情報セキュリティハンドブック Ver 2.01 エピローグ 来たるべき新世界 みんなが守るインターネットの未来には何があるの? インターネットの登場は、「距離とその移動に必要な時間が消えた世界」を実現しました。 そのインターネットに新しいテクノロジーが組み合わさって進化を遂げていったとき、私たちはどのような 世界を実現し、その先に何を見るのでしょうか。 少しだけ未来を想像してみましょう。 1 ネットの 「今」 と、どう守っていくか インターネットというのは今の 40 歳代の大人から考えると 「便利 な道具」 であり、現実世界をサポー ネットは現実世界の オプションではない ネットは距離と時間の 概念がない世界 インターネットの中の世界を、現 実世界のオプションや便利な道具 と捉える人もいますが、実際はそ れに留まらない存在です。それは 人間の思考の方法を変えます。 ネットには移動という概念がなく、ま たそれによって消費されていた時間が 必要でなくなる新しい世界です。子ど もたちはこれを単なる世界の概念とし て自然に捉えています。 トする存在といったイメージで しょう。それは逆に今のようにネッ トが無かった 「不便な時代」 を知っ ているから比較ができるからでも あります。 しかし生まれたときからイン ターネットが存在している環境で 育った子どもたちは、現実世界と インターネットの中の世界を、区 別すること無く一体として感じて いる場合もあります。 たとえばネットへの接続が高速 化して、ものを思い出すのとさほ ど変わらないスピードで、スマホ などの情報端末から目的の情報を 新しい世界は 昔の開拓時代と同じ 現実世界と同じ「社会イン フラ」がまだ整っていない 人が先に進出して、社会のシステム や秩序の構築が間に合わない状態で は「力こそ正義」 となりがちです。あ る意味 「生きぬく能力がない人には 危険な世界」 といえます。 ネットの世界には消防は必要ありませ んが、その他のインフラは必要です。 サイバー警察、電子政府、サイバー防 衛隊など次第に整いつつあります。し かし国民全体の協力が必要です。 引き出させるようになると、「い 野蛮な世界 つでもネットから引き出せる情報」 は、 「少し思い出すのに時間がか かる記憶」 ぐらいのようにあつか い、あまり脳に記憶することにこ だわらないようになっている。そ んな風に感じる事はありません か?機器が進化して考えれば答え が分かるようになれば、その 「区別」 すら感じなくなるかもしれません。 また現物の紙や本の形では無い、 ネット上のファイルやデータの受 け渡しは、もはや「渡す」という概 念ですらなく、自分のスマホの中 状態になっている話をときおり聞 構築などのインフラは充分に確立 の誰とでも共有できる保存場所 (実 きます。 されていません。 はクラウドサーバ)があり、「どこ ただ、そういったネットのメリッ 実は秩序に関してはネットが生 からでも呼び出せ、皆がリアルタ トの部分はものすごいスピードで まれたごく初期に、現実世界から イムで共有できるもの」 といった 進化していますが、インターネッ 積極的にネットに移民してきた開 感じで、もはや現実世界に軸足を トの世界はまだ生まれてから年数 拓意識が旺盛な「ネチズン」と呼ば おいた人々には感覚的にわからな が経っていないため、興味を引き れた人々により、文章化されてい い、次元を超えた情報の管理、と やすい通信や情報共有以外、とく ない暗黙のモラルとして存在して いうよりは意識の共有とでもいう に安全を守る社会システムや秩序 た事もありました。 130 エピローグ 来たるべき新世界 に移り住んできたことにより、ネッ トは多様性を帯び、その人たちを 匿名の通信は 追跡が困難だが… それでも徐々に 技術は向上 含んだ新たな秩序の構築が間に合 プロローグ しかしその後様々な人がネット わない中、現在に至ります。さら 第 にネットの暗部では 「強いやつが 奪い、奪われるヤツが悪い」 という、 力こそ正義の、開拓時代風の雰囲 章 1 気すらあります。 ネットが本当の意味でみんなが 安心して使えるようになるには、 第 ネットに必要が無い消防はのぞき、 警察や役所、場合によっては防衛 などの秩序を作るシステムがネッ 章 2 トに対応しなければならず、それ にはまだしばらく時間がかかります。 それでも秩序が形作られる片鱗 警察組織などは、インターネッ 攻撃者を、地道な努力と解析で追 取り締まりは大切だが モラル醸成も大事 デジタルネイティブの子 どもたちに安全な世界を 3 章 トの匿名性を悪用して犯罪を行う 最近では「バレないと思った」 と いう犯人が捕まったり、ネット の闇に隠れる攻撃者を追跡する 能力が向上しつつあります。 第 は見えつつあります。 ネットでは意図的に正体を隠す 環境を作って犯罪が行う者たち がいます。匿名化するネットや 身代わりサーバの利用などです。 跡し、特定するための技術を磨き つつあります。 第 私たちが現実世界の住人であり、 完全にはネットの中だけで生きて いくことができない以上、攻撃者 章 4 が人であれば、ネットの闇に隠れ ても、現実世界でのその痕跡を完 全に消すことはできないのです。 向上とともに大切なのは、ネット トを守ろうという意識を共有し、 デジタルネイティブの子たちが 犯罪に巻き込まれず、ネットの 世界で才能を開花させられるよ うに、サイバー空間の安全を守 らなければなりません。 5 章 を利用する全ての人たちが、ネッ 犯罪を起こしたら、きちんと検 挙することは抑止力になります。 しかし、皆がセキュリティを守 ろうという意識を醸成すること も大切です。 第 しかしそういった公的な能力の 協力しあうことです。 リティを向上させる」というベク たちはもっとネットの世界ととも なく国民一人ひとりの防犯意識や トルを持つことができるのです。 に進化合し、より自由な発想で、 新しい才能を開花させることがで 啓蒙活動で成り立っているように、 ネット上の社会インフラの構築 会社や学校、友だちの間や、ある と皆のセキュリティ意識の向上、 いはご両親と子どもさんの間で、 それは車の両輪であり、いずれか そのためにも、ぜひ皆さん一人 どうやったらネットの世界を良く が欠けてしまっても、安全なネッ ひとりが、それぞれの立場でネッ していけるか、そのためにはなに トは成り立ちません。 トの世界のセキュリティを守る知 ができるのかを考えることで、初 めて 「社会全体として情報セキュ そうしてネットが安全な「社会」 になることができたとき、子ども 131 きるようになるのでしょう。 識をもち、これを行う人になって ほしいと思います。 エピローグ 現実世界の秩序が、警察だけで 2 デジタルネイティブと未来 パーソナルなコンピュータの歴 史が始まってからまだ 30 年しか デジタルネイティブとデジタルイミグラント 経っていないこともあり、世の中 にはまだ 「パソコン」 や 「ネットワー ク」 が存在しなかった時代を知る 世代の人がたくさんいます。 これらの人々の一部は、世界に パソコンが生まれ、ネットワーク が生まれ、やがて大規模なネット ワーク化とインターネットの誕生 により 「距離と移動に必要な時間 が消えた世界」 が生まれたときに、 その世界に未来を見ました。 ニュータイプ?→ やがてその先進的な開拓者たち ←オールドタイプ? (ガンダム的な…) は、移民のように生活の軸足を新 たな世界に移し 「デジタルイミグ ラント (デジタル移民) 」と呼ばれ るようになりました。 これは現実世界にたとえるなら ば、旧世界に息苦しさを感じてい た人間が、誰も住んでいない新大 陸を発見し、夢を描いてそこに移 デジタルイミグラントは、手紙に対するメールのように、ネットの世界を現 実世界のオプションとして捉えて「便利になった」と考えますが、デジタルネ イティブには現実とネットの世界は一体であり、「距離と移動に必要な時間が 消費されない」 コミュニケーションを、当たり前と捉えています。 技術の進化で文化の壁をあっさりと乗り越えていくかも こんにちは! あのレストランはいいよ! 住し、新世界を築き始めたような ものです。 Questo ristorante è buono! しかしインターネットが一般 化した Windows 95 から 20 年、 初代スマートフォンと呼べる存在 で あ る iPhone が 誕 生 か ら 10 年 の時が過ぎると、多くの人々がそ の世界に移民してきましたし、 「距 離と移動に必要な時間が消えた世 χαιρε! 界」 にも子ども達が生まれ、ネッ トを無意識に使いこなす 「デジタ ルネイティブ」 と呼ばれる世代が 形成されるようになってきました。 そういった世代が社会の中心と 自動翻訳つきテレビ電話は、すでに一部の言語で始まっています。スマホの翻 訳アプリでは、発音した言葉を翻訳してしゃべってくれます。言葉という壁、 それに伴う意識の壁も、あっさりと壊される日がくるかもしれません。 なると、いままで距離と時間の概 念によって形成されていた世界の ていくかもしれません。 国の人たちとの意識の壁が、技術 海外で生まれた子ども達が多言 に力とともにあっけなく解決され 語をネイティブのように操り、様々 132 な国の考え方を当然のように理解 するように、すべてを楽々と越え ていくかもしれません。 エピローグ 来たるべき新世界 プロローグ 3 バーチャル空間を超えて世界へ デジタル機器の進化は、さらに ネットと私たちの融合を進めるか たとえば仮想の 3 次元空間を目 リアル空間 バーチャル空間 仕事 ティシステムは、驚くべき没入感 をもち、まるで自分がその空間に 存在しているかのように感じさせ 旅行 ご飯を食べる 勉強 さらに仮想空間を使って生活す 買い物 ることを前提に考えると、現実の 少なく 「ご飯を食べる」 「おトイレ 2 章 世界でしかできないことは意外に 第 てくれます。 1 章 寝る の前に実現するバーチャルリアリ 第 もしれません。 リアルである必要は意外と少ない トイレに行く に行く」 「お風呂に入る」 といった 第 生理現象と清潔さに関するものだ けになるかもしれません。 思うかもしれませんが、実は私た ちは毎日 「夢」 で同じような経験を しています。夢の中の出来事を現 があるように、 「経験」とは必ずし 脳にとっては、どれも等しく同じ バーチャル空間だけでなく、ネットの向こうの現実 世界に存在することも 4 章 も現実世界だけのものではなく、 ゲームに出てくるような素敵な空間で旅行したり、机を広げて仕事や勉強を したり、お店があれば買い物したり等、バーチャル空間で実現できることは たくさんあります。私たちが夢の世界でやっていることも、現実世界ではな いという意味では同じです。一方、ご飯やトイレ、お風呂はバーチャル空間 ではできません。残念ながら 100% ネットに漕ぎ出すことはできません。 第 実の出来事と混同してしまうこと 3 お風呂に入る 章 そんな世界が来るはずがないと 経験なのかもしれません。 そしてこういった技術がさらに 第 進化を遂げれば、自分の部屋から ネット経由でアクセスして、世界 中の何処にでも 「アバターのロボッ 章 5 ト」 を操って現れ、実際にそこに 訪れるのと同じように、世界の国々 ミュニケーションをしてみたり、 あるいは学校で学ぶことができる ようになるかもしれません。 それは体が不自由な人、あるい は病気でベッドから起き上がれな い人たちにとっても、世界とつな 何らかの事情でベッドから起き上がることができなくても、ネットを通じて 「ア バター(自分の代わりのロボット)」を使い、世界のどこかに現れて、様々なと ころに旅行することができるようになるかもしれません。 がることができるツールにもなる でしょうし、私たちが世界の様々 な国の人々との相互に理解しあう 133 ことにも役に立つでしょう。 エピローグ を旅してみたり、その国の人とコ 4 おわりに さて少しだけフィクションとし て、インターネットとデジタルテ ラッカーや悪意のハッカーの存在 かもしれません。 私たちがネットに素晴らしい世 です。 クノロジーの進化の果てについて もしあなたがネットの世界で 界を見出し、ネットの果てに人と 語りました。しかし、これは実現 ショッピングを楽しんでいるとき しての進化があると思ったとして できない未来ではなく、それぞれ に悪意のハッカーによる詐欺に も、それは安全なネット空間があっ の要素はすでに種としてこの世界 遭ったとしたらどうでしょう。買 てこそ実現可能なのです。 に存在しています。あとはその種 い物はもう嫌となるかも知れませ 古来、人は距離とその移動に消 の健やかな成長を待つだけです。 ん。美しい世界を楽しんでいると 費する時間によって、行動する範 しかしこのフィクションには語 きに攻撃者によって怖い仮想空間 囲とその可能性を制限されてきま られなかった部分があります。そ に引きずり込まれたりしたら、も した。ほんの少し前までは自分の れはインターネットに潜む陰、ク うそこには近づきたくないと思う 村から出たことが無いという人も 134 エピローグ 来たるべき新世界 してください。私たちと一緒にネッ る私たちの仲間となって、私たち トは距離という概念を消失させ、 トの未来を守っていきましょう。 ともに未来を創ってくれることが あなたの可能性に転化します。羽 き未来に「ネットは広大だわ」とい を得て自由になる、それはわくわ う意味深い言葉を残しています。 くしませんか? 広大なネットは可能性であると 必要なのです。 私たちは、皆さんのことを待っ ていますよ。 可能性の未来でお会いしましょ う。 同時に、広大であるが故に政府や いう存在の新たな可能性を見てみ 関連機関、セキュリティ関係企業 たいと思ったならば、ぜひインター だけで守り切ることはできるもの 2016 年 12 月 ネットを安全で安心できる場所に ではありません。 内閣サイバーセキュリティセン ター一同 2 章 皆さん一人ひとりがネットを守 第 それによって生まれる、人間と するために、私たちの活動に参加 1 章 さる著名なハッカーが来たるべ 第 それによって失われていた時間を プロローグ たくさん存在しました。しかしネッ 第 章 3 第 章 4 第 章 5 エピローグ 135
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