世界初!細胞をがん化させる新しいがん遺伝子 GRWD1 を発見

九州大学広報室
〒819-0395 福岡市西区元岡 744
TEL:092-802-2130 FAX:092-802-2139
MAIL:[email protected]
URL:http://www.kyushu-u.ac.jp
PRESS RELEASE(2016/11/18)
世界初!細胞をがん化させる新しいがん遺伝子 GRWD1 を発見
九州大学薬学研究院医薬細胞生化学分野の藤田雅俊教授、同大学生体防御医学研究所の中山敬
一教授、国立がん研究センター研究所の清野透分野長、江成政人ユニット長、河野隆志分野長らの研
究グループは、細胞をがん化させる新しいがん遺伝子 GRWD1 を世界で初めて発見しました。がん細胞
においては、p53 と言われる細胞増殖の“ブレーキ”役であるタンパク質の異常が頻繁に起こっているこ
とが知られています。しかし一方で、p53 に異常の無いがん患者さんも多く存在しています。今回、研究
グループは、GRWD1 が RPL11 というタンパク質との結合を介して p53 タンパク質量を減少させ、細胞の
がん化を促進させることを初めて明らかにしました(図 1)。さらに重要なことに、がん患者のデータベース
の解析から、幾つかのがんの種類においては、GRWD1 タンパク質量の増加はがんの悪性度を上昇さ
せ、予後不良の予測因子となり得ることを発見しました(別紙図)。今後の研究の発展により、GRWD1 発
現検査によるがん治療方針のより適切な決定や、GRWD1 を標的とする新たな抗がん剤開発につながる
ことが期待されています。
本研究成果は、2016 年 11 月 17 日(木)正午(CET 時間)に欧州分子生物学会誌「EMBO Reports」でオ
ンライン掲載されました。
正常細胞
種々のストレスを受けた細胞
核
核小体
GRWD1
GRWD1
RPL11
GRWD1
RPL11
GRWD1
RPL11
RPL11
GRWD1
Ub
MDM2
GRWD1
RPL11
MDM2
p53
RPL11
p53
GRWD1過剰発現 がん細胞がストレスを受けた場合
GRWD1
GRWD1
RPL11
GRWD1
GRWD1
RPL11
GRWD1
RPL11
MDM2
p53
Ub
(図 1)今回の研究成果の概略図
p53 タンパク質は細胞増殖のブレーキ
なので、正常に増えている細胞中では
MDM2 というタンパク質の働きで分解さ
れている(左上)
。細胞が、異常な増殖
刺激や DNA ダメージなどのストレスに
晒された場合、RPL11 というタンパク質
が MDM2 に結合しその機能を抑える。そ
の結果 p53 量が増加し、細胞の増殖を
止めて異常を修復したり、修復しきれ
ない場合は細胞を自殺させ、がん化を
防いでいる(右上)
。GRWD1 タンパク質
量が増加した場合、その GRWD1 が RPL11
に結合し働きを邪魔してしまう。その
結果、細胞のがん化が促進される(下)
。
研究者からひとこと:我々の研究室では、染色体 DNA 複製や細胞周期制御といった細胞増殖メカ
ニズムの基本原理解明の基礎研究から、今回のようながん遺伝子研究や抗がん剤開発研究まで、
幅広く研究を行っています。応用研究にもつながる基礎研究の重要性を理解していただけるよう、
研究内容の普及にも努めています。
【お問い合わせ】 大学院薬学研究院 教授 藤田雅俊
電話:092-642-6635 携帯:090-8554-5338
FAX:092-642-6635 Mail:[email protected]
(※17 日まで研究室不在の為、ご連絡は携帯またはメールにてお願いします。)
0
2
0
0
別紙資料
E7,KRas G12V
6
8 10 15 17 20 23 25 27
Days
HA-GRWD1,E7,KRas G12V
HA-GRWD1,E7,KRas G12V
G
p53野
W生
T型
p53変
m異
utated
型
高発
38症 例)
GRWD1 H
igh現
(n =(38)
低発
症 例)
GRWD1 L
ow 現
(n =(97
97)
1.0
p = 6.5e-10
0.8
Overall
生存su
率rvival
Overall
生存su
率rvival
1.0
高発
症 例)
GRWD1 H
igh現
(n =(75
75)
低発
(69
症 例)
GRWD1 L
ow現
(n =
69)
0.6
0.4
0.2
0.0
p = 0.5436
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
0
50
100
Mo
nths
(月)
150
200
0
40
80
120
Mo
nths
(月)
160
(別紙図)脳グリオーマ患者において、p53 が異常な(変異している)場合は GRWD1 の発現量
の高低は予後(がん悪性度)に相関しないが、p53 が正常な場合は GRWD1 の高発現によりがん
の悪性度が上昇し予後不良となる。つまり、p53 が正常で GRWD1 発現量が高い場合はより強い
治療を行うなど、治療方針決定の精度向上につながる可能性が考えられる。
Figure 5. Kayama et al.
E7,K