講演内容(PDF)

Daiwa Capital Markets Conference 2016
岸田外務大臣御挨拶「新時代の日米経済関係」
1 はじめに
外務大臣の岸田文雄です。本日は大和キャピタル・マーケッツ・カンファレンス201
6にお招きいただき,世界経済・金融の最前線で活躍される皆様の前でお話する機会をい
ただいたことに,まず御礼申し上げます。
米国時間の今週8日,近年稀にみる大激戦を経て,トランプ次期大統領が選出されまし
た。本カンファレンスが,このようなタイミングで開催されることは大変時宜を得たもの
と思っております。
2 日米同盟は揺るがず
日米両国は,自由,民主主義,基本的人権,法の支配といった普遍的価値の絆で固く結
ばれており,政権を問わず,この同盟関係は揺らぎません。早速,大統領選挙の翌日には,
安倍総理とトランプ次期大統領との間で電話会談が行われたところです。私自身も,トラ
ンプ次期大統領及びペンス次期副大統領と緊密に協力し,日米同盟の絆を一層強固にする
とともに,アジア太平洋地域の平和と繁栄を確保するために,日米両国で主導的役割を果
たしていくことを,心から楽しみにしています。
21世紀においては,日米同盟は,国際社会が直面する課題に互いに協力して貢献して
いく「希望の同盟」であり,トランプ次期政権と連携して,世界の直面する諸課題に共に
取り組んでいく考えであることを,この場を借りて改めて強調したいと思います。
3 新時代の日米経済関係
(日米経済関係の現状)
さて,私が外務大臣に就任して以来,早くも約4年が経とうとしております。この間,
私は「日本外交の三本柱」として,
「日米同盟の強化」,
「近隣諸国との協力関係の重視」及
び「日本経済の成長を後押しする経済外交の推進」を軸として外交を進めてきました。そ
の中で,本日お話しする日米経済関係は,
「日米同盟の強化」と「経済外交の推進」のいず
れにもまたがる重要な分野であると考えております。
御存知のとおり,日本にとって米国は最大の対外投資先です。2015年末の日本の対
米直接投資残高は約50兆円と,全体の3割を越える規模に達しており,あらゆる業種の
企業が米国に進出しています。これらの日系企業が米国で創出している直接的な雇用は,
全米で約90万人にも及ぶと言われています。日系企業は,それぞれの地域で経済のエン
ジンとなるだけでなく,その職業モラルの高さなど雇用の「質」の面からも,コミュニテ
ィの発展や地域経済の成長に大きく寄与しています。
さらに,日米経済関係は,近年一層幅広い分野に協力の裾野を広げております。
インフラ分野では,ワシントンD.C.とニューヨークとを超電導リニアで結ぶ計画な
ど高速鉄道の大型案件が進展している一方,エネルギー分野においては,米国産LNG・
原油の輸出が開始されました。
また,成長がめざましい電気通信技術やIoTをはじめとしたデジタル・エコノミーの
分野では,産業界・学術界を交えて,G7・G20といった国際場裡で情報の自由な流通
を確保する政策を日米で先導してきました。
このように,日米経済関係は,かつての摩擦の時代を乗り越え,双方向・協調の時代を
迎えております。大統領選挙を経て一つの大きな転換点を迎えた米国との今後の経済関係
をいかに構築し,発展させ,日米双方の成長に繋げていくか。これは極めて重要な検討課
題であると同時にチャンスでもあると認識しています。
(日米経済研究会2016)
そのような問題意識の下,私は,本年9月に「日米経済研究会2016」を立ち上げ,
各界の有識者の方に御協力いただき,今後の日米経済関係強化の方途について,忌憚のな
い議論を行っていただきました。
本日,
「新時代の日米経済関係の構築」と題された提言書を頂戴したところです。この重
要な提言も踏まえつつ,日米経済関係を更に深めていく取組についての現時点の私の考え
を少し述べさせていただきたいと思います。
(日米経済関係の一層の進展・深化とそれを基盤とした協力)
1つめの提言として,新時代の協力に向けた,これまでの取組の拡大・深化の重要性が
指摘されています。これまで日米両国はエネルギー,地球環境・気候変動,グローバルヘ
ルス分野等,多様な分野で協力を進めてきました。これらの取組を更に深めつつ,同時に,
例えば,米国内の交通,発電,水といった分野での膨大なインフラ需要に日本側の技術や
資金で応えていく形での協力を進めていくべきとの提言や,次世代を見据え,日米が先端
技術を主導する形での協力を進めていくべきとの提言をいただきました。これらはいずれ
も真剣に検討すべき提言であり,今後具体的な協力分野を模索していく上で,しっかり参
考にしていきたいと思います。
(重層的対話の推進)
次に,このような新時代の日米協力に見合う政策の企画・立案を行う上で,政府間の対
話にとどまらない重層的な対話を進めていくべきとの指摘がありました。これは大変重要
な提言と認識しています。この提言を踏まえ,民間企業,地方自治体,大学・研究機関・
シンクタンク・NGO等を含む多様な組織の方々に参加いただき,その知見をお借りし
ながら,重層的な対話プロセスを進めていきたいと考えております。とりわけ,経済の担
い手たる民間企業の役割は極めて大きいものと考えており,日本企業が持つ強みを生かし
ながら日米関係全体の進展を図るべく戦略的な官民のパートナーシップを更に推進してい
く所存です。
(自由貿易の推進に向けた日米のリーダーシップの発揮)
また,環太平洋パートナーシップ(TPP)協定についてもしっかり提言されています。
私としては,
「アベノミクス」の柱の一つでもあるTPPは,成長著しいアジア太平洋地域
に,ダイナミックな一つの経済圏を生み出すとともに,先ほど申し上げたような日米の経
済を含む域内の経済関係を更に強固にし,アジア太平洋地域や世界の平和と安定にも貢献
する,大きな経済的・戦略的意義を有するプラットフォームであると考えています。
この点,提言においては,協定の早期発効に向けて,引き続き安倍総理大臣とオバマ大
統領がリーダーシップを発揮していくことの重要性が挙げられています。むろん,トラン
プ次期大統領が,選挙期間中にTPPに反対の姿勢を示してきたのは周知のとおりですが,
提言では,TPPの経済的・戦略的意義について,次期大統領及びその関係者の理解を得
られるよう政府として粘り強く取り組んでいくことを期待するとも述べられています。
政府としては,このような提言も踏まえ,TPPの恩恵を可能な限り早くもたらすべく,
引き続きTPPの早期国会承認を目指すとともに,米国を含む参加国の早期承認を強く期
待し,働きかけていきます。また,この観点から,トランプ次期政権の移行チームの関係
者とも早急に意思疎通を図っていく考えです。そしてさらに,TPPは,日EU・EPA,
RCEP,そしてその先にあるFTAAPといった,今後のメガFTAと言われる経済連
携協定のモデルになると考えています。将来の経済連携の議論を,自由貿易を重視する方
向に日本がリードしていくためにも,日本のTPPを重視する姿勢に今後とも変更は無い
と考えております。
4 おわりに
冒頭で申し上げたとおり,とりわけ2016年は,国際経済社会が抱える多くの不安定
要因が顕著に現れた年でした。しかしながら,本日御紹介したような新しい取組を通じて,
こういった不安定要因を排し,日米両国が世界経済に責任ある役割を果たせるような「新
時代の日米経済関係」を構築していくべく,私自身も外務大臣の立場から全力を尽くす所
存であることを申し上げ,私の講演を終わらせていただきます。
御静聴ありがとうございました。