2016 年7~9 月期2 次QE概要

Q E 解 説
2016 年 12 月 8 日
2016 年 7~9 月期 2 次QE概要
経済調査部主任エコノミスト
アベノミクス開始後の成長率が上方修正
03-3591-1298
徳田秀信
[email protected]
○ 7~9月期の実質GDP(2次速報)は年率+1.3%と、1次速報(+2.2%)から下方修正。ただし、
下方修正の主因は在庫投資であること、個人消費は上方修正されたことから、悪い内容ではない
○ 今回の2次速報では、統計の基準改定によって、過去に遡って成長率が変化。特にアベノミクス開
始後の成長率が大きく上方修正されており、潜在成長率も高まる見込み
○ 10~12月期以降は、経済対策の執行に加えて、「トランプ円安」の効果も下支えとなり、景気は緩
やかに持ち直していくと予想
7~9月期は成長率こそ下
本日、内閣府が発表した7~9月期の実質GDP成長率(2次速報)は前期
方修正されたが、悪い内
比+0.3%(年率+1.3%)と、1次速報(前期比+0.5%、年率+2.2%)か
容ではない
ら下方修正された(図表1)。下方修正の主因は在庫投資(寄与度▲0.1%Pt
⇒▲0.3%Pt)だが、これは先行きの在庫調整圧力の緩和を示すものといえ
る。一方、個人消費(+0.1%⇒+0.3%)は上方修正され、持ち直しが明確
になった。総じてみると、7~9月期は、外需の持ち直しに加えて、家計部門
の回復も下支えしていたとの姿に改められたといえる。今回の2次速報は、
成長率こそ下方修正されたものの、内容的には悪くないものと評価できる。
図表 1
2016 年 7~9 月期GDP(2 次速報)結果
(前期比・%)
(前期比、%)
2.0
2015年
7~9 10~12
国内総生産(GDP)
(前期比年率)
1.5
家計
(消費+住宅) 外需
1.0
(前年比)
国内需要
国内民間需要
公的需要
0.5
民間最終消費支出
民間住宅
民間企業設備
0.0
民間在庫変動
公的需要
実質GDP
成長率
▲ 0.5
▲ 1.0
Q3
Q4
2014
Q1
政府最終消費支出
公的固定資本形成
民間在庫投資
民間設備投資
Q2
Q3
2015
Q4
Q1
Q2
Q3 (期)
2016
(年)
(資料)内閣府「四半期別GDP速報」により、みずほ総合研究所作成
財貨・サービスの純輸出
輸出
輸入
名目GDP
GDPデフレーター(前年比)
2016年
1~3
4~6
1次QE
7~9
0.2
▲ 0.4
0.7
0.5
0.3
0.8
▲ 1.8
2.8
1.8
1.3
2.2
2.1
0.3
(0.3)
0.3
(0.3)
0.5
1.8
0.6
(▲0.2)
0.2
(0.1)
0.4
▲ 0.5
(▲0.1)
2.1
2.5
0.6
1.8
1.1
▲ 0.5
(▲0.5)
▲ 0.7
(▲0.5)
▲ 0.7
▲ 1.2
0.4
(▲0.1)
0.0
(0.0)
0.7
▲ 2.8
(0.1)
▲ 0.6
▲ 0.9
▲ 0.3
1.5
0.4
0.3
(0.3)
0.1
(0.1)
0.4
1.3
▲ 0.3
(▲0.1)
1.0
(0.2)
1.3
▲ 0.7
(0.4)
0.8
▲ 1.2
0.8
0.9
0.9
0.5
(0.5)
0.9
(0.7)
0.2
3.5
1.4
(0.2)
▲ 0.6
(▲0.1)
▲ 1.1
1.6
(▲0.1)
▲ 1.3
▲ 0.9
0.2
0.4
1.1
▲ 0.0
(▲0.0)
▲ 0.1
(▲0.1)
0.3
2.6
▲ 0.4
(▲0.3)
0.3
(0.1)
0.3
0.1
(0.3)
1.6
▲ 0.4
0.1
▲ 0.2
0.9
0.1
(0.1)
0.1
(0.0)
0.1
2.3
0.0
(▲0.1)
0.2
(0.0)
0.4
▲ 0.7
(0.5)
2.0
▲ 0.6
0.2
▲ 0.1
(注)言及のない限り実質前期比。( )内は国内総生産への寄与度。
(資料)内閣府「四半期別GDP速報」により、みずほ総合研究所作成
1
7~9
0.5
基準改定により、アベノ
今回の2次速報では、統計の基準改定によって、過去に遡って成長率が変
ミクス開始後の成長率が
化した。時期によって上方修正と下方修正とが混在しているが、アベノミク
上方修正
ス開始後である2013年以降の成長率は、上方修正される結果となった。2013
年1~3月期から2016年7~9月期までの平均成長率を計算すると、改定後は実
質年率+1.1%と、改定前の同+0.6%から大幅に引き上げられた(図表2)。
2013年度は「建設コモ法
アベノミクス開始後の成長率の変化要因について、年度別にみてみよう。
の見直し」により、設備
まず、2013年度(実質成長率:前年比+2.0%⇒同+2.6%、図表3)は設備
投資(特に建設投資)が
投資(同+3.0%⇒同+7.0%)が大きく上方修正されたが、これは事前に注
上方修正
目されていた「研究・開発の資本化」ではなく、「建設コモ法の見直し」1に
よるものと考えられる。実際、「建設コモ法の見直し」の影響が大きく表れ
る建設投資(住宅を除く)は、改定前(2013年度)が同+2.4%(GDPに
対する寄与度+0.2%Pt)だったのに対し、改定後(2013年度)は+13.6%
(寄与度+0.9%Pt)に引き上げられた。
2014年度は機械関連の設
2014年度(実質成長率:前年比▲0.9%⇒同▲0.4%)については、機械
備投資、2015年度は個人
投資を中心に設備投資(同+0.1%⇒同+2.5%)が上方修正された。産業連
消費が上方修正
関表などの基礎統計の更新などが影響したものと考えられる。また、2015
年度(実質成長率:前年比+0.9%⇒同+1.3%)は、主に個人消費(同▲0.1%
⇒同+0.5%)が上方修正された。速報値から確報値に移行したことで、家
計調査の下振れの影響が取り除かれたためとみられる。
潜在成長率も上方修正に
以上の改定によって、アベノミクス開始後の潜在成長率も引き上げられ
ることになるだろう。基準改定後ベースでの推計は、1月下旬に公表される
ストック側統計を待たなければならないが、最大で0.5%Pt程度の大きめの
図表2
実質GDP成長率の改定前後比較
図表3
実質GDP成長率の改定前後比較
(需要項目別)
(年度別)
ア ベノミクス開始後 全体( 1 9 9 4 年以降)
改定後
改定前
改定後
(前年比、%)
4
改定前
変化率( %)
GDP
1.1
0.6
0.9
0.8
個人消費
▲ 0.0
▲ 0.2
0.9
0.8
住宅投資
1.5
1.0
▲ 1.9
▲ 2.0
設備投資
3.4
2.1
1.3
0.9
3
2
1
政府消費
1.3
1.0
1.8
1.9
公共投資
0.4
0.5
▲ 2.4
▲ 2.8
輸出
4.4
3.8
4.1
3.9 ▲ 1
輸入
2.8
2.7
3.2
3.2 ▲ 2
民需
0.6
0.3
0.6
0.5
公需
0.3
0.2
0.2
外需
0.2
0.1
0.2
0.2 ▲ 4
0.2
寄与度( %Pt )
アベノミクス後が
上方修正
改定幅
改定前
改定後
0
▲3
(注)アベノミクス開始後は、2013年1~3月期以降。
(資料)内閣府「四半期別GDP速報」より、みずほ総合研究所作成
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
15 (年度)
(資料)内閣府「四半期別GDP速報」により、みずほ総合研究所作成
2
上方修正要因となり得る。もっとも、それでも実質2%成長という政府目標
に比べると潜在成長率は低水準にとどまっており、成長戦略の実行が今後の
アベノミクスの最大の課題であることに変わりはない。
GDPの水準(名目)は
今回の基準改定におけるその他の注目点として、GDPの水準(名目)
約30兆円上方修正。個人
が、2016年7~9月期時点(季節調整値、年率換算)で約537兆円と、改定前
消費の速報値は、変動が
の約506兆円から約30兆円上方修正された。大部分(約20兆円)は「研究・
緩和
開発の資本化」の影響であるとみられる。
また、個人消費の速報値について、推計手法の見直し2が行われた結果、
変動が小さくなった点も挙げられる(例えば、2016年1~3月期は前期比
+0.7%から同+0.4%、2016年7~9月期は同+0.1%から+0.3%に修正)。
家計調査の振れの影響が取り除かれることで、QEの個人消費がより実態に
近づいたと評価できるだろう。
10~12月期以降について
2016年10~12月期以降を展望すると、7~9月期の押し上げに寄与した一時
は、公的需要の支えに「ト
的要因(新型スマートフォン向けの部品出荷など)が徐々に剥落する一方、
ランプ円安」も加わり、
経済対策に伴う公共投資の執行や米大統領選後に進んだ円安などが下支え
景気は持ち直す見通し
となり、景気は緩やかに持ち直していくと予想される。
需要項目別にみると、輸出は、海外経済の持ち直しに加えて、ITサイク
ルの改善も下支えとなるため、緩やかに回復すると見込まれる。
内需については、経済対策による公共投資の積み増しなどから、公的需要
が堅調に推移するとみられる。設備投資も、設備の更新需要が根強いことや
研究・開発などの無形資産投資への関心が高いこと、2017年にかけて首都圏
再開発案件の進捗が見込まれることなどから、振れを伴いつつも緩やかに持
ち直していくとみている。
また、個人消費については、今回の2次速報で、足元が堅調に推移してい
たという姿に改められた。今後の個人消費も、雇用情勢の改善に伴い、緩や
かな回復基調で推移するだろう。ただし、夏場の天候不順の影響で、生活必
需品である生鮮食品の価格が大幅に上昇(10月の前年比は+11.4%)してい
ることから、家計の節約志向が再び高まるリスクには注意が必要だ。
1
建設部門の産出額は、従来は中間消費や雇用者報酬などを用いる「インプット方式(=建設コモ法)」により計算されていた。
しかし、これでは生産性の変化を十分に捉えられず、実態とのかい離が生じていたことから、今回の基準改定において工事出来
高を用いる方式に見直された。詳細は、葛城(2013)「「建設コモディティ・フロー法」の見直しについて」を参照。
2
「飲食サービス」と「宿泊施設サービス」について、従来は供給側統計と需要側統計(家計調査)の情報が使われていたが、
今回の改定後は供給側統計のみが使われる(家計調査は使わない)ことになった。
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