[PRESS RELEASE] 2016年11月14日 難治性角膜疾患に対する次世代の角膜再生医療の基盤技術開発に成功 ~無血清・無フィーダー法による培養口腔粘膜上皮移植術 に関する研究論文の掲載~ 京都府立医科大学 感覚器未来医療学(中村隆宏、木下茂)、および眼科学(横尾誠一、 外園千恵)の研究グループは、難治性角膜疾患に対して世界に先駆けて再生医療学的手法 を用いて開発を行った“培養口腔粘膜上皮移植術”に関して、安全性、倫理面が担保され た無血清・無フィーダー法による新しい再生医療の基盤技術をさらに開発し、本件に関す る論文が 2016 年 11 月 14 日(月)に科学雑誌『Scientific Reports』に掲載されますので お知らせします。 本研究成果は、難治性の角膜疾患に対して 、より安全性・倫理面が担保された効果的な 次世代の角膜再生医療の技術開発につなが るとともに、他の疾患治療のための粘膜上皮(結 膜上皮や鼻粘膜上皮等)への応用の可能性も期待されます 。 【研究代表者】 京都府立医科大学 特任講座 感覚器未来医療学 准教授 中村 隆宏 【論文名】 Development of functional human oral mucosal epithelial stem/progenitor cell sheets using a feeder-free and serum-free culture system for ocular surface reconstruction [日本語:無血清・無フィーダー法を用いたヒト培養口腔粘膜上皮幹細胞シート移植術 の開発] 【掲出雑誌】 科学雑誌 Scientific Reports [2016 年 11 月 14 日(月)英国時間 10 時オンライン掲載予定] 【論文著者】 中村 隆宏 1 , 横尾 誠一 2 , Adams J Bentley 3 , 永田 真帆 1 , Nigel J. Fullwood 3 , 稲富 勉 1 , 外園 千恵 1 , 山上 聡 2 , 木下 茂 1 ※ 所属 : 1 京都 府立 医科大 学 、 2東 京大 学、 3Lancaster University 【研究概要】 本研究成果のポイント 安全性、倫理面が担保された次世代の角膜再建法となる無血清・無フィーダー法に よる培養口腔粘膜上皮移植術の開発に成功 本方法は B27, EGF, Y27632 などの規定された添加物の組み合わせにより、幹細胞を 含んだ移植片を安定して作成することが可能 本方法は、移植片の生成工程の中で、ウシ胎児血清やマウス由来の3T3細胞を用 いる必要がなく、安全性・倫理面が担保された次世代の再生医療の基盤技術開発と して期待される 1 研究の背景 我々人類は、外界からの情報の約8割を視覚(目)から得て日常生活を行っています。 視覚を維持するには黒目(角膜)が透明であることが必須であり、様々な病気により角膜 が混濁すると、視力低下をきたし失明にいたります。特に Stevens-Johnson 症候群、眼 類天疱瘡、熱化学外傷などの難治性角膜疾患に対しては、従来型の角膜移植術は奏功せ ず、克服すべき大きな課題でありました。これらの難治性角膜疾患に対して我々は、拒 絶反応のない新しい角膜再建法として自己の口腔粘膜上皮を用いた“培養口腔粘膜上皮 移植術”を提唱し、これまで臨床研究を行ってきました 1-3。従来の培養口腔粘膜上皮移 植術では、その移植片の生成工程の中で、ウシ胎児血清やマウス由来の3T3細胞を用 いる必要があり、安全性・倫理面が危惧されていました。 2 研究の内容 そこで今回我々は、安全性・倫理面が担保された次世代の角膜上皮再生医療の基盤技 術開発を念頭に、さまざまな条件を踏まえ、無血清・無フィーダー法による新しい培養 口腔粘膜上皮移植術の開発を検討しました。 検討の結果、細胞の増殖能、幹細胞維持能の観点から、 無血清・無フィーダー法の培 地組成には B27, EGF、Y-27632 を主に用いました。無血清・無フィーダー法による培養 口腔粘膜上皮シートは安定して5-6層の重層化したシートを形成し、従来法と同等の 形態学的特徴、コロニー形成能、細胞生物学的特徴を示しました (図1)。 図 1 .従来 法(A )お よび 無血 清・無フ ィー ダー 法(B)で作 成した培養口腔粘膜上皮シー ト のH E染 色 に よる 組織像 次に無血清・無フィーダー法で作成したヒト培養口腔粘膜上皮シートを家兎眼表面に 異種移植を行い、その生着性を検討しました。その結果、移植後14日の時点で、家兎 眼表面は無血清・無フィーダー法による培養口腔粘膜上皮シートにより完全に再建され 、 透明性を維持しました(図2)。 図 2 .無 血清・無 フィ ーダ ー法 によ り作 成し た培 養口腔粘膜上皮シートの家兎眼表面への移植試 験 。術前 、角 膜上 皮を 完全 に 眼 表面 から 除去( A, C)。術後 14 日、家兎 の角 膜表 面は 移植 した 培養 口 腔粘 膜上 皮シ ート により 完全 に 再 建さ れ 、透 明 性 を維 持し まし た( B, D)。( A, B: 前眼 部写 真 、 C, D: フル オレ セイ ン 染色 ) 3 まとめと今後の展望 これらの知見から、安全性、倫理面が担保された無血清・無フィーダー法による培養 口腔粘膜上皮シート移植術は、次世代の角膜再生医療の基盤技術として有効であること が示唆されました。 今後は、本方法をさらに安定的な作成環境を構築した上で効率的な手法を確立し 、角 膜再生医療における基盤技術の1つとして確立するため、臨床治験 を進めて行く予定で す。また、本方法をもとに他の粘膜上皮(角膜上皮、結膜上皮、鼻粘膜上皮等)の再生 医療の基盤技術開発にも応用 できる可能性があるため、現在研究を進めております。 [参考文献] 1. Nakamura T, Inatomi T, Sotozono C, Amemiya T, Kanamura N, Kinoshita S. Transplantation of cultivated autologous oral mucosal epithelial cells in patients with severe ocular surface disorders. Br J Ophthalmol. 88(10): 1280 -1284, 2004. 2. Inatomi T, Nakamura T, Koizumi N, Sotozono C, Yokoi N, Kinoshita S. Mid-term results on ocular surface reconstruction using cultivated autologous oral mucosal epithelial transplantation. Am J Ophthalmol. 141(2): 267-275, 2006. 3. Nakamura T, Takeda K, Inatomi T, Sotozono C, Kinoshita S. Long-Term Results of Autologous Cultivated Oral Mucosal Epithelial Transplantation in the Scar Phase of Severe Ocular Surface Disorders. Br J Ophthalmol. 95(7): 942 -946, 2011. 感 覚器 未来 医療 学 問 い合 わせ 電 准教授 中 村 隆宏 話 : 075-251-5772 E-mail: [email protected]
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