平 成 28年 10月 21日 カレント・トピックス 独 立 行 政 法 人 石 油 天 然 ガス・金 属 鉱 物 資 源 機 構 Australia Japan Coal Conference 2016 参加報告 <石 炭 開 発 部 石 炭 開 発 課 加藤> 日 豪 石 炭 会 議 ( Australia Japan Coal Conference: AJCC) 2016 が 、 10 月 6 日 ( 木 ) ~ 7 日 ( 金 ) に 、 NSW 州 シ ド ニ ー 市 内 で 開 催 さ れ た 。 AJCC は 、今 回 の 開 催 で 第 33 回 目 を 迎 え 、石 炭 供 給 側 で あ る 豪 州 関 係 企 業 ・ 機 関と、石炭調達側である日本の電力会社や鉄鋼会社等の関係企業・機関が一同に 会 す る 機 会 で あ る 。AJCC2016 に は 日 豪 関 係 者 100 人 余 り が 参 加 し 、両 国 の 石 炭 業界における最新情報を共有するとともに、報告以外の場においても、参加者間 での積極的な情報交換が行われていた。 10 月 7 日( 金 )に 開 催 さ れ た 本 会 議 に お い て 報 告 さ れ た 各 講 演 の 概 要 は 、以 下 のとおり。 [Session 1: Australia Coal Supply and Japanese Coal Demand Outlook] 1. Australia’s Thermal and Metallurgical Coal Export Supply Outlook 講 演 者 : Mr. Bruce Wilson, Head of Resources Division, Department of Industry, Innovation and Science ・ IEA に よ る と ア ジ ア 地 域 の 新 興 国 等 に お い て は 、 今 後 電 力 需 要 及 び 消 費 量 が 増 加し、それに伴って発電量も増加する。それに伴い、現在の環境保護の観点か らの反対にも関わらず、今後も一定割合の石炭需要はあると考えられる。 ・ 例 え ば 、 イ ン ド で は 今 後 2~ 3 年 間 輸 入 炭 は 必 要 な い 、 と い う 見 方 も あ る が 、 電力需要の増加に伴い特に沿岸地域での発電所向けの一般炭は輸入される必要 があるであろう。中国も国内炭の消費を進めているが、鉄鋼生産のための原料 炭は引き続き必要である。 ・豪州の石炭プロジェクトには、環境政策等に影響される市況、大きな環境保護 団体のキャンペーン等による石炭資源開発への反対運動、ファイナンス面の課 題等がある。一方で、世界的に石炭の代替となる安定的で低廉な資源はなく、 高 効 率 低 排 出 ( High-Efficiency, Low-Emission: HELE) 技 術 に よ る 石 炭 の 利 用 が必要である。 ・現 状 、日 本 に 対 す る 豪 州 炭 の 輸 出 量 は 、一 般 炭 で 8,200 万 ト ン 、原 料 炭 で 4,200 万トンである。豪州は地理的な側面に加え、良質な石炭が産出されることもあ り、引き続き日本をはじめとするアジア地域にとって、重要な石炭輸出国であ る。今後のアジア地域での電力需要の増加や鉄鋼生産量の増加に見合う石炭供 1 給を実施したい考え。 2. Japanese Thermal Coal Demand Outlook and Japanese High Efficiency, Low Emissions Technology Developments 講 演 者 : Mr. Sunao Nakamura, Senior Executive Vice President, Energy Transactions and Projects, JERA Co., Inc ・ 日 本 の 一 般 炭 消 費 量 は 、 2000 年 以 降 電 力 需 要 の 増 加 に 伴 い 成 長 し て い た が 、 2008 年 、世 界 的 な 金 融 危 機 に よ り 減 少 。ま た 、2011 年 は 東 日 本 大 震 災 に よ り 減 少。その後原子力発電所の運転停止により石炭火力発電所の電力構成割合が増 加したことに伴い、一般炭の消費量は増加している。 ・ セ メ ン ト 需 要 は 、 2006 年 以 降 公 共 事 業 費 の 抑 制 に よ り 減 少 し て い た が 、 2011 年 の 震 災 に よ り 2013 年 に か け て 増 加 し た 。そ の 後 減 少 傾 向 に あ る が 、今 年 2016 年は、昨年ほど大きくは落ち込まないと予想している。 ・2030 年 に お け る 電 源 構 成 で は 、26%は 石 炭 火 力 発 電 と さ れ て お り 、一 次 エ ネ ル ギ ー 供 給 見 通 し も 現 状 と 同 様 25%が 石 炭 資 源 に よ る も の と さ れ て い る 。こ れ は 、 2011 年 の 東 日 本 大 震 災 以 降 、 3E+S と し て 安 全 性 が 重 視 さ れ て き た こ と が 背 景 にある。その一方で、二酸化炭素排出量の削減のため、化石燃料の効率的な利 用も求められている。 ・石炭の持続可能な利用のための技術開発においては、短期・中期的には、先進 超 々 臨 界 圧 火 力 発 電 ( Advanced - Ultra Super Critical: A-USC) 技 術 が 技 術 開 発 の 対 象 と な る 。長 期 的 に は 、石 炭 ガ ス 化 複 合 発 電( Integrated coal Gasification Combined Cycle : IGCC ) や 石 炭 ガ ス 化 燃 料 電 池 複 合 発 電 ( Integrated coal Gasification Fuel Cell combined cycle: IGFC) の 開 発 に よ り 、 環 境 に 配 慮 し た 石炭の利用が可能。 ・例えば東京電力株式会社等が推進している福島復興電源コンソーシアムでは、 東 日 本 大 震 災 の 影 響 を 受 け た 福 島 県 の 復 興 に 向 け て 、 IGCC プ ラ ン ト を 2 基 建 設・運用する計画である。 ・ 電 力 広 域 的 運 営 推 進 機 関 ( Organization for Cross-regional Coordination of Transmission Operators: OCCTO) は 、 3 段 階 で の 電 力 シ ス テ ム 改 革 の 第 1 段 階 と し て 、2015 年 4 月 に 設 立 さ れ た 機 関 で あ り 、送 配 電 網 の 整 備 の ほ か 、全 国 的な平常時及び緊急時の需給調整等の対応機能を強化することを目的としてい る。 ・JERA は 中 部 電 力 と 東 京 電 力 に よ り 2015 年 に 設 立 さ れ 、燃 料 の 投 資 か ら 販 売 ま で の バ リ ュ ー チ ェ ー ン を 構 築 し 、2022 年 に は 一 般 炭 3,000 万 ト ン を 調 達 す る 計 画を有している。 3. Business Environment Surrounding the Steel Industry in Japan and Changes in the Coking Coal Market 講 演 者 : Mr. Tetsuma Chiba, General Manager, Raw Materials Department II, JFE Steel Corporation ・日 本 に お け る 鉄 鋼 生 産 量 の 約 40%は 輸 出 さ れ て お り 、鉄 鋼 輸 出 量 の 約 70%が ア 2 ジア向け。 ・ 国 内 で の 鉄 鋼 需 要 は 2020 年 の 東 京 オ リ ン ピ ッ ク に 向 け 増 加 見 込 で あ る 一 方 、 その後は少子高齢化等影響により減少する見込であるが、同時期以降アジア地 域を中心に鉄鋼需要が増加する見込。 ・ 2020 年 に 向 け 、 粗 鋼 生 産 は 1 億 ト ン / 年 で 推 移 す る 見 込 で あ り 、 そ れ に 伴 い 原 料 炭 需 要 も 6,000 万 ト ン / 年 で 推 移 す る 見 込 。 豪 州 は 引 き 続 き 日 本 の 鉄 鋼 業 界においても重要なパートナーである。 ・ 中 国 で の 粗 鋼 生 産 量 は 2000 年 以 降 急 激 に 増 加 。 過 剰 生 産 能 力 は 、 中 国 か ら の 輸出量増加につながり、鉄鋼業界に混乱をきたしており、アンチダンピング問 題が発生。 ・日本においては、各社が高炉の集約により価格競争力の向上を図っている。ま た 、 コ ー ク ス 炉 は 1960 年 代 ~ 70 年 代 に か け て 建 設 さ れ た も の が 多 く 、 老 朽 化 の 問 題 を 抱 え て お り 、 今 後 10 年 間 で コ ー ク ス 炉 の 改 修 が 進 め ら れ て い く 。 ・原料炭については、価格の短期化が進行し、インデックスリンク価格等も増え てきている。昨今の価格上昇は、このような状況も起因しており、トレーダー による行きすぎた価格のつり上げは問題。 [Session 2: The Operating Environment for the Coal Industry] 4. Resources Development, Energy Security and Developments in Low Emissions Coal Technologies in Australia 講 演 者 : Mr. Greg Evans, Executive Director – Coal, Minerals Council of Australia and Chief Executive, ACA Low Emissions Technologies Ltd (the COAL21 Fund) ・豪州産の一般炭は高発熱量であるとともに灰分、硫黄分も少なく、高品質であ る 。 ま た 、 原 料 炭 に つ い て も 、 コ ー ク ス 化 し た 際 の 反 応 後 強 度 が 65%以 上 と 高 いものが多く、高品質である。 ・ア ジ ア で は 日 本 の 磯 子 火 力 発 電 所 の よ う な HELE 技 術 が 拡 大 し て お り 、中 国 や マ レ ー シ ア に お い て も USC 火 力 発 電 所 が 建 設 さ れ て い る 。IEA に よ る と 、 USC 技術のアジア地域での普及により、二酸化炭素の排出量は大きく削減できる。 ・豪州では、各州の大半の電力が石炭火力発電によるものであり、国内的にも石 炭産業は重要な産業であるといえる。また、輸出産業としても重要である。ま た、安定的なエネルギー供給という側面からは豪州だけでなくアジア地域にと っ て 重 要 な 資 源 で あ る 。 こ の 観 点 の 元 、 豪 州 鉱 業 協 会 ( Minerals Council of Australia: MCA) で は 、 石 炭 資 源 の 雇 用 創 出 や 輸 出 に よ る 経 済 的 効 果 や 石 炭 の クリーンで高効率な利用について、反石炭派も含め、広く発信するアドボカシ ーキャンペーンを 2 年にわたり実施している。 ・石 炭 資 源 を ク リ ー ン に 持 続 可 能 に 利 用 し て い く た め に は 、CCS( Carbon dioxide Capture and Storage: 二 酸 化 炭 素 回 収 ・ 貯 留 技 術 ) の 利 用 が 必 要 で あ る 。 CCS はすでに技術的には確立しており、経済的な課題の克服ができれば、商業的に 実 用 が 可 能 と な る 。 豪 州 で は 現 在 プ レ FS 段 階 に あ り 、 Gorgon CO 2 Injection Project や Carbon Transport and Storage Company (CTSCo) Surat Basin Integrated CCS Project 等 が 進 行 中 。 3 5. The Essential Role of Coal and Low Emission Coal Technology 講 演 者 : Mr. Mick Buffier, Chairman, World Coal Association ・世 界 人 口 の 20%は 未 だ 電 気 や ガ ス に ア ク セ ス の な い 生 活 に あ る 。今 後 こ れ ら の 地域の電化が進むと、割合的には減っても量的には石炭火力発電による電力量 は増加する見込み。 ・イ ン ド で は 、2020 年 ま で に 全 人 口 が 24 時 間 365 日 常 時 電 気 を 使 用 で き る よ う な 環 境 整 備 を 目 標 と し て い る 。 2040 年 ま で に 電 力 需 要 は 4.4%ず つ 増 加 し 、 石 炭 火 力 の 能 力 は 2 倍 と な る 。ま た 、中 国 で は 、2020 年 に 向 け て 電 力 需 要 が 4.8% で 増 加 す る 見 込 み で 、 そ れ に 伴 い 、2040 年 に 向 け て 石 炭 火 力 発 電 も 現 在 よ り も 27%増 加 す る 見 込 み で あ る が 、石 炭 の シ ェ ア は 75%か ら 49%に 低 下 す る 見 込 み 。 ・日本でも同様に石炭資源は重要なベースロード電源としての役割を担う見込み である。 ・特にアジア地域を中心とする電力需要の高まりに伴う石炭資源に対する社会的 な ニ ー ズ が あ る 一 方 で 、環 境 へ の 配 慮 を 欠 か す こ と は で き な い 。HELE は 石 炭 利 用の標準となる必要があるが、日本の磯子火力発電所のように技術の確立が進 んでいる。また経済的にも商業的に実用が可能である。 [Session 3: Coal Transport Developments] 6. Dry Bulk Shipping and Technology Development for Smarter and Low Emission Transportation 講 演 者 : Mr. Kenji Tsuchiya, Corporate Officer, Nippon Yusen Kabushiki Kaisha (NYK Line) ・ 国 際 海 運 か ら の 二 酸 化 炭 素 排 出 量 は 、 2012 年 時 点 で 7.96 億 ト ン 。 他 の 輸 送 手 段よりもエネルギー効率は高いものの、排出量は多いため、気候変動問題に対 する影響は大きく、排出量の削減が求められる。 ・ 国 際 海 事 機 関 ( International Maritime Organization: IMO) で は 、 エ ネ ル ギ ー 効 率 向 上 の た め 、技 術 的 手 法 で あ る エ ネ ル ギ ー 効 率 設 計 指 標( Energy Efficiency Design Index:EEDI)と 、運 行 的 手 法 で あ る 船 舶 エ ネ ル ギ ー 効 率 管 理 計 画 書( Ship Energy Efficiency Management Plan: SEEMP) を 定 め て い る 。 ・ EEDI は 、 新 造 船 を 対 象 と し て 、 二 酸 化 炭 素 の 排 出 指 標 の 計 算 を 義 務 付 け る も ので、船舶の種類によって設定されている二酸化炭素の排出規制値を満たす必 要 が あ る 。ま た 、SEEMP は 新 造 船 及 び 現 存 船 を 対 象 と し 、運 行 の 効 率 化 と 二 酸 化炭素排出量の削減のため、運航のモニタリングや記録、改善が求められる。 ・船 舶 の 巨 大 化 が 進 む に つ れ 、エ ネ ル ギ ー 効 率 の 改 善 率 の 幅 が 小 さ く な っ て い る 。 船舶からの二酸化炭素の排出量の削減のため、推進力の向上や抵抗の低減等の 取 り 組 み が さ れ て お り 、 例 え ば LNG を 燃 料 と す る こ と で 、 二 酸 化 炭 素 を 25%、 NOx を 80%削 減 す る こ と が で き る 。 ・よ り 効 率 的 な 船 舶 の 運 航 の た め 、IoT( Internet of Things)の 導 入 が 進 ん で い る 。 今後の発展には、オープンプラットフォームが必要である。 4 ・ ド ラ イ バ ル ク 市 場 は 、 マ イ ナ ー バ ル ク 貨 物 の 増 加 に よ っ て 2016 年 は 安 定 的 に 成 長 す る 見 込 み 。2017 年 に ピ ー ク を 迎 え 、2018 年 以 降 の 需 給 は 低 位 安 定 状 態 に なる予想。 ・ IoT の 開 発 が 海 運 企 業 間 の サ ー ビ ス の 差 別 化 に つ な が る 。 7. Queensland Coal Export Developments 講 演 者 : Mr. Andrew Barger, Director – Infrastructure & Economics, Queensland Resources Council ・ QLD 州 は 資 源 の 宝 庫 で あ り 、 そ の 経 済 に お い て 石 炭 資 源 は 重 要 な 役 割 を 担 う 。 同 州 で 石 炭 産 業 に は 関 連 産 業 も 含 め る と 183,417 人 が 従 事 し て お り 、 域 内 総 生 産 は 同 州 の 11%に あ た る 320 億 ド ル を 占 め る 。 ・石 炭 輸 出 量 は 年 々 増 加 し て お り 、2015/2016 年 は 2.22 億 ト ン を 輸 出 。石 炭 輸 出 港 は 4 港 ( Abbot Point、 Hay Point、 Gladstone、 Brisbane) で 、 各 炭 鉱 か ら 輸 出港までの 5 本の鉄道ネットワークが広がっている。 ・2015/2016 年 度 の 各 港 か ら の 輸 出 量 は 、Abbot Point か ら が 2,700 万 ト ン 、Hay Point か ら が 1.15 億 ト ン 、Gladstone か ら が 7,250 万 ト ン 、Brisbane か ら が 690 万トンであった。各鉄道の拡張プロジェクトも進行中である。 8. New South Wales Hunter Valley Coal Chain 講 演 者 : Dr. Kristen Molloy, Chief Executive Officer, Hunter Valley Coal Chain Coordinator ・ HVCCC( Hunter Valley Coal Chain Coordinator) は 独 立 し た 中 核 機 関 で あ り 、 Hunter Valley 地 域 の ロ ジ ス テ ィ ッ ク の 効 率 化 の た め 、 炭 鉱 か ら 輸 出 港 ま で の ト ラック、鉄道、ターミナルや港湾のネットワークを構築している。 ・2002 年 ~ 2016 年 に か け て 、Hunter Valley 地 域 の 鉄 道 や 各 港 の ア ッ プ グ レ ー ド が進行中である。 ・ ニ ュ ー キ ャ ッ ス ル 港 か ら の 一 般 炭 の 輸 出 ( FOB) 価 格 は 2010 年 以 降 下 落 し て いるが、年々輸出量は増加傾向にある。 ・ Take or Pay 条 項 に つ い て 、 炭 鉱 開 発 者 の 負 担 は 大 き い が 、 鉄 鋼 ・ 港 湾 の 投 資 を回収するためには重要。 以上 おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱 物 資 源 機 構 と し て の 見 解 を 示 す も の で は あ り ま せ ん 。正 確 な 情 報 を お 届 け す る よ う 最 大 限 の 努 力 を 行 っ て は お り ま す が 、本 レ ポ ー ト の 内 容 に 誤 り の あ る 可 能 性 も あ り ます。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガ ス・金 属 鉱 物 資 源 機 構 及 び レ ポ ー ト 執 筆 者 は 何 ら の 責 め を 負 い か ね ま す 。な お 、本 資 料 の 図 表 類 等 を 引 用 等 す る 場 合 に は 、独 立 行 政 法 人 石 油 天 然 ガ ス・金 属 鉱 物 資 源 機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 5
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