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自由論題 3
「東南アジアの経済・国際関係」
報告 2
福永佳史(経済産業研究所)
ASEAN マイナス X 方式に関する考察
Revisiting the ASEAN minus X formula
「ASEAN マイナス X 方式」は、ASEAN の組織原則の一つであるコンセンサス主義に対
する経済分野に限定された例外とされる。しかし、明確な定義はなく、ASEAN 公式文書や
学術的著作において、二つの異なる意味に用いられている。
第一が、
「合意における ASEAN マイナス X」である。2003 年のサービス貿易協定修正
議定書は、2以上の加盟国の合意により条約を作成することを認めた。このような方式を、
「2+X 方式」と呼び分ける考え方もあるが、ASEAN マイナス X と呼ぶ公式文書も多い。
実際には、全加盟国の合意・準備ができるまで条約を発効させないという運用が続けられ
ており、合意における ASEAN マイナス X の実例は二条約しか存在しない。
第二が、
「実施における ASEAN マイナス X」である。2008 年に発効した ASEAN 憲章
は、ASEAN マイナス X とは、合意ではなく実施面における柔軟性措置であることを明示
している。したがって、全加盟国がコンセンサスに基づいて決定することを前提としたう
えで、準備ができた国のみが実施することとなる。AEC 関連条約の発効規定に着目すると、
全加盟国による批准を発効要件としているものが約 9 割を占めている。批准が終了した加
盟国間のみでの発効を認めているのは交通分野の 19 条約のみである。条約を作成しない協
力分野でも、実施面での ASEAN マイナス X が存在するが、合意形成時には全加盟国のコ
ンセンサスを求めている点に留意が必要である(ASEAN シングルウィンドウなど)
。
「ASEAN マイナス X 方式」について論じる場合には、用語の二義性や実際の運用に留
意する必要がある。合意面に着目すれば、経済分野でも ASEAN のコンセンサス主義は極
めて根強い。コンセンサスが形成できない場合には、二国間条約やサブ・リージョナルな
条約を活用しているものと考えられる。他方、実施面での ASEAN マイナス X 方式の活用
事例は徐々に増えてきている。全加盟国が合意形成に参加し、実施状況に関する情報にア
クセスできることは、実施非参加国に学習の機会を提供していると評価できる。