【この人この研究】 (PDF 1.3MB)

薬学部 薬剤学教室 野口
修治 教授
製剤の物性と構造を解析し
『機能』
との相関を解明!
新規製剤の設計に資する研究に取り組む
薬の“効き目を高める”学問
『薬剤学』
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剤を小型化したりできる可能性もあります。近年、急速に“ 溶けに
くい薬 ” が増加してきており、今後の医薬品分野において
『溶出性の
制御』
は非常に重要なテーマになってくると予測されます」
この3テーマのほか、同研究室では、安全で有効性の高い医薬品
ている。まず前述した
『医薬品製剤の構造解析』。これは放射光X
線や核磁気共鳴画像法を活用し、製剤を“ 非破壊的 ”に解析、そ
他大学で確かな研究実績を積み上げ、今春より本学薬剤学教室
の物性と機能の相関を定量的に解明するという手法で展開され
に着任した野口修治教授。
る。製剤を壊したり圧力を加えたりすると性質が変化する可能性が
「医薬品は有効成分と添加剤で構成され、専門用語でこれを
『製剤』
けにくさ”を改善していく研究だ。
「医薬品によっては溶出性を改めることで、投与量を低減したり、錠
あるからだ。
と呼びます。添加剤には薬効がまったくありませんが、実はこれを混
「製剤の構造を詳細に明らかにすることは、その機能を理解し、よ
入しないと製剤はつくれないのです。こうした医薬品に関するさまざ
り優れた製剤を設計するうえで非常に重要です。今後もこの研究に
まな工夫、製剤の機能を高める研究を行うのが薬剤学なのです」
は力を入れていくつもりです」
の創製をめざし、
『薬物の経口吸収』
に関する研究も行われている。
今後は新たな製剤を生み出す研究も
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研究室には現在、学部生が各学年 10 数名ずつ所属し、個々の
研究を進めている。そのほか、
中国から留学している院生や博士課
有効成分は通常“粉状の物質”なので、
錠剤の場合、
そのままでは粉
第2のテーマは
『医薬品の物性改善に関する研究』。これは製薬
知識・技術は彼らが社会進出した後、まもなく“ 古びたもの”になっ
企業において取り組まれる、粉状の成分に“薬の形”を与えるステー
てしまうでしょう。だから、この研究室では
『基礎を固める』
『確固と
使われるのが植物成分の「セルロース」
だ。また、
腸で効いてほしい薬な
ジ
『製剤設計』
に深く関連する研究だ。
その過程で立ちはだかるさま
した“ 学ぶ姿勢 ”を形成する』
という2つのことに重点を置いて勉学
のに、
有効成分が酸に弱い物質であれば、
常時、
酸性である胃を通る段
ざまな問題を結晶解析、熱分析、表面分析といった技術を駆使し
に励んでほしい。そして社会進出後は日進月歩で進化する、この分
階で分解されてしまう。
このようなケースでは有効成分を酸で溶けない
て評価し、改善法を案出するというものだ。
野の知識を貪欲に吸収する努力を続けること。人間は“ 一生が勉
「溶解しにくい、湿度に弱い、光で分解してしまう……など、製剤
強 ”です」
「我々の研究において最も重視しているのは、薬の
『分子構造・結晶
は多様な困難を克服した末に完成するのです。我々はこの研究によ
人間は“一生が勉強”━━これは薬剤学を学ぶ学生だけでなく、
文
構造と機能』
の関係を調べることです。形のちょっとした違いにより薬
り、患者さんや医療従事者にとって、少しでも良い医薬品が生まれ
系・理系を問わず、今後の社会を生きるうえで必要不可欠な姿勢と
の効き目は大きく変わる。構造と機能は深くリンクしているのです」
ることに貢献したいと考えています」
実践性の高い
『3つの研究』
に取り組む
川路 美月さん
国際系の学部をめざしていたのです
が、高校入学時に父の死を体験し、
それから医療分野に関心が移り薬学
部に入りました。薬剤学研究室を選
んだのは、志望として薬剤師を視野
に入れつつ、製薬企業など違うジャ
ンルの職業もめざしていたからです。
野口教授は非常に面倒見の良い方で、
ていねいな指導をしてくださる、親
しみやすい先生です。
程で学ぶ社会人もいる。
「医薬品に関する科学はハイスピードで進歩しており、ここで学んだ
同士がうまく固まらず、
錠剤の形状にはできない。その際“つなぎ”として
物質でコーティングする、
カプセルに入れるといった方法がとられる。
薬学部6年
なるだろう。
そして第3が
『医薬品の溶出性を改善する研究』。新規の共結晶
「現在は製剤の
『構造と機能の関係』
について研究していますが、今
(同一結晶格子内に存在する複数の分子によって構成される結晶
後は我々自身が
『構造を設計し、新たな製剤を生み出す』研究にも
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性物質)
や共非晶質(分子が規則正しい格子を作らず、乱れた配列
取り組みたいですね」
野口教授は現在、3つのテーマを中心に据えて研究活動を続け
をしている複合物質)
を探索することで、医薬品の“ 溶けやすさ、溶
意欲に満ちた野口教授の今後に期待したい。
C O M M E N T
S T U D E N T S VO I C E
薬学部6年
松原 康輝さん
幼い頃、喘息に悩まされていて、
その頃から苦しさを和らげてくれ
る『薬』に強い興味を抱いていまし
た。現在『製剤の構造解析』の研究
に取り組んでいるのですが、予想
よりはるかに大変です。野口教授
は非常にフレンドリーで、何でも
気軽に質問できる雰囲気を持った
方。研究に関しても常に最適の助
言をしてくださる、尊敬できる先
生です。
“ アグレッシブ ” な姿勢で
勉学に取り組んでほしい!
東邦大学の学生は、皆とても真面目で勉強熱心です。しかし、あくま
でも私見ですが、本学の学生は「総じて、ちょっと大人しすぎる」とい
う印象を抱きます。もっとアグレッシブになり、
「自ら学び取る」という
姿勢で向かってきてほしい。そうすれば、伸びしろはさらに広がるは
ずです。
P R O F I L E ——————————————————————————
Shuji Noguchi
1966 年生まれ、東京都出身。都立上野高等学校から東京大学理科Ⅱ類に進学。同
大学薬学部を経て修士課程を修了し、1991 年より同学部・薬品物理分析学教室
(現・蛋白構造生物学教室)の助手・助教として活動する。2011 年、静岡県立大学
薬学部(創剤科学分野)の准教授に就任。2016年4月、東邦大学薬学部(薬剤学教室)
に教授として着任、現在に至る。
10 TOHO NOW | 2016.OCTOBER
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