矛盾だらけの日本の安全保障

45) (借行 28年10月号)
図書紹介
名川義紘 陸経7 著
﹃最後の陸軍将校の
半生とその思い﹄
大東 倍祐陸自57
終戦を第4軍隷下、第123師団 ︵松
風︶ の野砲兵第123聯隊の主計将校と
ことなく発射する可能性があるという
ば、核やミサイルを冷静な判断をする
る必要がある。 ︵文責 井上贋司︶
ことだ。今後、北朝鮮の動きを注視す
は、最高指導者になる教育を受ける時
間が少なく、自分の立場を強化するた
登用した幹部まで粛清している。これ
めに恐怖政治を乱用していると思われ
冨澤 曙・田原稔一朗 著
■
J
は、独特の主観的・情緒的、精神的
︶
なものに左右されたこと、戦略は狭
﹃矛盾だらけの日本の
安全保障﹄
︵韓国政府発表による︶
﹁専守防衛﹂で日本は守れない
険に対応し、指揮官の命令で武器を
使用する訓練をしているのだ。担当
者が胸に秘めてきたこの矛盾をサラ
性に欠けていたこと、そして資源と
しての戦闘技術体系は、全体として
本書は、冨澤曙氏︵元陸幕長︶ が
関係者がどのようにして防衛力整備
や運用計画作成に尽力したかを教え
てくれる。中でも、﹁作戦計画をつ
い唯一至上のものにしぼられて統合
バランスに欠けている﹂としている
ことに対し、経験論として疑問を呈
しながら、今こそ国家百年の大計の
の対談という形式で日本の安全保障
田原稔一朗氏 ︵ジャーナリスト︶ と
く更迭されていたと思、笑若い現職の
第2章では、どのようにして﹁基
盤的防衛力﹂が作られたかに言及し、
その限界を指摘するとともに、防衛
第3章では、湾岸戦争への対応の
言葉は、厳しい。
失敗を指摘し、第5章では、太平洋
戦争の失敗に言及している。特に湾
岸戦争については、最近主要国の政
そして第4章と第6章で、冨澤氏
の持論である﹁集団的自衛権より国
連の集団安全保障に堂々と参加せ
電話 0313542︻9671
出版社 海竜社
少しでも安全保障の知識のある方
が目にされれば、﹁日から鱗﹂ の理
よ﹂と論じている。ただ、個人的に
はこの論については、もっと突っ込
んだ議論がほしい気もするが、対談
た。自衛隊法95条に﹁自衛官は⋮⋮
価格 千5百円+税
とは間違いない。
出版社 星雲社
いてある。自衛隊は、常に部隊で危
武器を使用することができる﹂と書
形式の限界かもしれない。まずは、
読んでみていただきたい。面白いこ
電話 03−3947−1021
して北浦の黒河で迎えた体験が生々
しく記録されている。戦局全般の動
リと明らかにしている。
下、決然として覚醒し、有形無形の
ん。今でも作戦研究の段階です﹂ の
くることは、いまだにできていませ
井上廣司陸自72
抜本的対策を講ずべきであると説
いえば、﹁面白い﹂ の二一一一ロに尽きる。
の矛盾をえぐり出している。二言で
本書は筆者が軍人生活、安全保障
問題等について昭和50年代から折に
よる戦犯処刑を恰も戦争責任の免罪
き、また敗戦後においては、敵国に
符として甘受した節がなかったか。
すぎではなかったかと問うている。
一億線俄悔が余りに過大に取り上げ
触れ同期生会誌、新聞等に寄稿した
ものを、米寿を迎えるに当り整理出
版したものである。内容は、経理学
校生徒時代から終戦までの回想、大
東亜戦争の反省と分析の必要性、シ
ベリア抑留の回想、戦後の諸問題に
自衛隊の運用や防衛力整備にかか
わってきた元幹部自衛官が読めば、
﹁ここまで話して大丈夫ですか﹂と
口にするだろう。冨澤氏が現職時代
にこれを口にしていたら、間違いな
みたくなるような気分になるだろゝ笑
論や事実にぶち当たり、誰かに話して
ついての所感、片言から成っている。
終戦後のソ連 ︵当時︶ によるシベ
リア抑留の体験は、経験者でなけれ
ば残せない貴重なものがあり、その
実態を改めて学ぶべき事柄が多く、
日本人、ロシア人、ドイツ人の特性
についての記述は興味を呼ぶ。
シベリアから帰還後の生活につい
ては先輩との交わりの中で現実の世
第1章から、専守防衛の虚構を指
ろう。
界で生き抜き、この間に於ける米軍
摘している。自衛隊が初めて武器を
策検証が公表されており、比較しな
がら読まれると更に興味が深まるだ
きと関東軍、第一線部隊間の情報の
ギャップと、それに伴う現場の混迷
の状況が具体的に記述されている。
エピソードが語られており、その精
CICとのかかわり等、興味のある
幹部自衛官が読めば、自らの将来に
時代の推移に伴って戦闘の経験者
使用するかもしれないと危供したP
KOの派遣時、一番悩んだのは部隊
による武器使用ができないことだっ
待ち受ける責務に悩むかもしれない。
から直接その体験を伺う機会は失わ
神二刀気は若者を凌ぐものがあり、
その意気壮年を凌ぐ先輩の提言とし
れつつあるが、著者は﹁失敗の本質﹂
−日本軍の組織論的研究−におい
て、﹁日本軍の戦略面では、作戦目
的が曖昧で多義性を持っていたこ
価格 千3百円+税
て真撃に学びたいものである。
と、また短期決戦志向であり、戦略
策定は客観的・科学的合理主義より