Press Release

Press
Release
平成28年12月15日
静岡県庁社会部
各報道機関 御中
国立大学法人 静岡大学長 伊東 幸宏
オートファジーのスイッチを入れる酵素を特定
大隅良典先生のノーベル賞受賞の対象となった「オートファジー」は細胞内の不要物を除去し細胞の
老化を抑制する作用を持ちます。細胞のオートファジーを活性化させることで神経変性疾患を含めた病
気の治療効果が期待されていますが、オートファジーがどのように細胞内で制御されているか、不明な
点が数多く残っています。
本学理学部の丑丸敬史教授の研究グループは、そのオートファジー誘導の仕組みを探るために、酵母
の脱リン酸化酵素に着目し研究を進めました。研究には大隅先生と同様に出芽酵母を用いて行いました。
その結果、2 種類の PP2A 型の脱リン酸化酵素が活発にオートファジーを起こすために必要であること
を突き止めました。PP2A 遺伝子を欠損させた酵母細胞ではオートファジーを起こす仕組みが正常に作
動せず、オートファジーが十分に誘導されませんでした。ヒト細胞にも同様な PP2A 酵素があることか
ら、今後、この酵素の働きを高めることでオートファジーを効率良く起こすような薬剤の開発等にも役
立つことが期待されます。
本研究成果は、米国の The Public Library of Science ONE 社の刊行するオンライン科学誌“PLOS ONE”
に 2016 年 12 月 15 日 (木) 午前 4 時 (アメリカ東部標準時 午後 2 時) に掲載。
お問い合わせ先
部局名 理学部生物科学科
担当者 丑丸 敬史(うしまる たかし)
電話番号 054-238-4772
電子メール [email protected]
国立大学法人 静岡大学 ウェブサイト http://www.shizuoka.ac.jp/
○広報室
〒422-8529 静岡県静岡市駿河区大谷836
TEL:054-238-5179
FAX:054-237-0089
Press
Release
【論文情報】
題名:Orchestrated action of PP2A antagonizes Atg13 phosphorylation and promotes autophagy after the
inactivation of TORC1
誌名:PLOS ONE 巻号:未定 掲載URL:http://dx.plos.org/10.1371/journal.pone.0166636
著者:丑丸敬史 (静岡大学理学部・教授),アクター・ヤスミン (同・大学院生),タルッダル・ムハン
マド・ワリウッラ (同・大学院生),近藤明宏 (同・大学院生),金子敦稀 (同・大学院生),小池直暉 (同・
大学院生)
【今回の発見のポイント】
(詳細は次頁からの【背景】,【方法】
,【結果】をご参照ください)
1) オートファジーは Atg13 タンパク質がオンオフのスイッチになって制御されている。栄養がある時は
Atg13 タンパク質は TORC1 酵素によりリン酸化されており、これによりオートファジーは抑制され
ています。しかし、細胞が栄養源飢餓に陥ると Atg13 が脱リン酸化されオートファジーが誘導されま
す(図1)
。この Atg13 を脱リン酸化する酵素はこれまで発見されていませんでした。
2) 本研究グループは、オートファジー研究によく使われている出芽酵母を用いて、酵母の 30 個を超え
る脱リン酸化酵素の遺伝子を一つずつ欠損させた酵母を網羅的に調べ、オートファジーの誘導が低下
する変異株を発見しました。それが PP2A-Cdc55 と PP2A-Rts1 と言う 2 つの PP2A 型の酵素でした。
この 2 つの遺伝子を同時に欠く細胞では Atg13 の脱リン酸化が十分には起こらず、その結果、オート
ファジーが効率よく誘導されないことを見出しました(図1)
。
【本研究成果の社会的意義】

今回特定された脱リン酸化酵素PP2Aは
これまでもTORC1と密接な関係にあるこ
とが知られていました。本成果により,
TORC1とPP2Aの連携でオートファジー
が効率よく起こることが明らかとなり、
オートファジーの仕組みの解明がまた一
歩進みました。これにより、PP2Aをター
ゲットにしたオートファジーを増強する
薬剤の開発が進むことが期待されます。

オートファジーは、神経変性疾患(認知
症)やがんや肥満に関与するとされ、こ
れからこのようなオートファジー病の治
療に本研究の基礎的な知見が役立つことが期待されます。
【背景】
オートファジーはタンパク質などの細胞内成分をリソソーム(酵母や植物では液胞)に運んで分解する
機構です。細胞外に栄養源が豊富にある場合にはオートファジーは抑制されていますが、栄養がなくなると
自分の細胞内成分を分解してアミノ酸を作り出します。Atg13 タンパク質がオートファジーのオンオフを切
替える分子スイッチの役割を担っています。栄養のある時には Atg13 が TORC1 酵素によりリン酸化にされる
ことでオートファジーが抑制されています。しかし、栄養がなくなると Atg13 が脱リン酸化されオートファ
ジーが大規模に誘導されます(図1)
。しかし、この Atg13 を脱リン酸化する酵素はオートファジーの誘導
に重要であるのにもかかわらず、これまで発見されていませんでした。
【方法】
pH が 低 下 す る と 蛍 光 を 消 失 す る 緑 色 蛍 光 タ ン パ ク 質
(pHluorin)に赤色蛍光タンパク質(RFP)を融合した人工タン
パク質 Rosella を酵母細胞で作らせます。このタンパク質は緑
と赤に重なって黄色に見えます。しかし、オートファジーが起
こり Rosella が液胞に運ばれると液胞内の低い pH 環境により緑
色の蛍光が消失し、赤色のみの蛍光が観察されます(図 2)
。こ
の液胞内の赤色シグナルの強度により、オートファジーの程度
が評価できます。
【結果】
1) 出芽酵母で様々な脱リン酸化酵素の遺伝子を欠損させオートファジーの起こる様子を観察した結果、
PP2A-Cdc55 と PP2A-Rts1 と言う 2 つの PP2A 型の酵素の遺伝子を破壊した時に栄養源飢餓時のオー
トファジーが顕著に低下することが判明しました。
2) さらに、この 2 つの遺伝子を欠く細胞ではスイッチ分子である Atg13 の脱リン酸化が十分には起こら
ずスイッチの切替えが十分に起こっていないことがその原因であることが判明しました(図1)
。
2) 飢餓時に TORC1 の働きが低下する際に、逆に PP2A 型のこれらの酵素は活性化することがすでに知
られており、今回の研究は、飢餓時に効率よく Atg13 が脱リン酸化され、オートファジーが誘導され
ると言う現象を見事に説明しています。
3) これまで、阻害剤を用いて PP2A がオートファジー誘導に関与することを示唆する研究報告や、逆に
PP2A がオートファジーを阻害するという報告がありました。本研究では、遺伝子をノックアウトし
た細胞を用いることで、PP2A がオートファジー誘導に必要であることを世界で初めて明確に示しま
した。
【今後の課題】
今回の研究では、PP2A がオートファジーの分子スイッチを切替えることを示しました。ただし、
PP2A を欠く細胞でも Atg13 がわずかに脱リン酸化されたことから、他にもこのスイッチ切替えに関与
する遺伝子があることを示唆されています。今後は、この未知な遺伝子の探索を行う必要があります。