糖尿病神経障害を合併した頚椎症患者の神経伝導検査

糖尿病神経障害を合併した頚椎症患者の神経伝導検査
◎坂下 文康 1)
三重県立総合医療センター 1)
【はじめに】
神経伝導検査(nerve conduction study:NCS)は絞扼性末梢神経障害や糖尿病神経障害の検索に広く用いら
れている。具体的には末梢神経を経皮的に電気刺激し、目的とする神経や筋から記録された活動電位の波形
を解析することにより末梢神経障害の有無、脱髄や軸索変性の程度、病変の分布状態(局在性か広汎性か)
などを評価する検査である。ただし、得られた結果は神経の状態を評価している事を理解するとともに、神
経の障害は種々の疾患によって引き起こされることを念頭に置く必要がある。よって疾患が合併している時
の判断には注意が必要である。今回、頚椎症の術前検査において NCS を実施したところ、高度の糖尿病神経
障害も併存していた症例について報告する。
【症例】79 歳、男性。
【主訴】右手巧緻運動障害、ふらつき
【現病歴】
12 月中旬より両上肢の関節痛が出現し近医受診。リウマチ性多発筋痛症の診断にてステロイド剤の内服開
始となり、症状は徐々に消失。しかし同時期より右手の細かい動きがしにくくなり、徐々に症状が進行。箸
も使えないようになってきたため、2 月下旬MRIを行った。その結果、頚椎症性変化を指摘され当院へ紹
介受診となる。3 月下旬に手術加療目的にて入院となった。
【検査所見】
NCS において、右正中神経で終末潜時 9.3ms、CMAP 振幅 0.3mV、MCV31m/s 、SNAP は識別不能。右尺
骨神経で終末潜時 3.5ms、MCV は前腕部で 41m/s、SNAP 振幅は 4μV と低下。両側の脛骨神経で CMAP 振幅
低下と MCV 遅延。両側腓腹神経で SNAP 識別不能であった。なお、右側の短母指外転筋において著明な筋
委縮を認めた。頚椎症の術前検査として NCS を施行したが、頚椎症より糖尿病神経障害による影響が大きい
と考えられた。
検査依頼書には「糖尿病あり」とのコメントのみであったため、電子カルテを参照すると高血糖に加え
BUN ・クレアチニンが高値、eGFR は低値であり腎機能障害を認めた。さらに 10 年以上前に受診歴があり、
この時点での血糖コントロールは不良であった事が判明した。
【まとめ】
今回の症例では電子カルテを参照することにより、糖尿病の罹病期間、腎機能障害の存在、網膜症の手術
歴などが確認され、NCS の所見と矛盾しないと考えられた。
電子カルテの普及に伴い有用な情報が比較的簡単に得られるようになったが、演者は先入観を持ちすぎて
はいけないと考えている。患者と接する生理検査においては、単に検査を行うだけでなく、患者と会話する
ことが非常に大切であり、時には主治医に訴えていない重要な情報や電子カルテの記載内容と異なる内容を
聴取することもある。このような場合、主治医に連絡し確認するか電子カルテに記載するなどの対応も必要
と思われる。
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