いて, M ü + Ku = 0Rd (4.2.1) とかけた (第 2 章).式 (4.2.1) は同次形の線形常微分方程式である.この方程式 の一般解は,任意の ur ∈ Cd と λr ∈ C (r の意味はあとで示す) を用いて, u (t) = ur eλr t (4.2.2) のように与えられる.ここで,式 (4.2.2) を式 (4.2.1) に代入すれば,固有方程式 ) ( 2 λ r M + K u r = 0R d (4.2.3) を得る. 15 / 33 第 4 章 多自由度系の振動 非減衰自由振動 運動エネルギーの正定値性と対称性から M は正定値実対称行列となる.ま た,ひずみエネルギーの半正定値性 (剛体運動が制限されていれば正定値性) と 対称性から K は半正定値実対称行列となる.そこで,式 (4.2.3) は係数行列が 半負定値の標準固有値問題にかきかえられる.したがって,定理 4.1.5 の (2) よ り,r ∈ {1, · · · , d} に対して,λ2r ∈ R および ur ∈ Rd となり, λ2r ≤ 0 (4.2.4) を得る.これより, λr = ±i ωr (4.2.5) となる.式 (4.2.5) と ur ∈ Rd を式 (4.2.2) に代入すれば, u (t) = ur e±i ωr = ar ūr e±i ωr (4.2.6) となる.ここで,ūr は ūr · (M ūr ) = 1 (4.2.7) を満たす正規固有ベクトルとして,ar ∈ R は任意の定数とする. 16 / 33 第 4 章 多自由度系の振動 非減衰自由振動 実定数係数 d 元連立 2 階常微分方程式の同次形の一般解は,独立な 2d 個の実 数か共役な複素数からなる解の線形結合で与えられる.式 (4.2.6) の場合,e±i ωr は共役な複素数なので,線形結合の任意の係数も共役な複素数となり, ∑ ( ∑ ) [ ] u (t) = ur ei ωr t + ucr e−i ω1 t = Re ur ei ωr t r∈{1,··· ,d} = ∑ r∈{1,··· ,d} ūr (ar cos ωr t − br sin ωr t) r∈{1,··· ,d} = ∑ ūr cr cos (ωr t + ϕr ) (4.2.8) r∈{1,··· ,d} となる.ただし,ar と br あるいは cr と ϕr は任意の実定数である.式 (4.2.8) より,ωr を r 次の固有円振動数とよぶ.また,ūr ∈ Rd を r 次の正規固有振動 モードとよぶ. 17 / 33 第 4 章 多自由度系の振動 非減衰自由振動 例題 4.2.1 (2 自由度ばね質点系の自由振動) 図 4.1 のような 2 自由度ばね質点系の固有振動数と正規固有振動モードを求めよ. u1 k m k u2 m k 図 4.1: 2 自由度ばね質点系 18 / 33 第 4 章 多自由度系の振動 非減衰自由振動 (解答) 図 4.1 のような 2 自由度ばね質点系の運動方程式は,第 2 章の問題 2.4.2 (2 自 由度ばね質点系) と同様に,Lagrange の運動方程式から ( )( ) ( )( ) ( ) 2k −k 0 m 0 ü1 u1 + = (4.2.9) 0 m ü2 −k 2k u2 0 のように得られる.ここで,一般解を ( ) ( ) u1 (t) ur1 λr t = e u2 (t) ur2 とおく.式 (4.2.10) を式 (4.2.9) に代入して,固有方程式 ( ( ) ( )) ( ) ( ) 1 0 2 −1 u1 0 λ2r m +k = 0 1 −1 2 u2 0 (4.2.10) (4.2.11) を得る.これより,特性方程式は ( ) ( ) 2 )2 −1 ( 2 λr m 1 0 + k 2 = λr m + 2k − k2 0 1 −1 2 19 / 33 第 4 章 多自由度系の振動 非減衰自由振動 = m2 λ4r + 4mkλ2r + 3k3 = 0 となる.そこで, λ2r = −2mk ± √ 4m2 k2 − 3m2 k2 k = (−2 ± 1) ⇒ m2 m { λ21 = −k/m λ22 = −3k/m となる.λr = ±i ωr より,1 次と 2 次の固有円振動数は √ √ k 3k ω1 = , ω2 = m m となる. ( )T 1 次の固有振動モード u1 = u11 u12 は,λ21 = −k/m を式 (4.2.11) に代入する ことによって得られる.すなわち,固有振動モードは大きさ不定であるので,u11 = 1 と おけば, ( )( ) ( ) ( ) ( ) k −k 1 0 u11 1 = ⇒ u12 = 1 ⇒ = −k k u12 0 u12 1 20 / 33 第 4 章 多自由度系の振動 非減衰自由振動 ( )T となる.2 次の固有振動モード u2 = u21 u22 は,λ22 = −3k/m を式 (4.2.11) に代 入することによって ( )( ) ( ) ( ) ( ) −k −k 1 0 u21 1 = ⇒ u22 = −1 ⇒ = −k −k u22 0 u22 −1 となる.図 4.2 に u1 と u2 による振動の様子を示す.1 次と 2 次の固有振動モードを正 規化すれば, ( ( u11 u12 u21 u22 となる. )T ( )T ( m 0 m 0 )( ) ( ) ( ) 1 1 u11 ū11 = 2m ⇒ = √ , u12 ū12 2m 1 ( ) )( ) ( ) 1 0 u21 ū21 1 = 2m ⇒ = √ m u22 ū22 2m −1 0 m □ 21 / 33 第 4 章 多自由度系の振動 非減衰自由振動 k m m 1 k 1 t t (a) モード 1 u1 k m t 2k 2k 1 −1 m k t (a) モード 2 u2 図 4.2: 2 自由度ばね質点系の固有振動モード 22 / 33 第 4 章 多自由度系の振動 減衰自由振動 §4.3 減衰自由振動 図 4.3 のような粘性減衰をもつ 2 自由度ばね質点系を考えてみよう. u1 k2 k1 c1 m c2 u2 k3 m c1 図 4.3: 2 自由度ばね質点粘性減衰系 23 / 33 第 4 章 多自由度系の振動 減衰自由振動 粘性減衰の場合には,Lagrange 関数 l (u, u̇) = 1 1 1 1 1 2 m1 u̇21 + m2 u̇22 − k1 u21 − k2 (u2 − u1 ) − k3 u22 2 2 2 2 2 と散逸関数 v (u̇) = 1 1 1 2 c1 u̇21 + c2 (u̇2 − u̇1 ) + c3 u̇22 2 2 2 を定義して,拡張 Lagrange の運動方程式 d ∂l ∂l ∂v − + = 0R d dt ∂ u̇ ∂u ∂ u̇ (4.3.1) に代入することによって,運動方程式が得られる.実際, m1 ü1 + k1 u1 − k2 (u2 − u1 ) + c1 u̇1 − c2 (u̇2 − u̇1 ) = 0, m2 ü2 + k2 (u2 − u1 ) + k3 u2 + c2 (u̇2 − u̇1 ) + c3 u̇2 = 0 24 / 33 第 4 章 多自由度系の振動 減衰自由振動 が得られる.行列とベクトルを用いてかきかえれば, ( )( ) ( )( ) m1 0 ü1 c + c2 −c2 u̇1 + 1 0 m2 ü2 −c2 c2 + c3 u̇2 ( )( ) ( ) k + k2 −k2 u1 0 + 1 = −k2 k2 + k3 u2 0 となる. このように,d 自由度粘性減衰系の運動方程式は,一般粘性減衰行列 C ∈ Rd×d を用いて, M ü + C u̇ + Ku = 0Rd (4.3.2) とかける.一般粘性減衰行列は,通常,正定値対称行列であると仮定される. 25 / 33 第 4 章 多自由度系の振動 減衰自由振動 式 (4.3.2) は同次形の線形常微分方程式である.この方程式の一般解は,任意 の ur ∈ Cd と λr ∈ C を用いて, u (t) = ur eλr t (4.3.3) のように与えられる.ここで,式 (4.3.3) を式 (4.3.2) に代入すれば,固有方程式 ( 2 ) λr M + λr C + K ur = 0Rd (4.3.4) を得る.この固有方程式が自明の解以外の解をもつためには,特性方程式 2 λr M + λr C + K = 0 (4.3.5) を満たす必要がある.式 (4.3.5) は λr について 2d 次の実数係数方程式になる. その解は 2d 個存在する. 26 / 33 第 4 章 多自由度系の振動 減衰自由振動 M と C の正定値性および K の半定値性を考慮すれば.式 (4.3.5) の解は, 非正の実数か実部が非正の共役な複素数となる.実際,λr = α + i β とおくと き,式 (4.3.4) の両辺に対して,左から uT r をかければ, λ2r ur · (M ur ) + λr ur · (Cur ) + ur · (Kur ) ( ) = α2 − β 2 + i 2αβ ur · (M ur ) + (α + i β) ur · (Cur ) + ur · (Kur ) ( ) = α2 − β 2 ur · (M ur ) + αur · (Cur ) + ur · (Kur ) + i {2αβur · (M ur ) + βur · (Cur )} =0 となり, α=− ur · (Cur ) <0 2ur · (M ur ) が得られるからである. 27 / 33 第 4 章 多自由度系の振動 減衰自由振動 特性方程式 (式 (4.3.5)) の解 λr のうち,0 は運動に寄与しない.負の実数の とき過減衰となる.また,共役な複素数の場合は, λr = −σr ± i ωrD (4.3.6) となる.このとき,σr > 0 を r 次のモード減衰率,ωrD を r 次の減衰固有円振 動数とよぶ.C が一般粘性減衰行列のときには,式 (4.3.6) の右辺を,1 自由度 系のときのような減衰比 ζr を用いた √ − ζr ωr ± i ωr 1 − ζr2 の形式にかくことはできないことに注意する.ζr は実験モード解析で使われる. のちに示す比例粘性減衰の場合はこのようにかけることになる. 28 / 33 第 4 章 多自由度系の振動 減衰自由振動 特性方程式 (式 (4.3.5)) の解 λr がすべて共役な複素数の場合は,自由振動の 解は ) ∑ ( u (t) = ur e(−σr +i ωrD )t + ucr e(−σr −i ωrD )t r∈{1,··· ,d} = ∑ [ ] Re ur e(−σr +i ωrD )t r∈{1,··· ,d} = ∑ ūr e−σr t (ar cos ωrD t − br sin ωrD t) r∈{1,··· ,d} = ∑ ūr cr e−σr t cos (ωrD t + ϕr ) (4.3.7) r∈{1,··· ,d} となる.ただし,ar と br あるいは cr と ϕr は任意の実定数である. 29 / 33 第 4 章 多自由度系の振動 減衰自由振動 次に,C が M と K を用いて C = αM + βK (4.3.8) とかける場合を考えよう.ここで,α と β は正の実定数とする.式 (4.3.8) が成 り立つとき,比例粘性減衰あるいは Rayleigh 減衰とよばれる. 比例粘性減衰のとき,固有方程式は実固有値問題になる.実際,式 (4.3.8) を 固有方程式 (式 (4.3.4)) に代入し,両辺を 1 + β でわれば, ( 2 ) λr + α M + K ur = 0Rd (4.3.9) 1+β となる.そこで,比例粘性減衰のときの固有振動モード ur は非減衰のときの固 有振動モード (実ベクトル) と一致することがわかる.また,λr は非減衰の固有 円振動数 ωr と − ωr2 = λ2r + α 1+β (4.3.10) の関係をもつことになる. 30 / 33 第 4 章 多自由度系の振動 減衰自由振動 式 (4.3.10) は ( ) λ2r + α + βωr2 λr + ωr2 = 0 とかきかえられる.これより, ( ) √ 2 − α + βωr2 ± (α + βωr2 ) − 4ωr2 λr = √ 2 = −ζr ωr ± i ωr 1 − ζr2 = −σr ± i ωrD (4.3.11) とかけることになる.ただし, α + βωr2 , 2 ωr 1 α+ β ζr = 2ωr 2 σr = ζr ωr = (4.3.12) (4.3.13) である.σr を r 次のモード減衰率,ζr を r 次のモード減衰比という. 31 / 33 第 4 章 多自由度系の振動 減衰自由振動 例題 4.3.1 (2 自由度ばね質点比例粘性減衰系のモード減衰比) 図 4.3 のような 2 自由度系において,比例粘性減衰を仮定したときの 1 次と 2 次 のモード減衰比を求めよ.ただし,m1 = m2 , c1 = c2 = c3 および k1 = k2 = k3 をそれぞれ m, c および k とおく. (解答) 図 4.3 の運動方程式は ( )( ) ( )( ) ( m 0 ü1 2c −c u̇1 2k + + 0 m ü2 −c 2c u̇2 −k であった.そこで, ) ( ( c 2k 2c −c = −c 2c k −k −k 2k −k 2k )( ) ( ) u1 0 = u2 0 ) が成り立つことから, α = 0, β = c/k 32 / 33 第 4 章 多自由度系の振動 減衰自由振動 となる.そこで,例題 4.2.1 の結果 √ √ λ1 = k/m, λ2 = 3k/m を式 (4.3.13) に代入することによって, c ζ1 = √ , 2 mk を得る. √ 3c ζ2 = √ 2 mk □ 33 / 33 4.4 強制振動 方法1 時間積分による方法 方法2 動剛性行列を利用する方法 方法3 固有振動モードを利用する方法 方法1:時間積分による方法 状態ベクトルを用いた運動方程式 状態ベクトル y(t) c m x t k 0 x t f t m 0 0 m x t x t 0 My t Ky t F t y t M 1 F t Ky t 陽解法: tn における運動方程式から tn+1 = tn +Dt の解を評価す る. Euler 法, 中央差分法, Runge-Kutta 法 方法1:時間積分による方法(cont.) 陰解法 tn から tn+1 = tn +Dt の変化を内挿関数で近似し, tn+1 における運動方程式から tn+1 の解を評価する. q 法, 線形加速度法(不安定), Newmark b 法, Wilson q 法 線形加速度法の場合 mx t cx t kx t f t 1 x tn x tn 2 c k 2 x tn 1 m Dt Dt f tn 1 c x tn Dt k x t n x t n Dt Dt 2 6 2 3 時間積分による方法の特徴 陽解法 利点:過渡応答に適する.各種非線形性を考慮でき る.解析が落ちない.早い. 欠点:精度が悪い. 陰解法 利点:過渡応答に適する.各種非線形性を考慮でき る.精度がいい. 欠点:収束しない場合に解析が落ちる.遅い. 方法2:動剛性行列を利用する方法 運動方程式を Fourier 変換する. w m jwc k X w F w 2 B w X w F w w ごとに X(w) について解く. X w B 1 w F w 計算量が多い X(w) について逆Fourier 変換する. x t F-1 X w 動剛性行列 動剛性行列を利用する方法の特徴 利点 狭周波数領域加振の応答に適する. 伝達関数を用いた部分構造合成法に利用される. 欠点 広周波数領域加振の場合に計算量が増加する. 各種非線形性を考慮できない. 方法3:モードを利用する方法 手順1:モード対を求める. 手順2:固有振動モードの直交性を利用して,物 理変位をモード変位に変換することによって運 動方程式を非連成化する. 手順3:非連成化されたモード変位の運動方程 式を解く. 手順4:そのモード変位を物理変位に変換する. 手順1:モード対を求める 固有方程式から固有振動数 lr と固有振動モー ドベクトル Xr を求める. l m k X 0 2 0 l 2 l12 , l22 , , lr2 , ln2 R lr jwn r r 1, 2, n X X , X , , X , , X R 1 2 r n , n 正規固有モードベクトルの直交性 非減衰の正規固有モードベクトルは m正規直 交かつ k直交である. l m k U 0 r 2 r U mU pq U kU l p2 pq p q p なぜならば q 左下三角行列 m R nn , m mT , x mx 0 x R n \ 0 m LT L Cholesky 分解 l m k U 2 r r 0 L T 1 kL1 y r lr2 y r , y r LU r y y U LT LU U mU pq p q p q p q 手順2:変位をモード変位に変換 n 次元ベクトル空間の任意のベクトルは n 次元 ベクトル空間の n 個の独立なベクトルの線形結 合で与えられる. 正規固有振動ベクトル U(r) (r=1,2,, n) は n 次 元ベクトル空間の m-正規直交ベクトルであるの で,それらは独立である. 手順2:変位をモード変位に変換 (cont.) したがって,n 次元ベクトル空間で与えられた任 意の変位ベクトルは正規固有振動ベクトルの線 形結合で与えられる. 物理座標からモード座標への変換行列 1 2 x1 t U1 U1 1 2 n x2 t U 2 U 2 r r x t U t r 1 2 xn t 1 U n U n 物理変位 モード変位 n 1 U1 t 2 n U 2 t x t U t n n U n t 正規モード行列 手順2:変位をモード変位に変換 (cont.) 運動方程式の変位をモード変位に変換する. mx t kx t f t , x t U t mU t kU t f t UT を左から乗ずる. U T mU t U T kU t U T f t 非連成の運動方程式を得る. 1 0 0 1 0 0 1 1 2 0 0 t w n 0 2 t 0 w n 22 n 1 t 0 0 あるいは 1 1 0 t U f t 2 2 t U f t 0 n n n 2 w n t U f t r t wn r 2 r t U r f t r 1, 2, , n 手順3:非連成の運動方程式を解く 例えば Fourier 変換を用いて解く. 非連成化された運動方程式を Fourier 変換する. w 2 r w wn r 2 r w U r F w r 1, 2, , n モード変位の Fourier 変換について解く. r w U r F w r 2 wn w 2 r 1, 2, , n 逆 Fourier 変換してモード変位に変換する. r t F 1 r w r 1, 2, , n 手順4:物理変位に変換する 得られたモード変位を物理変位に変換する. n x t U r r t U t r 1 あるいは,逆 Fourier 変換と座標変換の順序を 入れ替えて 伝達関数行列 U U X w U w r 2 F w GF w 2 w r 1 r 1 w n n r r x t F 1 X w n r r T 比例粘性減衰に拡張する 手順1:非減衰の固有方程式を解く. l 2 lr2 lr jwn r r 1, 2, l 2m k X 0 r r 1, 2, , n X X r U , n 正規固有モード 手順2:変位をモード変位に変換する. x t U t 運動方程式の変位をモード変位に変換する. mx t m b k x t kx t f t mU t m b k U t kU t f t 比例粘性減衰に拡張する(cont.) UT を左から乗ずる. U T mU t U T m b k U t U T kU t U T f t モードの直交性から非連成運動方程式を得る. r t bwn r 2 r t wn r 2 r t U r f t r 1, 2, , n 必要があれば,比例粘性減衰パラメータ , b をモード減衰比 z(r) に変換する. r 2 n bw r r n 2z w z r bwn r 2 2wn r r 1, 2, , n 比例粘性減衰に拡張する(cont.) 手順3:非連成の運動方程式を解く. 非連成化された運動方程式を Fourier 変換する. w 2 j 2z r wnr w wnr 2 r w U r F w r 1, 2, , n モード変位の Fourier 変換について解く. U r T w r 2 F w r r 2 wn w j 2z wn w r r 1, 2, , n 逆 Fourier 変換してモード変位に変換する. r t F 1 r w r 1, 2, , n 比例粘性減衰に拡張する(cont.) 手順4:モード変位を物理変位に変換する. n x t U r r t U t r 1 あるいは,逆 Fourier 変換と座標変換の順序を入れ 替えて U U X w U w r 2 F w GF w r r 2 w j 2z w n w r 1 r 1 w n n r r x t F 1 X w n r r T 伝達関数行列 一般粘性減衰に拡張する 運動方程式を状態ベクトルで表示する. c m x k 0 x 0 m 0 x 0 m x 0 My Ky 0, x y x 一般解の形を代入して固有方程式を得る. X lt y Ve e l X lt l M K V 0 固有値 固有方程式 固有ベクトル 正定値対称実数行列 正/負定値性のない実数対称行列 一般粘性減衰に拡張する 手順1:固有方程式を解く 実数標準固有値問題の固有値と固有ベクトル l lr (負の)実数か(実部が負の)共役な複素数 X V Vr r lr X r 共役な 2n 個の複素数ベクトル Vr の M-直交性を考慮して正規化条件を加える. W MW pq p q 正規固有モード 共役をとる M R 2 n2 n , M M T , x Mx 0 x R 2 n \ 0 一般粘性減衰に拡張する(cont.) 手順2:物理状態ベクトルをモード状態ベクトル に変換する. 強制振動の運動方程式 c m x k 0 x f m 0 x 0 m x 0 My Ky p, x y x 物理ベクトル y をモードベクトル h に変換する. 1 2 y W ,W , ,W n 1 2 ,W ,W , Z Z Wh , Z Z ,W n l1 0 0 0 l 2 n ,Z , 0 0 l n 1 2 Z Z , Z , 一般粘性減衰に拡張する(cont.) WT の共役を左から乗ずる. W T MWh W T KWh W T p モードの直交性から非連成運動方程式を得る. h r t rh r t V r p r 1, 2, , 2n lr r jwd r r 1, 2, , n r r r lr jwd r n 1, n 2, r t r jwd r r t Z r f , , 2n n r t r r 1, 2, , n 一般粘性減衰に拡張する(cont.) 手順3:非連成の運動方程式を解く. 非連成化された運動方程式を Fourier 変換する. jw r jwdr r w Z r F w , nr w r w r 1, 2, モード変位の Fourier 変換について解く. r Z F w r nr r w , w w r 1, 2, , n r r j w wd 逆 Fourier 変換してモード変位に変換する. r t F 1 r w , nr t r t r 1, 2, , n , n 一般粘性減衰に拡張する(cont.) 手順4:モード変位を物理変位に変換する. n x t r 1 t Z t Z t Z , Z 2Re Z t t r r r r あるいは,逆 Fourier 変換と座標変換の順序を入れ 替えて n X w Z r 1 r r w Z r r w 伝達関数行列 r r T r r T Z Z Z Z F w GF w r r r r r 1 j w w d j w w d n x t F 1 X w モードを利用する方法の特徴 利点 不要な高次/低次モードを省略すれば自由度数を大 幅に減少できる. モード変位によって応答における各モードの寄与度 が評価できる. 欠点 固有値解析が必要である. 各種非線形性を考慮できない. 例題: 2自由度ばね質点系 2自由度ばね質点系に外力 f1, f2 に対する変位 応答 x1, x2 をモードを利用して求めよ. m 0 x1 2k 0 m x k 2 k x1 f1 運動方程式 2k x2 f 2 1次正規固有モード k m k 2次正規固有モード x1 t x2 t 1 1 1 t 1 t t 1 1 1 2 2 2m 2m t t t 1 モード行列 1 2 座標変換 f1 x1 m k f2 x2 例題: 2自由度ばね質点系(cont.) 運動方程式に座標変換を代入して,左からモー ド行列の転置を乗ずる. 1 1 1 m 0 1 1 1 1 1 1 2k 2 1 1 k 1 1 0 m 1 1 2m 2 m k 1 1 1 2k 1 1 2 1 1 1 f1 2m 1 1 f 2 1次固有振動数の2乗 0 1 1 0 1 k m 1 0 1 2 0 3k m 2 2m 2次固有振動数の2乗 f1 f 2 f f 1 2 非連成化された運動方程式 例題: 2自由度ばね質点系(cont.) 非連成化された運動方程式を解く. 1 1 f1 , w 1 k 12 1 w 1 1 f n n m 2 2m 2 w 2 2 2 1 1 1 f1 , w 2 3k n n m f2 2m Fourier 変換してモード変位について解く. 1 1 1 1 F1 2 1 F1 12 1 1 1 F w w n 2m 1 1 F2 2 2m w n12 w 2 1 1 1 F F1 2 2 2 2 2 2 1 w w n 1 1 1 1 F F 2 2 2m 2m w n2 2 w 2 例題: 2自由度ばね質点系(cont.) 伝達関数行列の各要素を確認する. 1 12 2 1 1 wn w 2 1 2m 22 2 w n w X1 1 2m X2 1 w n12 w 2 F1 1 F2 w n 22 w 2 1 1 1 1 1 2 伝達関数行列 1 1 w 12 w 2 w 22 w 2 1 n n 1 1 2m 12 22 2 2 w n w w n w w n12 w 2 w n 22 w 2 1 1 2 2 1 2 2 w n w w n w 2 1 1 F1 GF F2 例題: 2自由度ばね質点系(cont.) 伝達関数行列を理論式に合わせて確認する. X 1 1 2m 12 2 X 2 wn w 1 2m 12 2 wn w 1 1 1 2m 1 1 2 2 2 wn w 1 1 F1 1 1 F 2 1 1 2m 1 1 2 2 2 1 wn w F1 1 1 1 1 F2 逆 Fourier 変換して変位を求める. 1 x1 t F X 1 w 1 x t 2 F X 2 w
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