としての - 日本貿易振興機構

国際ビジネス情報誌
特集
平成 28 年 12 月15日発行
(毎月 15 日発行)
第 66 巻 第 793号
新たなビジネスのヒントを!
ツール
12
2016
December
としての FTA
関税撤廃の他にも
中 国
キューバ
世 界
ポスト爆買いは電子決済で
始動! ライバル企業
外国人材を生かすには
中南米ビジネス環境再点検
~プロビジネス政策へのシフト~
CONTENTS
2016 DECEMBER
12
特集
特別リポート
ツールとしてのFTA
中南米ビジネス環境再点検
関税撤廃の他にも 02
FTA 深化に逆風も 03
コラム 非関税分野にも期待大 ~ジェトロ調査から~ 07
貿易円滑化 貿易円滑化への動き加速 08
サービス自由化 ASEANの自由化への取り組み 10
EUの「人の移動の自由」の光と影 14
投資 国際ルール形成は転換期に 16
政府調達 調達市場開放が商機を生む ~プロビジネス政策へのシフト~
景気回復の条件は? ~現状と課題~ 日系企業の業績は北高南低
~通貨切り下げ後も依然コスト高~ 51
52
57
【分野別コスト比較 製造業・サービス業】
低コスト際立つメキシコ・パラグアイ 60
【分野別コスト比較 アウトソーシング・物流】
独自の強みで存在感示す国々 63
[コラム]
アルゼンチン ビジネス環境改善への取り組み 66
18
キューバ 実は高投資コスト国 67
知的財産 ルール形成はFTAが先行 20
ベネズエラ 投資の好機は先か? 68
電子商取引 TPP 合意は世界ルールになるか 24
規制協力 先進国型FTAの“本丸” 26
労働・環境・国有企業 FTAでルール化進む 29
必見! 世界と日本の主要FTA一覧 30
アヤソフィア(トルコ)
(p.90 ~物価ウオッチング)
A R E A R E P O RT S
世界のビジネス潮流を 読 む
エリアリポートの読みどころ 紹介 【世 界】 外国人材を生かすには
【中 国】 ポスト爆買いは電子決済で 【ベトナム】 活況! 対外投資
【カナダ】 TPP が日加関係を変える
69
70
【キューバ】 始動! ライバル企業
72
【ドイツ】 移民が雇用を創出 80
74
【ロシア】 中小企業分野での交流 82
76
【アフリカ】 ビジネス新ステージへ 84
78
連載
短期集中連載 新生! 有田焼(その 2)
佐賀県 “ARITA”を世界に 37
国柄・土地柄・暮らしぶり
世界の探訪スポット
スイス・ラヴォー地区
ワインの郷からレマン湖とアルプスを望む 86
93
挑戦!国際ビジネス
物価ウオッチング
中東編 イスタンブール/ドバイ ドイツ/ベルリン
建築家も注目する個性豊かな街へ! 90
沖縄県 株式会社沖坤
沖縄素材を世界へ ~自社の強み、再発見!~ 96
表紙画像:Maciej Frolow / Getty Images
特集
ツールとしての
FTA
関税撤廃の他にも
2016 年 2 月に署名された TPP(環太平洋パートナーシップ)協定。これ
に代表される近年の自由貿易協定(FTA)を通じて、世界の通商ルールは進化
を続けている。
今日の F TAは、物品貿易、サービス貿易、投資、政府調達という4 分野の
自由化を促す諸ルールから、電子商取引、国家間の規制協力といった新しい
タイプのルール群まで幅広い要素を含む。もはや FTA は単に輸入関税を撤
廃する手段ではなく、国際ビジネスの推進に不可欠なツールと化した。
ビジネスに影響を及ぼす通商ルールは、FTA だけではない。
「貿易円滑化
協定」や「政府調達協定」など世界貿易機関(WTO)
で形成されるルールや、
従来二国間で進められてきた投資協定もある。
本特集では、FTA を中心としたこれら国際通商ルールの最前線を追う。
(ジェトロ海外調査部国際経済課)
FTAの深化に逆風も
コラム 非関税分野にも期待大
~ジェトロ調査から~
3
7
貿易円滑化 サービス自由化 貿易円滑化への動き加速
8
政府調達 調達市場開放が商機を生む
知的財産 ルール形成は FTA が先行
電子商取引 TPP 合意は世界ルールになるか
規制協力 ASEAN の自由化への取り組み
10
先進国型 FTA の
“本丸”
EU の
「人の移動の自由」
の光と影
14
FTA でルール化進む
国際ルール形成は転換期に
16
投 資 02 2016年12月号 労働・環境・国有企業 必見! 世界と日本の主要 F TA 一覧
18
20
24
26
29
30
ツールとしての FTA
FTA 深化に逆風も
ジェトロ海外調査部国際経済課 安田 啓
2015年末の ASEAN 経済共同体(AEC)創設、
こなすか」をテーマに、メガ FTA が成立して関税が
16年2月の環太平洋パートナーシップ(TPP)協定
撤廃される時代を見据え、企業がサプライチェーンを
署名。この一年を振り返ると、世界の自由貿易協定
いかに最適化していくかという経営戦略面にスポット
(FTA)や経済統合は深化が進んだ。特に TPP では、
を当てた。15 年では「世界通商にパラダイムシフト」
物の貿易だけでなく、サービス、投資、政府調達、電
と題し、同年 10 月に大筋合意に至った TPP や AEC
子商取引など、高度な内容を実現した。他方、英国国
の創設に言及した。この特集で紹介した TPP 協定の
民投票の結果が象徴するように、16年には経済統合
内容は、労働、国有企業といった新分野の貿易ルール
に懐疑的な風潮も見られた。FTA の深化と経済統合
を含む 30 章にも及ぶ詳細なものであった。また AEC
への逆風という、相反する今日的現象を読み解く。
の設立は、既に域内の 96%の品目の関税が無税とな
っている ASEAN において、サービス業における外
資規制緩和や熟練労働者の資格の相互承認にまで踏み
本誌表紙が語る FTA 史
込んだ点で、ASEAN 経済統合の一つの節目と言える
「アジアに向かう FTA ネットワーク」
。本誌 2012
年 12 月号に組んだ特集記事のサブタイトルである。
ものだ。
16 年 2 月、TPP 協定が参加 12 カ国の政府間で署名
当時日本は、TPP 交渉への参加を前に、交渉参加国
されたことは、AEC と相まって、ビジネスパーソン
と協議を重ねていた。米国は TPP を対アジア通商政
のアジア地域にかかる FTA や経済統合への関心を具
策の柱に位置付け、それに危機感を抱いた EU もアジ
体的な論点へと深めていった。例えば中小企業の間で
ア諸国との FTA 網強化を模索しつつあった。以来、
広がりつつある国際取引における電子商取引の活用な
今日に至るまで、FTA 動向を占う上では「アジア」
ど。ジェトロが 16 年 1 月から 3 月にかけて、日本や
がキーワードとなってきた。
ASEAN 諸国を含むアジア 16 カ国の商工団体と共同
本誌は 12 年以降、毎年 12 月号で、連続 5 回にわた
で実施した FTA 活用に関する調査(回答企業 309 社)
って FTA 特集を組んできた。過去 4 回を振り返ると、
でも、貿易の手段として電子商取引を活用している中
その時々における FTA の注目点が見て取れる。
小企業が 16.8%と、大企業(9.9%)を上回る利用がな
13 年のタイトルは「到来!メガ FTA 時代」。当時、
されている。中小企業の海外ビジネス拡張に向けて「電
日本は TPP 交渉に参加、日 EU 経済連携協定(EPA)
、
子商取引利用に関する明確なルール」が必要であると
東アジア地域包括的経済連携(RCEP)、さらには米
の回答は、31.9%の中小企業から寄せられた。TPP
EU 包括的貿易投資協定(TTIP)といったメガ FTA
「電子商取引」章のような FTA ルールへの理解は、
の交渉が開始されていた。14 年は「FTA をどう使い
今日の国際ビジネスには必須であろう(本誌 p.24 参
2012年12月号
2013年12月号
2014年12月号
2015年12月号
「アジアに向かう FTA ネットワーク」
「到来!メガ FTA 時代」
「FTA をどう使いこなすか」
「世界通商にパラダイムシフト」
03
2016年12月号 新生!有田焼
その2
佐賀県 “ARITA”を世界に
ジェトロ佐賀事務所長 清水 幹彦
人間国宝の手になる器に料理を盛り付けて食事を楽
しむことができる美術館が注目を集めている。その名
も「USEUM ARITA(ユージアムアリタ)」注1。佐
賀県有田町に期間限定でオープンした、有田焼を “ 使
う ” 美術館である。有田焼のブランド化に向けた佐賀
県のこうした取り組みは、2016年末まで国内外の
各所で展開されている。
欧州では、有田焼のリブランディングと販路開拓の
取り組みも進む。フランス・パリで毎年開催される欧
州最大級のインテリア・デザインの国際見本市「メゾ
ン・エ・オブジェ」には、県内えりすぐりの八つの窯
レストラン「USEUM ARITA」
元と商社が、14年度から3年連続で新製品を開発し
て出展、世界に向けて新しい “ARITA” を提案して
店内は平日にも
きた。フランス・パリに本拠を持つマーグ画廊での展
かかわらず満席。
示会開催、ルーブル美術館内のショップでの販売、フ
県内産の食材を
ランス三つ星レストランへの納入……など、3年にわ
使った料理が盛
たる取り組みの結果、成果の芽が出てきた。有田焼創
り付けられた人
業400年を契機に海外市場開拓を進める県は、伝統
間国宝の作品を
産業を通じて地方創生を目指す。
手に取り、来館
者は感嘆の声を
“ARITA” を新たにブランディング
佐賀市内から高速道路で西へ 1 時間ほど走ると、風
めい び
上げる。こうし
井上氏の器で提供される佐賀の食材を使った料理
(写真提供:佐賀県)
た大胆な仕掛けは国内だけにとどまらない。県はフラ
ンスをはじめイタリア、オランダなどの欧州各国で、
光明媚な有田町に着く。ここでは、卓越した伝統技術
ARITA のブランディングと販路開拓に向けた取り組
を駆使した陶芸家の手によって、有田焼が作り出され
みを進めている。
る。中でも、人間国宝
注2
の井上萬二氏、中島宏氏、
有田焼は 1616 年に日本で初めて焼成された磁器で、
そして十四代今泉今右衛門氏が生み出す有田焼は、伝
2016 年に創業 400 年を迎えた。佐賀県は、有田焼の発
統工芸品の枠を超えた芸術作品として、国内外から高
展の礎となった 400 年の歴史を「ARITA EPISODE 1」
く評価されている。
と位置付け、現在、次の 100 年に向け大きな一歩を踏
佐賀県は、有田焼創業 400 年事業の一環として、佐
賀の食材にこだわった料理を人間国宝が作った器で提
供するレストラン「USEUM ARITA」を、2016 年 8
月 11 日~11 月 27 日という期間限定でオープンした。
み 出 す た め、 有 田 焼 創 業 400 年 事 業「ARITA EPISODE 2」に取り組んでいる。
有田焼を中心に据えて観光や文化といった分野とも
連携する同プロジェクトでは、有田焼のブランド化推
37
2016年12月号 ート
ポ
リ
特別
中南米
ビジネス環境
再点検
〜プロビジネス政策へのシフト〜
中南米経済の現状をどう捉え、企業として今どのような戦略を練り行動に移していく
べきか。同じ中南米域内でも状況はまだら模様であり、見通すのは容易ではない。
本リポートでは、転換期に入ったとみられる中南米経済の現状とビジネス環境につ
いて南米を中心に点検し、今後のシナリオを示してみた。また、マクロ経済の変化が
投資コストなどにどう反映されているのか検証を試みた。
(ジェトロ海外調査部米州課)
contents
景気回復の条件は? 〜現状と課題〜
日系企業の業績は北高南低
〜通貨切り下げ後も依然コスト高〜
分野別コスト比較 製造業・サービス業
低コスト際立つメキシコ・パラグアイ
分野別コスト比較 アウトソーシング・物流
独自の強みで存在感示す国々
52
57
60
63
コラム
〈アルゼンチン〉
ビジネス環境改善への取り組み
〈キューバ〉
実は高投資コスト国
〈ベネズエラ〉
投資の好機は先か?
66
67
68
*本稿において、中南米はメキシコ以南の米州の国々を、中米はグアテマラ以南、パナマ以北の中米地峡の国々を、南米はコロンビア以南の南米大陸の国々を指す。
51
2016年12月号 景気回復の条件は?
~現状と課題~
だが、南米のブラジルとベネズエ
ジェトロ海外調査部主幹 竹下 幸治郎
図2)。
ラが足を引っ張っているのだ(表、
同地域の社会的背景を念頭に置
き、中南米経済を見ると、大きく
2015年、 中 南 米 地 域 全 体 の
そうした各国が取り組む構造改革、
以下の五つに分類できる。①米国
経済成長はマイナスとなった。た
通商政策、インフラ政策などにも
経済回復の恩恵を受けるメキシコ、
だし域内では、保有資源の違いな
着目すべきだろう。
②原油安によるエネルギー輸入コ
どにより、成長あるいは落ち込み
短期回復には
資源価格上昇が必須
の度合いにバラつきが生じている。
中南米経済を歴史的に見ると、
スト低下のメリットを享受する中
米諸国、③景気は悪いが、構造改
革と民間活力活用路線に転換した
これまで資源ブームとその崩壊が
国連ラテンアメリカ・カリブ経
国( ブ ラ ジ ル、 ア ル ゼ ン チ ン)、
繰り返されてきた。そうした経緯
済委員会(CEPAL)によると、中
④経済政策の転換はなされず、資
に鑑みると、域内には当然、崩壊
南米地域経済全体の2015年の
源価格下落の影響を依然として強
局面からの回復への「処方箋」が
GDP 成長率は、マイナス0.5%。
く受けている国(ベネズエラ)
、
共有されているはずである。ポイ
09年以来のマイナス成長となっ
⑤鉱物資源価格下落の影響を受け
ントは、それをどこまで構造改革
たが、国・地域によって状況は異
ながらも、農林水産資源といった
などに生かせるかにある。今後は
なる。中米以北の経済は堅調なの
他の資源・産品の輸出ないしは内
需で補完し、プラス成長を維持し
ている南米諸国(ペルー、チリ、
図1 中南米経済の現状
コロンビアなど)である(図1)
。
特に③④に分類される国々のこ
中米諸国
の2年間の景気後退要因は、交易
条件の悪化(輸出財1単位当たり
メキシコ
で購入できる輸入財の割合)に根
ベネズエラ
コロンビア
差しているとの見方が強い(図
3)
。鉱物資源や炭化水素(石油、
天然ガスなど)の輸出を行ってい
ブラジル
る南米主要国においては、交易条
件の悪化と景気後退が同時に起き
ているというわけだ。
ペルー
パラグアイ
一方、主要産品に農水産品やそ
の加工品を含む⑤の国々では、鉱
産物の資源価格の下落を他の産品
チリ
①米国経済回復の恩恵により好景気
②資源価格下落の恩恵を受ける国
③構造改革により回復を目指す国
④資源価格下落による不景気状態のままの国
⑤農林水産資源などで補完し、
プラス成長を
維持する国
資料:各種資料を基に作成
52 2016年12月号 ウルグアイ
アルゼンチン
が補ったことなどにより、一応プ
ラス成長を維持している。要する
に、当該国の保有する生産・輸出
資源のポートフォリオの違いが、
経済動向にも反映したというわけ
である。
世界の
を
ス潮流
ビジネ
読む
AREA
REP RTS
エリアリポート
読みどころ
紹介
世界 ◎ p70
キューバ ◎ p78
外国人材を生かすには
始動! ライバル企業
日本企業は、外国人材活用とりわけ外国人留学生の
採用に意欲的だ。利点は販路開拓や対外交渉力向上。
国内の外国人就労者も増えている。だが、日本の就労
人口全体に占める割合は主要先進国の中でも低水準。
課題は「言葉の壁」の解消。今後は組織を挙げて課題
解消に取り組み、外国人材を生かす視点が重要となる。
対キューバ ・ ビジネスを模索する企業の動きが活発
化。外国企業とりわけ米国企業の関心は低リスクの観
光関連事業に集中。欧州やアジア企業は先行投資で国
内の需要総取りを狙う。経済改革を進めるキューバだ
が、外国企業の参入可能なビジネス領域は限られるな
ど、制裁緩和以前と変わらない点には留意が必要だ。
中国 ◎ p72
ドイツ ◎ p80
ポスト爆買いは電子決済で
移民が雇用を創出
中国で電子決済が急速に普及。「細かい消費」への対
応にメリット。リピーターとなる訪日中国人が増え、
売れ筋商品は少額商品に移っている。日本での“爆買
い”は一段落したともみられるところから、電子決済
サービスを導入する日本企業もある。為替リスクや導
入後のトラブルなど、リスク回避への目配りが必要。
移民が雇用を生み出している。2014年には移民起業
家が約200万の雇用を創出。一方で15年以降大量の難
民が流入。政府は難民のドイツ社会への融合を進める
体制を整備中。ベルリンでは起業経験のある難民向け
の講座を開設。経済成長に必要な労働力確保や高度人
材の活用が課題という点で、日本はドイツと共通する。
ベトナム ◎ p74
ロシア ◎ p82
活況! 対外投資
中小企業分野での交流
ベトナム企業の対外投資が加速している。国有企業
や大手企業は、周辺国市場の開拓に積極的。米国との
通商協定締結や WTO 加盟に伴う自国市場の対外開放で、
従前の商圏を奪われかねないという懸念があるからだ。
ソフトウエア開発分野では、中小企業による海外進出
も見られる。中には開発拠点を東京に設立した企業も。
ロシア政府は、中小製造業の育成・発展を掲げる。
資源輸出に頼らない経済構造への転換を目指すためだ。
政府は「中小企業発展戦略」で国家支援を確約。政府・
中小企業とも日本をはじめ外国企業との協力が不可欠
との認識では一致する。外資には入手困難だった、ロ
シア中小企業の情報を整理・提供する動きも出始めた。
カナダ ◎ p76
アフリカ ◎ p84
TPP が日加関係を変える
ビジネス新ステージへ
環太平洋パートナーシップ(TPP)協定が発効すれば、
9割超の貿易品目の関税が即時ゼロに。税関手続き面
でもカナダの備えは万全。日本にとっての期待分野の
一つは自動車産業。完成車のみならず部品についても
TPP 利用が有利に働く場合がある。批准見通しは米国
次第との観測も。知財分野での環境改善も期待できる。
2016年夏開催の第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)
では、民間企業によるビジネス展開の重要性が強調さ
れ、「支援からビジネスへ」の流れを強く印象付けた。
日本政府も日本企業のアフリカビジネスを後押しする。
市場獲得に向けた日本企業の動きも活発。ビジネスの
具体化には日本・アフリカ間で署名された覚書を活用。
69
2016年12月号 世界の暮らしが
見える
物価 ウオッチング
中東編
イスタンブール ドバイ
イスタンブールでは、中南米で人気のデザートが定番に。
建設ラッシュのドバイでは、市民の余暇の過ごし方が多様に。
のぞ
中東2都市で暮らす人々の日常生活を覗いてみよう!
Istanb
ul
気が残る
的な雰囲
統
には、伝
市場)
オルタキョイ・モスク
スーク(
Dubai
ウンター
チョコカ
ケーキカ
ウンター
ラクダレース
トプカプ
宮殿
ドバイの
街並み
■トルコの基礎経済指標
■アラブ首長国連邦(UAE)の基礎経済指標
*1人当たり GDP
9,130米ドル(2015年)〔出所 World Bank〕
*1人当たり GDP
3万6,060米ドル(2015年)〔出所 IMF〕
*人口
7,870万人(2015年)〔出所 同上〕
*人口
958万人(2015年)〔出所 同上〕
*消費者物価(CPI)上昇率
8.81%(2015年)〔出所 トルコ統計機構(TUIK)〕
*消費者物価(CPI)上昇率
4.1%(2015年)〔出所 UAE 連邦競争・統計局(FCSA)〕
*‌外資系(日系)企業事務系スタッフ‌
月額給与水準(賞与・諸手当込み)
3,342米ドル〔出所 ジェトロ集計〕
*‌外資系(日系)企業事務系スタッフ‌
月額給与水準(賞与、諸手当含まず)
2,214米ドル 〔出所 ジェトロ、ドバイ日本商工会議所 「2015
年度進出日系企業給与調査」〕
90 2016年12月号 挑戦!国際ビジネス 株式会社沖坤
沖縄素材を世界へ
~自社の強み、再発見!~
輸出に取り組むことから得られた思わぬ発見が、自
社の変化につながったと実感している企業がある。沖
おきこん
縄本島北部の名護市にある「株式会社沖坤」だ。同社
の宮城勝社長に、海外市場への取り組みについて話を
聞いた。
展示会での様子
争も激しい。県外への製品展
開も、重量物のため輸送コス
りゅうきゅうしっくい
沖縄の自然素材を生かした「琉球漆喰」
トの高さが足かせとなって難
しかった。
海外市場向けに沖坤が手がけるのは、沖縄の自然素
そこで宮城社長が目をつけたのが、公共工事に左右
材を使った壁材「琉球の塗壁(海外商標は『琉 海 美
されることなく、沖縄素材という強みを打ち出せる壁
粉』
)
」
。宿泊施設や一戸建て住宅の内装壁に使われる
材「琉球の塗壁」だった。代理店を通じた販売ルート
身近な商品で、沖縄で採れる自然素材にこだわったラ
を築き、全国から注文が入るまでになったが、
「今後
インアップをそろえているのが同社の特徴だ。沖縄の
の国内市場縮小を視野に入れ、新たに市場を開拓して
きれいな海から許可を得て採掘された「風 化 造 礁 珊
売り上げを伸ばす必要があると感じた。常に 5 年後、
瑚」
、琉球石灰岩から再結晶化した「勝連トラバーチ
10 年後といった先を見据えている」と宮城社長は語
ン」
「コーラル(南部石灰岩)」などが沖坤製品の素材
る。同社の「次の戦略」は海外展開であった。
りゅう かい び
ふん
ふう か ぞう しょう さん
ご
かっ れん
である。それぞれの素材が持つ消臭や断熱、湿度調整
きっかけは今から 3 年ほど前、知人を通じて引き合
の効果、揮発性有害物質の吸着、分解といった働きが、
いのあった中国の杭州に社長自身が出向いたことだっ
製品の大きな強みだ。その強みと青い海やさんご礁と
た。現地ホームセンターで壁材を扱う店舗を視察して
いう沖縄のイメージを持つ沖坤の製品には、全国各地
驚いたのは、製品価格が当初想定していたよりもかな
から注文が寄せられている。
り高めに設定されていたこと。また塗壁材は売られて
5年後、10年後の先を見据えた海外展開
沖坤が「琉球の塗壁」を開発する契機となったのは、
けいそうど
いたものの、珪藻土由来(藻類の一種である珪藻から
作られる塗壁材)の商品が中心で、風化造礁珊瑚(風
化した珊瑚を原料に作られる塗壁材)のものがなかっ
窯業である自社が直面する現状と将来に対する危機感
たことだ。「自社も打って出られる」と感じ取った瞬
だった。もともと土木・建設用のコンクリート二次製
間だった。
品(道路脇の側溝に使われるコンクリート製 U 字側
溝など)のメーカーであった。しかし、建設業界には
公共工事による好不況の波がある。入札による価格競
国内とは違う市場に挑戦して得たもの
沖坤は 2016 年 8 月、中国向け輸出よりも先に、台
湾向けにコンテナ単位での輸出を実現させた。沖縄県
代表取締役社長:宮城 勝
創業年月:1973年2月
ったことで、一気に話が進んだのだ。中国向けの輸出
資本金:3,000万円
もめどが立っているという。しかし、日本とは全く違
所在地:沖縄県名護市字久志521番地6
従業員数:35人
う市場であるため、「自社製品を海外市場で普及して
事業内容:コンクリート二次製品製造販売など
いる製品とどう差別化するか、商品の強みから売り
URL:http://www.okikon.com/
96 2016年12月号 主催の商談会において、台湾にある現地代理店と出会
方・値段まで、全ての面で模索中」と宮城社長は語る。