展望台

展望台
航空装備研究所の現状と
今後について
泉頭 悦郎
2
今回、防衛技術ジャーナルへの執筆という機
会をいただきましたので、航空装備研究所の現
状と今後について述べさせていただきたいと思
います。まず、航空装備研究所(以下、
「航装
研」という)の任務は、航空機および航空機用
機器(例えば、エンジン)ならびに誘導武器に
ついての研究および試験等です。
現状
航装研の現在の活動状況をみてみると、自衛
隊の装備品に直接関係する開発では、航空機関
連では、航空自衛隊の次期輸送機(C−2)の試
験(強度試験他、岐阜)、誘導弾関連では、陸上
自衛隊の中 SAM 改の試験、新弾道ミサイル防
衛用誘導弾の試験、海上自衛隊、航空自衛隊要
求の誘導弾の試験を実施中です。また開発の前
段階ともいえる研究段階の事業では、先進技術
実証機(X−2)については、研究試作事業の計
画担当は装備開発官(航空装備担当)ですが、
同機の飛行試験(岐阜)は、航空自衛隊の飛行
開発実験団のメンバーとともに、航装研から岐
阜試験場に派遣した技官が担当しています。ス
テルス性を考慮したシステム・インテグレー
ション技術の獲得を目指した X−2事業ととも
に、航装研では、将来戦闘機に関連した七つの
研究事業が現在進捗中です。誘導弾の研究に関
しても、将来の誘導弾システムに関する要素技
術を中心に五事業が進められています。
一方、研究協力・交流の分野では、国内では
JAXA との間で現在四件の研究協力が進捗中
ですし、国外に関しては、航装研と米空軍研究
防衛技術ジャーナル November 2016
所が共催して、複合材に関するワークショップ
が今年2月に初めて東京で開かれました。国外
の案件は航装研にとっては新しい動きであり、
今後、防衛装備庁本庁の関係部門と連携を図り
つつ進めていきたいと思います。
現在、防衛省では、
「技術的優越の確保と優れ
た装備品の創製」を目指すという大方針が示さ
れています。先に述べた将来戦闘機に関する事
業は、平成22年夏に公表された「将来の戦闘機
に関する研究開発ビジョン」を契機として推進
されてきたものです。このビジョンは、将来、
F−2戦闘機後継の取得を検討する所要の時期
に開発を選択肢として考慮できるよう、将来戦
闘機のコンセプトと必要な研究事項をまとめた
ものです。
現在、防衛装備庁としてはビジョンを策定中
であり、今回もそのビジョンを航装研の研究開発
活動の推進のきっかけにしたいと考えています。
ビジョンを打ち出すことは、防衛省、自衛隊の将
来装備構想の方向性を示すのみならず、防衛力の
生産・技術基盤を支えている国内の民間企業に
とっても大きな指針になると考えています。
今後の方向性について
このような現状の下で、航装研の今後の方向
性について述べてみたいと思います。研究所と
しては、将来の運用を想定した、効率的で使い
勝手の良い装備品の創製を目指して、引き続
き、着実に研究を進めて行きたいと考えていま
す。また高性能の新装備品だけでなく、すでに
研究開発が一応終わった装備品でも実運用を通
して現出した事象を把握し、改善が必要なもの
であれば解決に向けて具体的に動くという、い
わゆるフォローアップ活動も重要であると考え
ます。具体的には、試験現場に行って試験に携
わる(現在も、C−2や X−2の飛行試験には航
装研出身の技官が参画しています)
、あるいは
実運用の現場を訪れて、生の声をお聞きして、
以後の活動につなげていくことが必要だと思い
ます。研究所としては、こうした、技術の目利
きもできる実務的な人間を養成し、自衛隊の現
場の方々に「なにかと頼りになる研究所」とい
う認識をもっていただけるようにしたいと思っ
ています。また、つい最近開始された安全保障
技術研究推進制度に基づく研究も現在進行中で
あり、今後の進展が期待されます。
上記以外で、今後研究所として重視したいと
思っていることを二点、以下に述べます。一つ
目は、具体的な研究テーマは何であれ、規模は
小さくとも、将来を担う行動的な若手クラスを
中心に、その研究(プロジェクト)全体を任せ
て、自分で考えかつ仕事を進めていく機会を提
供できるようにすることです。自分で事業をま
とめ上げるという経験は、例えば、今後、増加
が見込まれる国際共同研究開発のケースを含
め、必ず将来役に立つと思います。
二つ目は、若手に内外に情報発信する場に立
ち会わせる機会を与え(短期間でも)、そのト
レーニングをしてもらうことです。現在、どこ
の世界においても、適時適切な情報発信が求め
られています。研究所においても同様で、それ
を実現していくには、研究所においても広報を
専門に担当する者の配置が望まれます。例え
ば、部内外の発表・展示会に対応する際に、公
表可能の画像や展示品の存在や状態を普段から
把握し、対外調整を含む事務面での対応をこな
せる広報担当者と、研究職で技術的な素養を有
し、発信先の相手の関心に合わせた資料等をタ
イムリーに作成し、説明できる若手技官(まさ
に、トレーニングを通してそうした対応ができ
るレベルに達すればいいと思います)がペアを
組んで、いろいろな場面での情報発信に対応で
きるようにさせたいと思います。研究職の若手
技官(若い中堅クラスも含め)は、このような
情報発信の機会(トレーニングを含め)を通じ
て、将来の自分が希望する仕事が、諸々の事業
や技術等の管理や技術戦略や国際交流の企画等
の本庁的な仕事なのか、あるいは、研究所で求
められる、いわゆる研究開発の仕事なのか、を
考える良いタイミングになると思われます。ち
なみに、私は入庁後 T−4中等練習機の飛行試
験に参画し、順不同ですが、F−2と P−1/C−2
の開発、研究所では VTOL−UAV 等の研究、先
進技術推進センター勤務時は技術交流や研修指
導官の仕事をしました。
おわりに
私は以前より所内に向けて、庁内や部外等で
仕入れた諸々の情報のエッセンス(自分自身の
判断ですが)をタイムリーに発信するように努
めてきました。
また当たり前のことですが、色々な意見を
もった人が集まって、意見交換・議論しながら
仕事を進めることは今後ますます重要になると
考えており、その環境を整えるのも私の仕事で
あると考えています。そこで、東立川駐屯地内
にある自衛隊の各部隊と交流を図る企画を近く
実現したいと考えています。
最後に、今後ともあらゆる機会を通じて(あ
るいは作って)
、各自衛隊等の現場を訪問等し
てご意見等を伺うとともに、当方の活動状況を
発信し意見交換しながら「自衛隊にとってお役
に立つ装備品をできる限りタイムリーに提供で
きる」よう、努力して参りたいと思いますので、
引き続き、ご指導、ご鞭撻のほどを宜しくお願
いいたします。
防衛装備庁 航空装備研究所長
3