本試験分析から見えた合否の分かれ目と 平成29年度

本試験分析から見えた合否の分かれ目と
平成29年度合格対策
TAC宅建士講座 主任講師
木曽 計行
Ⅰ 平成28年度宅建士本試験の傾向分析と合否の分かれ目
1.数字で見る本試験(最近5年間の本試験の受験者数・合格率・合格点等)
年 度
平成24年度
平成25年度
平成26年度
平成27年度
平成28年度
申込者数
236,350
234,586
238,343
243,199
245,742
受験者数
191,169
186,304
192,029
194,926
198,463
合格者数
32,000
28,470
33,670
30,028
30,589
合格率
16.7%
15.3%
17.5%
15.4%
15.4%
合格点
点
33点/50
33点/50
32点/50
31点/50
35点/50
申込者数と受験者数は、昨年に引き続いて増加し、この5年間で最多となりました。
その結果、合格率は昨年と同じですが、合格者数は、昨年と比べて、若干増えています。
他方、合格点は、昨年の 31 点から大幅にアップし、35 点となりました。
2.科目ごとの必要得点や出題の特徴
(1) 科目ごとの必要得点
平成24年度
平成25年度
平成26年度
平成27年度
平成28年度
合格点
民法等
宅建業法
法令上の制限
その他関連知識
33点/50
33点/50
32点/50
31点/50
35点/50
8/14
7/14
7.5/14
7/14
8.5/14
13/20
16/20
14.5/20
13/20
15.5/20
6/8
4.5/8
5/8
5/8
5/8
6/8
5.5/8
5/8
6/8
6/8
(2) 平成28年度本試験の科目ごとの出題の特徴
①「民法等」
最終データに基づく「民法等」の難易度は、昨年に比べて、Cランクの問題(正答率が 40%未
満の問題)が5問から2問に減り、逆にAランクの問題(正答率が 70%以上の問題)が1問から
4問に増えました。その結果、
「民法等」の合格点は 1.5 点程度アップしたものと考えられます。
この科目の出題に関しては、最近、特徴的な工夫がなされています。
形式面では、ここ3年連続して個数問題が1問、また、民法の改正動向を意識した条文に定め
があるかどうかをきく問題、さらに、読解力や論理的法的思考力にかかわる判決文型の問題が出
題されています。さらに、事例問題の増加の出題も特徴的です。
内容面では、
「不法行為」が2問にまたがって出題され、
「賃貸借・借地・借家」から4問にま
たがって出題されたというように、昨年に引き続き、若干出題内容に偏りがあります。
1
②「宅建業法」
難易度としては、この科目でも、昨年に比べてCランクの問題が4問から0となり、逆にAラ
ンクの問題が 11 問から 15 問に増えました。その結果、
「宅建業法」の合格点も 2.5 点程度アッ
プしています。
この科目では、形式的には、個数問題が昨年に比べて3問減って5問となり、また、前年1問
出題された組合せ問題は逆に1問増えて2問となりました。さらに、前年出題されていた対話形
式の問題は出題されていませんでした。
また、内容的には、この科目の最近の傾向通り、免許制度等開業規制からの出題が5問と少な
く、業務上の規制からの出題が多数を占めていました。
③「法令上の制限」
難易度としては、昨年と変わらず合格点は5点程度であり、特に変化はありませんでした。
形式的には、個数問題や組合せ問題はありませんでした。
また、内容的には、2年連続して「その他の制限法令」からの出題がなく、
「国土法」から1
問の出題が継続されました。
④「その他関連知識」
難易度については、Cランクの問題が1問ありましたが、Aランクの出題が2問増加した結果、
この科目の合格点は昨年同様、6点程度でした。
出題内容としては、不動産鑑定評価基準から4年ぶりに出題された点が特徴的です。
なお、5点免除の箇所は、昨年同様、5問中Aランクの問題が4問であり、5点免除がない受
験生にとって、そんなに負担が大きくはなかったものと思われます。
3.「合否の分かれ目」
以上に見るように、全体の合格点は大幅に上昇しました。
特に、
「民法等」や「宅建業法」において、Cランクの問題が減少し、Aランクの問題が増加
したからであるといえます。その結果、全体としては、Cランクの問題が6問減少し、Aランク
の問題が 10 問増加するという大きな変化となりました。
50 問中、AやBランクの問題が 45 問とほとんどを占め、特に、合格点 35 点のところ、Aラン
クの問題が 29 問あったという事実は重要です。
つまり、合否は、これらの問題がしっかり得点できたかどうかにかかっているものといえるで
しょう。つまり、合否の分かれ目は、ABランク、特に、基本的で重要な、Aランクの問題をし
っかり得点できたかどうかにかかっているのです。
Ⅱ 平成29年度宅建士試験に向けた効果的な合格対策
1.平成29年度本試験合格に向けた「学習の重点」
(1) じっくり時間をかけ基本を充実させる
以上に見たように、
「合否の分かれ目」が、A・Bランク、特に、Aランクの問題がしっかり得
点できたかどうかである以上、まずは第1の方針として、Aランクの問題(通常は半分程度ですが、
これまで述べたように、平成28年度は合格点35点のところ29問。ちなみに、平成19年度は合格点35
点のところ32問でした)を得点できるように、頻出基本分野を知って、徹底的にマスターしてくだ
さい。じっくり時間をかけて、基礎から理解することが重要です。
そのことが、同時に、実はほとんど基本問題の肢から構成されているBランクの問題への対策と
なり、また、複雑な事例問題や個数問題への対策ともなるはずです。
2
(2) 「宅建業法」は徹底的にマスター
平成21年度から「宅建業法」が試験全体の出題の4割を占めることになりその比重が増した結果、
多くの受験生が重点をおいて学習するはずです。したがって、
「宅建業法」は、徹底的に準備をし
ておく必要があります。この科目が、
「いまいち」というのでは合格は難しいとお考えください。
先に見たように、平成28年度のこの科目の合格点は15.5点でしたし、25年度は16点でした。この
ような出題のときは、宅建業法は、Aランクの出題の集合体であるといってよいでしょう。つまり、
「宅建業法」の得点が合否に直結し、決定的な影響を与えます。
「宅建業法」が得意ということは、合格のための鉄則といって良い。まずは、
「宅建業法」の中
で、出題頻度の高い事項を中心に、完璧にマスターしてしまいましょう。
(3) 過去問の学習なくして合格はない
宅建士試験では、過去に出題されたものと同じ知識が何度も出題されます。こんな場合、その事
項は、Aランクの重要事項と重なってきます。
また、過去問の分析によって、本試験対策としての学習範囲、深さがわかります。本試験の出題
傾向に沿った効果的なインプットの仕方が身に付くと同時に、本試験独特の出題パターンを体得す
ることもできます。
そこで、誰もが過去問を検討するのです。ですから、それを行っていないと他の受験生との間に
差がついてしまうことになります。
過去問の攻略なくして、合格はあり得ません。
2.平成29年度本試験合格に向けた「学習の内容(頻出基本分野)」
下記の【頻出分野】は、まず、完璧に。その上でヤマ(例えば「民法等」なら、共有・相隣関係、弁済、
連帯債務・保証、危険負担、委任等)も準備しておきましょう。
(1) 「民法等」
【頻出分野】意思表示、代理、債務不履行・解除、売主の担保責任、不法行為、対抗問題、抵当権、
相続、賃貸借、不動産登記法、借地借家法、区分所有法
(2) 「宅建業法」
【頻出分野】宅建業の意義、免許の基準、業者名簿、廃業等の届出、宅建士資格登録、宅建士証、
保証金、広告規制、媒介契約の規制、重要事項の説明、37 条書面、8種規制、報酬、
住宅瑕疵担保履行法
(3) 「法令上の制限」
【頻出分野】開発許可、地区計画、建築確認、容積率、高さの制限、国土法事後届出制、農地法、
換地処分、仮換地の指定、宅地造成工事規制区域
(4) 「その他関連知識」
【頻出分野】税金(固定資産税、所得税、印紙税)
、価格の評定、住宅金融支援機構法、表示規約、
統計(地価公示・住宅着工統計等)
、地形(宅地としての適否)
、建築物の特徴(木造・鉄筋コン
クリート造等)
3
3.平成29年度本試験合格に向けた「学習の仕方」
では、どう学習すれば、合格レベルまでもっていけるでしょうか。宅建士試験の大半は法律からの
出題です。法律には法律なりの特性にあった効果的なアプローチがあります。間違ったアプローチは
時間のムダになるだけでなく、有害でさえあります。短期間の学習で最大限の効果をあげるために、
法律の特性を知って学習して下さい。
(1) 法律の目的を知った上で、理解し記憶する
まず第一に、その法律が作られた“わけ”を知って、そこから考え、理解して下さい。この“わ
け”のことを、立法理由とか立法趣旨と呼びます。何を目的としてつくられたのかということです。
もちろん結論を記憶しなければ点にはなりませんが、まずは基礎から具体的に理解してください。
そうすることによって、記憶が進み、応用力もつきます。ただし、時間がありませんから、深入り
する必要はありません。
(2) 原則から出発して、例外までおさえる
法律は人間社会のことを定めています。気まぐれな人間のことですから、世の中には原則だけで
なく、例外がいっぱいあるのはご承知の通りです。そこで、法律も原則と例外で成り立っているの
です。原則を理解した上で、例外をつかんで下さい。例外をきっちりと詰めているかどうか、ここ
が試験で問われ、ここで差がつくのです。
(3) 混同しやすいことは比較しておく
似ているけど、やっぱり違う。そんなとき受験生の知識はごちゃごちゃになります。そこで、出
題者は“違い”をついてきます。出題する立場から見れば、まさに狙い目です。そこで、双方を比
較して共通点と相違点を整理しておきましょう。これが出来ているかどうかで合否が分かれるはず
です。
(4) 横断的に整理する
学習を進めていくと、1つの事例・知識には様々な事柄がからんでいることに気づくはずです。
そこで、関連する事項は横断的にまとめてしまえば、正解肢が的確に絞れ、最近の複合的な問題に
も対処できるようになります。
4.平成29年度本試験合格に向けた「最近の特徴的な出題への対策」
(1) 出題の工夫・変化への対応
「民法等」では、最近の傾向である民法の改正動向を意識した①「条文に定めがあるかどうか」
をきく問題は特徴的ですが、費用対効果を考えたとき、特別な対策をとるのではなく、従来通りの
基本知識を中心とした学習で十分だと考えられます。
同じく「民法等」の出題である②「判決文型の出題」に対しては、単なる暗記ではなく、
「民法
等」の内容の理解を通じて、論理的で、法的な思考力の養成が図られるものと思います。
宅建士試験では、
「民法等」だけでなく「宅建業法」においても、③「事例(ケース)型の問題」
で出題されますが、これも、日ごろの学習において具体的なケースを通じて理解をすることが問題
解決力の養成になります。
(2) 個数問題を得点源にする
上記に見たように、平成 28 年度の宅建士試験では、
「宅建業法」20 問の出題のうち5問が個数問
題でした。
「民法等」の分野でも1問出題されていました。
この個数問題は、肢の1つ1つについて、全てきちんと判断できなければその問題を得点するこ
とはできません。しかし、個数問題できかれている知識は、基本的な知識がほとんどです。つまり、
基本的な知識に関して、確実性・正確性を高めることが決定的に重要なのです。学習にあたっては、
確実に頭に入れることを目指しましょう。
4
参考資料
資料 1
平成28年度宅建士本試験【問 17】-4(正解肢)
【問 17】 都市計画法に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。なお、
・・・。
4 都道府県知事は、用途地域の定められていない土地の区域における開発行為について開発許可をする場合に
おいて必要があると認めるときは、当該開発区域内の土地について、建築物の敷地、構造及び設備に関する制
限を定めることができる。
(○)
→ 平成28年度 ミニテスト・法令上の制限 第2回-問題3-(15)
(15) 用途地域の指定のない土地の区域における開発行為について都道府県知事が開発許可をする場合に
は、建ぺい率、建築物の高さ、壁面の位置その他建築物の敷地、構造及び設備に関する制限を定めるこ
とができる。
(○)
資料 2 平成28年度宅建士本試験【問 45】-3(正解肢)
【問 45】 宅地建物取引業者Aが、自ら売主として、宅地建物取引業者でないBに新築住宅を販売する場合に
おける次の記述のうち、特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律の規定によれば、正しいものはどれ
か。
か し
3 Aは、住宅販売瑕疵担保保証金の供託をする場合、Bに対し、当該住宅の売買契約を締結するまでに、供託所の所
(○)
在地等について記載した書面を交付して説明しなければならない。
か し
→2 自ら売主として新築住宅を販売する宅地建物取引業者は、住宅販売瑕疵担保保証金の供託をする場合、宅
地建物取引業者でない買主に対して供託所の所在地等について記載した書面の交付及び説明を、新築住宅
を引き渡すまでに行えばよい。
(平成22年度宅建本試験問45)(×)
か し
→3 自ら売主として新築住宅を販売する宅地建物取引業者は、住宅販売瑕疵担保保証金の供託をする場合、当
該住宅の売買契約を締結するまでに、当該住宅の買主に対し、供託所の所在地等について記載した書面を
交付して説明しなければならない。
(平成23年度宅建本試験問45)(○)
か し
→4 新築住宅を自ら売主として販売する宅地建物取引業者が、住宅販売瑕疵担保保証金の供託をした場合、買
主に対する当該保証金の供託をしている供託所の所在地等について記載した書面の交付及び説明は、当該
住宅の売買契約を締結した日から引渡しまでに行わなければならない。(平成24年度宅建本試験問45)(×)
か し
→3 Aは、住宅販売瑕疵担保保証金の供託をする場合、Bに対する供託所の所在地等について記載した書面の
交付及び説明を、Bに新築住宅を引き渡すまでに行えばよい。
(平成25年度宅建本試験問45)(×)
か し
→4 自ら売主として新築住宅を販売する宅地建物取引業者は、住宅販売瑕疵担保保証金の供託をする場合、当
該新築住宅の売買契約を締結するまでに、当該新築住宅の買主に対し、当該供託をしている供託所の所在
地、供託所の表示等について記載した書面を交付して説明しなければならない。
(平成26年度宅建本試験問45)(○)
か し
→2 自ら売主として新築住宅を販売する宅地建物取引業者は、住宅販売瑕疵担保保証金の供託をする場合、宅
地建物取引業者でない買主へのその住宅の引渡しまでに、買主に対し、保証金を供託している供託所の所
在地等について記載した書面を交付して説明しなければならない。 (平成27年度宅建士本試験問45)(×)
資料 3
平成28年度宅建士本試験【問 1】-4(正解肢)
【問
次の記述のうち、民法の条文に規定されているものはどれか。
1】
4 契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対
して直接にその給付を請求する権利を有する旨
資料 4
平成28年度宅建士本試験【問 9】-2(正解肢)
【問
次の1から4までの記述のうち、民法の規定及び下記判決文によれば、誤っているものはどれか。
9】
(判決文)
契約の一方当事者が、当該契約の締結に先立ち、信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否か
に関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合には、上記一方当事者は、相手方が当該契
約を締結したことにより被った損害につき、不法行為による賠償責任を負うことがあるのは格別、当該契約上の
債務の不履行による賠償責任を負うことはないというべきである。
(中略)上記のような場合の損害賠償請求権は
不法行為により発生したものである(略)
。
2 信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を買主に
提供しなかった売主に対する買主の損害賠償請求権は、損害を被っていることを買主が知らない場合でも、売
買契約から10年間行使しないときは、時効により消滅する。
資料 5
平成27年度宅建士本試験【問 41】
【問 41】 宅地建物取引業者が売主である新築分譲マンションを訪れた買主Aに対して、当該宅地建物取引業
者の従業者Bが行った次の発言内容のうち、宅地建物取引業法の規定に違反しないものはいくつあるか。
ア A:眺望の良さが気に入った。隣接地は空地だが、将来の眺望は大丈夫なのか。
B:隣接地は、市有地で、現在、建築計画や売却の予定がないことを市に確認しました。将来、建つとして
も公共施設なので、市が眺望を遮るような建物を建てることは絶対ありません。ご安心ください。
イ A:先日来たとき、5年後の転売で利益が生じるのが確実だと言われたが本当か。
B:弊社が数年前に分譲したマンションが、先日高値で売れました。このマンションはそれより立地条件が
良く、また、近隣のマンション価格の動向から見ても、5年後値上がりするのは間違いありません。
ウ A:購入を検討している。貯金が少なく、手付金の負担が重いのだが。
B:弊社と提携している銀行の担当者から、手付金も融資の対象になっていると聞いております。ご検討く
ださい。
エ A:昨日、申込証拠金10万円を支払ったが、都合により撤回したいので申込証拠金を返してほしい。
B:お預かりした10万円のうち、社内規程上、お客様の個人情報保護のため、申込書の処分手数料として、
5,000円はお返しできませんが、残金につきましては法令に従いお返しします。
1 一つ
2 二つ
3 三つ
4 なし