SDGs達成に向けたJICAの取組

2016年12月7日
第53回環境工学研究フォーラム企画セッション
「SDGsの達成に向けた水道・下水道分野の国際展開に係る課題と今後の展望」
SDGs達成に向けたJICAの取組
独立行政法人国際協力機構
国際協力専門員 松本重行
お話しする内容
SDGsの目標達成に向けて、
日本及びJICAが貢献できることは多い。
つの注目点
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① 水供給・衛生サービスの「質」の向上が求められる。
②
水利用の効率化や持続可能な取水が求められる。
③ SDGsの達成には、資金調達と能力強化が極めて重要。
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JICAの水・衛生分野の協力
2007年以来、援助機関の中で最大の貢献(トップドナー)
12∼18億ドル/年(同分野の世界のODAの概ね20%)
資金協力(施設整備)と技術協力(能力強化)を一体的に
組み合わせて実施
JICAの協力対象国は約150か国
水・衛生分野も、アジア、中近東、アフリカ、中南米に亘る
アジアの都市水道への協力(例:カンボジア・プノンペン)
アフリカの村落給水にも多くの支援実績
3
カンボジア・プノンペンへの協力
1993年
1999年
2003年
2004年
内戦後の復興支援開始。水道整備基本計画(マスタープラ
ン)策定、無償資金協力による施設の復旧・拡張。
水道普及率:25%
料金徴収率:48%
1日10時間給水
北九州市からの技術協力専門家派遣開始。人材育成に着
手。
水道普及率:62%
料金徴収率:99%
24時間給水
技術協力プロジェクト開始。水質管理、浄水処理、
配水量管理等に関する人材育成と組織的な能力強化を支援。
水道普及率:82%
水道水は飲用可能であることを対外的に公表。WHO飲料水
水質ガイドライン値を満たす水質の水道水を、24時間供
給。
水へのアクセス確保から、質の向上へ。
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① 水供給・衛生サービスの「質」の向上が求められる。
ミレニアム開発目標(MDGs)に対する批判
MDGsでは、「改善された水源」と「改善されていない水源」の二分法
「安全」な水
改善された 飲料水源
•
•
•
•
•
•
•
家屋までの配管給水(上水道)
敷地までの配管給水
公共水栓
深井戸
保護された浅井戸
保護された湧水
雨水
「安全」でない水
改善されていない 飲料水源
• 保護されていない湧水
• 保護されていない浅井戸
• ドラム缶や小さいタンクを積んだ
カートによる水売り
• 給水車
• 表流水(河川、湖沼)
• ボトル水
水質等のサービス水準が考慮に入っていないという批判
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SDGsにおける水供給・衛生サービスの「質」の追求
水供給
ターゲット6.1
2030年までに、安全で入手可能な価格の飲料水に対する全ての人々の
公平なアクセスを達成する。
アクセス:
往復、待ち時間含め30分未満の水汲み
さらには敷地内での入手
入手可能性:
必要な時にいつでも入手可能
水質:
糞便性指標や優先度の高い化学物質指標の汚染がない
衛生・下水道
下水処理:
未処理の下水の割合を半減
汚泥:
腐敗槽(セプティックタンク)等の汚泥の適切な処理・
処分
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サービスの「質」の段階設定
WHO/UNICEF は、5段階の「Drinking Water Ladder」を提案。各国の状
況に応じた段階的なサービスの「質」の向上を目指す考え。
Safely
managed
• 「Basic」に相当する水源で、敷地内にあり、必要な時に入手可
能で、糞便性指標や優先度の高い化学物質指標の汚染がない。
Basic
service
• 配管給水、深井戸、保護された浅井戸・湧水、雨水。
往復、待ち時間含め30分未満の水汲み。
Limited
service
• 改善された水源であるが、待ち時間含め往復30分以上の水汲
み。
Unimproved
No service
• 保護のない湧水・浅井戸、ドラム缶や小さいタンクのカートの
水売り、給水車。
• 表流水(河川、ダム、湖、池、渓流、運河、灌漑用水路)
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サービスの「質」を追加することのインパクト
水供給
93
89
75
80
60
50
40
30
20
10
必要な時に利用可能
67
70
敷地内で利用可能
人口に対する割合(%)
90
「Safely managed」の要素
On premises
Available
0
Improved
Basic
69%
27
糞便性
汚染がない
100
ネパールにおける試算例
24
No contamination Safely-managed
Angela Kearney, Country Representative, UNICEF Pakistan及びThewodros Mulugeta, OIC WASH Section,
UNICEF Pakistanのパキスタンにおけるセミナー資料より。元データは、UNICEFが実施しているMICS(Multiple
Indicator Cluster Survey)調査の2014年度調査結果を利用。
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サービスの「質」を追加することのインパクト
衛生・下水道
マテリアルフローの試算例(ダッカ)
未処理、
不法投棄、
オーバー
フローなど
The Missing Link in Sanitation Service Delivery : A Review of Fecal Sludge Management in 12 Cities,
Water and Sanitation Program (WSP), 2014
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② 水利用の効率化や持続可能な取水が求められる。
水・衛生分野のSDGs
水供給
水域
生態系
水供給
と衛生
統合
水資源
管理
ターゲット6.1、6.2
衛生
衛生行動
水質
MDGsからの継続
ターゲット6.3∼6.6
SDGsで新たに追加
水利用効率
取水
10
ターゲット 6.4 水利用効率の向上と持続的な取水
ターゲット6.4
2030年までに、水不足に対応するために、
全てのセクターの水利用効率を大幅に向上させ、
持続的な取水と淡水供給を確保し、
水不足に苦しむ人々の数を大幅に削減する。
節水、漏水削減
再利用
計画的な
水資源開発計画、
利水計画
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③ SDGsの達成には、資金調達と能力強化が極めて重要。
SDGsを達成するための必要投資額
• しかし、「Safely managed」の
サービス水準を達成するために
は、3倍以上の投資が必要。
• さらに地域差が大きい。アフリカ
と南アジアで多額の投資が必要。
• 水・衛生分野へのODAは、年間70
∼80億ドル程度の水準。これでは
全く足りない。
100
90
必要投資額(10億ドル/年)
• 「Basic」のサービス水準は、
概ね総生産の0.1%程度(MDGs
時代と同程度)の投資で達成可
能。
80
衛
生
70
60
50
40
水
供
給
30
20
10
0
Basic
Safely
managed
Guy Hutton and Mili Varughese (Water and Sanitation Program (WSP), World Bank)
The Costs of Meeting the 2030 Sustainable Development Goal Targets on Drinking Water, Sanitation, and Hygiene, 2016
ODA
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都市部か、村落部か
全国
都市部
都市部の人口増加が進
行。水へのアクセスの整
備は、人口増加に追いつ
かせるのがやっとの状
態。
サブサハラアフリカは
追いついておらず、46か
国中14か国で、都市部の
水・衛生へのアクセス率
がむしろ低下。
「Basic」のサービス水
準達成に必要な投資は、
改善された水源へのアクセスが得られた人口の増加と、 水供給で80%、衛生で
70%が都市部。
人口増加の比(1990∼2015年)
JICAの協力でも、従来村落給水分野が中心だった
アフリカで、都市水道分野の支援が増加傾向
WHO, UNICEF (2015) 25 Years Progress on Sanitation and Drinking Water ‒ 2015 Update and MDG Assessment
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建設費か、維持管理費か
10億ドル/年
施設整備が進むにつれて、
必要投資額に占める維持管理費用の割合が増加する。
維持管理費用は、援助ではなく自助努力で賄うべき。
維持管理費
建設費
Guy Hutton and Mili Varughese (Water and Sanitation Program (WSP), World Bank)
The Costs of Meeting the 2030 Sustainable Development Goal Targets on Drinking Water, Sanitation, and Hygiene, 2016
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資金調達と能力強化
• 都市部の方が必要投資額が多いが、料金によるコスト回収の可能性が
高い。ただし、貧困層の支払い可能性に配慮が必要。
• 料金だけで施設建設に必要な投資を賄うことは困難。日本も施設整備
には補助金を投入している。適切な政策目的に対して、的確にターゲ
ティングされた補助金の投入が必要。
• 公的資金では不足。民間資金の活用が不可避。しかし、水道分野は
実績が少ない。①健全な財務管理、②規制枠組みと予測可能性の向
上、③組織制度面の能力強化など、総合的な取り組みが必要。
• ODAは能力的に課題の多い国へ重点的に配分し、制度環境の整備や
能力強化が進むにつれて、民間資金の活用を増やす支援を行うなど、
相手国のレベルに応じた段階的なODAの使い方を考える必要。
• 施設整備が進むと維持管理費用が増加する。維持管理費用を賄うため
には、料金によるコスト回収、予防的メンテナンスによる費用低減
などに、事業体自身が取り組む必要。
水事業体及びセクターの能力強化が重要
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JICAの強み
水供給・衛生サービスの
「質」の向上が求められる。
水利用の効率化や持続可能な
取水が求められる。
SDGsの達成には、資金調達
と能力強化が極めて重要。
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 これまでも水質や下水処理を
重視してきた実績。
 漏水対策を含む無収水対策の
協力を多数実施。
 水資源開発・管理マスタープラ
ン策定支援の実績多数。
 資金協力と技術協力の双方を
本格的に投入可能。
 事業体に対する能力強化支援に
実績。国内の産官学の多大な
貢献。
JICAの重点的取組方針
(1)JICAの優位性を活かした貢献
• 能力強化と施設整備の双方への協力
• 長期的な視点を踏まえた協力
• 国内の幅広いネットワークと我が国が培ってきた知見、経験、技術を
活用した協力
• 途上国のパートナー機関と協力した南南協力
(2)都市部の水供給分野に対する取り組み
• 事業体の経営・運営能力強化
 基盤となる政策制度の整備
 市民の水道事業に対する理解の促進
 無収水率低減による効率的な経営の実現
• 施設整備による収入基盤拡大と包括的な能力強化
• 民間資金を含む自立的な資金調達や民間セクター活用の促進支援
• 地方自治体との連携強化、地方創生にも資する取り組み
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JICAの重点的取組方針
(3)村落部の水供給・衛生分野に対する取り組み
• 安全な飲料水源へのアクセスの拡大
• 住民による維持管理体制と、それを支える行政のサポート体制強化
• 衛生啓発支援
• 保健・教育分野と連携し、公衆衛生改善、学校トイレの整備、ボラン
ティアによる啓発活動等も含めた取り組み
(4)水質改善分野に対する取り組み
• 衛生施設へのアクセス拡大
• 生活雑排水の処理も含めた下水道等汚水処理施設の整備
• 衛生施設・汚水処理施設の適切な維持管理
• 公共用水域の水質保全に向けた法制度整備やモニタリング体制の整備
• 制度・体制整備、能力強化
• 日本の地方自治体・民間企業との連携、日本の技術やノウハウの活用
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JICAの重点的取組方針
(5)統合水資源管理分野に対する取り組み
• 自然科学的技術(水を知る)と社会科学的技術(人と社会を知る)の
併用による、多様なステークホルダーの利害調整と社会的合意形成
 対象とする社会・文化及びステークホルダーの十分な理解
 自然科学的成果の分かり易い説明と関係者間での共有
 合意形成プロセスの枠組形成と促進
 慣習法を含む法制度や利害調整メカニズムの整備
 利害調整・合意形成のプロセスや成果を分かりやすく共有する
工夫
• 水資源開発・管理マスタープラン策定
• モニタリング能力の強化支援
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日本の知見の発信が重要
•
SDGsの達成に向けて、日本の知見はますます必要とされている。
 人口増加、都市化、水需要の急増、水質汚濁、地下水資源の劣
化、資金調達など、SDGsの下で今後予見される変化や問題は、
日本が高度経済成長期に直面して克服してきた課題に類似。
 日本は「課題先進国」。経済の成熟、少子高齢化、インフラ建設
から維持管理へのシフトは、いずれどの国も取り組まなければ
ならない課題。
日本の知見をまとめること、発信することは重要
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SDGsへの貢献にあたってのチャレンジ
貧困層等の「取り残される
人々」への裨益を重視。
 貧困層の接続促進、料金政策提言、
障がい者配慮等の蓄積が必要。
ODAを「てこ」とした
民間資金動員が必要。
 ガバナンス支援、法制度整備、
資金調達メカニズムの整備等を
強化する必要。
増えたターゲットと指標に
対応したモニタリングが
必要。
 所得レベル、性別、民族、障がいの
有無等を考慮したグループ別の
データの整備。
 途上国の統計能力強化。
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国内の幅広い関係者との協働が不可欠
水道・下水道事業体
 専門家派遣、研修員受入、草の根技術
協力等を通じたJICA事業への参画
 事業体間連携、自治体間連携への発展
大学・研究機関
 政策提言、ガバナンス分野の協力等に
対する知的支援
 留学生プログラム等を通じた人材育成
 JICA民間連携事業の活用
民間企業
 途上国向けの技術・サービスの革新
 SDGsの経営への反映(SDGs Compass)
NPO
 「取り残される人々」へのきめ細かい
配慮が必要な分野での協力
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国際協力は日本にとっての学びにもつながる
•
SDGs達成に向けた途上国との協働は、日本にとっても、自らの課題
の解決につながるヒントが得られる。
 途上国には多様なガバナンス、規制、事業体がある。
 日本よりも広域化が進んでいる例や、民間活用の様々な形態など
も見られる。
 多様な取り組みやそこからの教訓を知ることで、日本にとっても
参考になる知見が得られる。
•
国際協力は、日本にとっての人材育成にもなる。
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ご清聴、有難うございました。
お問い合わせ先
独立行政法人国際協力機構
国際協力専門員
松本
重行
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