第二種特定鳥獣管理計画 -ニホンザル-(中間案)

第二種特定鳥獣管理計画
-ニホンザル-(中間案)
(平成29年4月1日から平成34年3月31日まで)
京
都
府
目
次
1
管理すべき鳥獣の種類
1
2
計画の期間
1
3
計画の対象地域
1
4
計画策定の目的と背景
1
5
(1) 目的
1
(2) 背景
1
ニホンザルをとりまく現状
2
(1) 生息状況
2
(2) 生息環境
4
(3) 捕獲状況
4
(4) 被害状況
5
6
管理の目標
5
7
管理の目標を達成するための基本的な考え方
6
8
管理の目標を達成するための方策
7
9
(1) 個体数調整
7
(2) 被害防除対策
7
(3) 生息環境管理
7
(4) 近隣府県との連携
7
その他管理のために必要な事項
7
(1) モニタリング
7
(2) 生活環境被害の把握
7
(3) 外来種の取り扱い
8
(4) 計画の実施体制
8
1
管理すべき鳥獣の種類
ニホンザル
2
計画の期間
平成29年4月1日から平成34年3月31日まで
3
計画の対象地域
京都府全域
ただし、国指定の冠島・沓島鳥獣保護区(舞鶴市)は除く
4
計画策定の目的と背景
(1) 目的
地域住民や農林業者、行政、研究者など多様な主体の連携のもと、科学的・計画
的な管理により、人とニホンザルとの共存を目標として、人身被害の回避、農作物
等被害及び生活環境被害の軽減を図るとともに、ニホンザルの地域個体群の長期に
渡る安定維持を図ることを目的とする。
(2) 背景
ニホンザルは我が国の固有の種であり、世界最北に生息するサルとして国際的に
も貴重な種である。1900年代中頃までは捕獲圧が高く個体数が激減したため、昭和
22年に狩猟が禁止され、保護の対象となった。その後、分布域の拡大や人の生活域
への出没が増加し、ニホンザルと人との軋轢が社会問題化している。
府内のニホンザルは中部地方及び紀伊半島の地域個体群と中国地方の地域個体群
をつなぐ要として、種の保全に重要な役割を果たしている(図1)。2004年に実施
された第6回自然環境保全基礎調査結果から、隣接する福井県及び滋賀県内の群れ
分布によって京都府内のいくつかの群れの分布が連続すると推測される。
府では、平成19年に特定鳥獣保護管理計画(第1期)を策定して以降、平成24年
に第2期計画、平成27年に第二種特定鳥獣管理計画(第3期)を策定した。
今回、前計画に基づく対策の効果を検証するとともに、その後のモニタリング調
査結果を基礎資料として、第二種特定鳥獣管理計画(第4期)を策定する。
-1 -
図1
5
京都府及び周辺地域のニホンザルの分布(第1期計画当時)
ニホンザルをとりまく現状
(1) 生息状況
現在、府内には40群程度が生息しており(表1)、生息数は2,000頭程度と推定
されている。新たな群れの確認や、繁殖・捕獲の状況により、群れの数や生息数は
変化するため、モニタリング等により正確な生息状況の把握に努めているところで
ある。全体的に群れの把握が進み、存在や詳細が不明な群れ(以後、不明群)は減
ってきている。
地域個体群とは、群れ間での個体の移動(遺伝子の交流)が可能な状態にあるニ
ホンザルの分布の地域的なまとまりを指し、管理は地域個体群を単位として実施す
べきものである。しかし、府内のニホンザルの分布は隣接府県と連続していること、
様々な行政施策は行政単位で実施されることから、本計画では計画実行のための「管
理ユニット」を、群れの連続性を考慮しながら5つの地域に設定し、管理ユニット
ごとに生息状況や被害状況を整理するとともに、管理方針を定めることとする。
-2 -
図2
表1
京都府内のニホンザルの分布(平成27年度調査結果)
管理ユニット毎の概要
-3 -
<各管理ユニットの生息状況>
丹後:10群程度が丹後半島の東部に分布し、互いの分布域は少しずつ重複している。
平成25年度から積極的に個体数調整が進められ、2群(丹後A群:全数捕獲、
丹後 D 群:半数捕獲)で完了、7群で実施中である。
丹波:21群程度が舞鶴市から南丹市まで広範囲に連続して分布している。前計画中の
調査により不明群の把握が進み、現在遊動域等の調査のため発信機装着を進め
ている。また、三和 A 群及び園部 A 群は遊動域が隣接県と重なるため、関係
府県と調整しながら管理を進める必要がある。
京都西:1群程度が分布している。亀岡 B 群は、前計画中の調査によりハナレザル
または亀岡 A 群と同一群の可能性が高かったことから、群れとして扱わない。
京都東:2群程度が分布している。京都 B 群は個体数調整で全頭捕獲され群れが消
滅し、京都 A 群も個体数調整の完了(半数捕獲)により個体数は減っている。
山城:6群程度が宇治田原町から木津川市、南山城村にかけて連続して分布している。
平成23年度から個体数調整に取り組んでいる。府内で最も個体数が多い和束 B
群では個体数調整が部分完了しており、引き続き完了に向けて個体数調整を進
める必要がある。また加茂 A 群は遊動域が隣接県と重なるため、関係府県と
調整しながら管理を進める必要がある。
(2) 生息環境
京都府の面積は4,613㎢であり、うち森林面積は3,428㎢で京都府の74%を占める。
この森林の大半が民有林であり、樹種別の面積割合は針葉樹56.9%、広葉樹40.0%、
その他(竹林、伐採跡地等)3.1%でなっている。ニホンザルの生息環境としては、
広葉樹の自然林が重要なため、広葉樹林の保全や復元が重要な課題である。
(3) 捕獲状況
平成19年~27年度の総捕獲頭数は2,792頭であり、捕獲の内訳は有害捕獲が2,297
頭、平成23年から実施している個体数調整が495頭となっており(図3)、全体的
に増加傾向にある。一方で、個体数調整が計画どおり進まない事例が見られること
から、計画の妥当性を含めた捕獲後の効果検証を行い、個体数調整の適切な実施を
推進する必要がある。
ア
有害鳥獣捕獲
平成23~27年度の捕獲頭数は、丹後管理ユニットが331頭、丹波管理ユニットが、
397頭、京都東管理ユニットが248頭、京都西管理ユニットが14頭、山城管理ユニッ
トが242頭と、合計1,431頭であった。
イ
個体数調整
平成23年度から試行的に実施し、平成24年から本格的に実施している。平成23~
27年度の捕獲頭数は、丹後管理ユニットが175頭、丹波管理ユニットが83頭、京都
東管理ユニットが142頭、京都西管理ユニットが0頭、山城管理ユニットが95頭と、
合計495頭であった。
-4 -
図3
管理ユニット別の捕獲頭数(有害鳥獣捕獲及び個体数調整)の推移
(4) 被害状況
サルによる農業被害金額は、平成21年度までは増加傾向にあったが、それ以降は
年々減少傾向にある。ただし、住居へ侵入し家の中を荒らす、仏壇の供え物を食害
するなどの被害の他に、件数は多くはないが、人馴れの進んだ個体が子供や高齢者
を追いかけたり、引っ掻いたりする等の人身事故も報告されていることから、考慮
すべき重要な課題である。
図4
6
被害面積と被害金額の推移
管理の目標
人身被害の回避と農作物等被害及び生活被害を軽減するため加害レベル ※ が3以
上の高い群れ40群について、平成33年度末までに群れの個体数の全数又は半数捕獲
を実施し、20群まで半減させる。このため、毎年実施するモニタリングの結果を踏
まえ、本計画に基づく実施計画を年度別に策定し、年度毎の状況に応じた管理を実
施する。
※加害レベル:群れの加害程度を集落や農地への出没頻度などから判定したもの
また、平成27年度の調査ではハナレザルによると思われる被害報告も多く得られ
たことから、群れの適切な管理と併せて、加害性の高い個体の優先的な除去など、
ハナレザルによる被害を低減する取組みを実施する。
-5 -
7
管理の目標を達成するための基本的な考え方
ニホンザルは基本的に群れで行動するため、管理ユニット内での群れの連続性を
考慮しながら、群れ毎に管理する。被害防除対策と併せて、加害レベルが高い群れ
については、悪質個体の捕獲及び個体数調整の積極的な実施など、計画的に捕獲を
進めて群れの加害レベルを低減させる。加害レベルは、環境省の特定鳥獣保護・管
理計画作成のためのガイドライン(ニホンザル編・平成27年度)(以下、環境省ガ
イドライン)を参考に、判定表(表2)により算定したポイントを合計して加害レ
ベル表(表3)により判定する。
表2
加害レベル判定表
表3
加害レベル
(表は、特定鳥獣保護・管理計画作成のためのガイドライン(ニホンザル編・平成27年度)より抜粋)
-6 -
8 管理の目標を達成するための方策
(1) 個体数管理
農作物被害、人身被害及び生活被害に対しては、追い払いや防除対策と併せて、
有害鳥獣捕獲(市町村許可)及び個体数調整(府許可)を実施する。また、個体数
調整の実施に当たっては、実施後に確実に加害レベル等を把握し効果検証を実施す
るとともに、追い払いなどの被害防除対策を進め、加害レベルが上がらないよう対
策を進める。
(2) 被害防除対策
有効な防護柵の設置と維持管理及び組織的な追い払いを組み合わせて実施するこ
とが重要である。また、耕作地や集落に近づけないように、地域住民と行政等が連
携して集落環境点検を行い、廃棄した作物などの誘因物の除去ややぶの刈り払いな
どを行うなど、集落環境管理を実施していく必要がある。
(3) 生息環境管理
比較的奥山の森林は、ニホンザルの生息地として個体群の安定的な維持を図るた
め、森林所有者の協力の下に強度間伐による下層植生の回復、針広混交林化や広葉
樹植栽などにより、ニホンザルが安定的に生活できる場の確保に努める。その他の
場所では、特に人の生活域にあっては人の安全を優先させ、ニホンザルと人との軋
轢を回避するため、緩衝地帯(バッファゾーン)を整備し滞在しにくい環境を創出
するなど、適切に管理する。
(4) 近隣府県との連携
府内のニホンザルは、滋賀県、兵庫県、福井県、三重県、奈良県及び大阪府と往
来しているため、これら近隣府県と、分布状況、被害状況、捕獲状況等について情
報交換を行い、連携して管理事業を効果的に実施する。
9 その他管理のために必要な事項
(1)モニタリング
科学的・計画的な管理を進めるため、市町村及び関係団体等の協力を得ながら以
下のモニタリングを実施し、本計画見直しのための基礎資料とする。
ア 被害状況調査
出没状況・被害状況及び被害防除対策の実施状況を把握
イ
生息状況調査
群れの数、群れの遊動域、個体数等の動向及び地域個体群の把握
地域個体群の遺伝的多様性の把握(遺伝的データの蓄積)
群れの加害レベルの把握
(2)
生活環境被害の把握
生活環境被害は、ニホンザルを管理する上で考慮すべき問題であるが、被害量を
把握する手法及び体制が確立されていないのが現状である。このため、生活環境被
害をより正確に把握し被害防除対策に活かすため、生活環境被害を把握する手法及
び体制を整備する。
-7 -
(3)
外来種の取り扱い
タイワンザル等外来種が発見された場合は、府は関係者と協力し、特定外来生物
による生態系等に係る被害の防止に関する法律に基づき速やかに当該個体を捕獲、
除去する。
(4)
計画の実施体制
生息及び被害状況や捕獲状況を適切に把握し、毎年のモニタリングにより本計画
に基づいた年度別の事業実施計画を市町村と連携して作成する。また、計画の効果
やモニタリングの結果については、その後の計画にフィードバックする体制を確立
し、必要があれば本計画を見直す。
-8 -
第二種特定鳥獣管理計画
-ニホンザル-
資料編
1
捕獲状況
2
被害状況
3
被害対策防除対策
4
生息動態調査
< 第 2 期 計画の概要>
第1期に引き続き、生息動態調査により群れのメス成獣への発信機装着や、ニホ
ンザルが生息する市町村や地域住民の協力を得て実施した出没アンケート調査によ
り、府内の群れの識別・行動圏の現状がおおむね把握できた。また、これまで実施
して きた 有 害鳥 獣 捕 獲 に加 え 、第 2 期 に 策 定 し た個 体 数管 理実 施 マニ ュ ア ル に よ り 、
個体数調整による捕獲を実施するなど、捕獲対策が進んだことから捕獲頭数が増加
した 。あ わ せて 被 害 対 策の 普 及 啓 発 や 防 護 柵 の 設 置 を 推 進 し た 。
1
捕 獲状況
1 9 ~ 2 7 年 度 の 捕 獲 頭 数 は 2,792頭 で 、 年 変 動 は あ る も の の 、 捕 獲 頭 数 は 全 体
的 に 増 加 傾 向 に あ る 。 捕 獲 の 内 訳 は 、 有 害 捕 獲 が 2,297頭 、 個 体 数 調 整 が 495頭 と
なり 、今 期 から 本 格 的 に実 施 の 個 体 数 調 整 も 今 計 画 期 間 中 に 増 加 傾 向 に あ る 。
図1
図2
管 理 ユ ニ ッ ト 毎 の 捕 獲 頭 数 の 推移
捕 獲 許 可 別 の捕 獲頭 数 の推 移
-1 -
被害対策を実施しても被害が発生する場合、被害地が拡大する場合、個体数が多
く被害対策効果が得られにくい場合については、市町村が府の許可のもと個体数調
整を実施している。今期は個体数調整対応マニュアルを策定し、このマニュアルに
従 っ て 14群 で 個 体 数 調 整 を 実 施 し た 。 こ の う ち 5 群 は 捕 獲 が 完 了 し て い る 一 方 で 、
当初の計画期間内に捕獲完了していない群れもあることから、計画を含めた事業全
体の 検証 が 必要 で あ る 。
図3
2
群 れ 毎 の 個 体数 調整 実 施状 況
被 害状況
サルによる農作物被害は、面積、金額とも年々減少している。被害割合は野菜が
最も 多く 、 稲、 果 樹 、 豆類 、 い も 類 、 が 年 度 の 変 動 は あ る が 上 位 を 占 め て い る 。
図4
図5
被害面積と金額の推移
作 物 別の 被 害 面 積の 割 合
-2 -
農 作 物 被 害 が 発 生 し て い る 市 町 村 別 に 被 害 の 推 移 を 比 較 す る と 、 京 丹 後 市 な ど 11
市町 では 被 害が 減 少 し てい る 一 方 、 井 手 町 な ど 2 町 で は 増 加 し て い る 。
図6
市 町 村 別 の 被害 面 積
生活被害については定量的な評価は難しいが、アンケート調査などでは、屋根を
走って屋根が破損する、人家に侵入し食べ物を食い荒らす、通勤通学路で威嚇され
る、といった被害が報告されている。今後は、生活被害についてより正確に把握す
る た め 、 調 査 手 法 及 び 体 制 を 検 討 す る 必 要 が あ る 。 な お 、 平 成 26年 度 ま で に 個 体 数
調整 計画 を 策定 し た 群 れに お け る 生 活 被 害 状 況 は 以 下 の と お り で あ る 。
表1
3
生活 被害等の 件数
被 害 対策防除対策
(1)サ ルの 被害 防 除を 対 象 に した 電 気 柵 ・ 防 護 柵 の 設 置 状 況 ( 複 合 型 )
23年度から27年度には、補助事業を活用してサルを対象にした複合型の防護
柵の設置が各地で進んでいる。また、野生鳥獣被害対策チームおじろ用心棒など新
しいタイプの防護柵に取り組む地域も出てきたことから、その実態の把握や今後効
果検 証の 必 要が あ る 。
図7
サ ル 用複 合 防護 柵設 置 状 況
-3 -
(2)集 落環 境整 備 の普 及 啓 発
生ゴミや農作物の残渣の適正な管
理、不要果樹(カキ、クリなど)の
除去や早期収穫などの普及啓発を実
施した。あわせて、新しいタイプの
防護柵の設置など、被害対策の普及
も実 施し て いる 。
なお、京都東では個体数調整とあ
わせて追い払いなどの対策が実査さ
れていることから、地元で独自に対
策がすすんみ、普及啓発の機会は少
なか った と 考え ら れ る 。
4
表2
集 落 環 境 整 備 の 普 及 啓 発 ( 対 策 チーム)
生 息動態 調査
ニホンザル特定鳥獣保護管理計画の策定や見直しの基礎資料とするため、平成14年度から毎年モ
ニタリング調査を実施し、府内の群れ状況の把握が進んでいる。
表3
モニタ リング調 査の内容
区
分 現地調査による群れの分布調査(毎年)
アンケート調査(H19、H22、H27)
方
法 おとなメスを捕獲して電波発信機を装着
→毎年数頭ずつに発信器を装着
群れの位置を電波で追跡し行動範囲を調
査。
アンケート調査結果から被害状況を把握し、
群れの加害レベルを判定し、群れ判別プログ
ラムにより群れの異同を判別。
→計画期間中に1回
-4 -
表4
平成 27年 度 の 生 息 動 態 調 査 に よ る ニ ホ ン ザ ル の 群れ の 概 要
※ 加害 レベ ル は H27の生 息 動態 調査 によ る人 慣れ レベ ル 判定 結果 に基 づく
-5 -
○ 平 成 19年 度
○ 平 成 24年 度
40群 程 度
36群 程 度
1,630~ 2,050頭
1,700~ 2,200頭
○ 平 成 27年 度
40群 程 度
2,000頭 程 度
図8
群 れ の 分 布 と 推 移 ( 平 成 19年 、 24年 、 27年 )
-6 -