ピアノ界の伊藤若冲――世界が驚嘆する極彩色のピアニズム

ザルツブルク・イースター音楽祭
in JAPAN
イェフィム・ブロンフマン
(ピアノ)
©Dario Acosta
ピアノ界の伊藤若冲――世界が驚嘆する極彩色のピアニズム
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私が初めてイェフィム・ブロンフマンのピアノを聴
いたのは、1993年秋。73歳のアイザック・スターンの
希望で日本ツアーに同行していた30代の若者だっ
た。サントリーホールでの最初の練習の際、スター
ンが耳元で囁いた。「このピアニストをよく聴いてお
くれ。彼は尋常なピアニストではないんだから!」。
モーツァルト、フランク、そしてブラームスのソナタ。
スターンの枯れた音色を一音たりとも覆わぬよう、
細心の気遣いで彼の音楽にピタリと寄り添う、あり
得ないほど天国的なピアニッシモの響きに心が震え
た。その3日後、彼の初ソロ・リサイタルでは、繊細な
スカルラッティ、モーツァルトではじまり、圧巻のプロ
コフィエフの第3ソナタを弾き終えたとき、聴衆はた
だただ茫然自失。なんというピアニストなんだ!?
ベルリン・フィル、ウィーン・フィル、ニューヨーク・
フィル、ドレスデンなどの有名オーケストラはこぞっ
て彼に“Pianist in Residence”をオファーする。協
奏曲はもとより、リサイタル、室内楽を彼と共に体験
したいがためである。最高の演奏家たちが驚愕し、
敬愛し、ぜひとも一緒に共演したいと切望する。繊
細さが溢れる感性の玉手箱、極彩色のパレットを内
に秘めるピアニスト。彼の音楽はまるで伊藤若冲の
絵のようだ。一見では目に見えないものの裏に、い
かに多くの事柄が描かれていることか! そのこと
に世界一流の演奏家たちが脱帽するのである。
ブロンフマンの生まれは、シルクロードの“青い
宝石”と言われるウズベキスタンの首都タシケント。
子守りがいない時、彼の母は3歳の息子を仕事場
のオペラハウスに連れていき、オーケストラ・ピット
の後ろに座らせた。この頃の声楽との出会いが、彼
の多彩な色のパレットをつくり出したのだ。15歳の
時、一家でイスラエルに移住すると、彼の運命は激
変する。到着するや否や、少年ブロンフマンは国中
の脚光を浴び、翌年には、ズービン・メータが彼を
モントリオール響のソリストとして起用し、北米デ
ビューを飾った。そしてスターンはレッスンのために
文:眞鍋圭子
ウラディミール・ホロヴィッツの所に連れていった。
ブロンフマンの演奏を聴き終わると、「君、君、一
緒に連弾しようよ!」それがホロヴィッツとの出会い
だった。
以来、世界のマエストロと共演が目白押し。オー
ケストラのソリストとして来日は多いが、リサイタル
が少ないのは残念至極。今回のサントリーホールで
の彼のリサイタル(11/26)は、何と23年ぶりである。
この幸運は指揮者のティーレマンのおかげだ。2013
年、ザルツブルク・イースター音楽祭で彼と初めて共
演したティーレマンは、ベートーヴェンの「皇帝」の
後に、彼にアンコールを促し、自ら椅子をピアノの横
に持ち出して、彼の演奏に聴き入っていた。楽屋に
戻るなり、
「これ程インスピレーションを受けたピア
ニストは初めてだ。今度日本に行く時は、絶対に彼
をソリストにしたい」と語った。そして、今秋この「皇
帝」もサントリーホールで実現する(11/23)。
今 回のリサイタルでは、ベートーヴェンの「熱
情」やシューマンの「フモレスケ」のほかに、彼のド
ビュッシーを初めて日本で聴くことができる。「ベル
ガマスク組曲」でみせる色彩感はいかに? 今から
その日を一刻千秋の思いで、待ちわびている。
ザルツブルク・イースター音楽祭 in JAPAN
イェフィム・ブロンフマン 出演公演
クリスティアン・ティーレマン
(指揮)
シュターツカペレ・
ドレスデン
オーケストラ・プログラム(Ⅰ)
11/22(火)19:00 ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第2番
オーケストラ・プログラム(Ⅱ)
11/23(水・祝)17:00 ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番
「皇帝」
イェフィム・ブロンフマン ピアノ・リサイタル
11/26(土)19:00
会場:サントリーホール
サントリーホールチケットセンター0570-55-0017
※ザルツブルク・イースター音楽祭 in JAPAN の詳細は下記ウェブ
サイトでご確認ください。 http://suntory.jp/HALL