PDF - 山梨大学医学部

由梨医大誌10(!),21∼29,!995
スギ・ヒノキ花粉飛散予測
1995年甲府盆地において
岸保鉄也・久松建一・後藤 領
菊島一仁・水越昭仁・大森樹美枝
徳山 豊・村上嘉彦・薬袋 勝1)
山梨医科大学耳鼻咽喉科学教室,D山梨県衛生公害研究所
抄録:スギ・ヒノキ花粉の飛散予測は,花粉症の予防と治療の面からきわめて重要なことと考
えられる。我々は,過去10年間にわたり山梨県甲府盆地のスギ・ヒノキ花粉の飛散数を測定し,そ
の年の花粉飛散と前年の7月と8月,およびその年の1月の気象データとの関連を検討した。そし
て,1995年春におけるスギ・ヒノキ花粉の飛散予測を行った。花粉飛散総数は,前年の7月中旬か
ら8月上旬までの平均気温,最高気温の平均,最低気温の平均のデータに最も高い相関(各々r=
0.83,FO.82, FO.86)が認められた。その結果,飛散総数はおよそ5,000から6,000個/cm2であ
ると予測された。花粉飛散開始日に関しては,花粉飛散開始までの積算日数と,1月上旬から中旬,
および下旬までの平均気温の積和と最高気温の積和を重回帰分析することによって,各々R篇
一〇.73,R謡一〇。83という重相関係数が得られた。したがって,1995年1月下旬までのデータを用
いると,飛散開始露は2月15B頃と推測された。また,花粉飛散総数と臼最高花粉飛散数との間に
はきわめて高い相関(r=0.94)を認め,本年のB最高花粉飛散数は三,000個/cm2/日を越えるもの
と思われた。以上の結果より,1995年春はスギ・ヒノキ花粉の大飛散とそれに伴う多数の花粉症患
者が発生するものと推測された。
キーワード スギ・ヒノキ花粉,花粉飛散総数花粉飛散開始日,陰最高花粉飛散数,気象因子
1 はじめに
飛散開始直前の気候に大きな影響を受けると考
えられている!)。
スギ・ヒノキ花粉症は近年患者数の著しい増
スギ・ヒノキの花粉飛散の予測は,花粉飛散
加が認められ,スギ・ヒノキ花粉の飛散時期で
総数および飛散開始時期によってなされる。こ
ある2月から4月にかけては憂慮すべき社会問題
のなかでも飛散開始時期は治療開始時期を決定
になっている。スギ・ヒノキに関わらず,植物
する上できわめて重要である。なぜならば花粉
は気温などの気象因子によって花芽の形成や開
飛散開始時期の約1週間から!0日前に抗アレル
花時期が左右されるため,植物生態に対する気
ギー剤などを予防投与することによって花粉症
象因子の影響はきわめて大きいと推察される。
の症状の出現を抑えることが可能であるからで
したがって,スギ・ヒノキ花粉の飛散は,花芽
ある。また,花粉飛散後は外出時にマスクを装
形成がなされる前年の夏や開花が行われる花粉
着したり,帰宅時において衣類に付着した花粉
〒409−38山梨県中巨摩郡玉穂町下河東1110
を室内に持ち込まない等の予防措置を取ること
受付:1995年1、月13Ei
が望ましいからである。逆に言えば,適切な花
受理:1995年2月21日
粉症に対する予防を行うためには,スギ・ヒノ
22
岸保鉄也,他
キ花粉の飛散開始時期を予め的確に予測するこ
2箇所において,Durham型花粉捕集器を用い
とがきわめて重要と考えられる。スギ・ヒノキ
てスギ・ヒノキ花粉飛散数を測定した。ワセリ
花粉の飛散状況はその地域における過去の種々
の気象因子,すなわち気温2『4),日照時聞およ
ンを塗布したプレパラートに付着した花粉を
Calberla染色液で染色し,花粉数を計測した後
に1cm2あたりの花粉数に換算し飛散花粉数と
び日射量5),湿度6),降水量5)などとその地域
における過去のスギ・ヒノキ花粉の観測値との
した。また,2日間連続して1個/cm2以上の飛
関係を統計処理することにより予測することが
散花粉が認められた最初の日,または2個
可能であると考えられている。
/cm2以上の飛散花粉が認められた最初の日を
スギ・ヒノキ花粉の測定値は発生源である森
もって花粉飛散開始日とした7)。
林から観測点までの距離や地形などの地域特性
を加味しなければならない。しかし,今迄に行
われた長期間に及ぶ多項目の気象因子によって
B気象データ
日本気象協会より甲府地方気象台の気象月表
解析されたスギ・ヒノキ花粉の飛散予測は,他
に基づく気象データの提供をうけた。
県において調査検討されたものである1>’3)一6)。
すなわち,山梨県甲府盆地における飛散予測は,
C花粉飛散の予測
甲府盆地独自のデータに基づいたものでなけれ
1)花粉飛散総数の予測
ばならない。
今回我々は過去10年間にわたりスギおよびヒ
花粉飛散総数と最も関連があるとされる時期
の気象データ1>,すなわち前年の7月,8月に
ノキ花粉の飛散時期にその飛散花粉数を測定
おける平均気温,最高気温の平均,最低気温の
し,また,その花粉飛散に影響を与えると考え
平均,日照時間の積和,全天日射量の平均,平
られる気象データとの関連を検討し,1995年春
均湿度,降水量の積和との関連を検討した。ま
におけるスギ・ヒノキ花粉の飛散予測を試み
た,気象データによる飛散総数の予測値と実測
た。そして若干の知見を得たので報告する。
値との相関を見るために,7月,8月の各々を
上旬,中旬,下旬の3区間に分け合計6区間に
巫 方 法
分類した。そして,最も花粉飛散総数に影響を
与えると思われる7月中旬の気象データを中心
A飛散花粉の採取
に,1995年の花粉飛散総数を予測した。
1985年より玉穂町内(山梨医科大学付属病院)
ならびに甲府市内(山梨県衛生公害研究所)の
2)花粉飛散開始日の予測
表1.データ採取時期による気象因子と花粉飛散総数との相関関係(単相関係数)
平均気温 最高気温の平均 最低気温の平均 日照時間の積和全天日射量の平均
7月上旬一7月中旬
7月上旬一7月下旬
7月上旬一8月上旬
7月上旬惑星中旬
0.59
0.69
0.43
0.75
0.77
0.67
0,74
0.64
0.68
0.75
0.76
0.79
0.74
0.70
0.73
0.76
0.78
0.73
0.72
0.72
7月上旬一8,月下旬
0.76
0.78
0.73
0.70
0.71
7月中旬
7月中旬一7月下旬
7月中旬一8月上旬
7月中旬一8月中旬
7月中旬一8月下旬
0.72
0.79
0.61
0,61
0.72
0.73
0。76
0。76
0.57
0.68
0.83
0.82
0.86
0.60
0。68
0.81
0.8!
0.84
0.68
0,68
0.81
0.79
0.84
0.64
0.67
花粉飛散予測
23
花粉飛散開始日の予測は従来よりその年の1
れた各年毎の花粉飛散総数を図1に示す。また,
月における気温に依存すると考えられてい
統計処理上必要な甲府盆地における花粉飛散総
る1)。したがって,平均気温と最高気温の2つ
数は,1985年から1994年までの玉穂町内と甲府
の気象因子に基づいて予測を行なった。すなわ
市内の各年毎の花粉飛散総数の平均とした。そ
ち,1月の上旬から中旬,および上旬から下旬
の結果,過去10年間において最も花粉飛散総数
までの平均気温と最高気温のそれぞれの積和を
が多かった年は,1991年の5,494個/cm2,次い
求め,1月1日半ら飛散開始日までの積算日数
で!985年の3,946個/cm2であった。一方,花粉
との関連を検討し,1995年のスギ・ヒノキ花粉
飛散総数の少なかった年は,1989年の208個
の飛散開始日を予測した。
/cm2,次いで1994年の280個/cm2であった。過
去の花粉飛散総数とその年における平均気温,
3)日最高花粉飛散数の予測
最高気温の平均,最低気温の平均,日照時間の
シーズン中の日最高花粉飛散数は,その年の
積和,全天日射量の平均,平均湿度,降水量の
花粉飛散総数と高い相関を有すると考えられ
る。そこで過去7年間の予測値と実測値の相関
積和などの7項目の気象因子との相関関係(単
相関係数)を表1に示す。
を求め,1995年の日最高花粉飛散数の予測を試
平均気温,最高気温の平均,最低気温の平均
みた。
においては,7月中旬から8月上旬までのデー
D.統計学的手法
α86)が認められた。一方,日照時間の積和と
データ相互の単回帰分析によって求められる
全天日射量の平均においては7月上旬から7月
回帰直線と単相関係数:r,および重回帰分析に
中旬までの間に最も高い相関(各々r=0.75,r
タに最も高い相関(各々r瓢0.83,FO.82, r=
よって求められる重回帰式と重相関係数:Rは
皿0.77)が認められ,平均湿度においては7月
Macintosh用の計算ソフトAbacus Concepts,
上旬から8月下旬までの間のデータに最も高い
StatView (Abacus Cor}cepts Inc., Berkeley,
相関(F−0.80)が認められた。また,降水
量の積和においては7月上旬から8.月中旬まで
CA, USA,1992)を用いて求めた。
の問に最も良好な相関(r一一〇.64)が認めら
凱 結 果
A.花粉飛散総数の検討
れた。以上の結果より,各気象因子において花
粉飛散総数との問に最も高い相関関係が認めら
れた時の回帰直線を図2aから図2gに示す。
λ
玉穂地区と甲府市内の2箇所において採取さ
7000
彗
_.._ 玉穂
即
6000
平均湿度 降水量の積和
箞齣m
b府
癌平均
M ガ,
し.
葎 2000
戸、
最 3000
〆晩
尺
鼠
4000
肇
49仰94
−0。78
一﹁ 一
−0.71
4π﹂らδρ◎
−0.60
0︵︶0︵︶
一〇.52
一’
誌5000
1000
−0.80
一〇.55
一〇.62
−0.31
0
−0.64
−0.49
85 86 87 88 89 90 9蓬 92 93 94
−0.72
−0.32
−0.78
−0.58
−0.78
−0.49
年晒暦]
図1.玉穂及び甲府における過去の花粉飛散総数と
その平均
24
岸
保
r鷹0.83
也,他
Y猛一2050.12+5α63×
Y湿一26815.65+113271X
6000
鉄
6000 r皿0.75
O
即 5000
0
∈i
即 5000
E
む
里
響
む
\ 4000
0
\ 4000 0
癒 3000
0 0 0
癒 3000 00
0
蘂
2000
0
0
2000
0
0
0
鐸 1000
0
o
潔 1000
0
0
23.5 24 24.5 25 25.5 26 265 27 27.5 28
40 50 60 70 80 90 100 110 120 130 140
平均気温[℃]
日照時間の積和[hr]
図2a.平均気温と花粉飛散総数との関係
図2d.日照時間の積和と花粉飛散総数との関係
Y鐘一20655.56+736.57×
6000
Y隅一803aO8÷668,55×
0
0
5000
即 5000
4000 0
\ 4000 0
0
3000
麟3… 。 ・・
纏
譲・… O
r嬬0.82
6000 r鷲077
∈
[偶⊂篇O\\圃︸︼
0
2000
0
1000
里
り
窯 ○
栂 1000
0
0
0
27 28 29 30 3歪 32 33 34 35
最高気温の平均[℃]
図2b.最高気温の平均と花粉飛散総数との関係
Y篇俸3199329+1557.00×
6000 r=0.86
ε
日「 5000
12 13 14 15 16 {7 18 19 図2e.全天日射量の平均と花粉飛散総数との関係
Y鷹46363.26−602.45×
6000 r二一〇.80
0
蕊「5000
里
無3… ○ 。 ・
豊
む
\ 4000 0
20
全天日射麗の平均[MJ/m2]
∈
0
0
0
\ 4000
麟 3000 0 0
馨・… .。
蓮・… 。
葎1000
0
葎で000
0
0 0
0
0 0
な 20.5 21 21.5 22 22.5 23 23.5
70 71 72 73 74 75 76 77
最低気温の平均[℃1
平均湿度[%]
図2c.最低気温の平均と花粉飛散総数との関係
図2f.平均湿度と花粉飛散総数との関係
花粉飛散予測
Y郡525t56−1350X
6000
r課一α64
○
τ5000
讐
く4…
褻3000
25
表2.1995年に予測されるスギ・ヒノキ花粉飛
散総数
予測値[個/cm2]
C
○
o
譲・…
o
蓬1。。。
O
o O
50 100 150 200 250 300 350 400
平均気温
最高気温の平均
最低気温の平均
日照時間の積和
全天日射量の平均
平均湿度
降水量の積和
5840
5544
6357
4441
3962
4794
3983
3因子(r>0.80)の平均
5914
7因子の平均
4989
降水量の積和lmm]
図2g.降水量の三和と花粉飛散総数との関係
花粉飛散総数との問に最も高い相関が認められ
たのは,最低気温(r=0,86)であり,次いで
花粉の飛散開始が遅かったのは1985年と1986年
平均気温(r=0.83>と最高気温(rコ0.82)であっ
であり,2月下旬になってから花粉の飛散が認
た。また,日照時間(r=0.75),全天日射量(r
められた。いずれにせよ甲府盆地においては,
瓢0.77),平均湿度(r=一〇.80)なども花粉飛
花粉の飛散は過去10年間において1月30日以降
であった。これら花粉飛散開始日までの積算日
散総数とある程度の相関は認められた。一方,
降水量(r鷹一〇.64)においては花粉飛散総数
数と,1月の平均気温の積和及び最高気温の心
との相関が最も低かった。以上の単回帰分析に
血との相関関係を検討した(表4)。その結果,
基づいて,1994年の夏の各気象因子のデータよ
1月上旬から中旬の気象データよりも上旬から
り1995年の花粉飛散総数を予測した。その結果
下旬のデータに基づいた予測のほうが,平均気
を表2に示す。各気象因子との回帰直線より求
温および最高気温のいずれにおいても,より強
められた1995年花粉飛散総数は,強い相関(r
>α80)が認められた平均気温,最高気温,最
低気温において各々5,840個/cm2,5,544個
い相関(各々r=一〇.82,F−O.80)を認めた。
花粉飛散開始日までの積算日数と,1月上旬か
/cm2,6,357個/cm2であった。また,これら3
ら下旬までの平均気温の積和(図3a)と最高
気温の積和(図3b)との単回帰直線を示す。
項目の平均は5,914個/cm2であった。回帰直線
また,平均気温と最高気温におけるユ月上旬か
より予測された花粉飛散総数が最も多かったの
ら中旬,及び下旬までのデータをもとに重回帰
は,最低気温によるものであり,逆に最も少な
かったのは,全天日射量の3,962個/cm2であっ
分析を行なった所,図4に示す重回帰式を得た。
た。以上,これら7項目全体の平均は4,989個
/cm2であった。この結果より,1995年の花粉
飛散総数はおよそ5,000から6,000個/cm2であ
とに分析するとR譜一〇.73の重相関係数が得ら
その結果,1月上旬から中旬までのデータをも
れ,1月上旬から下旬までのデータではR=
一〇.83とより高い相関が認められた(表4)。
ると予測された。
次に,実際の1995年1月の平均気温及び最高気
温の三和と,その値に基づいて図4の重回帰式
B.花粉飛散開始日
より予測される本年の花粉飛散開始日を表5に
過去10年間における花粉飛散開始日と1月1
日からの積算日数を表3に示す。最も花粉飛散
示す。1月の上旬から中旬までの平均気温の積
和と最高気温の積載を求めると,その値は各々
開始日が早かったのは1988年と1989年であり,
59。0℃と175.2℃であった。この結果,図4の重
1月の末日より花粉の飛散が認められた。一方,
回帰式①より,花粉飛散開始日の積算日数は
26 岸 保 鉄 也,他
表3.過去11年間における花粉飛散開始日
85
年[西暦]
86 87 88
89
90 91 92 93
94
花粉飛散開始日 2/26 2/232/7 1/30 !/30 2/13 2/27 2/11 2/8 2/!8
玉穂
積算1ヨ数 57 54 38 30 30 44 58 42 39 40
花粉飛散開始日 一
一 一 2/! 2/7 2/13 2/12 2/11 2/13 2/19
甲府
積算日数 一
積算日数の平均 57
一 一 32 38 44 43 42 44 50
54 38 31
34
44 50,5 42 41,5 49.5
表4.花粉飛散開始日との相関関係(単相関:r及び重相関係数:R)
平均気温の積和 最高気温の積和 重回帰分析
1月上旬一中旬
1月上旬一下旬
r篇一〇.82
0 0
0
r環一〇.68
r=一〇.80
@55 50 45 @43
00
Y凱59.05−0.161X
o
○
35
r罵一〇.82
田憩三三齪馨俘
@55 50 45 43
00
@
m恕麗語潔窯駕
60
r=・一〇.73
60
0
0
0
O
00
o
0 0
0
0
0
3
最高気温の積和
し
平均気温の積和と花粉飛散開始譲との関係
r=一α80
200 220 240 260 280 300 320 340
図
図
平均気温の積和
a
Y凱9431−0.181X
O
35
0 20 40 60 80 100 120 140 160
3
R=一〇.73
R瓢一〇.83
最高気温の積和と花粉飛散開始日との関係
Y=5888−0.190×1−0.015×2…………・一① Y=75.08−0.099×1−0.079×2
Y;花粉飛散開始日 Y;花粉飛散開始日
X1;平均気温の十和d月上旬一中旬) X1;平均気温の十和(絹上旬一下旬)
X2;最高気温の積和(1月上旬一中旬) X2;最高気温の川和(1月上旬一下旬)
図4.平均気温の積和と最高気温の積和による花粉
飛散開始日との重回帰式
・②
花粉飛散予測
27
表5.1995年花粉飛散開始日の予測
平均気温の志和[℃]最高気温の異和[℃]積和日数[日] 飛散開始日
08
5
45
4
﹃Q8
9戻︶
0ハ0
1月上旬一中旬
1月上旬一下旬
175.2
261.5
2月14日
2,月15日
表6、日最高花粉飛散数
年晒暦]
.月 日
日最高花粉飛散数
[個/cm2/田
88 89 90 91 92 93 94
3/13 3/2 2/28 3/13 3/2 3/16 3/11
357 12.8 332 1158 262 474 52.1
45.0日となり,1995年の飛散開始日は2月14日
頃と推測された。また,上旬から下旬までの平
く
隆 800
と26L5℃であり,重回帰式②より,花粉飛散
豊 600
開始日の積算日数は45.8日となり,1995年の飛
慧…
;1995年における実際の花粉飛散開始日は玉穂
町内ならびに甲府市内で2月14日であった。)
o
r聯0.94
鳶1…
均気温の積和と最高気温の熟和は,各々86β℃
散開始日は2月15日頃と推測された。(脚注
Y=一83.20÷0.193X
1200
Oo
肇2。。
塔 。
.{£..
當乏。。
0 1000 2000 3000 4000 5000 6000
花粉飛散総数〔個/cm2]
C.日最高花粉飛散数
日最高花粉飛散数を測定し得た1988年から
1994年前での7年間の日最高花粉飛散数を記録
した月日とその飛散数を表6に示す。日最高花
粉飛散数が最も高かったのは1991年の1,158個
図5.花粉飛散総数と日最高花粉飛散数との関係
】v 考 察
/cm2であり,逆に低かったのは1989年の12.8個
/cm2と1994年の52.1個/cm2であった。この日
スギ・ヒノキ花粉の飛散量を考えるとき,花
最高花粉飛散数とその年の花粉飛散総数との関
芽分化期である前の年の7月から8月の気象状
況を検討する必要がある。なぜならば,その時
係を図5に示す。花粉飛散総数と日最高花粉飛
散数との問にはきわめて高い相関(r=0.94)
を認めた。先の1994年の夏の気象データに基づ
の気象状態が花芽分化に影響を与えるからであ
る。過去の報告によれば,平均気温2),最高気
温3),最低気温4),湿度6)などの気象因子と花
く1995年の花粉飛散総数は,相関の強かった3
項目の平均で5,914個/cm2であり,7項目全体
粉飛散数との関連が認められている。そして,
の平均では4,989個/cm2であった。これらの値
全天日射量や降水量においても花粉飛散数との
をもとに,この回帰直線より日最高花粉飛散数
を求めると,各々1,225個/cm2/日と1,046個
関連が認められたと報告されている5)。しかし,
/cm2/日という結果になった。このことより,
前の年の7月,8月の気象因子と翌年の花粉飛
散総数との関係には,地域性があると考えられ
1995年のスギ・ヒノキ花粉の日最高花粉飛散数
る。今回の山梨県甲府盆地における過去10年間
は1,000個/cm2/日を越えるものと思われる。
の花粉飛散総数と各気象因子との関連の検討に
28
岸保鉄也,他
おいて,平均気温,最高気温,最低気温などの
である為と考えられる。しかし実際には,本年
気温に関する因子が翌年の花粉飛散総数にきわ
の場合,1月中旬までのデータによる花粉飛散
めて大きな影響を及ぼしていると推察された。
開始の予測が2月14日であり,また下旬までの
一方で,日照時間や全天日射量などの因子は,
山梨県以外の他の地域で指摘されているほど大
データでも2月15日となり,その差は僅か1日
であった。一方,抗アレルギー剤などの予防投
きな要因となっていなかった。また,最も相関
与は花粉飛散前からの服用がより効果的であ
が強かった気温に関する3因子による予測値は
値のばらつきも少なくおよそ6,000個/cm2で
ておよその飛散開始日を予測し社会に情報を提
あった。一方で,相関も弱く予測値の値も小さ
供したほうが,本年のような場合には予防的な
い降水量などのデータを加えた7因子全体の平
均でさえもおよそ5,000個/cm2であり,1995年
面より考えてより重要であると思われた。
日最高花粉飛散数はその年の花粉飛散総数と
の甲府盆地における花粉飛散総数は,過去10年
極めて高い相関を示した。また,1995年に予測
る。したがって,!月中旬までのデータを用い
間において最高またはそれに近い水準の花粉飛
される花粉飛散総数の値をもとにした日最高花
散数になると予測された。言い換えればこのこ
粉飛散数もおよそ/,000から1,200個/cm2/日と
とは,1994年の夏が猛暑であった故に,スギ・
なり,過去最高の値と予測された。
ヒノキの花芽形成が著しく促進された結果と考
以上の結果より,1995年春のスギ・ヒノキ花
えることができる。
粉の飛散数は近年稀にみる大飛散と予測され,
飛散開始日は,1月1日から飛散開始日まで
花粉症患者が多数発生すると推察された。
の最高気温の親和に関連があるという報告があ
る8)’9>。また,1月の気温の冷え込みや予想さ
文 献
れる花粉飛散総数を考慮にいれて,1月の平均
気温の積和やその年の花粉飛散総数を加えて重
回帰分析を行うことで,より高い相関を得たと
言う報告もなされている10)。さらに,1月中
に花粉飛散開始日を迎える地域においては,!
月中旬までの気象データをもとに予測をおこ
なっても高い相関のある結果が得られたとする
報告もある1)。今回の我々の検討においては,
平均気温や最高気温の積和を別々に用いて単回
帰分析をするより,両者を用いて重回帰分析を
1)佐橋紀男.スギ花粉飛散予測の精度向上につい
て.アレルギーの臨床 1991;11:183−186.
2)山崎 太,水野瑞夫,信太隆夫ほか.花粉症起
因花粉の研究(第1報)スギ花粉飛散数の早期
予測について.アレルギー1979;28:732−737.
3)王 主栄,古内一郎,篠原久男.気象と花粉症.
アレルギーの臨床 1984;4:33−36.
4)中西 弘,榎本雅夫.横山道明ほか.樹木花粉
と鼻アレルギー,和歌山市における平成2年の
スギ花粉飛散の予測.基礎と臨床 !990;24:
643−648.
5)村山貢司.スギ花粉飛散の予測と予報.アレル
行ったほうがより高い相関が得られた。また,
ギーの臨床 1990;10:95−98.
採用する気象データにおいても,1月中旬まで
6)宇佐神言,降矢和夫,沿道久子ほか.スギ花粉
空中花粉数の予測.アレルギー !980;29:
のデータよりも1月下旬までのデータを用いた
方がR鷲一〇.83というより高い相関を得ること
が出来た。これは,花粉の飛散開始日を予測す
780−785、
7)佐橋紀男.1988年のスギ花粉前線.B本花粉学
会会誌 1988;34:79−86.
る場合,1月下旬までのデータを用いたほうが,
8)王 主栄,清野 仁,馬場廣太郎ほか.スギの
開花時期と気象との関係.アレルギー狛85;34
例年においてはより的確な予測が可能であると
:779.
いうことを示すものと思われた。その理由とし
9)水越文和,竹中 洋,出島健司ほか.京都府に
おける本年度のスギ花粉飛散状況と花粉飛散に
ては,甲府盆地においては花粉飛散開始日のほ
とんどが2月に入ってからであり,仮に1月に
花粉の飛散が始まったとしても30日以後の末日
関する考案.アレルギー1988;37:837.
10)村山貢司.!989年スギ花粉飛散の予測.アレル
ギーの臨床 1989;9:600−602.
rezziretwi;waU
Prediction ofJapanese Cedar and Cypress Pollen-Dispersion
-Kofu Basin in 1995Tetsuya Ganbo, Ken-ichi Hisamatsu, Rei Goto, Kazuhito Kikushima, Akihito Mizukoshi, Kimie Omori,
Yutaka Tokuyama, Yoshihiko M[urakami, and Masaru Minaii)
DePartment of Otorhinola7vngology, Ya7nanashi Medical Universdy and ')Ytimanashi Institute for Public Health
We have been measuring the arnounts ofJapanese cedar and cypress pollen in Kofu Basin (Yamanashi Prefecture) every spring since 1985, and have determined the total count of dispersed-pollen and the beginning
and maximum of pollen-dispersion every year. We retrospectively examined the relationship between Japanese
cedar and cypress pollen-dispersion and meteorological factors, and estimated total count of dispersed-pollen in
l995 from the meteorological factors during the period from July to August in 1994, using sing}e regression
analysis. rl"he total count was estimated to be about 5,OOO-6,OOO pieceslcm2. By assessing each summation of
mean and maximum temperatures during January and the predicted total count of pollen-dispersion, we predicted the beginning and maximum of pollen-dispersion to be February 15th and more than l,Oee pieceslcm21
day, respectively. These findings indicate that a large number of po}len wouid be abundant in the atmosphere
and that many patients with po}linosis will be suffering from allergic symptoms in the spring of 1995.
Key words: Japanese ceder and cypress pollen, total count of dispersed pollen, first pollen-dispersion, max-
imum pollen-dispersion, meteorological factors
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