Title Author(s) Citation Issue Date URL 小原國芳「全人教育論」のレトリック 皇, 紀夫 臨床教育人間学 (2002), 4: 5-19 2002-03-31 http://hdl.handle.net/2433/196991 Right Type Textversion Departmental Bulletin Paper publisher Kyoto University 5 小 原 國芳 「全 人 教 育 論 」 の レ ト リ ッ ク 皇 1)は 紀 夫 じめ に(考 察 の視 点) 小 原 國 芳(1887∼1977)は 全人 をGodtermと 全 人 教 育論 に お いて ホ ン トの教 育 を語 ろ う と した 。 そ れ は、 す る 教 育 本 質 論 、 教 育 原 論、 教 育 根 本 論 な ど、 教 育 の 「原 型 」 論 の系 譜 に属 す る用 語 や 概 念 に よ って構 成 さ れ た言説 で あ るが、 本 研 究 の ね らい は、 この 「本 質 」 や 「根本 」 を 語 る そ の 語 りの 型 と筋 立 て を レ トリ ック論 や ス タイ ル 論 か ら解 釈 す る こ とで あ る。 言 うま で もな く、 語 られ る内容 と語 りの形式 の関係 は相 互 に生 産 的 で あ って 同 時 に相 互 制 約 的で もあ る と い う、2重 の力 動 関 係 で結 ば れ て い る とい え るが、 しか し、 一 般 的 に い え ば教 育 論 にお いて 「本 質 」 を語 る場 合 、 内容 に比 べ る と、 語 りの形 式 へ の関 心 は強 い と は いえ な い。 こ こで は 、 小 原 の 全 人 教 育 論 を 教育 の本 質 を語 る典 型 的な 言 説 の事 例 と見 立 て 、 彼 の 場 合 、 本 質 を 語 るそ の 形 式 が ど の よ うな レ ト リック と語 りの ス タ イ ル に よ って構 成 展 開 され て い るか を 検討 して み た い。 考 察 の発 端 は 、 ケ ネ ス.バ ー ク(KennethBurke,1923∼1993)が (Substance)の い う と こ ろ の、 本 質 逆説 な い し レ トリ ッ ク論 に あ る。 バ ー クは次 の よ う に言 う。 「あ る事 物 の定 義 は そ うで な い事 物 に よ って 行 わ れ る とい う否定 す べ か ら ざ る事 実 が あ り、 弁 証法 的本 質 は この 事実 を極 端 に お しす す めて反 対 揮念 同士 を組 織 的 に考 察 思 弁 した結 果 引 き出 され る もの で あ る」(『動 機 の 文 法 』59頁)(弁 証 法 的 本 質 とは 「劇 的Dramatism」 と同 じ意 味)と 。 っ ま り、 バ ー ク に よ れ ば、 存在 と活動 のす べ て に根 本 的 な 基 盤 や 根 拠 を与 え よ う とす る思 考 は必 然 的 に、 そ の根 拠 を支 え るた め に、 そ の 存在以 外 以 上 の もの つ ま り 「非存 在 」 を想 定 す るこ とに な る。 全 人 教 育 論 に即 して言 え ば、 全人 を 語 る文脈 は、 必 然 的 に そ の対 極 を 呼 び出 し、 そ れ らを組 織 して反 全 人 あ るい は非 全 人 を露呈 させ る こ とに よ って、 逆 の視 点 か ら全 人 を語 り直 させ 、 出発 点 と して の 「全 人 教育 」 が頓挫 す る、 この皮 肉 な 「受 難 」 を本 質論 は避 け る事 がで きな い ので あ る。 したが って ま た視 点 を返 して い え ば、 本 質 言 説 は、言 葉 の戦 術 6臨 床教育人間学 第4号(2002) と して 「い ち ば ん 曖 昧 な もの で あ るはず の本 質 を、 い ち ばん 確 実 な もの と考 え て論 をす す め る 『本 質 化(substantiation)』 の 役 割」(同 書、81)を ひ そ か に仕 掛 けて い る と も言 え る訳 で あ って 、 こ う した、 バ ー ク的 に言 え ば、 曖昧 な ものを 確 実 な 本 質 と して語 る 「代 表 的逸 話 」 と して小 原 の 全 人 教 育 論 を取 り上 げ て み るの で あ る。 「本 質 の概 念 を入 念 に検 討 す れ ば す る ほ ど、 そ れ は 空 中 に飛 散 して しま うの を認 め な いわ け に は い か な い 。 だ が逆 に、 い さ さか視 線 を ゆ るめ れ ば 、 再 び本 質 は もとの か た ち を と りは じめ る の で あ る。」(同 書 、81) そ れ は 、教 育 の 本 質 を 語 ろ う とす る、 言 わ ば 「名 ず け の欲 望 」 に強 く動 機 付 け られ、 苦 心 して発 明工 夫 され た 語 りの ス タ イル を解 明 す る試 みで あ り、 教 育 者 が教 育 の 「本 質 」 につ い て語 る時 、 ひ そ か に演 じて い る語 りの演 技 を 明 るみ に 出す 手 掛 か りを得 る こ とで あ る。 小 原 の全人 教 育論 に お いて特 別 な役 割 を 果 た し、 か つ本 質 言 説 の 言 語 戦 略 が 分 か りやす く読 み取 れ る語 旬 は、NicolausCusanusが 提 唱 した 「反 対 対 立 の合 致 」(小 原 は こ の 《coincidentia oppositoruln》 を 「反 対 の 合 一 」 と呼ぷ の で、 以 下 これ に従 う。)で あ り、 これ が、 彼 の全 人論 の本 質 言 説 が 必然 的 に生 み 出 す 「あ いま い さ」 や 「反 全 人 」 を 受 難 して 回 収 す る巧 妙 な 戦 略 的仕 掛 け で あ った とい う こ と、 これ に加 え て、 この 「反 対 の 合 一 」 を語 りの 形 式 にお い て演 出 した もの が 「脱 線 」 とい う一 見 偶 然 に み え る語 りの 演 技 で あ る。 この2つ が 全 人 教育 論 の展 開 を可 能 に した語 りの技 法 で あ った と考 え るの で あ る。 2)全 人 教 育 論 の 目論 み 小 原 の 全 人 教 育 論 は、 小 原 國 芳 全 集(玉 川 大学 出版 部 、 全48巻)の 掲載 され て いて 、 前 者(以 下 、 全 人1と 呼 ぶ)は1921年 第15巻 に の 「八 大 教 育 の 主 張 」 か ら転 載 し た もの で、 言 わ ば小 原 全 人 教 育 論 の デ ビ ュー作 で あ る。 こ れ に対 して 後者(以 呼ぶ)は 、48年 後 の1969年(翌 と第33巻 下、 全 人2と 年 改版)に 出版 され た作 品 で、 これ はそ の序 が 「全 人教 育! 私 は ホ ン トに、 正 しか っ た、 とつ くづ く感 謝 して い ます 。 香 川 師 範赴 任 以 来 、 全 人 教 育 五 十 六 年 」 と い う台 詞 で始 ま る、 言 わ ば全 人教 育 の勝利 宣 言 で あ る。 した が って、 これ ら二 つ は 同 じ 「全 人 教 育 」 を名 乗 りな が らその 内容 に は相 当 の違 いが 認 め られ る。 両者 の差 異 を 内容 面 で比 較 検 討 す れ ば、 約 半 世 紀 に わた る全 人 教 育論 の変 遷 を手 掛 か りに 日本 の教 育 思 想 形 態 の変 容 を 開明 す る魅 力 的 な 作業 と な るだろ うが、今 は、 こ こでの 研 究主 題 に即 して2点 に 限 っ て検 討 して お きた い。 第 一 は全 人 教育 の 「全 人 」 に関 して で あ る。 小原 に よ って 繰 り返 し語 られ る 「全 人 」 の 命 名 に まつ わ るエ ピ ソー ドは有 名 で あ るが、 しか し、 「全 人 教 育 」 につ い て は 「苦 しみ 苦 しん 皇:小 原國芳 「全人教育」の レトリック7 で命 名 した そ の 名 は え らい名 で もな く、 至 って平 凡 な 名前 全人教育 で あ った」(全 人1- 351)と 述 べ て い る よ う に、 彼 に と って 目新 しい もの で は な か った 。 事 実 、 小 原 の 大 学 卒 業 論 文 を一 部 手 直 し した作 品 『教 育 の根 本 問 題 と して の 宗 教 』(全 集 第1巻)一 帝 国大 学 を卒 業 す る の は1918年 小 原 が京 都 で あ り この論 文 が 発 表 され る の は そ の 翌 年 で あ る 一 にお い て 「こ の六 の美 しい 調 和 を保 った 人格 を私 は全 人(ロコ)と い う。 全 人 格 、 フ ィ ヒテの い った 文 化 人 格 の こ とで あ る。 一(中 略)一 しか も、 あ の美 しい 優 美 な 調 和 の奥 に 、 ガ ッチ リ した 強 さ、 野 趣 、 素 朴 、 毅 然 た る もの が 嚴 存 して欲 しい 。 ドイ ツ語 のGanzermensch全 う語 の 強 さ、 ガ ッチ リさ が 特 に望 ま しい もの で あ る。」(全 集1絡3)恐 人 とい ら く、 全 人 と い う用 語 が 初 め て現 れ る箇 所 で はな いか と思 わ れ る。(た だ し、 小 原 が あ とか ら加 筆 した 可 能 性 も 否 定 で き な い が 確 か め な か った。)こ こで は、 全人 は シ ュ ラ イエ ル マ ッハ ー の 「教 養 あ る人 dieGebildθten」 に相 当 す る調 和 的 人格 の 形 成 を教 育 理 想 と して 提 示 した もの で あ る。 「全 人 教 育 」 を語 る小 原 の 言 説 は これ 以 降 ほ ぼ一 一定 して い る。 全 人1に Kulturcharakter一 お いては、文化 的人格 小 西 重 直 が使 った もの 一 を 、 総 合 的 教 育 とい い全 人 教 育 と も称 して い る(全 人1-365)。 全 人2に あ る全 人 教 育 の ニ ュア ンス も1の それ に近 い。 「か くて 、 英 語 のWholemenよ homototusの り も、 ドイ ツ 語 のDerGanzeMenschや ラ テ ン語 方 が 力 強 く響 きま す。 で も!「 全 人!」 私 の心 臓 に は、 た ま らな く美 し く力 強 く響 き ま す。 全 人 教 育 、 個 性 尊 重 、 自学 自習 、 労 作 教育 … … これ らに よ って、 世 界 は 浄 め られ、 救 わ れ る の だ と信 じ ます 。」(全 人2-114) そ して さ ら に、 全 人2の 結 び で は八大 教 育 主 張 の 回想 と賛 歌 が綴 られ て い る。 小 原 に と って それ は文 化 的人 格 や 総合 的教 育 で は な く 「ガ ッチ リ した」 美 し く力 強 い響 き を もつ 語 、 心 の臓 に ひ び く音感 《ゼ ンジ ン》 であ り 《ガ ンツ》 で な け れ ば な らなか った の で あ る。 確 か に、 小 原 の 全 人 教 育 論 は リ ッケ ル トらの価値 体 系 論 を モ デ ル に して 、 真 善 美 聖健 富 の 六 つ の局 面 の調 和 的 形 成 を め ざす言 わ ば ロマ ン主 義 的 な文 化 教 育 論 の 一 種 で あ って 、 当 時 の 教育 論 の動 向 か らみ て も理 論 的 には む しろ平 凡 であ る といえ る だ ろ う。 八 大 教 育 の発 表 後 、 「至 極 穏 健 な 話 で あ りま したが」 とか 「話 を 聞 いて い て 散文 詩 で も読 む よ うで あ っ た」 との 感想 が 出 席 者 か ら寄 せ られ て い る の も頷 け る(全 人1-403)。 小 原 の 教 育 論 を教 育 の理 論 的 な斬 新 性 とか精 密 性 あ る い は 自己反 省 と対 話 的生 産 性 な ど教 育 の 学 的 水 準 か ら評 価 す る とす 8臨 床教育人間学 第4号(2002) れ ば、 児 童 中心 的 な新 教 育 の展 開 に啓 蒙 的 な役 割 を果 た した と い う意 味 に お いて の評 価 に比 べ る と、 そ の落 差 は小 さ くな い と思 う。 こ う した 「ア カ デ ミ ック」 な教 育 学 の体 系性 や論 理 性 を重 視 す る観 点 か らす れ ば、 小原 の全 人教 育 は あま りに も前 体 系 的 で あ り、 個入 の教 育 的 心情 を教 説 的 な確 信 言 説 で 語 った もので 、心 情 的 な共 鳴 と覚 醒 を 促 す語 りの 形 式 に属 す る学 的評 価 に は な じみ 難 い性 格 を備 えて お り、 したが って ま た 、 そ れ1ま教育 現 場 の実 際的 に役 立 つ狭 い意 味 で の教 授 法 の伝 達 と習 熟 を 目的 と した もの と も言 え な い の で あ る。 小原 に とって の主 題 は ど こ まで も教 育 の 「根 本 」 を語 るこ とで な けれ ば な らな か った。 少 し割 り切 った 表 現 をす れ ば、 彼 は教 育 の 学 と しての 理論 構 築 を直 接 の 目的 に した訳 で は な い し、 学 校 現 場 の 指導 技 法 の開 発 を 目指 した 訳 で もな い。 確 か に小原 は、 学 校 教 育 の具 体 的 な場 面 や指 導 法 や 内容 を素 材 に成 城 や玉 川 で の教 育 実 践 を全 人 教 育 の モ デル と して語 るの で あ るが、 しか し、 そ う した教 育 の 個 別 的 な 部 分 事 象 は 「ホ ン ト」 の教 育 と い う全 体 と根 本 を語 るた めの啓 蒙 的 な手 段 で あ って 、 目的 で あ っ た訳 で はな い。(資 料1お よ び1参 照) む しろ全 人 教 育 論 の 「論 」 解 釈 にお い て今 日求 め られ て い る立 場 とは、 小 原 自身 が 指摘 す る よ う に、 全 人 教 育 論 を 語 りの 発 話行 為 と一 体 的 に理 解 す る と い う、 新 しい教 育 論 解釈 の文 脈 あ るい は視座 を工 夫 発 明 す る こ とで はな いか と思 う。 つ ま り 「全 人」 は、一 方 で小 原 に と っ て は心 臓 に響 く、 情意 的/身 体 的 な言 語 で あ った。 この 身 体 言 語 は しか し、 自然音 声 に 由来 す る発 声 的言 語 で は な くて 、逆 に極 めて 抽象 的 で思 弁 的 な観 念 に結 び付 くこ と に よ って具 体 的 な 印象 を与 え る とい う、 い わ ば書 記 的 な言 語 の性 格 を も って お り、 小 原 の 心 臓 に響 く 「ゼ ン ジ ン」 とは、 そ れ が彼 の好 み に合 った 望 ま しい音調 で あ った と して も、 そ れ は 単純 な発 声 言語 で は な く、 既 に高 度 に意 味 論 的 に加 工 され た書記 的/歴 史 的 な言 語 で あ って、 かつ 発 話 の響 き に お い て特 別 に音 調 的意 味 が与 え られ て いた の で あ る。 他 方 で 「全 人」 は、 教 育 の根 本 を語 る 「合 言 葉 」 の性 格 を 持 つ に至 った。r合 言 葉 」 は 優 れ て 社 会 的 身 体 と結 び付 く発 話 行為 で あ って 、 語 り手 と聞 き手 とが 集 団 的 に結 び付 く関 係 作 りの場 所 を 開設 す る働 きを 持 っ て い た。 その 関 係 は、 当 初 は形 骸 化 した体 制 的 教育 言 説 を批 判 す る逸 脱 した語 りの ス タ イル と して、 そ して 次 第 に標 準 化 した常 套句 と して陳腐 化 して い っ た と言 え る だ ろ う。 この 両 方 の局 面 に お いて 、 全 人 教 育 論 の 「論」 はす ぐれ て発 話 的 に して書 記 的 な性 格 を持 って い る と 考 え られ るの で あ る。 「全 人 」 は、 小 原 に と って 、 音 声 の調 子 と それ が表 現 す る意 味 と が情 感 的 に結 びつ い て お り、 それ は音 声 と語 義 との 連 関 を強 調 す る、 広 い意 味 で音 声 比 喩(Lautmetapher)と よば れ る言 語/音 声 学 的事 象 で 、 彼 の教 育 言 説 は この音 声 回 路 を 使 っ た音 の転 移 現 象 を 利用 して 皇:小 原國芳 「 全人教育」の レトリックg 更 に意 味 転 移 を 図 る とい う 「語 りの造 形 」 を特 徴 と して い る。 実 際 には 、 この語 りの技 法 は 即 興 的 場 面 的性 格 の もの で あ るか ら、 話 の 筋 と音 声 と が一 体 とな って 出現 す る 「リズ ム に よ る意 味 の造 形 」 と呼 ん だ 方 が 的確 か も知 れ な い。 この 語 法 こそ が全 人 教 育 の意 味 を文 字 通 り 演 出 して い た と考 え る の で あ るω。(小 原 の 音 声 や リズ ム に 関す る鋭 い 感 覚 は、10代 後半 の 通 信 技 師 と して の経 験 に よ って培 わ れ た もの であ るか も知 れ な い) と こ ろで 第 二 の主 題 は、 小 原 の 全 人教 育 論 の理 論 的 な構 成 と言 説 の文 脈 と を特 徴 づ け る共 通 の 用 語 と して の 「反 対 の合 一 」(Coincidentiaoppositorum)に 関 す る もの で あ る。 この 用 語 は彼 の 全 人 教 育 論 に活 力 を 与 え、 聞 き手 を説 得 して納 得 させ る レ トリ ックの 中核 を形 成 す る もの で、 哲 学 的 で 宗 教 的 な 雰 囲気 を漂 わ せ、 愛 と癒 しへ と聞 き手 を 誘 う語 りを 演 出す る 巧妙 な仕 掛 けで あ る。 バ ー ク的 に表 現 す れ ば、劇 学 的 な必 然 と して 、全 人 教育 論 が必 然 的 に 出現 させ る反 全人 性 を 、 この 用 語 に よ って 、 矛盾 と対 立 を、 そ の ま ま 「合一 」 に 回収 す る と い う、使 い方 に よ って は ま こ とに語 り手 に都合 の よ い論 法 で もあ る。 この人 間 の認 識 と思 考 の 限 界 に き わ ど く施 設 され た語 りの仕 掛 けを小 原 は実 に巧 妙 に転 移 させ て駆 使 す る。 この用 語 が そ の 提 唱 者 で あ る クザ ー ヌス(NicolausCusanus、1401∼1464)や を受 け た ブ ル ー ノ(GiordanoBruno、1548∼1600)の 彼の影響 宇 宙論 的 な 思 考 様 式 に忠 実 で あ る か否 か 、 こ こで は そ れ が 問 題 で はな く、 この 「Coincidentiaoppositorun1」 が 小 原 の全 人 教 育 論 の 「ゼ ン ジ ン」 の響 き と 同 じ意 味 で、 いや そ れ以 上 に、 心 情 的 の 「根 本 」 元 音 で あ っ た と いえ るだ ろ う。 こ の用 語 が な け れ ば、 小 原 の全 人 教 育 論 は奔 放 に して 自在 な 教 育論 と し て成 熟 し得 た か ど うか 疑 わ しい と思 う。 小 原 が 「反 対 の 合 一 」 に言 及 す る の は文 献 上 で は 大 学 卒 業 論 文(1918)『 教 育 の根 本 問題 と して の 宗教 』 にお い て で あろ う(こ の 論 文 は1919年 に公 表 され る 「全集1」 が、 この部 分 に加 筆 修正 が 施 され て い な い と して で あ る)。 この 箇 所 は、「反 対 者 の一 致 」 と して波 多 野 精 一 『宗教 哲 学 』 か らの 引用 とな って いて 、 こ こに は ブ ル ー ノの 名 前 は 出 て い な い(全 集1-5 頁)。 ブル ー ノ が 出 て く るの は、 同書 の 別 の と こ ろで 、 「崇 高 な る ソ クラ テ ス の死 に …… 悲 壮 な ブ ル ー ノー の 死 に・ ・ …・ 」 とい う、 真理 に命 を懸 け る崇 高 な 殉教 者 的 態度 を語 る文 脈 に お い て で あ り(こ こに は 「反 対 の合 一 」 は出 な い)、 ブ ル ー ノを語 る この 文 脈 は、 そ の後 、 全 人1 は も とよ り彼 の講 演行 脚録 に も度 々登場 し小 原 の 常 套 句 とな るが、 こ の ブ ル ー ノ火 焙 論 の 文 脈 は後 年(全 人2)の 記 述 に よれ ば 、 朝 永三 十 郎 か らの 引用 とさ れ て い る。 〔そ れ の文 献 上 の所 在 は未 確 認 で あ る。 小 原 は朝 永 の 『近 世 に於 け る 「我 」 の 自畳 史 一 景 一 』 に言 及 して い るが 、 この 初 版 本 は1916年 新理 想 主 義 と其 背 に 出 さ れ る。 そ こ で は 「以 太 利 の 所 謂 ・ ・ 臨床教 育人 間学 第4号(2002) 「自然 哲 学 者 」(ジ ョー ル ダ ー ノ ・ブ ル ノ ー 、 トマ ソ ー ・カ ム パ ネ ラ 等)」(同 に お い て で あ っ て 、 小 原 が 強 調 す る 火 焙 論 で は な い 。1921年 加 わ り、1946年 第5版(合 書 、27)の 本 版)に 意 味 は付 録 が に は 新 版 本 、 そ の 後 改 定 版 、 決 定 版 と 改 定 が 繰 り返 さ れ る が 、 決 定 版 で は ブ ル ノ ー の 名 前 も消 さ れ て い る 。 ま た 、 小 原 は 朝 永 の 西 洋 哲 学 歴 史 の 講 義 ノ ー ト も参 照 して い るの で 引用 部 分 の確 定 は 出来 て いな い が 、論 理 的 な言 説 の 構築 を 目指 す 朝 永 の 立 場 や論 調 か ら す る と 、 火 焙 論 の 挿 入 に は 相 当 無 理 が あ る よ う に 思 う 。〕 ブ ル ー ノ の 火 焙 論 と 「反 対 対 立 の合致 」 と は確 か に重 な る二 つ の歴 史 的 な事実 で あ るが、 小 原 の当 初 の論 文 で は両者 は別 々 に扱 わ れ 、 前 者 は 宗 教 的 価 値 論 に お い て 後 者 は 全 人 教 育 論 に お い て 論 じ ら れ る 。 そ れ が 全 人 2に な る と 、 「全 人 教 育 と 関 係 の 深 い 諸 問 題 一 全 人 教 育 の 反 対 と合 一 」 と い う節 を 独 立 さ せ て 、 ブ ル ー ノ は 、 火 焙 論 と 「反 対 の 合 一 」 論 と を 一 体 化 し て 、 全 人 教 育 論 の 宗 教 的 な 意 味 づ け の 語 り を 演 出 す る こ と に な る の で あ る。(資 料H参 照) 言 う ま で も な く、 「反 対 対 立 の 合 致 」(coincidentiaoppositorum)の 提 唱者 は ブル ー ノで は な くて、 彼 が多 大 の影 響 を う けた クザ ー ヌ スで あ る。 我 が 国 で クザ ー ヌス に最 初 に言 及 し た の は 西 田 幾 多 郎 のr善 の 研 究 』(1911年 初 版)で て 語 ら れ て お り、 「coincidentiaoppositorum」 題 「Coincidentiaoppositorumと あ るが 、 こ こで は 「知 あ る 無 知 」 に つ い が 取 り上 げ ら れ る の は 、1919年 愛 」(真 宗 大 谷 大 学 開 校 記 念 日講 演)に の 講 演 の演 おい て で あ る。西 田 は こ の 言 葉 の 意 味 を 、 ブ ル ノ ー 、 べ 一 メ さ らに は シ ェ リ ン グ 、 ヘ ー ゲ ル の 思 想 に 通 底 す る 宗 教 的 な 本 質 を 開 示 した も の で 、 愛 の 極 致 の 表 現 で あ る と述 べ て い る 。 確 か に こ こ で は 、 「Coincidentiaopposiもorum」 は 数 学 的 で 論 理 的 な 文 脈 に お い て よ り も、 情 意 的 意 味 合 い を 強 調 す る 論 調 に お い て 語 ら れ て い る。 しか し、 西 田 は そ れ を ク ザ ー ヌ ス の 用 語 と して 紹 介 し て い る 。 い ず れ に し て も、 小 原 が 京 都 帝 国 大 学 に 在 籍 し て い た 当 時 、 ク ザ ー ヌ ス の 「Coincidentiaoppositorum」 が 一 恐 ら く朝 永 三 十 郎 の 影 響 下 に お い て 一 哲 学 関 係者 の 関心 を 引 い て い た こ と は事 実 だ ろ う。 小 原 は そ れ に ブ ル ー ノ の 火 焙 イ メ ー ジ を 重 ね て 、 教 育 者 と し て の 行 動 と 信 念 を 支 え る 「根 本 」 心 情 の 極 致 と し た の だ ろ う 。 小 原 が 、 ク ザ ー ヌ ス で は な く火 刑 に さ れ た ブ ル ー ノ と 「反 対 対 立 の 合 致 」 と を 結 び 付 け て 全 人 教 育 論 と 宗 教 性 と が 交 差 す る場 所 を イ メ ー ジ化 し た の は 、 西 田 の 影 響 で は な く朝 永 に よ っ て で あ る と 自 ら述 べ る が 、 小 原 に と って 「反 対 の 合 一 」 は 最 初 か ら 論 理 的 性 格 の もの で は な く 、 「こ の 苦 し い 二 元 の 対 立 」、 「二 元 の 対 立 と い た い た し い 矛 盾 」 と 「Aufheben」 「二 律 背 反 」 と を す る と こ ろ の 、 い わ ば 心 情 の 論 理 で あ り苦 悩 と 葛 藤 を 癒 す 救 い の 言 説 と見 立 て られ て い た 。 「あ あ 人 生 は 矛 盾 か 。 こ の 血 ま み れ の 葛 藤 の 解 決 」 を 「止 揚 」 す る理 想 の 境 地 、 皇:小 原國芳 「 全人教育論」のレ トリックH 「ホ ン トの 人 」 に な る こ と、 これ を小 原 は全 人 教 育 と呼 ん だ。 した が って 、 そ れ は ク ザ ー ヌ ス では な く、 血 ま み れ に な って苦 悩 す る ブル ー ノ で な けれ ば な らな か った の で あ る。 これ は 「人生 の 矛 盾 」 を 象 徴 す る イ メ ー ジ化 した語 で あ り、 教 育 言 説 に積 極 的 に逆 説 を 導 き入 れ 教 師 が 抱 え る悲 哀 や苦 しみ を これ に よ って 浄化 す る と い う、 言 わ ば意 味 転 換 の仕 掛 け で あ った。 小 原 の 全 人 教 育 論 は、 ヤ コ ブ ソ ン的 に言 え ば、 詩 的 言 語 に 隣 接 す る所 の 「情 動 的 ・喚 情 的 な 言 語体 系 」 に近 い も の で、 そ の 言 語系 の特 徴 は 「言 語 表象 そ の もの に関 心 が 集 中 して … … 慣 習 化 した 近 接 連 合 が 背 後 に退 い て、 言 語 が よ り革 新 的 にな る」(58頁)点 に あ る と言 わ れ る が 、小 原 の場 合 は、 内容 と形 態 と リズ ム の三 つ の 局 面 を収 敏 した語 法 にお い て、 情動 喚起 の 働 きへ の傾 斜 が 色 濃 い と言 え るだ ろ う。 3)全 人 教 育 論 の 論 理 《反 対 の 合一 》 全 人2に お い て 、 ブ ル ー ノ とCoincidentiaoppos呈torumと は、 次 の よ う に結 びつ け られ 変容 させ られ る。 「ブ ル ー ノ は宇 宙 み な が実 に反 対 の 合 一 、Coincident1aoppositorumだ と説 き ま し た。 白 と黒 、 上 と下 、 内 と外、 天 と地 、 物 と心、 貴 賎 、 貧 富 、 親子 、 長 短 、 大 小 、 左 右 、 古 今 、東 西 、 賢 愚 、老 若 … … ま こ とに 白あ って の黒 、黒 あ って の 白、 親 あ って の子、 子 あ っ ての 親 … … な の で す!わ れ われ は 実 は、 これ らの二 つ を一 つ に した天 地 融 合 、 物 心 一 如 、 霊 肉合 致 の妙 境 を 開拓 せね ば な りま せぬ 。」(全 人2-99) こ こ に は、 もは や クザ ー ヌ ス や ブル ー ノが説 い た意 味 で の 「反 対 対 立 の合 致 」 の 文 脈 は 存 在 せ ず 、 小 原 の恣 意 的 な改 作 に よ って そ れ は別 の 役 割 を演 じ させ られ て い る。 つ ま り、 全 人 を語 る為 に 《反 対 の合 一 》 は 不 可 避 の言 語 装 置 で あ った。 「本 質 の レ トリ ック」 は 全 人 教 育 論 全 体 に イ レ子状 に存 在 して い るが 、 表 層 に露 呈 して い るの は この 種 の 語 りで あ る。 この 対 立 と矛盾 と を 「止 揚」 して 「融 合 、 一如 、合 致 の妙 境 」 を 演 出 す る仕 掛 けの 発 明 者 、 そ れ の 優 れ た使 い手 と小 原 を み な して、 この 見 立 て に よ って 彼 の 全 人教 育 の 《ス タイ ル 》 を 明 るみ に 出す こ と、 それ が本 論 の狙 い で あ る。 全 人 教 育 の純 度 を あ げ る こ とは必 然 的 に反 全 人 と い う代 償 を生 み 出す が、 そ の 対 極 を 回 収 す る論理 と して 《反 対 の合 一 》 を小 原 は 活用 した。 これ は 語 りの形 式 で あ って 教 育 論 とは 区 別 す るべ き もの で あ る。 そ れ が正 確 な ブ ル ー ノの 論 理 の 引用 で あ るか 否 か は 問 題 で は な くて 、 バ ー クの い う 「本 質 の レ トリ ック」 と して重 要 な の で あ る。 教 育 の 本 質 を 問 う とい う立 場 の 設 定 は、 必 然 的 に小 原 の よ う な非 論理 的 な 「脱 線 」 の 「論 理 」 を採 用 す る こ とか も しれ な い。 ・2臨 床教育人間学 第4号(2002) 先 の引 用 で 明 らか な よ うに、 厳 密 な 反 対 の 定義 や 合 一 に至 る過 程 と関 係 が 緊 張 感 を も って 語 られ て い る訳 で は な く、 む しろ在 り来 た りの熟 語 や 決 ま り文句 を、 類 似 と隣 接 の 関係 づ け によ って 羅列 して 、 そ れ らを全 体 と して 《反 対 の合 一》 と見 立 て るの で あ る。 これ は学 問論 で は な くて、 本 質 を語 るた め に必 要 な語 りの 演技 の ひ とつ で あ る。 《反 対 の合 一 》 は全 人 教 育 論 の 「ホ ン ト」 「ホ ンモ ノ」 を支 え る言 語 装 置 、 「補償 的 な命 名 戦術 の ア イ ロニ ー」 で あ る。 従 って先 に 引用 した言 説 は、 小 原 とい うす ぐれ た 語 り手 に よ っ て 演 じ られ た 、 《反 対 の合 一 》 と言 う筋 立 て が作 り上 げ た ドラ マ で あ る。 この ドラマ は、 ど の場 面 に お い て も 《反 対 の合一 》 とい う非 限 定 的 な無 限包 摂 の仕 組 み を備 え て い るた め に、 聞 き 手 に 矛盾 や非 合 理 を感 じさせ る こ とに よ って逆 に 「ホ ンモ ノ」 さ を 印 象 付 け る とい う仕 掛 け にな って い る。 逆 の見 方 を す れ ば、 全 人 教 育論 の 「ホ ンモ ノ」 さは、 そ の 言説 の虚 偽性 に比 例 して高 め られ、 それ の虚 像 を見 せ る こ と によ っ て全 人 教 育 の真 実 性 を訴 え る仕 掛 けに な って い るの で あ る。 この 《反 対 の合 一 》 を演 出 して い るの が、 小 原 が反 省 的 な意 味 を含 ま せ な が ら、 しか しや や誇 ら し気 に い う所 の 「脱 線」 とい う語 りの スタ イ ル で あ る。 「脱 線 」、 そ れ は単 に話 の 筋立 て の逸 脱 と混 乱 とい う狭 い意 味 に お いて で は な く、 聞 き手 と の関 係 と語 りの場 面 と を巻 き込 ん だ語 りの振 る舞 い と い う意味 に お いて 、 小 原 の全 入 教 育 言 説 の ス タ イ ル を特 徴 づ け る所 作 で あ る と思 う。 差 異 や 逸脱 を意 識 的 に演 出 して わ ざ と脱 線 して み せ 、 そ う した わ ざ と ら しい 脱線 一 先 の 引用 の よ う にそ こ で一 体 な にが 語 られ て い るの か よ く分 か らな い、 言 葉遊 び や ノ ン セ ン スの 演 技 一 を織 り交 ぜ なが ら、 そ れ に よ って 聞 き手 の 教 育 観 の 枠 組 み に崩 しを仕 掛 け、 語 りの 世 界 へ と教 育 を誘 い出 す の で あ る。 「脱 線 」 は、 実 体 的 な 教 育 論 や概 念 的 に体 系 化 され た理 論 的 教育 論 、 つ ま り当時 の 「通念 的教 育 観」 の権 威 か ら小 原 自身 と聞 き手 とを 引 き離 す た め の、 全人 教 育 論 の差 異 性 を 際 立 た せ るた め の滑 稽 な 身振 りで あ っ た と も言 え る の で は な いか 。 した が って 、 「脱 線 」 や言 葉 遊 びの 仕 掛 け は、 《反 対 の 合 一 》 を演 出す る語 法 で あ る と同 時 に、他 方 で、 小 原 の 教育 言 説 が その虚 偽 と 「ホ ンモ ノ」 の 境 界 を 「脱 線 」 解 体 させ る こ と に よ って教 育 の意 味 争 奪 を演 出す る もの で あ った。 小 原 の 意 図 と は関係 な しに、 権威 主義 的 に 威厳 を装 わ され た 真 面 目な教 育 言 説 に 対 して、 全 人 とい う極 限化 され た教 育理 念 を 逆 に 「脱 線 」 とい うス タイ ル の語 りで 演 出 して み せ る こ とに よ って、 そ の 語 り方 は教育 言 説 に新 しい筋 立 て を開 く試 み で あ った と言 え るだ ろ う。 小 原 の教 育 言 説 の ス タ イル を 「脱線 」 と特 徴 付 け る と、 こ の 「脱 線 」 は語 りの場 面 で の即 興 で あ って、 分析 の対 象 と して 取 り出 す こ と は容易 で な い。 それ ぞれ の場 面 を 興味 深 く演 出 皇:小 原國芳 「全人教育論」の レトリック ・3 す る 「語 り振 り」、 教 育 を 語 る 「話 題 の 場 面 」 を彩 る 「風 味 ・風 体 」 に注 目す る必 要 が あ る だ ろ う②Q 全 人 教 育 を 演 出 して そ の 意 味 を 臨界 点 に まで 導 く技 法 は、 脱線 、 誇 張 、 余 談 、 ノ ンセ ンス、 繰 り返 し、 も じ り遊 び、 話 の数 珠 つ な ぎ、 音 位転 換 、 同根 語 併 置 、 そ の他 、 格 言 、 僅 言 、 民 話 の言 い 回 しの 模 倣 な どな ど、 で あ り、 これ ら に加 え て、 常 習 化 した時 間 オ ヴ ァー な どな ど、 一見 して 偶 然 に見 え る これ ら語 りのパ フ ォーマ ンス は小 原 な らで は の 演 技 で あ る。 これ らは 「ホ ン モ ノ」 を 演 出 す るた め の 錬 金術 的 な 仕掛 け で あ り、 聞 き手 や読 み 手 が 語 りの脱 線 や 遊 び が生 み 出 す 溢 れ 効 果 に よ って一 体 感 を育 て られ、 酩 酊 して癒 され る秘 密 の 技 法 であ っ た と 思 う。 それ を仮 に語 りの ア ヤ と呼 ぶ と、 全 人 教 育論 は、 《反 対 の合 一 》 とい うす べ て の破 綻 を救 い採 る装 置 に 支 え られ 、 この ア ヤの 仕 掛 け に よ って巧 妙 に 演 出 され た教 育 の論 、 豊 か な語 り の演 技 装 置 を備 え た 「論 」 で あ った と言 え るの では な い か。 極 論 す れ ば、 小 原 が使 う教 育 論 の 全 人 系 の諸 用 語 や言 い 回 し、 格 言 やエ ピ ソー ドな ど、 あ る い は小 原 の仕 草 ま で を模 倣 して、 大 筋 で似 た全 人教 育 論 を講 述 す る こ とは さ して難 し くな い と思 う。 こ う した語 りの 内容 や 筋 立 て が全 人 教育 論 の特 性 の中 心 に あ るの で は な く、 む し ろそ れ らは 当時 の 日本 の教育 学 研究 の レベ ルか らすれ ば さ して鮮度 の高 い もの とは言 え な か っ た と思 う し、 そ の よ うな領 域 にお い て全 人 教 育 論 を評 価 した り批 判 す るの は 筋 違 いだ ろ う。 確 か に 、 小 原 自身 は 当時 の師 範 学校 で の教 育(論)を 激 し く批 判 して 教 育 言 説 の差 異 化 を仕 掛 け た と は言 え、 そ の企 て は しか し、 ア カ デ ミズム の教 育 学 の構 築 を 意 図 した もので あ った とは思 え な い。 小 原 の 聞 き手 は主 と して教 師 と親 で あ って 、 彼 らの 通 念 的 な 教 育 を変 換 して それ を 全 人 教 育 の 根 本 言 説 に よ って浄 化 す る こ とで あ った 。 そ の た め に レ ト リ ックを工 夫 し て ア ヤ に 富 ん だ 語 りの ス タ イル を作 り出 した 、 と考 え るな ら、 この変 換 と覚 醒 を 演 出 す る独 自の 語 りの ス タ イ ル と は、 「脱 線」 と い う一見 偶然 を思 わ せ る秘 密 の 仕 掛 け に よ って、 効 果 的 に演 出 され た と いえ るだ ろ う。 そ して 「脱 線」 の果 て に、"私 の一 挙 手一 投 足 の す べ て が 私 の全 人 の現 れ な の だ"と ま で言 い 切 るの で あ る。 「ホ ンモ ノ」 を 、 ノ ンセ ンス を 自在 に織 り込 む この 脱 線 とい う 「非 ホ ンモ ノ」 的 な語 りの ス タ イ ル で 演 出 して み せ る、 これが 小 原 の全人 教 育 の核 心 で あ る と考 え る と、 そ の教 育 論 は 容易 に学 問 的 な概 念分 析 を 許 す もの で は な く、小 原 個 人 の 内 面性 か あ るい は ま た大 正 自由教 育 の一 事 例 に還元 す るだ け で、 多 くの場 合 、 い かが わ しい 、教 祖 的 な、 山 師、 大 ボ ラ フ キ の 教育 論 な ど と言 う通 俗 的 な 批判 に止 ま らざ るを得 な か った の で は な い か。 ・4臨 4)全 床教育人間学 第4号(2002) 人 教 育 論 の 「スタ イ ル」 記 号 の 体系 と して の言 語 を、 そ の構 造 と形 態 と内容 の 三 つ の 構 成 要 素 の相 互 的 な作 用 連 関 と して 理 解 す る意 味 論 的 な 文 体 論(Stylistics)の 立 場 は、 文 を 語 に還 元 す る微 視 的言 語 観 か ら分 析 的 に理 解 す るので は な くて 、言 語 行 動 を よ り表現 的(演 出 的)で 伝 達 的 な 文脈 に お い て解 釈 す る もの で、 そ こ で は、 言 葉 の使 い方 つ ま り 「コ トバ(langue)」 よ りも 「カ タ リ (parole)」 を表 現 単 位 に見 立 て 、 カ タ リ(「騙 り」 の意 味 を 含 ん で い る)の 場 面 や話 題 性 と コ トバ の使 い方 「仕 掛 け」 との 相互 関係 が主 題 に され、 発言 の形 態 と内容 と を一 体 的 に理 解 す る観 点 が 古 くか ら強 調 さ れ て きた。 言 う まで もな く、 文 体(Style)は レ トリ ックの 中心 的 カ テ ゴ リー で あ り、 テ キ ス ト産 出 の伝 統 的 モ デ ル を構 成 して き た。(英 語 のstyleは ラテ ン語 のstilus、 書 く道 具 で あ った 尖 筆 や茎 に 由 来 す る語 で、 古 くは 書 き 方 や 話 し方 の 作 法 (manner)を 意 味 した 。)語 られ る事 柄 にふ さ わ しい コ トバ と文 を脚 色 す る と い う意 味 を転 移 させ て 、styleは 衣服 をつ け る とか装 飾 す る とい う比 喩 と して 使 わ れ た の で あ る。 文 体 の 効 能 と して特 に注 目 され る の は、 装飾 や華 麗(ornamentorornatedness)(EnofRh,746) を構 成 す る比 喩 、 彩 、 響 き、 リズ ム な どで、 これ らは文 体 の他 の 効 能 と して強 調 され た 明 晰 さ(clarity)と 正 確 さ(correctness)と た え ず 緊 張 関係 を 生 み 出 して き た の で あ る。 今 日 の文 体 論 の関 心 は これ ら古 典 的 な レ トリ ック論 が 提起 した カ タ リの仕 組 み へ の 論点 を、 言語 哲 学 を 中心 に引 き起 こ され た 「転 回」 現 象 の な か で再 解 釈 す る も ので 、 そ の関 心 の ひ とつ は、 力 タ リと い う発 話 行 為 を、 聞 き 手 との関 係 の力 動 的平 衡 にお いて 出現 す る一 回 的 な出来 事 と して 理 解 す る方 向 に あ る。 この 立 場 か らす る と、小 原 の 全人 教 育 は直線 的論 理 的 に教 育 が 語 られ て い る の で はな く共 時 的 劇 的 に全 人教 育 が 演 出 され、 バ ー ク的 に言 え ば、論 理 的 進 行 で は な く気 分 を作 り、 次 の 気 分 を 生 み 出 す 所 の 「質 的 な進 行 の 形 式 」(121頁)を と って い る。 これ は 先 に 指摘 した 「リズ ム に よ る意 味 の造 形 」 に ほか な らな い。 小 原 の 全 人 教育 論 は話題 の素 材 は若 干 変 わ る と して も、 話 の筋 立 て や結 論 、 挿 入 され るエ ピソ ー ドな どは い つ もほぼ 同 一 で パ ター ン化 され て い る。 一 方 で 「脱 線 」 「溢 れ」 を演 じな が ら しか しそ の語 りには ひ とつ の は っ き りした ス タ イル を も って い た 。 先 に述 べ た よ う に、小 原 の教 育 言 説 は 口演 の様 式 を 元 に して お り、 そ の特 徴 は内 容 よ りも 語 りの ス タイ ル を 優 先 して い る点 に あ る。 つ ま り情 報量 や論 理 の整 合 性 や 説 得 の レ トリ ック な どを 優 先 させ る伝 達 と教 説 の語 りで はな く、 聞 き手 に参 加 を促 し語 りの 場 面 を共 有 して、 共 感 を 形 成 す る祝 祭 的 で劇 的 な効 果 を演 出 す る語 りの ス タイ ル で あ る と言 え る だ ろ う。 それ 皇:小 原國芳 「全人教育論」のレ トリック 巧 は丁 度 、 い い芝 居 を 見 る と筋 や 台 詞 や 場 面構 成 か ら演 技 に至 るま で す べ て 承 知 して い るの に、 繰 り返 し見 て 同 じと こ ろで 心 を 動 され るよ うに、 小原 の教 育 口演 は 語 りの リズ ム と型 と演 技 とを備 え て い た 。 そ れ は教 育 を 語 る戦 略 で あ る。 全人 教育 論 の ス タ イ ル で あ って、 こ の語 り の ス タ イ ル 、 つ ま り 「形 式 の 魅力 」 に 聞 き手 が魅 せ られ行 く、 とい うよ り も、 聞 き手 の期 待 が小 原 の 語 りの形 式 を 育 て た とい え る の だ ろ う。 語 りの リズ ム(音 韻 、音 と意 味 と形 の繰 り返 し、語 呂合 わせ 、 こ とば遊 び)と 彩 、 比 喩 、 格 言 ・裡 言 の 引用 、 余 談 とエ ピソ ー ドの挿 入 と脱 線 、 即 興 語 り、 笑 い と涙 の パ フ ォー マ ンス な ど な ど、 これ らは教 育賛 歌 の先 導 者(つ ま り音 頭 取 りとか 語 り部 と呼 ん で よい)が 身 に つ け た技 法 で あ り、 これ らが織 り成 す 語 りの型(ス タ イル)が 聞 き手 に同 調 を 促 し酩酊 を演 出 す る の で あ る。 この語 りの型 は しば しば逸脱 と脱 線 に よ って型 崩 しを起 こ し溢 れ や狂 とい う 境 界 領 域 へ流 出す る危 う さを抱 え て い るが、 しか し、 そ の 型崩 れ の きわ ど さ まで もが 、 聞 き 手 に と って は、 この型 の魅 力 で あ り期 待 され る姿 であ った 。 こ の教 育 論 が 、 語 りの演 技 性 とい う語 り手 一聞 き手 ・場 面 関係 に お い て形 成 さ れた とい う 見 立 て方 は小 原 自身 の強 調 す る と こ ろで もあ って、 聞 き手(こ こで は、 ほ ぼ 同 じ意 味 で読 み 手 で も あ る)関 係 が全 人 教 育 言 説 の ス タイ ル を磨 き上 げ た。 恰 も芝 居 の役 者 のせ りふ が 見物 人 の 受 け 具合 を み な が ら工 夫 錬 成 さ れ て い くよ うに 、 「私 か ら話 した ので は な い。 心 か ら聞 いて 下 さ った ため に、 ホ ン トに 話 さ して下 さ った の だ。 聴 き手 が よ い と 自然 話 しが で き る。」 そ して、 「ドコ で も狂気 か ボ ラ と しか 思 わ れ な い私 の脱 線 を こ この 人 た ち は だ け は喜 ん で く だ さ る」 と本 気 で 言 い切 って み せ る。(例 え ば、 全集21-82、168、202頁 参 照) 小 原 は 口演 の劇 的 な 効 果 を十分 に 活用 して 教育 を語 り、 教 育 に 「惑 溺」 す る人 物 を、 た と えば 「異 端 」 「過 激 派 」 「感 激 家 」 「狂 人 」 「ホ ラふ き 」 「大 山 師」 「「大 馬 鹿 者 の ド リー マ ー」 「夢 に生 き る人 」、 「率 直 で オ ー プ ンな 私」 「迫 害 され る人 」 「真 摯 、 生 一 本 、 気 狂 い」 な ど を 演 じ見 せ た。 聞 き手 は それ が ホ ラで あ り誇 張 で あ り冗 談 で あ る こ と を承 知 して 聞 くが、 しか し同 時 に語 りの 隙 間 か ら漏 れ て くる、 不 協 和 で未 だ陳 腐 化 して いな い 《声 》 を聞 き取 って い た とい え るの で は な い か。 語 りの ス タイ ル や 音 声 リズム に よ る 「意 味 の造 形 」 を強 調 す る立 場 は 、 小 原 の 全人 教 育 論 を脱 実体 論 化 す る こ と によ って教 育 の 「本 質 」言 説 の 呪 縛 か ら全 人 を 解 き 放 つ とい う皮 肉な 帰結 に至 る訳 で あ るが 、 この試 み は しか し、 本質 言 説 の 所 在 を 別 の 意 味 に お い て 指示 す る手 掛 りに触 れ て い る可 能 性 も あ る と思 う。 つ ま り、 全 人 教 育 言 説 は、 時 枝 文 法 の 言 い方 を借 用 す れ ば 、 概 念 的 な 自立 語 「詞(コ トバ)」 一 名 詞 や動 詞 一 に対 して 、 時 と場 合 に応 じて 微 妙 ・6臨 床教育人間学 第4号(2002) に変 化 して 文 脈 を変 換 させ る従 属 的 な 「辞(テ ニ オ ハ)」 一 詞な ど 一 助詞、 助動詞、 接続詞、感動 と して 分 類 され る所 の、(前 者 の 「実詞 」 に対 して 後 者 は 「虚 詞 」 と呼 ば れ る) この 「辞 」 を 巧 妙 に活 用 す る語 法 で あ っ て、 そ の特 徴 は、 語 られ る対 象(も びつ か な いで 、 語 り手 の心 像(臓)や の)と は直 接 結 音 声 と結 び つ い た語 りの ス タ イ ル 《声 》 を作 り出す と こ ろ に あ る。 「辞 」 は 「陳述 の 力 」 を 宿 して い る。 そ れ は語 り手 の意 志 を一 気 に 出現 させ る 働 きで あ る。 この 種 の 語 りは、 構 文 法 的 な きま りをす り抜 け て、 テニ オ ハ/語 尾 活 用/助 動 詞 な どの 語 法上 の 付 属 的 な機 能 を 担 当 す る 「 語 法 カ テ ゴ リア 」(佐 久 間 鼎)と 音 声 や ア クセ ン トや 語順 な ど、 い わ ば 「辞 」 の 系譜 に属 す る一 族 が定 形 的 自立 的 な 「詞 」 に対 して 優 位 な位 置 を 占め て 、 言説 を 、 語 り手 の 思 い によ り忠 実 に演 出 す る ので あ る。 「辞 」 を 活 用 す る こ とに よ って、 通常 で は結 び 付 か な い詞(概 念)と 詞(概 念)を 結 び付 け た り、 通 常 は付 属 して い る語 尾 に 別 の変 化 を与 え て 、 意 味 の差 異 を仕 掛 け る こ とが で き る。 た とえ ば 、 或 る事 を 別 の物 と して 見 立 て る こ とが で き るの もこ の 「辞 」 を 活 用 した 語 法 に よ って で あ る と言 え る だ ろ う。(小 原 を事 例 と した教 育 言 説 の レ トリ ック論 的研 究 が 教 育本 質 論 に及 ぼ す影 響 は 少 な くな い。 つ ま り、 い か な る教 育 本 質論 もま た、 小原 との類 似 や 隣 接 の 関 係 に お い て 本 質 を 語 って い る可 能 牲 が あ る。 人格 の 完 成 とい い、 全面 発 達、 諸 能 力 の調 和 的 発達 と いい 、豊 か な 個 性 や才 能 を もつ 子 ど もな ど とい った、 い かに も反 論 の余 地 の な い教 育 言 説 が 隠 蔽 して い る 「地 口 のか た り」 を発 見 す る こ とで あ る。 教 育 の語 り直 しは この よ うな手 立 て に よ って可 能 にな る し、 異 種 の教 育 言 説 が発 見 され る可 能性 もそ こに あ るの で は な い か。) 小 原 の 人 間 性 や 個 性 や才 能 は、 こ う した語 りの ス タ イル に お い て表 現 さ れ て い た、 と い う よ り もこ う した教 育 語 りの ス タ イル と と もに成 熟 した とい え な い だ ろ う か。 全 人教 育 論 は、 小 原 の 知 的 思 索 の理 論 的成 果 で はな い。 あえ て い え ば彼 の教 育 「実 践 」 の理 論 化 で もな い。 そ うで はな くて、 全 人 教 育 論 は 彼 が教 育 を 口演 す る機 会 を重 ね る なか で、 聞 き手 と共 同 して 創 作 した 教 育 言 説 の ス タ イル で あ って、 工 夫 され た言 葉 の仕 組 み と語 りの技 法 に よ って演 じ られ た一 種 の 「教 育 語 り劇 」 で あ った と いえ るの で はな いか 。 小 原 は こ の劇 の脚 本 家 で あ り 演 出 家兼 役 者 で あ った と見 立 て られ な いか 。 《反 対 の合 一 》 は語 り手 で あ る小 原 に 「翁 童 両 極」 的 な イ メー ジ を育 て 、 そ の 「正 体 」 を見 え1こく く して い る。 それ は 「全 人 教 育 論 」 効果 と同 じ よ うに 両 義 的 で 分 か り難 い。 本 論 の試 み は、 小 原 の全 人 教 育 論 にみ る こ とば の生 態 系 を 図式 化 して 、 そ れ を レ トリッ ク の分 類 や 分 布 図 と して 提示 して みせ る こ とで は な い。 む し ろそ う した 作 業 に入 る前 段 階 と し 皇:小 原國芳 「全人教育論」のレ トリック ・7 て、 彼 の全 人 教 育 論 が語 りに よ って造 形 され た教 育論 で あ る とい う見 立 て の 可能 性 を検 討 す る こ とに あ った 。 した が って こ こで は、 語 りの 内容 と語 りの形 式 とが相 互 的 ・相 補 的 な 関係 に お い て独 特 の ス タ イ ル を作 り上 げて お り、 そ の ス タイ ル こそ が全 人 教 育 論 の 戦 略 的局 面 に 外 な らな い、 こ の点 を強 調 した。 で は、 この 文 脈 で 小 原 の教 育 言 説 を解 釈 した と して、 この全 人 教 育 論 は どの よ うな役 割 演 技 を 教 育 界 に もた ら した の か 。 これ は 全 人教 育 論 を、 大 正 か ら昭 和 にか け て の新 教 育 運 動 の 展 開 とい う歴 史 的 な 時 代 性 と して で は な く、 教 育 を語 る新 しい形 の 出現 と見 なす こ と、 そ し て 、 そ の 語 りの技 法 に お い て 演 出 され た、 フィ ク シ ョ ンと して再 現 され た世 界 で あ る 「教 育 語 り劇」 を どの よ うに 批 評 す るか 、 つ ま り見 立 て に相 応 しい新 しい批 評 の論 点 を 作 り出 す作 業 が 求 め られ て い る。 そ れ は語 りに お け る言 葉 の仕 掛 け(レ トリ ック)と そ れ を 効果 的 に 演 出 して 聞 き 手 を楽 しま せ る技 法 、 つ ま り聞 き手 に 「美 妙 の感 覚 を 起 さ しむ」 「美 術 」 とい う 新 しい 口術 の ジ ャ ンル を教 育 の世 界 に開 いて 見せ た人 物 と して、 あ るい は教 育言 説 の戦 略 的 技法(Attitude、 方 法)を 創 作 した 人 物 と して 、 あ る い は ま た 、 通 俗 教 育 と呼 ば れ て き た 分 野 の先 駆 者 と して、 小 原 を再 解 釈 す る こ とで はな い だ ろ うか。 追記 本 稿 は、 教 育 哲 学 会 第44回 大 会(2001.10.於 福 岡 教育 大 学)で 発 表 した 内 容 に 加 筆 し た もので あ る。 本 論 考 のた め に、 玉 川大 学 教 授 米 山弘 先 生 並 び に 同学 園 博 物 館 史 料 室 の 林 定 弘 先 生(先 生 か らは小 原 の 講 演CDを 多 数 提 供 して い ただ い た)の ご協 力 が あ った こ とを記 して 、謝 意 を 表 して お きた い。 また 、 この試 みは、 科 研 萌 芽 的 研 究 「レ トリ ック論 に よ る教 育 言 説 の創 出 に 関 す る萌 芽 的 研 究 一 教 育 詩 学(ポ イ エ テ ィー ク)の 探 求 一 」(代 表 鈴 木 晶 子)の 一 環 と して 、 教 育 詩 学 の可 能 性 を探索 す る共 同 研 究 の 過 程 で 着 想 され た もの で あ る こ と も付 記 して お き た い 。 引用 ・参考文 献 ・KennethB"rke;『Agrammmarofmotives』Prentice-Hall、1945(邦 訳;森 常治 『動機 の文法』 晶文社、1982、 引用は邦 訳に よる。) ・小 原國芳全 集(玉 川大学 出版部)全48巻 ・岩 渕文人:小 原國芳先生都道 府県別講演行脚 の記録(平 成2年)。 小原 國芳 先生教育行脚の記録(平 成5年)(玉 川学園史料室) ・8臨 床教 育人間 学 第4号(2002) ・山 中 桂一;『 ヤ コ ブ ソ ンの 言 語 科 学1詩 ・ 『EncyclopediaofRhetoric』;(OxfordUniv ・佐 久 間鼎;『 と こ とば』(勤 草 書 房 、1989) .Press、2001) 日本 的表 現 の 言 語 科 学』(恒 星社 厚 生 閣 版 、1967) 乎注 (1)全 人 教 育 論 は 口演 の痕 跡 を濃 厚 に 留 め て お り、 この教 育 論 は 音 読 した 方 が よ り効 能 を 発 揮 す るだ ろ う。 そ の 仕 掛 け は い ろ い ろ あ る。 例え ば、 「いわ ん や」(副 詞 、 反 語 を作 る)「 さす が 」(副 詞)「 しか る に」(接 続 詞)な どを多 用 して 、 話題 を転 換 して語 りの 局 面 をず ら した り飛 躍 させ つ つ 接 続 す る の で あ るが 、 これ ら の用 語 は、 そ の発 声 の音響 効 果 や語 りの接 続 に微 妙 な溜 め(タ メ)と 間(マ)を 演 出す る こ とで 、 文 脈 のず れが あ たえ る違 和感 を む しろ語 りの め りは りに変 換 さ せ 、 か え って 語 りに リズ ム を 与 え、 聞 き手 に共 感 や一 体 感 を喚起 す る契 機 を作 り出 して い る。 あ る いは また、 地 名 人 名 、故 事 ・格言 ・ 狸 諺 、 美 談 ・エ ピ ソー ドな ど をふ ん だん に 引用 して 、 さなが らイ ンデ ック ス カ ー ドを 自在 に組 み合 わせ て遊 ん で い るか の よ う に、 さ りげ な く技 巧 を凝 らす 手 法 を駆 使 す る な ど で あ る。 ま た、"六 十 年 間 の 新 教 育 講 演 旅 行 も恐 ら く年 には 何十 回。 計 何 千 回 の 講 演 は フ ィ ヒ テ以 上 で した ろ う♂(37)こ こで の 「フ ィ ヒテ以 上 で した ろ う」 な どは、 恐 ら く小 原 以 外 に は とて も口 に 出せ な い セ リ フで 、 小 原"ら しさ"が よ く出 て い る と思 う。 こ れ は小 原 の 口調 の 典型 で 、 固有 名 詞 を 使 って 、 それ に よ って 特 定 の 文 脈 や意 味 や イ メ ー ジを 象徴 的 に表 現 す る比 喩 言説 の活 用 法 で あ り、 そ こで は フ ィ ヒテや ○ ○ 氏 は文 脈 優 先 の語 りに取 り込 まれ 、 主題 に よ って 制約 され た名 詞 とな って そ の 「固有 」 性 は も はや 消 され て い る ので あ る。 (2)語 りの 中 に余 談 、 脱 線 、 挿 話 を 自覚 的 に手 法 と して導 入 で き る(例:ヘ ロ ド トス は 「余 談 の人 」) 者 は 「天 性 の ス トー リテ ラ ー」 で あ る(ア リス トテ レス)と 言 わ れ、 それ は 詩 的技 法(poeticmanner) の ひ とつ と位 置 付 け られ た。 資料 (資料1) 「さ て、 人 間 文 化 に は六 方 面 が あ る と思 い ます 。 す な わ ち、 学 問 、 道 徳 、 芸 術 、 宗 教 、 身 体 、 生 活 の六 方面 。 学 問 の 理 想 は真 で あ り、 道 徳 の 理想 は善 であ り、芸 術 の理 想 は美 で あ り、 宗 教 の理 想 は聖 で あ り、 身体 の理 想 は健 で あ り、 生 活 の理 想 は富 で あ ります 。 教育 の理 想 はす なわ ち、 真 、 善 、 美 、 聖 、 健 、 富 の六 つ の価 値 を創 造 す る こ と だ と思 い ます。 然 して、 真 、 善 、 美 、 聖 の四 価 値 を 絶対 価 値 と言 い、健 富 の価 値 を手 段 価 値 と申 しま す。 こ こ で、 文 化Kultur、cultureと い う言葉 を少 し く説 明 い た しま す。 もと も と、 農 業 か ら来 た言 葉 な ので 、耕 す 、 開 墾 とい った 意 味 だ と思 い ます 。 硬 い土 を柔 か く し、 冷 い下 の土 を上 に上 げて 暖 か い お天 道 様 の温 床 を 与 え 、(中 略)吾 々 は吾 々で 、 人 間 の心 を 耕 さね ば な り ませ ぬ。 頑 な 心 を や わ らか く し、 冷 い心 に神 仏 の温 床 を あ たえ 、 心 の 中 に あ る石 こ ろ、 か わ らけ、 木 の 皇:小 原 國芳 「 全人 教育 論」 の レ トリック ・g 根、 笹 の根 、 雑 草 の 根 を 取 り去 って や る こ とだ と思 い ます 。 どん な雑 草 が は び こ っ と るか とい う と、 怨 み、 妬 み 、 ひが み 、 食 慾 、 陰 険 、 護 言 、 不平 、不 満 、 我侭 、 気 侭 、 利 己心 … … 殊 に、 恐 ろ しい様 々 の棒 が、 根 が胸 の 中 に は び こ って 居 ます 。 貧 乏、 泥 坊 、 陰謀 、 な ま け坊 、 食 い しん ぼ う、 甘 え ん ぼ う、 見 え 坊、 … …特 に 、 情 けな い の が ケ チ ンぽ う!こ れ らの 一切 を か な ぐ り捨 て て清 らか な人 間 に な る こ と が 人 間修 養 で あ り、 か か る人 が 教 養 人 で あ り、 文 化 入 な のだ と思 い ます 。」(全 集33巻15頁) (資料 皿) 「 全 人 教 育 と関係 深 い 諸 問 題 1、 全 人 教育 の反 対 と合 一 哲 人 ジ ョル ダ ノ ・ブ ル ー ノGiordanoBruno(1548-1600)は 、 わ れ わ れ人 類 に、 い み じ く も崇 い哲 理 を教 えて くれ ま した。 ヘ ラ ク レイ トス も 「争 闘 は万 物 の父 な り」 と教 え ま した 。 へ 一 ゲ ル も 「実 在 の 真 相 は 矛 盾 だ」 と説 き ま し た が、 ブル ー ノ は宇 宙 み な が 実 に反 対 の 合 一 、Coincidentiaoppositorum だ と説 き ま した。 白 と黒 、 上 と下 、 内 と外 、 天 と地 、 物 と心 、 貴 賎 、 貧 富 、 親 子 、 長短 、 大小 、 左 右 、 古 今、 東 西、 賢愚 、 老若 、 … … ま こ とに白 あ って の黒、黒 あ って の 白、親 あ って の子 、子 あ っての親 、 … … なの で す!わ れ われ は実 は、 これ ら二 つ を 一 つ に した天 地 融 合 、 物 心 一 如 、霊 肉合 致 の妙 境 を 開拓 せ ねば な りませ ぬ 。 しか も、 ブル ー ノ の この 哲 学 の独 立 は 尊 き犠 牲 の 血 な く して は瞭 わ れ な か った の です 。 朝 永 三 十 郎 先 生 は 「我 の 自覚 史 』 で 、 美 し く も、 き び し く教 えて 下 さい ま した。 「清新 高 通 華 や か な るル ネ ッサ ンス の代 表 的世 界人 生 観 の 建 設 者 ジ ョル ダ ノ ・ブル ー ノは 、 一 六〇 〇 年二 月 十七Bの 朝 ま だ き、 ロー マ の郊 外 カ ム ポ ・デ ・フ ィオ レの 広 場 に生 き なが らの 火 刑 。 何 と 惨 た る崇 高 さ よ。僧 あ り、 火 焔 の うち に苦 痛 と戦 うブル ー ノの 前 に十 字 架 を示 せ しに、 ブ ル ー ノ は 顔 を背 けて 見 な か った の です 。 これ 実 に神 学 の極 楷を 脱 せ る哲 学 好個 の 象徴 で す 。 ガ リレオ、 ニ ュー トンの近 世 自然 科学 、 デ カル ト、 ス ピノ ーザ 、 ライ プニ ッツの 偉 大 な る哲 学 的 組 織 は み な、 この ブ ル ー ノの 死灰 よ り咲 き 出で し美 しい花 とい え ます。」 わ れ わ れ は 尊 く教 え られ て、 反 対(コ合ロ)の 一( コ)と い う こ とを、 全 人 教 育 の立 場 か ら特 に大 事 にい た しま す。 大 胆 で小 心 で、 朗 か で 淑 か で 、 快 活 で た しな みが あ って 、 気 はや さ し くて 力 持 ちで 、 よ く学 び よ く遊 び(中 略)コ ヤ シ も担 げ ば ピ ア ノ も弾 け、 拭 き掃 除 もすれ ば お茶 や 生 け花 もで き、 雑 巾 も綴 れ ば 絹 の着 物 も仕 立 て られ、 ドブ溝 も さ らえ ば第 九 シ ンフ ォニ ー も歌 え 、 薪 割 り もす れ ば劇 も絵 も書 もい た し、 ソ ロバ ン もは じ くが お 経 も繕 け る玉 川 っ子 に した いの です 。」(全 集33巻99頁)
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