第2章 函館市の環境行政

第2章
函館市の環境行政
第2章 函館市の環境行政
1. 我が国における環境問題の変遷
我が国における環境問題は,第二次世界大戦後の経済復興,特に昭和 30 年代からの高度経済成長期
における地域開発と重化学工業の進展が,各地で大気汚染,水質汚濁,地盤沈下などの産業公害を引
き起こし,特定の事業活動が住民に健康上の被害をもたらすという構造になっていました。
このため,国は昭和 42(1967)年に公害対策を総合的・計画的に実施するため「公害対策基本法」を
制定し,昭和 45 年の公害国会で公害関係法を一括成立させるなどの公害対策の強化を図るとともに,
昭和 46 年に環境庁を設置し,昭和 47 年には「自然環境保全法」を制定,公害対策と自然保護対策を
二本柱として環境政策が進められました。
昭和 50 年代に入ると,
公害問題も危機的な状況を脱し,
環境の状況は改善の方向に向かいましたが,
都市化の進展や生活様式の変化とともに,生活排水による水質汚濁や自動車の排出ガスによる大気汚
染など,都市・生活型公害といわれる新たな環境問題が顕在化しました。
また,昭和 60 年代になると,これら国内の環境問題をめぐる情勢の変化に加え,地球の温暖化やオ
ゾン層の破壊など地球規模での環境問題が顕現化してきました。
このような背景のもと,平成 9 年に京都で開催された気候変動枠組条約第 3 回締約国会議(COP3)に
おいて,先進各国の温室効果ガス排出量について,
法的拘束力のある数量化された削減約束を定めた京
都議定書が採択されました。
これを受け,我が国は,平成 10 年に「地球温暖化対策の推進に関する法律」
(地球温暖化対策推進
法)を制定,平成 14 年 6 月に京都議定書を締結し,平成 17 年 2 月の京都議定書の発効を受け,同年
4 月,
第 1 約束期間(平成 20 年~平成 24 年)における年平均温室効果ガス排出量を平成 2(1990)年比で
6%削減するという約束を達成するため「京都議定書目標達成計画」を策定し,国民的プロジェクト「チ
ーム・マイナス 6%」を立ち上げるなど対策の強化を進めました。
その結果,第 1 約束期間における年平均温室効果ガス排出量は 1990 年比 8.4%減となり,6%削減
の目標を達成いたしました。先進国全体では 22.6%減となり,目標の 5%を大幅に上回って達成され
ました。
また,平成 21 年 9 月には,国連気候変動首脳会合において平成 32(2020)年までに温室効果ガスの
排出量を 1990 年比で 25%削減するという中期目標を表明し,この達成のための国民運動「チャレン
ジ 25」を展開しました。
しかし,平成 23 年 12 月の COP17 において平成 25 年以降の京都議定書の継続は決定したものの,我
が国は,米国,中国を含む主要経済国が参加する公平かつ実効的な枠組みを構築することを主張し,
第 2 約束期間(平成 25 年~平成 32 年)には参加しないことになりました。
このような中,平成 23 年 3 月の東日本大震災に伴う原発事故の発生により,1990 年比 25%削減の
目標達成は不可能として見直し,平成 25 年 11 月に新たな目標として「平成 17 年度比 3.8%減」を定
めました。
さらに,平成 27 年 7 月に長期エネルギー需給見通しが決定されたことから,同月,平成 42 年度ま
でに平成 25 年度比 26.0%減とする日本の約束草案を国連に提出しました。
平成 27 年 11 月に仏パリで開催された COP21 において,
温室効果ガス削減の新しい国際的枠組み
「パ
リ協定」が採択され,196 の国・地域が産業革命以前からの世界の気温上昇を「2 度より十分低く保つ」
との目標で一致しました。
協定を受け,我が国は,本年 5 月に「温室効果ガスを 2050 年までに 80%減らす」とする長期目標な
どを掲げた地球温暖化対策の計画を閣議決定いたしました。今後は省エネや再生可能エネルギーの導
入,環境負荷の低い街づくりなどを進めていくことになります。
一方,国民運動「チャレンジ 25」は,目標を見直したことから終了し,気候変動キャンペーン「Fun
to Share」を経て,日本が世界に誇る省エネ技術や製品など,温暖化対策に資するあらゆる賢い選択
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第2章
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を促す新しい国民運動「COOL CHOICE」が,平成 27 年7月1日から取り組まれています。
廃棄物問題については,今日の大量生産,大量消費,大量廃棄型の社会のあり方や国民のライフス
タイルを見直し,天然資源の消費抑制と環境負荷の低減を目指した循環型社会を形成することが喫緊
の課題となっています。こうしたなか,国では,生産,流通,消費,廃棄などの社会経済活動の全段
階を通じて,天然資源の消費を抑制し,環境への負荷をできる限り少なくすることを目的とした「循
環型社会形成推進基本法」をはじめ,各種リサイクル法を整備し,廃棄物の発生抑制(リデュース)
・
再使用(リユース)
・再生利用(リサイクル)を推進する循環型社会の形成を目指しています。
2. 本市における環境行政
公害の問題が全国的にクローズアップされはじめたころ,本市においてもこれに対処すべく昭和
40(1965)年 12 月に助役を長とし,関係部局長で構成する公害対策連絡会を発足させ,次いで昭和 45
年 10 月に企画部に公害対策課,同年 12 月には衛生試験所内に環境試験係を設置するとともに,市長
の諮問機関である公害対策審議会の発足など体制の整備を図りました。
昭和 47 年には「公害防止条例」
,
「廃棄物の処理および清掃に関する条例」を制定し,国や道の規制
措置とあわせた施策により,公害防止対策や廃棄物処理の適正化を図るとともに,平成 5 年には「ご
みの散乱防止に関する条例」を制定し,美しく快適な生活環境や良好な都市環境の形成に努めていま
す。
また,本市で発生する一般廃棄物に関して,排出抑制や減量化・再資源化および適正排出を計画的
に実施していくための方針および方向性を明確にするために,平成 27 年度から 10 年間を計画期間と
した第3次函館市一般廃棄物処理基本計画を平成 27 年 3 月に策定いたしました。今後は,本計画に基
づき,よりよい環境を将来に引き継ぐため,市民の生活環境の保全と公衆衛生の向上に努めます。
地球規模での環境問題に対しては,環境基本条例や環境基本計画および個別計画を策定し,地球環
境の保全に係る基本理念や基本方針を定め,温暖化防止に係わる具体的な取り組みを行っています。
(1) 環境基本条例
本市では,環境問題に対処するため,公害対策,廃棄物のリサイクルのほか,景観保全,緑化推進
など様々な環境関連施策を行ってきました。
しかし,近年は,環境問題を分野別ではなく,人の健康や生活環境,自然環境などとの関係から総
合的にとらえることが必要となっており,さらに現在の環境問題は,通常の事業活動や日常生活によ
る環境への負荷の増大に起因していることから,従来の個別企業に対する指導行政のほか,市民一人
ひとりの消費行動を環境への負荷の少ないものへと誘導することを視野に入れた総合的な環境保全
施策の取り組みが求められるようになりました。
また,市民の環境に対する意識も変化し,ゆとりとうるおいのある生活や自然とのふれあいなど快
適な生活に対するニーズが高まってきました。
このようななかで,市民に良好な地域環境を提供し,さらに人類の生存基盤としての地球環境を保
全するための取り組みを進め,この環境を将来へ引き継ぐため,市民,事業者,行政がその責務を自
覚し,長期的視点に立って積極的に行動することが重要であり,そのための取り組みの方向性を示す
必要が生じてきました。
このことから,将来にわたっての環境に関する基本理念や市民,事業者,市の責務,そして施策の
基本方針などを明らかにするため,平成 11 年 9 月に環境基本条例を制定しました。
(2) 環境基本計画
本市では,環境基本条例第 8 条の規定に基づき,同条例で示した基本理念の着実な実現に向け,環
境の保全および創造に関する施策を総合的・計画的に推進することを目的として,平成 12 年 3 月に
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函館市の環境行政
函館市環境基本計画を策定し,各分野で環境保全のための取り組みを進めてきました。
また,計画策定後 10 年が経過し,地球温暖化など環境問題を取り巻く社会情勢や,合併により市
域の状況が変化したことから,計画の目標達成状況などを踏まえ,今後の施策の基本的な展開方向を
示すため,平成 22 年 3 月に本計画を改定し,函館市環境基本計画〔第2次計画〕を策定しました。
この第 2 次計画では,良好な環境を将来に引き継ぐという思いを込め,目指すべき環境像を「未来
に向かい“人と自然が共生するまち”はこだて」と定め,この実現に向けて,6 つの基本目標と 12
の具体的方針を設定しています。
(図 2-1)
図 2-1 基本目標と具体的方針
【基本目標】
【具体的方針】
地球にやさしいまち
・
地球環境の保全に努めます
安心して暮らせるまち
・
・
・
・
すがすがしい空気を守ります
清らかなせせらぎや美しい海を守ります
やすらぎの音環境を守ります
安全な暮らしを守ります
豊かな自然と共生するまち
・
たくさんの生き物が息づく自然を守ります
うるおいと安らぎを感じるまち
・
・
水と緑とのふれあいのある生活空間をつくります
個性とゆとりある町並みをつくります
資源を大切にするまち
・
・
循環型の社会をつくります
エネルギーを有効活用します
こころと参加でつくるまち
・
・
環境保全意識の向上に努めます
環境保全活動の輪を広げます
(3) 個別計画
①地球温暖化対策実行計画(区域施策編)
環境基本計画で示した環境分野のうち地球温暖化防止対策に係る個別計画として,
「地球温暖化対
策推進法」に基づき,平成 23 年 3 月に「函館市地球温暖化対策実行計画(区域施策編)
」を策定しま
した。
この計画は,地域特性に応じた地球温暖化対策を総合的・効果的に推進するため,将来に向けての
温室効果ガス削減目標を掲げ,それを達成するための具体的な施策を示したものであり,同法第 20
条の 3 に規定された地域の自然的社会的条件に応じた温室効果ガス削減のための施策に関する事項
を定めています。
②主体別行動計画
環境基本計画で示した環境の保全・創造に向けた取り組みを推進し,基本計画の実効性を確保する
ため,市民・事業者・市の環境配慮行動メニューなどを示すガイドラインとして行動計画を策定しま
した。
市民編は環境に配慮した生活をおくるための“ちょっとした工夫”や“情報”を環境カレンダーと
して平成 12 年 12 月に全世帯に配付し,また,事業者編は事業活動における環境配慮のための具体的
な行動をとりまとめ,平成 13 年 3 月に事業者に配付しました。
さらに,平成 20 年 8 月には,地球温暖化防止について啓発を図るため,身近でできる温暖化防止
の取り組みを掲載した「はこだてエコライフのすすめ(市民編)
」を作成し全世帯に配付したほか,
事業者版として,平成 21 年 3 月に「はこだてエコライフのすすめ(事業者編)
」を作成し事業者に配
付しました。
その後,
「はこだてエコライフのすすめ(市民編)
」を見直し,平成 24 年 11 月に「はこだてエコラ
イフのすすめⅡ」を新たに作成し,はこだてエコライフ普及キャンペーン等で配布しています。
また,市が一事業者・一消費者として事務事業における環境への負荷を低減するための行動目標を
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第2章
函館市の環境行政
設定した「函館市環境配慮率先行動計画」を平成 14 年 2 月に策定し,市の全ての施設で全ての職員
が行動しています。
この率先行動計画は, 「地球温暖化対策推進法」に基づく温室効果ガスの排出抑制のための実行計
画(事務事業編)としても位置付けています。
率先行動計画に示した環境保全項目のうち「施設整備等に係る環境配慮」については,平成 15 年
3 月に「函館市公共事業環境配慮指針」を策定し,市が実施する道路,施設建設などの公共事業にお
いても環境に配慮することとしています。
なお,
「函館市環境配慮率先行動計画」および「函館市公共事業環境配慮指針」は,平成 19 年度か
ら平成 23 年度までの第 2 期計画の改善を図り,
平成 24 年度からは平成 28 年度を目標年度とする
「函
館市環境配慮率先行動計画(Ⅲ)」および「函館市公共事業環境配慮指針(Ⅲ)」として引き続き取り組
んでいます。
③環境教育・環境学習推進基本方針
環境への負荷の少ない持続可能な社会の構築に主体的に参画できる人材を育成することを目的と
して,平成 17 年 3 月に「函館市環境教育・環境学習推進基本方針」を策定しました。
この基本方針は,今後の本市の環境教育・環境学習の基本的方向を明確にし,具体的な施策を提示
するとともに,環境学習を実践する際のノウハウを整理したものです。
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