社会的インパクト投資

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社会的インパクト投資
前原 仁司
東急不動産キャピタル・マネジメント株式会社
代表取締役社長
社会的インパクト投資とはなにか
れる社会的なリターンを内在する経済行為を起源とし
社会的インパクト投資とは、社会の課題を解決しつ
て、他のヨーロッパ諸国でも従前より存在していた。
つ、経済的リターンも同時に追求する投資のことであ
特に、2008 年の金融危機以降 、様々な社会課題に
る。ESG 投資の前提が、負の社会的インパクトを避
対応するための、新たな投資のあり方として、世界
けて、経済的リターンを確保するものとすると、一般
的に注目されている。
的には投融資の資金が入りにくい社会領域にリスク
2013 年にロンドンで開催された G8で、グローバル
マネーを投入して、新たな正の社会的なインパクトを
に推進することを目的に、タスクフォースが設立され、
産み出すことを企図した投資のことであり、その対象
同時に世界の100 近い投資家・運用機関が FT 紙
となる地域は新興国市場と先進国市場とのどちらも
に賛同する公開文書を発表した。
対象となる。
日本でもその動きを受けて「 G8インパクト投資タス
概念自体が未熟であり諸説あるが、その規模は
クフォース日本国内諮問委員会 」が設けられ、現在
2014 年全世界で1,090 億ドルほどと、いわゆる社会
にいたるまで様々な調査・報告・提言がなされてきてい
的責任投資( SRI )全体の0.5%でしかないものの、
る。本年 9月28日発表の「日本における社会的イン
2020 年までには5,000 億ドルから1 兆ドル規模にまで
パクト投資の現状 2016 」は現時点でいちばんまとまっ
拡大するだろうという試算もある。
た文献だと思われる。
これによると、そもそも日本では、少子高齢化社会
世界の潮流と日本の動向
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の加速化による社会保障費の膨張 、大きな自然災害
米国ではもともとあったフィランソロピーと資本市場
の発生 、経済の低成長などによる社会問題の広範
とを繋ぐ役割を、英国では Ethical Finance と呼ば
化に対し、公的セクターの資金不足が顕在化するな
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.34
か、非営利組織の法的地位が強化されてきたことも
ア施設の提供 、低炭素化社会の実現への取り組み
あって、その活動が活発化してきており、必然的にそ
などを目的とした社会的インパクト投資ファンドがあ
の資金需要も伸長している。投資家サイドからは
る。REIT の仕 組を活 用して、米 国の Housing
SRI の一環として ESG 投資が注目されている。
Partnership Equity Trust 、英国の H4H REIT
といった、社会的弱者への住宅を供給するための
社会的リターンと経済的リターン
試みもすでに実現している。
社会的インパクト投資を行うのに、社会的リターン
日本では、地方創生の取り組みの一環としての扱
と経済的リターンとを、どうバランスさせるのか。両者
いで、証券化手法を活用する動きがあり、更にそれ
は対立するものではなく、投資により社会にインパクト
を加速するには、社会的インパクト投資との概念を明
を与える、
という目的を併せ持つため、投資効果の項
確に位置づけ、より広範な投資家にアクセスすること
目や測定方法も多様となる。実際 、社会性と経済性
を考えるべきであろう。
は対極にある、というよりも投資家固有のミッションや
投資方針によって異なってくる。
ここで問題となるのは、どうやって社会的インパクト
を測定するのかであろう。この稿で詳細を述べるの
は難しいが、必ずしも数値化することだけが手法で
また別の視点として、金融危機の最中、結果的に
一部の社会的インパクト投資が高収益をもたらす投
資になった事例があり、社会的インパクト投資が将来
性のあるアセットクラスとみなされた面も否めない。
豊田通商は2014 年にアフリカで社会貢献型ベン
はないことと、その測定 、可視化 、評価なくしてサス
チャー企業のためのファンドを組成した。必ずしも、
テナブルな投資ではない、との認識が共有されてい
本業にとって即効性のあるリターンを求めてのことで
る。
はないであろうが、いわゆるボトム・オブ・ピラミッドにア
現在受託者責任の観点からは、ESG を考慮せず
クセスするための、ひとつの方法であろう。
に経済的リターンだけを追求する、という投資はあり
例えば不動産業界として、開発途上国の住宅問
得ないと思われる。社会的インパクト投資を受託者
題 、環境問題等に対し、最初は社会的インパクト投
責任の範疇で、どう扱うべきか、投資家との議論を
資の側面から自らの知見と資金とを供給し、引いて
進めるべきであろう。
は本業とのシナジーのなかで、中間層の拡大と共に
家庭を築きたいという世代の住居需要に対し、ビジネ
不動産と不動産証券化へのインプリケーション
不動産というドメインでいろいろな社会的インパクト
投資の事例を見ると、新興国市場と先進国市場とを
問わず、社会的弱者への Affordable Housing・ケ
スとしても成り立つようにする、といったことも考えられ
ると思う。
本稿は、筆者の個人的見解を記載したものであり、筆者
の所属する組織とは関係はありません。
November-December 2016
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