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海外通信 from London
終わらないBrexit狂想曲
Brexit決定後の英国政治は大混乱
残留48%対離脱52%。
6月23日、英国民は1973年の
欧州共同体(EC)加盟から 40 年超を経て、欧州連合
(EU)を離脱する歴史的な決断を下した。
事前の世論調査は国民投票が接戦になることを示
していたが、そのわりにBrexit(英国のEU離脱)が現
実のものになるとは多くの人々が予期していなかっ
たようにみえる。結局、人間は自分が見たくないもの
は見えない動物なのかもしれない。
驚いたのは、Brexit 決定後の明確なプランを政治
家たちが持ち合わせていなかったことだ。離脱に
なっても首相は辞めず、EU 条約 50 条(EU への離脱
通告)をすぐに発動すると言っていたはずのキャメ
ロン元首相は、投票結果が判明した数時間後、辞任
を表明した。さらに、ボリス・ジョンソン氏(元ロン
ドン市長、現外務大臣)が保守党の党首選から撤退、
英国独立党(UKIP)のナイジェル・ファラージ氏も
党首を辞任するなど、離脱派を率いたリーダーたち
に国民投票後の英国を導く意志がないことが明ら
かになった。
改革を迫られるEU
EUにとっても、Brexit決定は予想外のことだった
だろう。ユンケル欧州委員長が即時の離脱通告を英
国に求める一方で、メルケル独首相が EU 条約 50 条
の発動までにある程度の時間を要することに理解を
示すなど、反応にばらつきがみられた。
EU 域内でドイツに次ぐ経済規模を持つ英国の脱
退は、欧州統合の歴史上でも重大な分岐点であるこ
とは間違いない。他の加盟国の団結をアピールする
必要に迫られた EU は、英国を除く 27 カ国による臨
時会合を 9 月にブラチスラバ(スロバキアの首都)で
開いた。会合後に発表されたブラチスラバ宣言では、
12
これからの半年間で、難民・移民、テロリズム、若年雇
用の問題に集中的に取り組むことを表明した。
長引く「不確実性」
Brexit 決定は、英国・EU 双方の政治を揺さぶった
が、このドタバタ劇はまだ収まりそうもない。
英国政治はテリーザ・メイ首相の就任でやや落ち
着きを取り戻したが、離脱後の EU との関係などに
ついてコンセンサスが得られていない。移民制限と
引き換えに欧州単一市場へのアクセスを放棄する
「Hard Brexit」か、EU との妥協によってなるべく現
在の市場アクセスを維持する「Soft Brexit」を目指
すべきか、交渉方針を巡る意見は割れている。メイ首
相は 10 月の保守党大会で来年 3 月末までに EU に対
して離脱の通告をすることを明言した。しかし、もと
もとEU残留派が多数の議会において、交渉方針を巡
る議論が難航するのは必至であり、予定通りに物事
が運ぶとは限らない。
ポンド安による輸出刺激、観光客増によって大き
な落ち込みを免れている英国経済も、今後は企業の
新規投資・雇用抑制の影響が出てくるだろう。
一方のEUも、2017年はオランダ議会選挙、フラン
ス大統領選、ドイツ議会選挙と重要な政治日程が控
えている。英国に対する安易な譲歩は、反 EU 勢力を
勢いづけかねない。EU 改革がうまくいかなければ、
各国の反EU勢力がさらに伸張し、政治不安が強まる
リスクもある。
Brexit 決定がもたらした不確実性は、今後数年に
わたり、英国・EU双方を悩ませることになりそうだ。
みずほ総合研究所 ロンドン事務所
所長 山本康雄
[email protected]