パ ラ ダ イ ム シ フ ト

保険E R M 基 礎 講 座 《 第
回》
険会社グループのリスク
グローバルに活動する保
ている。この根底には、
た比較可能性が重視され
で、整合的な尺度を使っ
論 議 に お い て は、 単 純
進んでいる。当該指標の
基準(ICS)の論議が
てグローバルの保険資本
険年金監督機構)のレポ
2016年3月に出さ
れたEIOPA(欧州保
る動きも観察される。
を意識していると思われ
う。監督当局には、それ
にしていく必要があろ
具体的イメージを明らか
ずは、両者の相互連携の
ンシーⅡでは、長期保証
ィの回避として、ソルベ
ようなプロシクリカリテ
制する必要がある。この
うその行動についても規
助長する形で働かないよ
が金融市場の不安定性を
低金利が長期化する
と、保険会社の取る行動
スクフリー・レートを割
において市場整合的なリ
ばれているが、その算出
術 的 準 備 金(
)と呼
Ⅱでは、保険負債は、技
握される。ソルベンシー
価値に割り引く方法で把
払いや発生コストを現在
及ぼす危険事情(ハザー
ーしている危険に影響を
る。しかし、保険でカバ
スク)に限定されてい
(フランク・ナイトのリ
は、 計 測 し 得 る リ ス ク
保険が管理対象とする
リ ス ク は、 経 済 学 的 に
拠した制度である。
済的効率性の観点だけか
リスクは、経済的価値
との関係やその処理の経
する必要がある。
の立場からリスクを理解
とは異なる視点、社会学
る。その意味で、経済学
ても深い理解が求められ
や生活のありようについ
ある。
的視点で検討する必要が
呼んだ。ERMを社会学
(
と を、「 リ ス ク 社 会
し、このような社会のこ
y
t
e
i
c
o
s
k
s
i
R
)」 と
プルーデンスの観点から
ポートフォリオをマクロ
長期低金利状況の下で、
ンス対応(注2)」は、
ける域内マクロプルーデ
ート「長期低金利下にお
からの乖離(かいり)か
シー資本要件(SCR)
の緩和措置)やソルベン
LTGM、短期的変動性
:
た場合に、市場の短期的
来の長期的予測に採用し
足元の状況をそのまま将
動は平準化されるため、
期的視点では短期的な変
引率として使用する。長
ど、保険危険が内包する
環境変化が激しいときほ
ルも変化する。それ故、
フォリオ)のプロファイ
危険集団(リスクポート
ド)が変化すれば、保険
領域を重要だと考え、充
まな生活領域の中でどの
場合には、人々がさまざ
う視点からリスクを見る
存在する。社会生活とい
らは見えてこない領域が
~
を確認するため、
の強化を進めてきたのか
どのように資本管理態勢
向けて、欧州保険会社が
( 注 1) 年 1 月 の ソ
ルベンシーⅡへの移行に
c
i
n
h
c
e
T s
n
o
i
s
i
v
o
r
P
l
a
モニタリングする指標を
マクロプルーデンスとミ
(つづく)
確立しなければならない
クロプルーデンスをどの
◇
スクの移転)、子会社か
と い う 要 請 が あ る。 た
措 置(
ら支店形態への変更、分
だ、マクロプルーデンス
月に、欧州
年7
散の効いたリスクポート
カ国、
社の保険会社を対象に
反映させてしまう弊害も
技術的準備金評価に直接
ば、過去の傾向が将来の
が必要である。換言すれ
ワードルッキングな管理
術 的「 安 全 」 と 社 会 的
がある。社会学では、技
のかに思いをはせる必要
本管理調査2015年:
施した。(保険業界の資
資本管理に係る調査を実
実させたいと考えている
置が導入されている。
ある。そこで外部要因に
不確実な要素に対しフォ
るかが強く意識されてい
保険負債の市場整合的
評価は、将来の保険金支
な変動を長期保証契約の
る。その基本的な枠組み
ら回復する期間の緩和措
目的は異なるため、両者
は図表の通りである。
ように調整しつつ対応す
の指標間の整合性をとる
とミクロプルーデンスの
まれている。
ことは簡単ではない。ま
ータを観察すれば、そこ
る制度である。大量のデ
収支相等の原則で運用す
扶助を可能とするため、
し、その集団内での相互
保険は、同種の特性を
有する危険集団を構成
る(経過措置:
いく措置も認められてい
術的準備金を収束させて
し、段階的に割引率や技
を得て経過期間を設定
として、各国当局の承認
ーⅠからⅡへの移行措置
M)。また、ソルベンシ
(長期保証措置:LTG
を条件に認められている
整措置が各国当局の承認
スクフリー・レートの調
動性を回避するため、リ
よる負債評価の過度な変
ターン)やリスクを容認
同時に、新たな機会(リ
関心を払う必要があると
る人々の認知、価値観に
要がある。リスクに対す
変化を的確に捕捉する必
会構成員の保険ニーズの
化に誘発される経済・社
響、さらにそういった変
済活動、社会活動への影
術の変化やそれに伴う経
済に影響を及ぼす科学技
になることは、社会や経
れ故、危険の変化に敏感
に深く関与している。そ
は、日常生活、企業活動
みたい。保険が扱う危険
めの視点について考えて
ここで将来トレンドに
対する感応度を高めるた
る。
プール管理が求められ
将来トレンドを加味した
数の法則に基づきつつも
ない環境においては、大
予測にそのまま使用でき
会に充満していると指摘
いった新たなリスクが社
スクが、人類を脅かすと
制度自体が発生させるリ
近代が生み出した技術や
術を進化させてきたが、
て、われわれは、科学技
コントロールしようとし
スク(古典的リスク)を
恐れや不安を生み出すリ
いった自然災害に対する
によれば、地震や津波と
的なリスク」と呼ぶ。彼
を持つリスクを、「現代
や社会制度の構造に原因
社会学者のベック(注
3)は、科学技術の構造
ンが不可欠となる。
リスクコミュニケーショ
ンセンサスを得るための
素が変化するからであ
個人の価値観や主観的要
代によっても変化する。
を重視する。信頼は、時
心」の確保といった両面
「 信 頼 」 を 通 じ た「 安
◆この連載は隔週木曜
日に掲載します。
ものではありません)
であり、所属する組織の
(文中の意見に当たる
部分は執筆者個人のもの
法政大学出版局
美登里訳、1998年、
近代への道』東廉、伊藤
( 注 3) ウ ル リ ヒ・ ベ
ック『危険社会―新しい
r
u
S
e
c
n
a
r
u
s
n
I
n
i
t
n
)
5
1
0
2
y
e
v
i /
o
s
l
e
e
d g
. a
2 p
/
w a
j
w /
p
w j
/ /
/
m
:
p o
t c
t
.
h e
t
t
/
s
e
c
i
v
r
e
s
l
a
i
c
n
a
n
i
f
s
n
i
/
s
n
i
/
s
e
l
c
i
t
r
a
e
m
e
g
a
n
a
m
l
a
t
i
p
a
c
( 注 2)
l
m
t
h
.
t
n
l
a
i
t
n
e
t
o
p
A
p
a
l
a
i
t
n
e
d
u
r
p
o
r
c
a
m
n
i
w
o
l
e
h
t
o
t
h
c
a
o
r
p
n
o
r
i
v
n
e
e
t
a
r
t
s
e
r
e
t
t
i
s
n
a
r s
e
T r
u
s
a
e
m
l
a
n
o
i
n
e
v
l
o
S
e
h
t
n
i
t
n
e
m
a
M
3
2
t
x
e
t
n
o
c
I
I
y
c
3. リ ス ク 社 会
という視点
る。そこでは、社会的コ
に一定の法則が見いだせ
する企業活動のありよう
)。
るという大数の法則に依
e
m
e
g
a
n
a
M
l
a
t
i
p
a
C
た。
視点が新たに導入され
るマクロプルーデンスの
の影響をモニタリングす
金融危機以降の保険規
制には、金融システムへ
2. マ ク ロ プ ル
ーデンスの視点
のM&Aの実施などが含
u
g
m
r
e
t
g
n
o
L
の強化(
s
e
r
u
s
a
e
m
e
e
t
n
a
r
a
対応である。一方、 5 年
16
連載
不確実性の高まりは、
予想外の損失の可能性を
先に向けた課題について
フォリオを実現するため
有限責任監査法人トーマツ
ディレクター の回答者、以下同様)、
高める。それを担保する
は、どのように資本を調
15
10
ストレステストの手続き
資本の充実の要請が高ま
達し、これを活用し、最
資本最適化戦略には、
資産ポートフォリオ構成
10
50
1. 資 本 最 適 化
の強化
るのは自然の流れであ
適化することが可能かを
やリスクポートフォリオ
保険規制にマクロプル
ーデンスの視点が入って
(出典:EIOPA レポート『長期低金利下における域内マクロプルーデンス対応』
の「図 1:長期低金利に対処するためのツールと目標」
を試訳)
%)、内部モデル
る。同時に、いかに資本
検討する資本最適化戦略
保険業界では、過去5年
の選好、内部リスク移転
くる中で、国際的に活動
する保険会社(IAIG
対応手段
( %)、規制当局宛文
を効率的に管理するかに
( %)に圧倒的多くの
間、ソルベンシーⅡに対
(グループ内再保険会社
実行目標
書(
ついて関心が高まってい
応するため、資本を充足
の活用を含む)、保険負
s)の健全性の動向をモ
ニタリングする指標とし
RM関連パネルに参
加。現職にて、ERM
6
1
0
2
h
c
r
高度化関連コンサルに
従事。
中間目標
%)などへの
る。
するための各種取り組み
回答が集まった。
がなされたとの回答が寄
債の変更(リスク・マー
デロイトのサーベイ
(注1)によると、欧州
せられた。例えば、資本
ジンの状況を踏まえたリ
保険交渉、合併・経営
統合に伴う経営管理体
制 の 構 築、 海 外 M &
大阪大学経済学部卒
業、コロンビア大学ビ
ジネススクール日本経
済経営研究所・客員研
究員、中央大学大学院
総合政策研究科博士課
程修了。博士(総合政
プロシクリカリティの回避
過度な利ざや追求行為
(search for yield)の抑制
耐性の強化
システミックリスクのインパクトの軽減
システミックリスク発生の可能性の低減
・ソルベンシーⅡ標準フォー
ミュラーにおける株価リスク
の株価変動に対する対称的な
動き(カウンターシクリカリ
ティ効果)
・技術的準備金算定に使用される
割引率(リスクフリーレート)に
適用されるマッチング調整、ボ
ラティリティ調整(短期的変動
性の緩和措置:Long term
guarantee measures はプロシク
リカリティの回避効果がある)
・SCR 乖離からの回復期間緩和
措置
・リスク状況の変化に伴うソル
ベンシーⅡの資本要件の上昇
・資本の増強または配当の取り
止め繰り延べ
・G-SIIs に対する HLA(上乗せ
資本)
・過度な予定保証水準の抑制
・再建破綻計画の強化
A、 保 険 E R M の 構
築、グループ内部モデ
ルの高度化、リスクア
ペタイト・フレームワ
ーク、ORSAプロセ
S、Geneva A
ssociatio
ス整備に従事。IAI
て、企画部長、リスク
金融システム安定化と経済成長
76
%
管理方針の明文化(
後藤 茂之
パラダイムシフト (その3)
28
策)。
最終目標
86
84
90
n、EAICなどのE
大手損害保険会社お
よび保険持ち株会社に
ル】
【後藤茂之氏プロフィ
88
管理部長を歴任。日米
図表 長期低金利に対処するためのツールと目標
2 0 1 6 年(平成 2 8 年)1 1 月 1 0 日(木曜日) ( 4 )
(第 3 種郵便物認可)