世界のエネルギー問題と中国

第1回アジア理解
第1回アジア理解講座
アジア理解講座
世界のエネルギー問題と中国
中野洋一(アジア共生学会会長)
世界のエネルギー問題を話題にするとき、かつて言われた「オイルピーク説」すなわち
人類の利用できる化石燃料、特に石油資源の近い将来に予想される枯渇問題が注目を集め
ていた時期があった。
しかし、現在は、IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)の地球温暖化論に基
づく温室効果ガス(特に二酸化炭素)排出規制に関する国際協定である「パリ協定」の成
立が象徴的であるように、地球温暖化論との関連で世界のエネルギー問題を議論すること
が大きな潮流である。
また、同時に、世界のエネルギー事情の近年の大きな変化は、2000 年半ばに進行したア
メリカでの「シェール革命」の進行、太陽光発電や風力発電のような再生可能エネルギー
の世界的な利用の増大も注目さている。特に、地下 3000〜4000 メートルのシェール層(頁
岩層)に存在する「非在来型」の化石燃料資源の開発によって石油資源の近い将来に予想
される枯渇問題はほとんど忘れ去られた状況にある。
次に、2013 年の世界の一次エネルギー構成を見ると、世界全体では、石油が 33%、天
然ガスが 24%、石炭が 30%、原子力エネルギーが4%、水力が7%、再生可能エネルギ
ーが2%である。
特に、2011 年の福島原発事故以後、世界の原子力エネルギーは大きな岐路にあり、2007
年がその発電量のピークにあり、現在はピークより約 10%も低下している。
また、同年の主要国の一次エネルギー構成を見ると、アメリカは石油が 37%、天然ガス
が 30%、石炭が 20%、原子力エネルギーが8%、水力が3%、再生可能エネルギーが3%、
日本は石油が 44%、天然ガスが 22%、石炭が 27%、原子力エネルギーが1%、水力が4%、
再生可能エネルギーが2%である。日本は、2011 年の福島原発事故以後、各地の原発施設
の稼働が停止しているので原子力エネルギーの割合が大きく低下した。
さらに、フランスは石油が 32%、天然ガスが 16%、石炭が5%、原子力エネルギーが
39%、水力が6%、再生可能エネルギーが2%であり、他の先進国と比較して原子力エネ
ルギーの割合が特別に大きい。
ドイツは石油が 34%、天然ガスが 23%、石炭が 25%、原子力エネルギーが7%、水力
が1%、再生可能エネルギーが9%であり、特に他の先進国と比較して再生可能エネルギ
ーの割合が大きい。ドイツはエネルギー政策として再生可能エネルギーの開発に特に力を
入れている。
ロシアは石油が 22%、天然ガスが 53%、石炭が 13%、原子力エネルギーが6%、水力
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が6%、再生可能エネルギーがほとんど0%であり、他国と比較して天然ガスの割合が特
別に大きい。
中国は石油が 18%、天然ガスが5%、石炭が 67%、原子力エネルギーが1%、水力が
5%、再生可能エネルギーが2%であり、特に石炭の割合が大きい。このことが中国の環
境問題のなかでももっとも深刻な問題となっている大気汚染の重要な要因となっている。
中国と同様なエネルギー構成の国はインドである。インドは石油が 29%、天然ガスが
8%、石炭が 55%、原子力エネルギーが1%、水力が5%、再生可能エネルギーが2%で
あり、特に石炭の割合が大きい。
次に、世界の一次エネルギーの消費の推移と見通しについて見ると、2013 年の IEA(国
際エネルギー機関)の報告書によれば、2011 年の世界の一次エネルギーの消費は 127.1 億
トン(石油換算)であるが、2035 年には世界の一次エネルギーの消費は 169.0 億トン(石
油換算)となり、世界全体では約 1.3 倍の増加となると予測している。その見通しの数字
で特に注目されるのは、2011 年から 2035 年までの先進国の一次エネルギーの消費がほぼ
同じ水準で推移すると推測されているのに対して、途上国のそれは多くが増大し、特に中
国が約 1.5 倍、インドが約 2.1 倍となり、世界全体の約 1.3 倍を上回ると推測されている
ことである。それゆえに、中国とインドはエネルギー消費の急増にも対応する必要にあり、
再生可能エネルギーの開発のみならず、原子力エネルギーの開発すなわち原発の新増設に
も積極的になっている。
特に、中国は 2001 年の WTO(世界貿易機関)加盟以後、世界およびアメリカへの輸出を
大きく増大し、急激な経済成長を成し遂げた。最近では中国は国内での原発の新増設のみ
ならず、パキスタンに加え、ルーマニア、イギリス、アルゼンチンへの原発輸出も積極的
に展開している。
(参考文献)
中野洋一『世界の原発産業と日本の原発輸出』明石書店 2015 年。
中野洋一『原発依存と地球温暖化論の策略
経済学からの批判的考察』法律文化社 2011
年。
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