主 報告番号 甲 乙 第 論 文 号 要 氏 名 旨 谷 裕 美 子 主 論 文 題 名 Reconstruction of the Urethral Sphincter with Dynamic Graciloplasty in a Male Rabbit Model (有茎薄筋皮弁による尿道括約機能の動的再建-兎モデルを用いた基礎的検討-) (内容の要旨) 社会生活を営む上で、尿禁制は重要な要素であり、尿失禁はQOL(quality of life)を 著しく低下させる。人工尿道括約筋が2014年から保険適応となり本邦でも普及しつつあ るが、人工物の感染や露出などの合併症が報告されており、尿禁制獲得の治療法は確立 されていない。そこで、自家組織である薄筋弁を用いて尿道括約機能を再建する手法を 開発する目的で、兎を用いて基礎的な検討を行った。 日 本 白 色 家 兎(体 重 約2.5-3kg、雄)5羽 に 対 し、① 尿 道 周 囲 剥 離 操 作 の み の 状 態 (Control model)、② 薄 筋 弁 を 尿 道 周 囲 に 巻 き 付 け 固 定 し た 状 態(Reconstruction model)、③巻き付けた薄筋弁への直接電気刺激を加えた状態(Stimulation model)の3つ のモデルを作成し、引き抜き尿道内圧測定を行った。測定は、各々のモデルに対して3回 施行し、最大尿道閉鎖圧、内圧積分値で比較し、Wilcoxonの符号付順位検定を用いて統 計学的検定を行った。 Reconstruction modelの尿道内圧曲線では、本来の尿道括約筋の位置とは異なる位置で 尿道内圧の上昇が確認された。その位置は薄筋弁を巻きつけた位置と一致し、筋弁の巻 きつけにより尿道内圧が上昇することが確認された。また、Stimulation modelにおいて筋 弁へ電気刺激を与えることで同部位の内圧はさらに上昇した。Reconstruction modelでは Control modelに比し、最大尿道閉鎖圧、内圧積分値ともに統計学的に有意差をもって上 昇し、Stimulation modelでは最大尿道閉鎖圧のみに有意差を認めた。 本研究において、尿道周囲に薄筋を巻き付けることによって、尿道内圧を上昇させ得 ることが明らかとなった。また、筋の収縮によってさらに圧を上昇させられる可能性が 確認できた。 前立腺全摘術後などにしばしば生じる尿失禁は患者のQOLを低下させるため、その治 療に関して様々な手法が報告されてきた。尿道括約筋周囲への注入療法や人工尿道括約 筋などが臨床で行われているが、効果が確実で合併症のリスクが低い治療法の確立には 至っていない。今回の基礎的検討により、有茎薄筋弁による尿道括約機能再建術が、尿 道括約筋不全による尿失禁において、治療の選択肢となる可能性が示唆された。薄筋弁 を用いる利点として、尿道周囲に移行が可能であるという解剖学位置の利点のみではな く、薄筋は他の骨格筋と異なり、耐疲労特性のあるtype1筋線維の占める割合が多いとい う組織学的特性も利点の一つである。尿道括約筋の支配神経である陰部神経と薄筋の支 配神経を縫合し筋収縮を得ることで、中枢と連動したより生理的な動的再建が行える可 能性がある。今後は未固定屍体をもちいて、神経縫合を含め本手術手技の検討を行い、 臨床応用へつなげたいと考えている。
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