学習心理学者,大きなイヌを飼う

学習心理学者,大きなイヌを飼う
北海道医療大学心理科学部臨床心理学科 准教授
漆原宏次(うるしはら こうじ)
関西学院大学大学院博士後期課程文学研究科修了。博士
(心理学)
。専門は学習心理学。著書は『学習心理学における
古典的条件づけの理論:パブロフから連合学習研究の最先端
まで』
(分担執筆,培風館)など。
数年前の 6 月,札幌の初夏にし
ど,私自身が多くのことを学んで
始めました。学内で参加者を募
てはやけに暑い日でした。買い
いました。
り,決められた時間フルフルとふ
物の途中,休憩がてら立ち寄った
フルフルはすくすくと育ち,一
れあってもらい,その前後でどの
ペットショップで,ぬいぐるみの
年半ほどで 30 キロもある立派な
ような心理的変化が起きるかを,
ような愛くるしいゴールデンレト
成犬に。学習心理学者が全力で躾
質問紙などいろいろな方法を使っ
リーバーの子犬を発見。気になっ
をした甲斐もあり(?),人好き
て測定します。ゼミ生が頑張った
たので,店員さんに頼んで抱かせ
でおとなしくて吠えない,お利口
おかげで良いデータが取れました
てもらい話を聞くと,この子はつ
さんになりました。そこで,フル
ので,今後学会などで発表する予
いさっき入荷されたばかりで,私
フルを迎えた当初から計画してい
定です。さらに,平成 28 年度から
が第一号のお客だとか。なんと
た,アニマルセラピー活動に参加
は,特定の曜日に大学キャンパス
なく運命を感じつつ,愛くるしい
することにしました。地元で活
にセラピー犬として常駐させ,学
顔を見ていると,情が移ってしま
動している NPO「北海道ボラン
生さんに自由にふれあってもらう
い,気が付いたら「この子,もら
ティアドッグの会」で行われてい
という新しい形での活動を計画し
います!」と言ってしまってい
るセラピー犬適性試験を受けたと
ています。
ました。当時,近い将来に大型犬
ころ,見事合格。以後,認定セラ
フルフルをうちに迎えて以来,
を飼いたいと考えてはいたもの
ピー犬として,近所の施設を訪問
彼女は学習心理学の実践の師匠
の,その日にイヌを迎えることな
し利用者の方とふれあう活動に,
として,アニマルセラピー研究の
ど全く計画していなかったという
4 年間参加しました。
相 棒 と し て,そ し て 家 で の 愚 痴
のに。これぞ運命の出会い? そ
また,フルフルにはもう一つ大
の聞き役(セルフアニマルセラ
れとも,衝動買いならぬ「衝動飼
事 な お 仕 事 が。 そ れ は,大 学 の
ピー?)として,私の良きパート
い」? 家に連れて帰った子犬は,
オープンキャンパスでの模擬講
ナーとなってくれています。まさ
とても人懐こくて,私の顔を見る
義のアシスタント。模擬講義で
に,イヌは人間の最高の相棒であ
は,身近なペットのしつけを例に
ることを日々実感しています。こ
ので,その様子から「フルフル」 とって学習心理学の知見を私が説
れからも,研究でもプライベート
と命名。こうしてフルフルとの生
明し,その知見を使って教えた芸
でも充実した愛犬ライフを,二人
活が始まりました。
を,フルフルが参加者の前で披露
五脚(?)で送っていこうと思い
私は学習心理学,中でも条件づ
します。もちろん一発勝負で失敗
ます。
けの分野が専門なので,イヌのし
は許されないのですが,合図とと
つけなどはお手の物,お利口なワ
もに床を転がったり,物をとって
ンちゃん一丁上がり!……と思っ
戻ってきたり,「バーン」という
ていたのですが,いざ実際に子犬
声に合わせてひっくり返ったり,
を育て始めると,なかなか理屈通
いろいろな芸を見事に(?)やり
りにはいきません。トイレ,お散
遂げてくれます。フルフルと一緒
歩,噛まないこと,吠えないこと
に行う模擬講義は,大学のオープ
などを一つ一つ悪戦苦闘しながら
ンキャンパスのちょっとした名物
4
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と大喜びで尻尾をパワフルに振る
教えているうちに,気が付けば, になりました。
フルフルのしつけの経験を通じ
一 昨 年 か ら は,学 部 ゼ ミ で,
て,実際の場面での強化のタイミ
ドッグセラピーの効果を実験的に
ングやプロンプトを使うコツな
検証する研究をフルフルと一緒に
近所のモエレ沼公園でご機嫌な様
子のフルフル。
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