Fallout : New world ID:105560

Fallout : New world
Artemis─jack
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このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にPDF化したもので
す。
小説の作者、
﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作品を引用の範囲を
超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁じます。
︻あらすじ︼
西暦2077年、アメリカと中国との間で全面核戦争が発生し、世界は焦土と化した。
世界は放射能で汚染され、生物は死滅するか放射能によって突然変異を起こした。人
間も例外ではなく、多くの人間が死に、生き残ったとしてもミュータント化する者もい
た。
そ し て 2 0 0 年 と 4 年 の 時 が 流 れ た 西 暦 2 2 8 1 年。崩 壊 し た ワ シ ン ト ン D.C.
に住んでいるある﹁男﹂がある日いつものように目を覚ますとそこは異世界だった。
この話は、何故か﹁オーバーロード﹂の世界に転移してしまったある男の物語である。
オーバーロードとFalloutのクロスオーバーです。
アインズ様は出てきません。
目 次 Encounter : Beginn
ing of a trip ││
gic ││││││││││││
h e e x i s t e n c e o f m a
B a t t l e s u p p o r t : T
her world ││││││
otiation with anot
S a v i o r : F i r s t n e g
1
12
28
Encounter : Beginning of 男は思った。
?
コーラがある。
新鮮な梨、栽培されたプンガフルーツと言った所だ。あとは飲み物としてビールとヌカ
キ、ミレルーク︵変異した蟹︶のソフトシェル肉、食後のデザートにマットフルーツと
机に広がるのはヤオ・グアイ︵グール化した熊︶とバラモン︵変異した牛︶のステー
今日は少し奮発し過ぎたか
小さな机に皿などを置き、ボロボロになった椅子に腰掛ける。
カーの中に放り込んで、ヒビの入った皿とフォーク、今日の夕飯を持って二階へ向かう。
家に戻り、ロボット執事のワッズウォースに﹁ただいま﹂と声をかける。装備をロッ
い、店を出る。次に小さな診療所に行き、少しばかりの医薬品を買った。
雑貨屋に向かった。今日の戦利品を売り飛ばして、いくつかの弾薬とガラクタを買
街、﹁メガトン﹂に一人の旅人が帰ってきた。その男はまず雑
崩壊したワシントンDC、
﹁キャピタル・ウェイストランド﹂にあるガラクタで出来た
2281年、キャピタル・ウェイストランド
a trip
Encounter : Beginning of a trip
1
2
キャップ︵ヌカコーラの瓶の蓋。崩壊したこの世界で紙幣や貨幣はゴミと化し、この
キャップが通貨となっている︶が無い時は犬の肉やラッドローチ︵変異したゴキ〇リ︶、
ブロートフライ︵変異した蝿︶を食べていた為、こんな豪華な食事は久しぶりだからだ。
久し振りに味わうマトモな肉に舌鼓を打ち、デザートもペロリと平らげる。
軽く膨らんだ腹部をさすりながら、皿や空き瓶などをワッズウォースに渡す。ついで
に、ショットグラスとウイスキーを持ってくるように頼んでおいた。
棚から戦前の本と煙草を取って隣りの部屋のソファーに移動し、本を読み進める。
この世界は核の炎に包まれた為、大概の本は灰になるか、読めないレベルまで焼け焦
げている。だが、稀に綺麗な状態で残っている事があった。こういった本は高く売れる
為、拾ったら即売り飛ばすのが普通だが、男はそういった事はしなかった。本というの
は、読む者に知識を与えてくれる。そして、本には崩壊する前の世界の様子が書いて
あった。ほとんどの物が灰になり、草一本生えない今の世界からは想像も出来ない草木
が生い茂った草原や森、綺麗な水が流れる小川などが描かれていた。一応、このキャピ
タルにも﹁オアシス﹂という緑が生い茂っている所がある事にはあるんだが....
半分ほど読んだ所で、ワッズウォースがウイスキーとショットグラスを持ってきてく
れた。ショットグラスにウイスキーを注ぎ、一気に煽る。
アルコールで喉が焼けていく感覚と共に、芳醇な香りが鼻を抜けて行った。
本を読み終え、一階に向かい、今日使った武器を手に取って、二階に戻る。武器を机
に置いて、メンテナンスを行う。
メンテナンスが終わった後は、治療セットの置いてある場所に向かう。
自分の身体に接続して、治療セットを起動し、蓄積されたRAD︵放射能︶を除去し
ていく。左腕に装着しているPip│Boy3000を見て、RADが完全に除去され
たのを確認し、セットを取り外す。そのままベッドに向かい、明日は何処に行こうか、な
﹂
んて考えながら、男は眠りに着いた。
?
眼前に広がるのは、草木が生い茂る木々。何処を見ても緑に染まっている。
た。
取り敢えず男は身体を起こす。周囲を見渡した瞬間、驚きで目の前が真っ白になっ
いつものウェイストランドは、もっと空気が重苦しかったはずだ。
だが、何かがおかしい。空気が﹁軽い﹂のだ。埃が舞い上がり、放射能に満ちている
はまだキラキラと光っていた。
た。鼻 に つ く 草 の 匂 い。オ ア シ ス で 嗅 い だ 事 の あ る あ の 匂 い だ。空 は ま だ 暗 い。星 達
ボロボロになり、ゴワゴワとした感触のいつものベッドとは異なる感触に男は目覚め
﹁..........ん
Encounter : Beginning of a trip
3
此処は何処だ
男は思った。
﹂
画面が切り替わり、自分の今の持ち物を確認した瞬間、驚きのあまり声が出てしまう。
取り敢えず持ち物を確認しようと、ボタンを押して表示を切り替える。
念のためPip│Boyを見てみるが、何の異常も無いようだ。
変に頭痛がしたり、身体の節々が痛いというわけでもない。
状況の確認の為、自分の身体に何か変化が起きていないか確認する。
?
何故俺の身体は重くないんだ
の表示が消えていた。
不思議に思い、自分の今の装備重量をPip│Boyで確認する。だが、何故か重量
どう考えても人一人が持てる量のアイテムではないのにも関わらず、だ。
る。だが、今の自分は全く重さを感じない。
通常、自分の装備重量を超えてアイテムを持つと、身体が極端に重くなって動きが鈍
?
だが、一つ一つ確認していくにつれ、疑問が浮かんでくる。
かった。
確認していくと、これらのものはメガトンの自宅に仕舞って置いた物という事が分
画面には、おびただしい量の銃器や弾丸、食糧や医薬品、装備品やガラクタがあった。
﹁一体どうなってるんだ
!?
4
おかしいとは思いつつも、無限にアイテムを持てるというのは良い事だ。此処はあま
り考えないでおこう。
次に、自分が今いる場所を確認する為、Pip│Boyで今の位置情報を見る。だが、
そこには﹁トブの大森林﹂とだけ書いており、他に何も情報は無かった。
そこで初めて気が付く。自分は今ウェイストランドにいるのでは無く、他の何処かに
いるのだと。
これからどうしようか。
何も知らない異世界に飛ばされたにも関わらず、男の思考は冷静だった。
この男、実は何度も死線を潜り抜けている。時には放射能で死にかけたり、四肢を
吹っ飛ばされたり、エイリアンに攫われたり等々......それに比べれば、異世界に飛ば
される位では生温い。
取り敢えず、Pip│boyのライトをつけ、持っていたタバコをふかしながら、途
中で終わっていたガラクタの確認を続ける。
ガラクタの確認も終盤に差し掛かった頃、画面をスクロールする手が止まった。画面
﹂
には依然多数のガラクタが表示されているが、一つだけ英語のアイテムがあった。その
何故こんな物が
!?
!?
アイテムは、﹁G.E.C.K.﹂と名前が振ってあった。
﹁G.E.C.K. ......G.E.C.K.だと
Encounter : Beginning of a trip
5
G a r d e n o f E d e n C r e a t i o n K i t、略 し て G.E.C.
K.。
直訳すると﹁エデンの園創造キット﹂
大型のアタッシュケースに入った機械。
土壌精製装置の他、ポータブル常温核融合炉、様々な植物の種子、クローニングマシ
ン諸々がワンセットになっている。
﹂
?
トを被っていた。目の部分は赤く光り、見る者を威嚇している様でもある。
身に着けて、その上からトレンチコートを羽織っている。頭部にはライオットヘルメッ
その人物は見るからに異様な格好をしていた。屈強な身体にコンバットアーマーを
しばらくすると、草木を掻き分けて一つの人影が姿を見せた。
を装備し、安全装置を外しておく。
陰に隠れ、様子を伺う。念のため、Xuanlong Assault Rifle 先程から小動物の反応はあったが、今度はかなり大きい。成人男性ほどだろうか。木
とそこで、Pip│boyが生体反応を検知する。方向は丁度30m前方から。
﹁一体どうなってんだ.....
﹁無﹂から﹁有﹂を作り出すことの出来る驚異の機械。
6
周囲をきょろきょろと見回すと、最後にこちらを向きながら口を開いた。
﹂
?
﹂
?
トランはそう言いながら肩を竦める仕草をした。
﹁気にしないでくれ。私だって同じ立場だったらそうしてたさ。﹂
ベイグはとりあえずの謝罪を述べた。
伝ってる者だ。急に銃を向けて悪かった。﹂
﹁.....ベイグと言う。キャピタル・ウェイストランドでBOSと一緒に水の配布を手
男は銃を下ろし、静かに言う。
らは
﹁私はトランと言う者だ。モハビ・ウェイストランドで運び屋をやっている。....そち
男は相手に問いかける。
﹁あんたは誰だ
一応銃口は相手に向けたまま、男は木陰から姿を現す。
ていないという事は、敵意がないと言う言葉に嘘は無いのだろう。
男はPip│Boyを確認する。相手の生体反応は変化していない。赤色に変化し
して男だろうが。
くぐもった声でその人物は言った。声から男女の判別はつかなかった。体付きから
﹁そこに隠れている方 、私に敵意は無い。姿を見せてはくれないだろうか。﹂
Encounter : Beginning of a trip
7
﹁あんた、モハビで運び屋をやってるって言ったな。此処はモハビなのか
とあそこは乾燥した地域の筈だが.....﹂
聞いた話だ
?
じゃあ、俺と同じってわけか.....。﹂
?
か
俺のはどうやら装備重量が無限になってるみたいなんだ。﹂
﹂
﹁それもそちらと同じだな。私のPip│Boyもそうなっている。﹂
﹁......あんた、これからどうするつもりだ
?
な。.....そちらは
﹂
んな美味しい空気は吸った事が無い
?
欲を言うならこの世界にずっと居たいところだ
私のいたモハビはそんなに汚染されてなかったが、やはり空気は悪かった。だが、こ
くりだ。
良さを。草木は生い茂り、多くの動物が存在する世界。まさに最終戦争前の世界とそっ
?
?
﹁....何も考えてなどないさ。気ままに生きるのみ。それに分かるだろ
この環境の
﹁奇遇だな。俺もそう思った。.....そうだ、あんたのPip│Boyを見せてくれない
て異世界に飛ばされた可能性が高い。﹂
﹁そちらも同じだったか....これはあくまで私の仮説だが、私達は何らかの現象によっ
﹁何
かどうか分からないが、いつもの様にベッドで寝てたらいつの間にかここにいたんだ。﹂
﹁いや、 私にも分からないんだ。昨日の夜.....と言っても、今は夜だから正しい表現
8
!
俺と組まないか
?
﹂
?
イテムを出すことが出来る。だが、戦闘中ではそうもいかないので、いつでも手に取れ
Pip│Boyには四次元収納機能があるので、画面をタッチするだけでいつでもア
﹁こんなモンか。﹂
Assault Rifleとオルペインレス︵ハンティングライフル︶を装備した。
腰のホルスターには減音器を付けた10mmピストルを、背中にはXuanlong
ベイグがPip│Boyの画面をタッチしていき、武器を身に着けていく。
﹁まあ...それもそうだな。﹂
﹁いつも通りでいいんじゃないか
ベイグがPip│Boyをいじりながら言った。
﹁さて.....何を装備しようか。﹂
と固い握手をした。
キャピタル・ウェイストランドとモハビ・ウェイストランドの二人の男は、ガッチリ
﹁こちらこそ、トラン。﹂
﹂
﹁そっちと同じさ。勝手に生きて、勝手に死ぬ。どうせ、キャピタルに未練なんて無いか
らな。此処で会ったのも何かの縁だ、どうだ
?
﹁それもそうだな。よし、これからよろしくな、ベイグ。﹂
Encounter : Beginning of a trip
9
るように、頻繁に使う物は装備する。
ショットガンとスナイパーライフルは分かるんだが、そのリボルバーは見た
﹂
こいつはレンジャー・セコイアという銃でな。使用する弾薬は45│70
?
....どおりでバカでかい訳だ。というか、よく見てみれば全部カスタムして
ガバメント弾だ。﹂
﹁こいつか
事が無いな。どんな銃なんだ
?
?
コープ、サプレッサーを付けているのさ。﹂
填 数 を 増 や し て あ る。こ っ ち の ス ナ イ パ ー ラ イ フ ル は ス ト ッ ク の 肉 抜 き と 高 倍 率 ス
﹁ああ。こっちのハンティングショットガンは内部のチューブマガジンを拡張して、装
あるな。﹂
﹁何だと
?
﹁.....
﹁素晴らしいな。そうそう、こっちも準備出来たぞ。﹂
ンティングライフルよりも数倍は発射速度が上がってるぜ。﹂
ライフルのコッキングボルトを改造して、ストレートプルボルトにしてある。従来のハ
を特別に多くしてある。元々は中国軍のアサルトライフルだ。こっちはハンティング
﹁ああ。こっちのXuanlong Assault Rifleはマガジンの装弾数
トランが感心した様子で言う。
﹁なかなか使い込んでる武器だな。だが、状態も良いし、カスタムもしているのか。﹂
10
﹁.....お前は暗殺者か何かか
﹂
﹁心外だな。運び屋だって言っただろ
﹂
?
?
﹂
﹁もう朝か。そろそろ行くか
?
﹂
!
あった。
二人の去った場所には、まだ灰が燻っている焚き火の跡と、二本の煙草の吸い殻が
﹁よし、そうと決まれば行くとしよう
﹁そうだな......取り敢えず、この世界の住民と接触を図ってみるか。﹂
﹂
﹁行くって言っても、何処へ
?
お互いの武器を褒めながら談笑していると、いつの間にか辺りは明るくなっていた。
﹁そう言えばそうだったな。﹂
Encounter : Beginning of a trip
11
Savior : First negotiatio
﹂
?
飲めばいいじゃないか。﹂
﹁いや、でも汚染されてるかもしれんだろ
?
﹂
?
出来る。
﹂
Pip│Boyにはガイガーカウンター機能がついており、放射線量を測定する事が
だ
﹁それは絶対に無いと思うが......取り敢えずPip│Boyで確認してみたらどう
?
﹁
﹁いや、別に何も無いんだが.....飲めるかな、と思ってな。﹂
その様子を見ていたトランが聞く。
﹁何かあるのか
不思議そうに眺める。
持っていたリスとイグアナの串焼きを食べ終わると、ベイグは小川に近付いて何やら
数時間歩いた所、小川にたどり着いたので、ベイグとトランは休憩をする事にした。
﹁この辺で少し休むか。﹂
n with another world
12
おお、汚染されてない
?
﹂
!
﹂
?
一応、私達以外に人間がいない場合を想定して、﹃ウェイストランド・サバイ
?
た
顔色が悪いぞ
﹂
?
見ると、ベイグは顔色が悪く、どこかげっそりしている様に見える。
?
被験者
?
は間違いなく放射能障害で死んだだろうが、事細かに症状が記されてる。......どうし
いっぱいあるがな。例えばこの﹃放射能の人体に対する影響﹄なんてスゴいぞ
に 役 に 立 ち そ う な 情 報 は 無 さ そ う だ。ウ ェ イ ス ト ラ ン ド に い た ら 使 え そ う な 情 報 は
バルブック﹄を読んでいるんだが....どれもウェイストランド向きで今いるこの世界
﹁これか
軽い昼食を食べ終わってからというもの、トランは何かの本を読みふけっていた。
んだ
にいた頃は綺麗な水は好きなだけ飲めたんだが。....ところで、さっきから何読んでる
﹁羨ましい限りだな。まあ、Vault︵Vault│Tec社が作った核シェルター︶
でもあったもんだ。﹂
﹁そうなのか。私がいたモハビは汚染地域が少なかったからな。綺麗な水なんていくら
な。﹂
﹁俺がいたキャピタルの水はどこも汚染されていたんだよ。浄化装置を起動するまでは
﹁驚く事でも無いと思うが.....。﹂
﹁確かに。どれどれ....
13 Savior : First negotiation with anothe
world
﹂
﹂
著者、モイラ・ブラウン、実験に協力してくれた友人、ベイ
﹁いや、実はな....その本の最後に書いてある、著者の名前を読んでみろ。﹂
グ.....ベイグ
﹁えーと、なになに....
この本に書いてある事って全部お前がやったのか
﹁ああ、俺の事だ。﹂
﹁嘘だろ
だろう。﹂
だが.....少し妙じゃないか
ま
.......いや、今四つに増えた。こっちは少し大きいが同じ人間
るで追いかけられてるみたいじゃ.......﹂
﹁最初の方は子供かも知れんな。で、後者が大人か
?
?
ベイグが何気なく言った途端、二人はハッとなり顔を見合わせる。
?
さからして、人間か
﹁ベイグ、Pip│Boyを見てみろ。約百メートル前方に二つ生体反応が出た。大き
トランが何かに気付き、小さく言った。
ウェイストランド・サバイバルブックを作った時の話をしながら歩いていると、急に
心の底から疲れた様なため息をするベイグ。
﹁俺が考えたんじゃない.....あいつが狂気じみてるだけだ.....。﹂
!?
!?
﹁よくこんな事やろうと思ったな.....。﹂
﹁うむ.....。﹂
!?
?
14
﹂
!
一応気付かれ無いように行こう。相手がこちらを見た途端に襲ってくるや
だとしたら早く助けないと
﹁落ち着け
!
﹁おい、トラン
このままじゃヤバいぞ
﹂
!
剣が振り下ろされたと同時に、ベイグとトランはその場から掻き消える。
﹁Go.﹂
おうとしていた。
全身鎧に身を包んだ騎士が再び剣を振りかぶる。その剣は今にもその少女の命を奪
﹁了解。﹂
なよ。タイミングは私が出す。﹂
﹁分かってる。お前は後ろにいる騎士をやってくれ。私は手前をやる。一応音は立てる
!
さい女の子│││妹だろうか│││を庇い、背中を切りつけられていた。
ベイグとトランが木陰や草むらに隠れながら移動していくと、ちょうど少女がより小
﹁分かってるよ。﹂
﹁相手はもう三十メートルか二十メートルそこらだ。音を立てるなよ。﹂
ベイグが直感的に動こうとするのを、トランが冷静に制する。
も知れん。囮の可能性も考えるべきだ。﹂
!
﹁マズい
15 Savior : First negotiation with anothe
world
ベイグとトランは騎士に一瞬で近づき、無防備な首を背後からコンバットナイフで掻
き斬ると、その身体は力無く崩れ落ちた。
二人の騎士の身体がほぼ同時に落ちる。コンビネーションは完璧だ。
﹂
トランが持ち物から情報を漁っている間、ベイグは少女に近付いて、優しく話しかけ
る。
﹁大丈夫かい
傷がどれほどかを見
?
﹁少し触るよ。﹂
!
﹁どうした
﹂
﹁よし、すぐ治してあげるから、心配しないで。おーい、トラン
?
﹂
少女が痛がる素振りを見せる。無理もないだろう。傷は思ったよりも深めだった。
﹁はい、....ッ
﹂
少女が背中をベイグに見せる。傷口はどす黒く染まり、血は固まり始めていた。
﹁わ、分かりました。﹂
ておきたいんだ。﹂
﹁大丈夫、俺は敵じゃない。それよりも、背中を見せてくれるかい
二人の少女は何が起きているのか全く分からない様な顔をしている。
﹁は、はい。﹂
?
!
16
を助けて下さい
﹂
﹁そっちに向かってすぐです
﹂
話﹄したい事があるからな。﹂
﹂
﹁了解した。その娘の治療が終わり次第、一緒に合流してくれ。﹂
少し﹃お
図々しいとは思いますが、お父さんとお母さんを.....村のみんな
!
﹁分かった。村はどっちにあるんだい
!
﹁よし、ベイグ、そっちは頼んだぞ。あ、そうそう、くれぐれも全員殺すなよ
!
?
﹁お、お願いします
その言葉を聞いた途端、少女は思い出したかのように言った。
?
﹂
?
﹁そうそう、ありがとう。では.....﹂
﹁腕、ですか
﹁よし、まずは腕を出してくれ。﹂
ベイグが村の方へ走って行くのを見送ってから、改めてトランは少女に向き合う。
﹁ああ。﹂
?
﹂
﹁分かった。....お嬢さん、少し聞きたいんだが 、襲ってきたのはコイツらだけかい
xを打っておけよ。まだ痛むらしいからな。﹂
﹁お前のドクターバックでこの娘の傷を治してやってくれ。縫合する前に一応Med│
17 Savior : First negotiation with anothe
world
﹂
そう言いながら、トランは注射器の形をしたMed│xという薬品をを取り出す。
何を
!?
我慢してね。﹂
﹁....は、はい....。﹂
﹂
﹂
おずおずと差し出された腕に優しく針を刺し、薬品を注入する。
﹁はい、よく出来ました。もう痛くないでしょ
﹁うそ......。﹂
少女がその効果に驚く。
﹁次は背中の治療だが....その前に、名前を聞いても
﹁わ、私はエンリという者です。こちらは妹のネムです。﹂
﹁私はトランという者だ。ネムちゃん、少しの間だけ、目を瞑ってて貰えるかい
ネムは無言で頷くと、顔を伏せて目を瞑った。
﹁さあ、治療を始めよう。﹂
?
?
?
ベイグが走って村の入口に着いた時、騎士達は村人を村の中央に集めていた。
﹂
﹁落ち着いて。これは痛みを和らげる薬だ。入れる時に少しチクッとするけど、それは
少女が驚いて腕を引っ込める。
﹁
!?
18
﹁武器を捨てて投降しろ
﹂
物音一つしないその中で、ベイグが叫ぶ。
突然の出来事に村は静まり返る。
剣を振りかぶった騎士は力無く崩れ落ちた。
と吸い込まれ、そのまま貫通する。
まったようになる。そのまま胴に二発、頭部に一発発砲する。鉛の弾丸が騎士の身体へ
ベイグの脳の処理速度と反応速度がV.A.T.Sによって爆発的に上昇し、時が止
反応速度を上げ、戦闘時におけるPip│boy着用者を補助する。
まさに一時的に時が止まり思考が出来るようなレベルまで瞬間的に脳の処理速度及び
称。P i p │ B o y に 搭 載 さ れ た V a u l t │ t e c 社 の 戦 闘 補 助 シ ス テ ム で あ る。
Vault│tec.Assisted.Targeting.Systemの略
V.A.T.S。
ベイグは瞬時に銃口を騎士へと向け、V.A.T.Sを起動させる。
うとしていた。
村に入った瞬間、遅れて広場に逃げ込もうとした村人を、騎士が後ろから切りつけよ
る10mmピストルの弾倉に弾が入っている事を確認し、村に突入する。
Xuanlong Assault Rifleとセカンダリとして腰に着けてい
19 Savior : First negotiation with anothe
world
!
ベイグの言葉を聞いた騎士たちは動揺する。この男は何者なのか
急に村に飛び込
んで来たかと思ったら、男が持つ奇妙な筒から破裂音が三回鳴り響き、仲間が血を流し
?
て倒れた。全く理解出来ない状況ではあるが、騎士達に投降の二文字など存在しなかっ
﹂
た。彼らの頭の中は仲間を殺されたことに対する怒りで一杯だった。
あいつを殺せ
!
﹁残念だな。﹂
﹁あいにく、お前の出番は無いぞ。﹂
﹁なんだ、もう終わったのか。﹂
無力化する。最後の一人の手を縛り終わったところにトランが合流した。
黙って地に伏せた騎士の手を、Pip│Boyから取り出したダクトテープで縛って
﹁よし、手を頭の後ろに組んで伏せろ。﹂
再び言い放たれたその言葉に対し、騎士たちは次々に武器を捨てていく。
﹁もう一度言う。武器を捨てて投降しろ。﹂
騎士達の顔が恐怖に染まる。
して馬から転げ落ちた。
だが、破裂音が八発響いた途端、放たれた弓は消し飛び、四人の弓兵は頭から血を流
隊長らしき者が叫び、馬に乗った弓兵がベイグに向かって弓を放つ。
﹁弓兵
!
20
﹂
?
ないと思った為だ。ただより怖いものは無い。
も整理が出来ていないでしょうし。﹂
?
﹁い、いま村はこんな状態でして││││﹂
事なので、村長.....でよろしかったですか
﹁此処で立ち話するのもアレなので、何か落ち着いた場所で話しませんか
?
村長の案内で、村長宅にて話すことになった。
﹁は、はい。では、私の家で話をしましょう。どうぞ、こちらへ。﹂
突然の出来
村人から懐疑的な色が消えた。報酬目的で助けたと言う方が、あらぬ疑いをかけられ
﹁とはいえ、ただというわけではありません。報酬として、何か頂きたいのですが。﹂
だが、まだ不安の色が見え隠れしていた。
村人からざわめきが上がり、安堵の色が浮かぶ。
﹁おお.......。﹂
娘達が襲われていたものですから、助けに参りました。﹂
﹁私の名はトラン、こっちはベイグです。私達は遠い国から旅をしている者でして、この
﹁あ、あなた達は....
﹁さて、もう大丈夫です。安心して下さい。﹂
そんな会話をしながら、広場の真ん中に集まって怯えている村人達の元へ向かう。
21 Savior : First negotiation with anothe
world
用意された椅子の一つにトランが座り、その後ろにベイグが控える。ベイグはCHA
RISMAがトランよりも比較的低いので、こう言った話し合いなどはトランに任せ
る。
遅れて村長が向かいの席に座り、その後ろに村長の妻が立つ。
夫人はテーブルの上にみすぼらしい器を二つ置く。中には白湯が入っていた。
﹁どうぞ﹂
トランがお礼の言葉を述べ、ライオットヘルメットを脱ぐ。
﹁ありがとうございます。﹂
ヘルメットの下に隠されたトランの素顔を見た村長は、心なしか安心したように見え
る。トランを骨の化け物か何かと思っていたのだろうか。
﹂
﹂
ベイグもトランも別に喉が渇いたわけでは無いが、差し出された白湯に口を付ける。
﹁さて、前置きは抜きにして交渉を始めましょうか。﹂
﹁はい。ですが、その前に.....ありがとうございました
感謝致します
!
村長が勢いよく頭を下げた。
﹁あなた方が来て下さらなければ、村の皆が殺されておりました
﹁分かっております。ですが感謝だけは言わせて下さい。﹂
﹁顔を上げて下さい、村長殿。私共は無償で助けようとしたわけでは無いので。﹂
!
!
22
....では、私達は一体何をお渡しすれば良いのでしょうか。﹂
!?
﹁全くだ。それより、V.A.T.Sの調子はどうだった
﹁問題ない。普段通り使えてるよ。﹂
﹂
?
﹁人は過ちを繰り返す......か。﹂
﹁仕方ないさ。......結局、どこの世界も戦争、戦争、戦争か。﹂
新しい墓の前で泣きじゃくる姉妹を見ながらベイグがポツリと言う。
﹁結局、あの娘達の親御さんは死んでたか。﹂
ベイグとトランはその様子を少し離れた所から見守る。
村長との交渉が終わると同時に、亡くなった村人の葬儀が執り行われた。
﹁分かりました。私共が分かる範囲内であれば全てお話します。﹂
ける為にも知りたいのです。﹂
﹁私達が欲しいのは、この村近辺の情報です。この辺の土地は全く知らないので、旅を続
﹁え
﹁いえ、お金は入りません。そのお金は村の復興に役立てて下さい。﹂
三千枚程しかお支払い出来ないのですが......﹂
﹁ところで報酬の件ですが、何分貧しい村でして、銅貨や銀貨をかき集めても銅貨にして
﹁....分かりました。﹂
23 Savior : First negotiation with anothe
world
﹁それは良かった。﹂
﹁ところでこれからどうする
︶︶
?
﹂
?
﹂
トランは怯える村長の不安を取り除くような明るい声で続ける。
縛っている騎士達はそのままで。村長殿は私達と共に広場に。﹂
﹁な る ほ ど......私 達 に お 任 せ を。村 長 殿 の 家 に 生 き 残 り の 村 人 を 集 め て 下 さ い。
うで.....﹂
﹁おお、トラン様にベイグ様。実はこの村に馬に乗った戦士風の者達が近付いているそ
﹁何かありましたか
いい知らせでは無いだろうなと思いつつも、トランは村長に話しかける。
︵︵また厄介事か
ベイグとトランは顔を見合わせた。
緊迫感が浮かんでいる。
と、広場の片隅で数人の村人と何やら真剣に話し込んでいた。話しているその表情には
今日は此処で一泊したいので、空き家を貸してほしい旨を伝える為村長の元へ向かう
﹁よし、今後の方針は取り敢えずそれでいいか。﹂
しいからな。﹂
﹁さっき村長との話しにあったエ・ランテルに行こう。﹃冒険者﹄とか言う職業もあるら
?
24
﹁その必要はありません、ガゼフ・ストロノーフ殿。私はトラン、こちらはベイグと申し
﹁横にいるのは一体誰なのか教えてもらいたい。﹂
ベイグとトランを訝しげに見ていたガゼフの視線が逸れ、村長に向かう。
﹁この村の村長だな。﹂
ベイグとトランが小声で話していると、ガゼフが再び口を開いた。
︵了解。︶
︵どうやらそうみたいだな。だが、本人かどうか確証は無い。気を抜くなよ。︶
︵ほう、コイツがさっき村長の話にあった人物か。︶
ている帝国の騎士達を討伐する為に王のご命令を受け、村々を回っている者である。﹂
﹁私は、リ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。この近隣を荒しまわっ
乗ったまま、一人の男が進み出た。
ベイグとトラン、村長の三人の前に見事な整列を見せる騎士たち。その中から馬に
入ってくる。数にして二十人程だろうか。
や が て 道 の 先 か ら 数 体 の 騎 兵 の 姿 が 見 え て き た。騎 士 た ち は 隊 列 を 組 ん で 広 場 へ
い。
村長の震えは幾らか弱まり、その顔には苦笑が浮かぶ。腹をくくったのかもしれな
﹁安心して下さい。今回はただでお助け致しますよ。﹂
25 Savior : First negotiation with anothe
world
ます。﹂
それに対しガゼフは馬から飛び降り、ベイグとトランに頭を下げた。
達を傷つけずに無力化するとは...。﹂
﹁幾らかは殺しましたがね。﹂
?
﹁...分かった。ではイスにでも座りながら詳しい話を聞かせてもらおうか。それとも
とトランに対する警戒のレベルを一段階上げた。
怖を感じた。明らかに自分とは違う世界で生まれ育った強者の気配。ガゼフはベイグ
ベイグとトランの雰囲気が一瞬ドス黒いものに変わる。この時、ガゼフは本能的に恐
﹁ええ、構いません。もとより少々﹃お話し﹄する為に生かしておいただけですので。﹂
﹁そうか...あの騎士達はこちらが引き取らせて頂いても
﹂
﹁ふむ....冒険者ではないのか......かなり腕の立つ方とお見受けするな。あの騎士
けなんです。﹂
﹁私達は遠い国から旅をしている者でして、たまたま騎士に襲われている所を助けただ
﹁....礼には及ばない。実際報酬目当てだからな。﹂
かいい奴じゃないか。︶
︵ほう、王国戦士長ともあろう者が見ず知らずの俺たちに頭を下げるとは.....なかな
﹁この村を救っていただき、感謝の言葉も無い。﹂
26
周囲に複数の人影。村を囲むような形で接近しつつあります
﹂
!
げた。
﹁戦士長
!
村長が答えかけたその時、一人の騎兵が広場に駆け込んで来て、大声で緊急事態を告
﹁分かりました。ではその辺りも踏まえて、私の家でお話しできれば││││﹂
だが....﹂
し構わなければ時間も時間なので、この村で一晩休ませてもらいたいとも思っているの
27 Savior : First negotiation with anothe
world
Battle support : The exis
tence of magic
家の陰からガゼフはある人影を窺う。
﹁なるほど....確かにいるな。﹂
見える範囲では三人ほど。それぞれが等間隔を保ち、ゆっくりと村に向かって歩んで
くる。
﹁ざっと見て十人くらいですね。﹂
その右手に持っている物は一体
﹂
ベイグとトランがPip│Boyを確認しながら、双眼鏡を使って敵の装備等を確認
﹁あの真ん中の奴が指揮官みたいだな。﹂
する。
﹁ベイグ殿.....でしたかな
?
﹂
さぞや高価なマジックアイテムなのでしょうな。﹂
マジックアイテム
?
﹁ほう
﹁
?
!
よ。﹂
﹁あ あ、コ レ か。コ イ ツ は 双 眼 鏡 っ て い う 物 で し て ね。遠 く の 物 が よ く み え る ん で す
?
28
﹂
?
マークが浮かんでいるベイグを押しのけ、トランがその間に割り込んでそ
?
﹂
﹁いや、大丈夫だ。気にしないでくれ。それより、奴らは何者なんだ
?
﹂
薄く笑いながら答えたガゼフは急に顔を引き締め、ベイグとトランに向き直る。
﹁立場上仕方のないことだが......困ったものだ。﹂
茶化すようにベイグが言う。
﹁人気者ですな、戦士長殿は。﹂
狙いは私の命だろうな。﹂
﹁奴らは恐らくスレイン法国の特殊工作部隊群.....噂に聞く六色聖典かと思われる。
?
﹁ベイグ殿にトラン殿、いかがなされた
村を囲んでいる奴らの側にいた訳の分からん白い人型の化物の説明もつくしな。︶
︵私も村長の話を疑っているわけでは無いが、魔法の存在は確からしい。だとしたら、今
があるのは事実らしいな。︶
︵さっき﹃マジックなんたら﹄とか言ってたな。村長の話にあった通り、この世界に魔法
︵その話は後にしろ。今はあまり時間が無さそうだからな。︶
う言った。
頭の上に
﹁あー、お気になさらず、ガゼフ殿。﹂
﹁.....どうかしましたか
Battle support : The existence of magi
29
﹁ベイグ殿、トラン殿。良ければ雇われないか
ベイグとトランから反応は無い。
﹂
?
して、どのような援護を
﹁ガ ゼ フ 殿 は そ の ま ま 奴 ら と 闘 う つ も り で す よ ね
しょう。﹂
﹁おお、それは心強い
それを私達が後方から援護致しま
﹂
?
達によって一人ずつ倒れていくでしょう。﹂
﹁ご心配なさらず。ガゼフ殿は好きに闘って下さい。ガゼフ殿に近付こうとする者は私
!
?
手を伸ばしかけたガゼフに対してトランが言う。
﹁......ですが、協力しないとも言ってませんよ。﹂
お元気で。この村を救ってくれた事、感謝する。﹂
﹁....分かった。いつまでもこうしていては意味が無いな。ではベイグ殿、トラン殿、
ベイグの鋭い視線がガゼフを貫く。
﹁国家間のゴタゴタには踏み込みたくないんでね。﹂
﹁そうか.....王国の法を用いて、強制.....﹂
﹁俺もだ。﹂
﹁.......お断りさせて頂こう。﹂
﹁報酬は望まれる額を約束しよう。﹂
30
ライオットヘルメットに隠されたトランの顔に不敵な笑みが浮かんだ。
﹂
!
こんだけ乱戦してりゃ撃とうにも撃てんな....。﹂
!
こんな形のヤツは見たことがないが....﹂
?
チューブを口に加えて、一気に中身を吸い込む。
﹁まあ、使ってみろ。﹂
﹁クスリか
﹁吸え。吸ったらすぐ構えて撃てよ。﹂
そう言って、トランが奇妙な物を取り出す。
﹁仕方が無い、コイツを使おう。もう残りがあまり無いが.....。﹂
﹁チッ
Pip│Boyから出したスナイパーライフルを構え、スコープを覗く。
﹁よし、いっちょ始めるか
﹁そうボヤくな。そろそろ始めるぞ。﹂
﹁どちらかといえば俺は近距離で暴れ回る方が好きなんだがな....。﹂
﹁落ち着いて撃ちさえすれば必ず当たるさ。﹂
﹁うーむ、誤射しそうで恐ろしいな。﹂
﹁そういう事だ。﹂
﹁.....つまり狙撃支援をする、ということか。﹂
Battle support : The existence of magi
31
その瞬間、世界の時の流れが遅くなる。
︶
!
︶
!
﹁今だ
うぉおおおお
﹂
!
│││││││││││││││││││
│
!
破裂音と共に次々と天使達が消滅していき、敵の指揮官への道が開く。
ゼフは分かった。
一体何故化物が消滅したのかは分からなかったが、ベイグとトランによるものだとガ
︵ベイグ殿とトラン殿か
破裂音が付近一帯に響いた。
弾丸が化物の眉間に当たった瞬間、光の塵となって消えた。遅れて空気を叩くような
へと吸い込まれる。
ベイグとトランがほぼ同時に引き金を引き、鉛の弾丸が音速を超えるスピードで天使
︵ここだ
よって召喚された二体の化物によって斬られようとしていた。
再びライフルを構え、スコープを覗く。ガゼフの部隊の一人が法国の魔法詠唱者に
︵なるほど....知覚を鋭敏化させて時の流れを遅く感じさせるのか。こいつはいい。︶
32
陽光聖典の隊長であるニグン・グリッド・ルーインは突然の出来事に困惑していた。
途中までは完璧だった。だが、天使達をガゼフの部隊に突撃させた所から全てが狂っ
た。
召喚した天使が急に消滅したのだ。何の前触れも無く。
減った分だけ次々に部下が天使を召喚していくが、それに合わせて破裂音と共に天使
!
?
が消滅していく。
ガゼフ達は魔法が使えないはずだ。ではこの天使を消滅させているのは誰だ
﹂
天使の数がどんどん減っていくと、ガゼフが声を上げて突っ込んできた。
監視の権天使、ガゼフを殺れ
!
持った巨大なメイスを振り上げたその時。
メイスが﹁硬質な何か﹂に大きく弾かれた。遅れてダァン
!
不味い。この状況は非常に不味い。
て倒される。光の如き神速の武技によって監視の権天使が光の塵となって消えた。
突然の事に驚愕していた所を、チャンスとばかりに監視の権天使がガゼフの武技よっ
響く。
という大きな音が草原に
監視の権天使が翼を大きく動かし、突っ込んでくるガゼフに肉薄する。そして片手に
﹁クソッ
Battle support : The existence of magi
33
﹂
ニグンはある物を取るため懐を探りながら、部下に指示を出す。
天使達を突っ込ませて時間を稼げ
!
最高位天使の輝きを
威光の主天使
!
﹂
!
﹂
!
と腹の底から響くような轟音が聞こえてきた。
!
﹁あ、あ、ありえるかぁああああああ
﹂
頭部を失った威光の主天使は光の塵となり、夜空に消える。
遅れてドゴォン
│││││威光の主天使の頭部が爆散した。
その瞬間││││││
その破片は威光の主天使の周囲をゆっくりと旋回し始めた。そして魔法が発動する
け散る。
最大全力での攻撃を望む召喚者の思いに呼応して、威光の主天使の持っていた笏が砕
﹁︿善なる極撃﹀を放て
現れた光り輝く翼の集合体。そんな至高善の存在に、ガゼフの表情は険しくなる。
﹁見よ
!
ニグンの手の中でその物が砕かれ、光が草原一帯に満ちる。
どうやって屠ったかは分からんが.....お前はここで死ぬ。﹂
﹁ガゼフ・ストロノーフ。最高位天使を召喚させたお前には敬意すら感じる。天使達を
片手に目的の物を持ち、ガゼフが天使達と闘っているのを見ながらニグンは言った。
﹁最高位天使を召喚する
!
34
!
ニグンの怒鳴り声が響く。
ありえない。かの魔人すら倒した、究極の力を持つ大陸最高位の存在が、何者かの攻
それをガゼフに問いかけようとしたニグンの腹部に、ガゼフの剣が
撃によって倒された。それも一撃で。
一体何者なんだ
突き刺さる。
れる者の背後にいたより大きな化物が動き出した。
謎の白い人型の化物を立て続けに狙撃していき、数もかなり減った頃、指揮官と思わ
││││││││││││││││││
│ │
そして剣が引き抜かれ、ニグンは崩れ落ちた。
?
﹁このままだとガゼフさんが殺られてしまう。初弾はメイス、次弾は頭で行こう。﹂
ルを取り出す。
スナイパーライフルを仕舞い、ベイグは双眼鏡を、トランはアンチマテリアルライフ
﹁おう、任せとけ。﹂
﹁動いたな。じゃあ、観測手を頼む、ベイグ。﹂
Battle support : The existence of magi
35
﹁了解。﹂
という発砲音と共に、12.7
99mmの弾丸が発射される。
双眼鏡には、ガゼフに近付いていく白い大きな化物が映っていた。
﹁距離はさっきと同じだ、風も無い。﹂
﹁よし、いつでも良いぞ。﹂
ダァン
﹁........fire.﹂
﹁いや、待て。ガゼフさんがトドメを刺した。﹂
﹁ありがとう。....次弾装填完了。﹂
﹁Beautiful.良い腕だ。﹂
!
指揮官が何か取り出したな.....おお、砕けた。って、何だありゃ
﹁おお、強いな。王国戦士長は伊達じゃ無いようだな。﹂
﹁んん
?
ガジンを取り付ける。
﹁そんなモノ持ってんのか....よし、準備は良いか
?
﹂
コッキングボルトを引き、チャンバーに榴弾を装填しながらトランが言った。
﹁OK.﹂
﹂
トランがマガジンを取り外し、チャンバー内の弾薬を排莢してから、榴弾の入ったマ
﹁デカイな.....この弾丸じゃ通らんだろうな。よし、榴弾を使う。﹂
!?
×
36
という一際大きな発砲音に、ベイグは耳を抑えた。
!
﹂
!
﹂
?
一日は終わった。翌日の早朝にはガゼフの部隊は王都に帰還して行った。
傷ついたガゼフと部隊の者達をカルネ村まで運び、怪我の治療を手伝った所で、長い
﹁だと良いんだがな。﹂
p│Boyにも反応は無いしな。﹂
﹁.....お前もか。私も何となく見られている気はしたが、多分気のせいだろう。Pi
﹁いや、誰かが見ている様な気がしてな 。﹂
﹁どうした
ベイグが何かに反応し、頭上の星空を睨みつける。
﹁ああ。.......
﹁よし、戦闘終了。ガゼフさんと合流しよう。﹂
﹁ハッハッハ、だろうな。おっ、ガゼフさんが指揮官を殺ったぞ。﹂
﹁一発当たりのキャップも馬鹿にならんがな。﹂
な。﹂
﹁ひー、耳がイカれそうだ。.....着弾。Good night. えげつない威力だ
ドゴォン
﹁......fire.﹂
Battle support : The existence of magi
37
﹂
昼頃。ベイグとトランは村の広場にいた。
ばですが。﹂
!
﹂
?
訪れることを楽しみにお待ちしております。﹂
!
﹁では、また会いましょう。﹂
﹁ちょっと待ってくれ、トラン。おーい、エンリ、ネム
﹂
﹁ええ、何から何までありがとうございます。カルネ村一同、ベイグ様とトラン様が再び
ければ。残りの二頭はこちらが貰いますがよろしいでしょうか
襲った騎士たちが残した馬の内二頭はそちらが貰って下さい。村の復興に役立てて頂
﹁それは良かった。では、また近いうちに寄らせて頂きます。.....あ、そうそう、村を
﹁そんな、命の恩人であるあなた方に不快感を感じる輩はおりません
﹂
﹁まあ、暫くしたら此処にまた来させて頂くつもりです。....村の方々が嫌じゃなけれ
そんな村長を励ますようにトランは続ける。
村長の顔に残念そうな色が浮かぶ。
﹁そうですか.....。﹂
﹁ええ、私達は旅人ですので。取り敢えずはエ・ランテルに向かいたいと思います。﹂
村長がベイグとトランに問いかける。
﹁行ってしまわれるのですか
?
38
ベイグが二人の少女を呼ぶ。少女達は自分の名を呼ばれた事に若干驚きながらも、ベ
イグの元に向かう。
﹂
?
な。﹂
!
馬に跨り、手綱を握る。
!
村人達からの声援を背中に受けながら、二人の男は馬を走らせた。
﹁﹁ご武運を、ベイグ様、トラン様
﹂﹂
﹁では、私たちはもう行きます、お元気で。﹂
﹁いい返事だ。........じゃあな。﹂
二人の少女は泣きそうになるが、それをこらえ、ベイグに元気よく返事をする。
﹁﹁.....はい
﹂﹂
ても辛かった。だがな、親ってのは死んでもお前達を見守っててくれる。それを忘れる
﹁親御さんが亡くなって、これからとても大変だろうと思う。俺も親父が死んだ時はと
ベイグそう言うと、二人の少女を優しく抱きしめる。
﹁それは良かった。﹂
﹁は、はい。もう痛くないし、大丈夫です。﹂
﹁エンリ、怪我は大丈夫か
Battle support : The existence of magi
39