大西宇宙飛行士帰還後の リハビリテーションについて

大西宇宙飛行士帰還後の
リハビリテーションについて
平成28年11月25日
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
有人宇宙技術部門
宇宙飛行士運用技術ユニット長
上垣内 茂樹
1.JAXA宇宙飛行士運用技術の発展
宇宙飛行士の募集・選抜から始まり、訓練・認定までを
習得。健康管理についても以前より日本人宇宙飛行士の
ミッション機会を活用し、ノウハウの蓄積を行ってきた。
健康管理
募集・選抜
訓練・
認定
 軌道上運用
 健康管理
 生理的対策
(運動・リハビリ)
©JAXA
©JAXA
©JAXA
©JAXA/NASA
©JAXA
pg.1
2.宇宙飛行士の体力訓練
ミッションに備えるため、ミッションにアサイン(任命)されて
からはミッションのため、さらには帰還後速やかに復帰
するための訓練(リハビリ)が計画される。
ミッション外
ミッション中
飛行前
飛行中
飛行後(リハビリ)
ミッションを無事完遂
日常生活への早期
するための体力の維持 復帰。
障害/外傷の予防
向上/健康維持/障害
飛行前の体力水準へ
予防
の回復。
上記各種訓練を効果的
に遂行するための体力 帰還後リハビリを効率
の維持向上/健康維持 的に実施するための
体力維持
ISSでの運動に素早く
適用できるための運動 船外活動に向けた体力
フォームの獲得及び
維持
運動機器操作の習熟
目 宇宙飛行士に必要な ISS搭乗及びISS搭乗
的 各種訓練時の障害/ に必要な各種訓練時の
外傷の予防
上記各種訓練を効果
的に遂行するための
体力の維持向上/
健康維持
頻
度
飛行士の裁量
にて決定
2時間/回、
2回/週
2.5時間/回、
6回以上/週
毎日2時間(45日間)
pg.2
3.リハビリの必要性(宇宙から帰還後の人体リスク)
無重力から重力環境への適応
筋萎縮・
平衡機能障害・
起立性低血圧
などへ対応 する効果的な
リハビリが必要
【筋萎縮】
宇宙滞在1日の筋萎縮
変化は寝たきりの
2日分、高齢者の半年
分に相当し、歩行障害
リスク
©JAXA/NASA
【平衡機能障害】
【起立性低血圧】 失神や低血圧リスク
飛行中の宇宙酔いに加え、
帰還後のバランス障害リスク
pg.3
4.リハビリテーションプログラム(全体像)
一日2時間、帰還後45日間のリハビリを優先
R+1
R+7
R+26
R+45
R+14
・ストレッチング
・歩行訓練
・走行訓練
・有酸素運動
・抵抗運動
・体幹運動
・平衡性運動
・協調性運動
・敏捷性運動
【フェーズ1】
重力への再
適応
【フェーズ2】
段階的体力
向上
【フェーズ3】
飛行前体力へ
回復
pg.4
5.リハビリテーションプログラム(概要)
プログラム
目的
① 有酸素運動
ウォームアップ、心肺持久力の回復
② 動的ストレッチ
③ ゴムバンド/ボール歩行
④ 抵抗運動
ウォームアップ、柔軟性の回復
平衡性、歩行力の回復
筋力、筋持久力の回復
⑤
⑥
⑦
⑧
筋力、筋持久力の回復
平衡性、協調性の回復
平衡性、協調性の回復
平衡性、敏捷性、協調性の回復
体幹運動
障害バー歩行
バランスクッション/ボード
ラダー、コーン
⑨ メディシンボール
筋力、瞬発力、協調性の回復
⑩ 静的ストレッチ
柔軟性の回復
pg.5
6.日本でリハビリを行う経緯
 日本が自立した有人宇宙技術を獲得するため、これまで
宇宙飛行士の募集・選抜、訓練・認定、健康管理(軌道上
運用等)の技術蓄積を段階的に進めてきた。
 飛行前、軌道上の運動とリハビリについては、これまで、
NASAの専門家の指導の下に、日本人宇宙飛行士に対し
て実施し、運動処方の作成や運動指導の方法等について
知見を蓄えてきた。
 今回、当該知見が十分蓄積され、運動とリハビリをJAXA
のプログラムで実施で きることがJAXA及びNASAにて
確認され、JAXAの処方で運動とリハビリを自立的に実施
している。
 その一環として、国内でリハビリを実施できるように施設
設備面の環境も整備し、大西飛行士を一時帰国させ、筑波
宇宙センターでリハビリを実施することとした。
pg.6
7.JAXAのリハビリ帰還後の状況
【リハビリ体制】
【ジム】(宇宙飛行士養成棟)
レジスタンス・トレーニング
エアロビック・トレーニング
運動処方
生理的対策担当者
(J-ASCR)
【ジム】(無重量環境試験設備)
大西飛行士
ファンクショナル・トレーニング
健康管理
フライトサージャン
(FS)
pg.7
8.大西宇宙飛行士の帰還後の状況
 2016年10月30日(日)に帰還後、カザフスタンより
ヒューストンへ移送。(健康状態は良好)
 ヒューストンにて帰還後の医学
データを取得。
 ヒューストンにてJAXAリハビリ
担当者立ち合いのもと、リハビリ
訓練開始。
 日常生活において支障なく活動
できるようになりつつある。
(大西飛行士のGoogle+より)
米国で医学データ取得中の
大西宇宙飛行士
pg.8
9.公開するリハビリプログラムについて
 本日公開するリハビリプログラムは長期宇宙滞在に
より機能が低下している身体バランスを回復するため
に行う“ファンクショナル・トレーニング”を公開します。

バランスクッション/ボードエクササイズ(⑦)

メディシンボールエクササイズ(⑨)

ラダーエクササイズ(⑧)

コーンエクササイズ(⑧)
【参考】
 ファンクショナル・トレーニング(Functional Training)
長期宇宙滞在により低下した身体機能(特にバランス)を回復する
ことを目的としたトレーニング(③、⑥、⑦、⑧、⑨)
 レジスタンス・トレーニング(Resistance Training)
長期宇宙滞在により低下した筋力を回復することを目的とした
トレーニング(④、⑤、⑨)
pg.9
10.今後、将来展望について
 今後、大西宇宙飛行士はヒューストンに戻りJAXAの
生理的対策担当者の指導のもと、リハビリ終了と
JAXAで判断できるまでさらにリハビリを継続する。
 これらの活動を通じて、リハビリの処方や指導方法に
ついて、知見を蓄積するとともに改善事項を抽出し、
金井宇宙飛行士のリハビリに反映していく。
 なお、これらの知見を深めて、重力環境への再適応
の対処を容易にすること などで、有人宇宙活動の
柔軟性を高めることや、高齢者の転倒予防などに
反映・貢献できるようになることを期待している。
pg.10
参考
【有酸素運動(①)の順番と開始時期】
1.自転車エルゴメータ (帰還日から)
2.体重の65%負荷での免荷式トレッドミル
(7日後から)
3.体重の75%負荷での免荷式トレッドミル
(14日後から)
4.体重の75%負荷での免荷式トレッドミル
(21日後から)
5.トレッドミル(28日後から)
©JAXA
pg.12
【動的ストレッチ(②) 】
©JAXA
©JAXA
pg.13
©JAXA
【ゴムバンド/ボール歩行③】
©JAXA
©JAXA
©JAXA
pg.14
【抵抗運動(④)】(筋力トレーニング)
・筋肉に必要な刺激と休息を
与える
©JAXA
©JAXA
pg.15
【体幹運動(⑤)】
©JAXA
©JAXA
©JAXA
pg.16
【障害バー歩行(⑥) 】
©JAXA
©JAXA
pg.17
【バランスクッション/ボード(⑦)】
©JAXA
©JAXA
pg.18
【ラダー、コーン(⑧)】
©JAXA
©JAXA
pg.19
【メディシンボール(⑨) 】
©JAXA
©JAXA
©JAXA
pg.20
【静的ストレッチ(⑩)】
©JAXA
©JAXA
pg.21