ロ 胸が熱くなるような、 弱音の美しい響き シア作品のみならず幅広いレパートリーを誇り、 それらをテ クニック優先ではなく、作品に内包される文学的な要素や 伝統美、舞曲のリズムなどをリリシズムあふれる美しい音 色で表現するイェフィム・ブロンフマン。彼はどんな作品を弾くときも、 文:伊熊よし子(音楽ジャーナリスト) それがあたかもいま作られたような、作曲家と同時 代に生きているよ うな思いで演奏する。 「私は常に上昇したい。 いくつになっても色あせることのない、新鮮で 前向きな演奏をしたいと願っています」 ブロンフマンは旧ソ連の音楽一家に生まれ、 音楽家になるのがご く自然なことだった。14歳で祖国を出てアメリカに移った後は、ルドル フ・フィルクスニー、 レオン・フライシャー、ルドルフ・ゼルキンという名ピ アニストであり名教授でもある3人に師事している。 「本当によき恩師に恵まれたと感謝しています。先生たちはピアノを 弾く技術的なことではなく、 音楽する素晴らしさを教えてくれました。 鍵盤を強打するのではなく弱音をいかに美しく響かせるか、 ホールの 隅々までその音をどのように浸透させていくか、 作品の精神性はどのよ うなものかなど。 ですから私は、 常にピアノという楽器を忘れ、素晴らし い音楽がたまたまピアノという楽器を通して表現されているのだと考え ています」 イェフィム ・ ブロンフマン ブロンフマンの音楽は、 一本気で芯が強い。 その反面、 弱音の美しさに (ピアニッシモ) に注目したい。 は定評がある。 今回も、 胸が熱くなるような pp 公演情報 Y efim Bronfman オーケストラ・プログラムⅠ, II 11.22(火)、23(水・祝)大ホール 指揮:クリスティアン・ティーレマン ピアノ:イェフィム・ブロンフマン 管弦楽:シュターツカペレ・ドレスデン イェフィム・ブロンフマン ピアノ・リサイタル 11.26(土)大ホール ピアノ:イェフィム・ブロンフマン ©Dario Acosta Message イザベル・カラヤンからのメッセージ 父カラヤンが魅せられた、ショスタコーヴィチ 私は日本が大好きで、これまでにも数回訪れ 私たちは、ロシア語の有名な詩を、ショスタコー ています。今回、父カラヤンと私にとって特別 ヴィチの曲にのせることにしました。ここで取り な意味をもつこの作品を、ザルツブルク・イース 上げる詩人たちは皆、スターリン時代の粛清で ター音楽祭に続いて日本でも公演できること 命を失っています。芸術家には非常に不遇な時 に、 胸をときめかせています。 代でした。時代の犠牲になったロシア詩人の詩 父はショスタコーヴィチと親交があり、 私も一 を、 ありのままに表現しています。 ©Matthias Creutziger 父はサントリーホールの建設に際し、音響面 緒にお会いしたことがあります。父は彼に魅せ でも、どうか心配しないで。皆さんは、怖れで でかなり協力していました。父の思いが詰まっ られていました。 「ショスタコーヴィチのように 震える女優の演技を一時間観続けるわけではあ たこのホールで、共にロシアの世界を旅してい ただきたいと思います。 作曲したかった」 と私に語っていたものです。演 りません。これは私の一人芝居ですが、 ただ悲し 目の中心に置いた弦楽四重奏曲第8番は、ショ いだけでも、恐怖に満ちているだけでもありませ スタコーヴィチが作曲した中で、彼の想いが最 ん。楽しくてユーモアもあるのです。ロシア独特 も強く込められた曲かもしれません。彼はドレ のユーモアがちりばめられています。 スデン近郊のゴーリッシュでこの曲を3日で書 大事なことは、観客の皆さんに想像してもら き上げました。猛烈な速さですね。 うことです。ショスタコーヴィチの曲自体がとて この『ショスタコーヴィチを見舞う死の乙女』 も力強いですから。曲とセリフがそれぞれを補 で伝えたいことは、この時代の空気、そして作曲 完し、より深みをもたらします。どちらか一方だ や作詩を通して表現し続けた彼らの勇気です。 けを強調することはしませんでした。 (イザベル・カラヤン◎談) 公演情報 女優、 イザベル・カラヤンによる一人芝居 『ショスタコーヴィチを見舞う死の乙女』 —不安についてのコラージュ— 11.19(土)ブルーローズ(小ホール) 出演:イザベル・カラヤン ピアノ:ヤッシャ・ネムツォフ 弦楽四重奏:ドレスデン弦楽四重奏団 詳細はWEBへ サントリーホール ENJOY! SUNTORY HALL 検索 V o l .1 4 7
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