0.1. 標本平均の分布 母集団から n 個の標本 x1 , x2 , ..., xn を抽出するとき、それらは標本ごとに変わる確率変数であり、その各々を ∑n X1 , X2 , ..., Xn で表すと、このときの標本平均 X̄ はX̄ = i=1 Xni となり、この標本平均もまた新しい確率変数と して標本分布する。この標本平均の分布の確率密度関数はその母集団が N (µ, σ 2 ) である正規分布をする場合には 次式で与えられる。 − 1 f (X̄) = σ √ e √ 2π n (X̄−µ)2 2 2σ n 2 これより、正規母集団 N (µ, σ 2 ) からの標本平均 X̄ の分布は N (µ, σn ) である正規分布をすることがわかる。以上 より次の定理を得る。 定理 1:正規母集団 N (µ, σ 2 ) から大きさ n の標本を任意抽出した場合の標本平均 X̄ = ∑n Xi i=1 n 2 の分布は N (µ, σn ) となる正規分布をする。 次に、正規母集団でない任意の母集団から n 個の標本を任意抽出したときの標本平均 X̄ の分布について考えると、 2 n が十分大きければ 1 以下の中心極限定理より標本平均 X̄ の分布は N (µ, σn ) となる正規分布に近づくことが証明 されている。 中心極限定理:平均 µ、分散 σ 2 の任意の確率分布に従う母集団から n 個の標本を無作為抽出したときの標本平均 2 X̄ の分布は、n が十分大きい時に正規分布 N (µ, σn ) に近似する。また、中心極限定理の系として以下の定理を得 る。 定理 2:平均 µ、分散 σ 2 の任意の確率分布に従う母集団から n 個の標本を無作為抽出したときの標本平均 X̄ を確 率変数とみなし、X̄ を標準化した Z= X̄ − µ √σ n の分布は n → ∞ のとき、N (0, 1) の標準正規分布に従う。 ここで、平均 µ、分散 σ 2 の正規母集団もしくは、任意の確率分布に従う母集団から n 個の標本を無作為抽出した ときの標本平均 X̄ の分布における平均が µ、分散が σ2 n となることを期待値 (平均)、分散の定義と性質を述べた 後に示す。X = xi となる確率が pi であるような確率変数 X を考えると、 • 期待値の定義 E(X) = k ∑ xi pi ( 但し、µ = E(X) ) i=1 • 分散の定義 V (X) = k ∑ pi (xi − µ)2 = E[(X − µ)2 ] (1) i=1 • 期待値の性質 X, Y を確率変数、a, b を定数とする。但し、(5) は X, Y が独立 2 な確率変数のとき。また、(6) は (3),(4) よ 1n が大きければ大きい良好であり、母分布が極端に正規性から外れていない限り一般に n > 10 で標本平均の分布は正規分布と見なして 良いことが経験的に確かめられている。 2 X の結果に関わらず、Y の確率が変わらないこと 1 り、期待値の線形性という。 E(a) = a (2) E(aX) = aE(X) (3) E(X + a) = E(X) + a E(X + Y ) = E(X) + E(Y ) (4) E(XY ) = E(X)E(Y ) (5) E(aX + bY ) = aE(X) + bE(Y ) (6) • 分散の性質 X, Y を確率変数、a を定数とする。但し、(9) は X と Y が独立な確率変数のとき。 V (a) = 0 (7) 2 V (aX) = a V (X) (8) V (X + a) = V (X) V (X + Y ) = V (X) + V (Y ) (9) V (X) = E(X ) − {E(X)} (10) 2 2 また、各々が独立な標本 X1 , X2 , ..., Xn は母平均 µ、母分散 σ 2 の分布に従う確率変数とする。各 X1 , X2 , ..., Xn はそれぞれ全く同じ集合から抽出された n 個の標本なので次の式が成立する。 E(X1 ) = … = E(Xn ) = E(X) = µ (11) E(X12 ) (12) =…= E(Xn2 ) 2 = E(X ) V (X1 ) = … = V (Xn ) = V (X) = σ 2 (13) ところで、(10) は (1),(2),(3),(4),(11) より、導くことが出来る。 V (X) = E[(X − µ)2 ] = E(X 2 − 2µX + µ2 ) = E(X 2 ) + E(−2µX) + E(µ2 ) = E(X 2 ) − 2µE(X) + µ2 = E(X 2 ) − 2µ × µ + µ2 = E(X 2 ) − µ2 = E(X 2 ) − {E(X)}2 従って、標本平均の分布の期待値 (平均)E(X̄) は (3),(4),(11) より、 ( X1 + X2 + … + Xn n ) 1 E(X1 + X2 + … + Xn ) n 1 1 1 = {E(X1 ) + E(X2 ) + … + E(Xn )} = (µ + µ + … + µ) = × nµ = µ n n n E(X̄) = E = (14) 標本平均の分布の分散 V (X̄) は (8),(9),(13) より、 ( ) X1 + X2 + … + Xn 1 1 V (X̄) = V = 2 V (X1 + X2 + … + Xn ) = 2 {V (X1 ) + V (X2 ) + … + V (Xn )} n n n = 1 2 1 σ2 (σ + σ 2 + … + σ 2 ) = 2 × nσ 2 = 2 n n n (15) 一方で (10) から、 V (X̄) = E(X̄ 2 ) − {E(X̄)}2 よって (15) より、 E(X̄ 2 ) − {E(X̄)}2 = 2 σ2 n (16) 母平均と母分散の推定 0.2. 母平均の推定 0.2.1. (14) より、標本平均 X̄ を平均したものが母平均 µ である。つまり、ある標本平均 X̄ の値を母平均 µ の 1 つの標 本として扱える。従って、標本平均 X̄ は母平均 µ の推定値とし、以下の式が成り立つ。 E(X) = µ = E(X̄) (17) 母分散の推定 0.2.2. 今、X1 , X2 , ..., Xn を平均 µ と分散 σ 2 の分布から得られた標本とする。つまり、E(Xi ) = µ, E[(Xi −µ)] = σ 2 (i = ∑n 1, 2, ..., n) とする。この時、標本から得られる母集団の分散の推定値を s2 = n1 i=1 (Xi − X̄)2 とするとき、s2 が 不偏推定量 3 かどうか調べる。つまり、E(s2 ) を計算すると、 ) 1∑ 1∑ 2 1 ∑ 2 1 ∑( −2Xi X̄ + X̄ 2 (Xi − X̄)2 = (Xi − 2Xi X̄ + X̄ 2 ) = Xi + n i=1 n i=1 n i=1 n i=1 n s2 = n n n (∗) (*) の第二項において、 ) 1 ∑( 1 −2Xi X̄ + X̄ 2 = n i=1 n n = ( −2X̄ n ∑ Xi + X̄ i=1 2 n ∑ ) i=1 1 = n ( −2X̄ n ∑ ) Xi + nX̄ 2 i=1 1 = n ( 1∑ −2nX̄ Xi + nX̄ 2 n i=1 n ) 1 1 (−2nX̄ × X̄ + nX̄ 2 ) = (−nX̄ 2 ) = −X̄ 2 n n 従って、(3),(4),(12) より E(s2 ) は、 ) ) ( n ( n ∑ 1 1 1∑ 2 2 2 2 = E E(s ) = E Xi − X̄ Xi − E(X̄ 2 ) = E(X12 + X22 + … + Xn2 ) − E(X̄ 2 ) n i=1 n n i=1 [ ] n n 1 1∑ 1∑ = {E(X12 ) + E(X22 ) + … + E(Xn2 )} − E(X̄ 2 ) = E(Xi2 ) − E(X̄ 2 ) = E(X 2 ) − E(X̄ 2 ) n n n i=1 i=1 1 = × nE(X 2 ) − E(X̄ 2 ) = E(X 2 ) − E(X̄ 2 ) n 2 また、(10),(13) より E(X 2 ) = σ 2 + {E(X)} かつ (16),(17) より、 { }2 2 E(s2 ) = σ 2 + {E(X)} − E(X̄ 2 ) = σ 2 + E(X̄) − E(X̄ 2 ) = σ 2 − [E(X̄ 2 ) − {E(X̄)}2 ] = σ 2 − n−1 2 σ2 = σ n n ゆえに、不偏推定量を標本分散 s2 とすると、母分散より小さく見積もってしまうことになるので、この式を σ 2 に ついて解くと (3) より、 ( 2 σ =E この式は n 2 n−1 s n 2 s n−1 ) の期待値が母分散 σ 2 に等しいことを示しているので、ある n 2 n−1 s の値を母分散 σ 2 の 1 つの標本 n n として扱える。即ち、 n−1 s2 を母分散 σ 2 の推定値とすることができる。よって、 n−1 s2 を不偏分散 u2 とすると、 u2 は以下の通りである。 n 1∑ 1 ∑ n 2 s = × (Xi − X̄)2 = (Xi − X̄)2 n−1 n − 1 n i=1 n − 1 i=1 n u2 = n 3 標本空間で期待値をとると母数に一致する推定量のこと 3 参考文献 [1] 三上 操: 「数学講座 6 統計的推測」株式会社 筑摩書房,1969 年 12 月 20 日発行 [2] 薩摩 順吉: 「確率・統計」株式会社 岩波書店,1989 年 2 月 8 日発行 [3] 岸根 卓郎: 「理論応用統計学」株式会社 養賢堂,1966 年 1 月 5 日発行 [4] 大島 利雄ほか 16 名: 「改訂版 数学 B」, 数研出版株式会社,2009 年 1 月 10 日発行 [5] 木田 祐司ほか 16 名: 「改訂版 数学 C」, 数研出版株式会社,2009 年 1 月 10 日発行 [6] 尾畑 伸明: 「数理統計学の基礎」共立出版株式会社,2014 年 12 月 25 日発行 [7] 栗原 伸一: 「入門統計学 -検定から多変量解析・実験計画法まで-」, 株式会社オーム社,2011 年 7 月 25 日発行 4
© Copyright 2024 ExpyDoc