巻頭言 - 財務省

巻頭言
古代阿波に
思いを馳せて。
財務大臣政務官
三木 亨
本年 8 月に財務大臣政務官を拝命してから、はや 4 か月が経ちました。この間、各部局からの報
告を受け、財政審への出席、国会での答弁等、財務省らしい政策の議論に参加する忙しい日々を過
ごしてきました。そうした中でも、私が大切にしてきたのは、財務省に関連する様々な現場を実際
に訪れ、そこで働く方々のお話を聴かせて頂く機会です。
多くの方がそうではないかと思いますが、私も財務省の仕事はデスクワークが中心という印象を
初めは抱いていました。しかし、実は、それだけではなく、経営者や税理士など様々な人と接する
国税の仕事、税関での密輸出入の取締り、屋外に出ての地域経済調査のフィールドワーク、通貨製
造のための最先端の技術研究など、バリエーションに富んだ第一線の職場が多くあり、我が国の経
済活動を支えていることが分かります。
その中の一つ、紙幣を製造する国立印刷局の小田原工場を訪れた際、和紙の原料とされる徳島県
産のミツマタの植木を見つけました。私の地元が徳島ということもあり、その一本の木から、私の
思いは古代阿波に飛びます。
い ん べ
まだ全国的に広く知られていない事だと思いますが、古代の阿波国では阿波忌部氏という一族が
活躍していました。彼らは優れた技術者集団であり、製紙技術のほか、麻の栽培加工、養蚕・製
糸、粟などの農作物の生産等、古代人の生活に欠かす事の出来ない当時の最先端技術を持っていま
した。また、その技術を黒潮にのって遠く房総半島を経て北関東に伝える等、その足跡は、一族の
あ め の ひ わしのみこと
とり
いち
日
鷲
命
にまつわる各地の神社の石碑や地名に残る伝承から辿れます。
(酉
の市
で有名な浅
祖神・天
おおとり じ ん じ ゃ
あ め の ひ わしの みこと
)現代においても、新たに天皇陛下が御即位される
草の 鷲 神社も天日 鷲 命をお祀りしています。
あらたえ
い ん べ
折の儀式である大嘗祭で用いられる麁服という着物は、阿波忌部氏の根拠地(現在の徳島県美馬
市)で栽培された麻で作られ、末裔の家系の方々が献上します。
い ん べ
阿波忌部氏は古代日本の技術開発やその伝播に大いに活躍した一族でしたが、その姿は近年に
なって研究が進む毎に明らかになっており、新しい研究成果が発表される度に驚かされる事も少な
くありません。
い ん べ
「徳島の地から発した古代のテクノクラートが、日本を変えた。」阿波忌部氏の活躍は、私達阿波
人にとって大変痛快な話であり、それを学ぶことは郷土に誇りを抱く瞬間であります。
い ん べ
阿波忌部氏は人々のより良い生活の為に、各地に技術を伝播しました。同様に現代の財務省の皆
さんは、この国の人々の現在と未来の為に様々な職場で汗を流し、知恵を絞り出しています。
い ん べ
あ め の ひ わしの みこと
部氏の祖神・天
日 鷲 命。和紙にルーツを持つ紙幣を製造する現
紙作りの神様ともされる阿波忌
い ん べ
代の印刷局と同じく、阿波忌部氏は、おそらく徳島のミツマタを使って美しい和紙を作っていたこ
とでしょう。一本のミツマタを通じて、古代の阿波と現代の日本とが時空を超えて繋がっている、
そんな気がしました。
古代から現代に至るまで、人々は大晦日を無事に迎えるために働いてきました。年の瀬も押し
迫って、多忙な日々が続きますが、良いお年をお迎えくださいませ。
財務省広報誌ファイナンスはこちらからご覧いただけます。
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ファイナンス 2016.12