第8回 藤井ゼミ -仮説検定-

第 8 回 藤井ゼミ -仮説検定0.1.
仮説検定
観測された標本に基づいて母集団に対するある仮説を立て、その仮説が正しいかどうかを標本から推測するこ
とを検定 (正確には仮説検定) と呼ぶ。
0.2.
仮説検定の手順
※ 1 枚のコインを投げて表が出る確率が
1
2
となる偏りのないコインであるかどうかを検定する場合
1. 仮説の設定を行う。(証明したいこととは反対の内容である帰無仮説と、それが棄却された場合に代わりに採
択される対立仮説を立てる。)
2. 理論上に考えられる実験結果の確率を求める。
3. 稀なことが起きたかもしれないと判断するための基準である有意水準を設定する。
4. 仮説上で実際に試行した場合を判断するために、その場合の理論と有意水準を比較する。
5. 4. の比較より、仮説の判定を行い、帰無仮説の棄却か採択を行う。
手順に従って 5 つのステップを順に検討していくと以下のようになる。
例 1) 1 枚のコインを 5 回投げた場合 (包括的な場合を考えるとき)
1. 帰無仮説:
「コインには偏りがない 1 」
対立仮説:
「コインには偏りがある」
2. コインに偏りがないと仮説した上で実際に試行した場合を判断するために、1 枚のコインを 5 回振って表が
x 回出る確率事象 P を導く。
ある独立な試行について事象 A が起こる確率を p、起こらない確率を q(= 1 − p) とし、この試行を n 回繰
り返した時に事象 A が起こる回数を確率変数 2 X としたとき、X = x(つまり x 回起こる) となる確率は次
のようになる。
P (X = x) =
n Cx p
x n−x
q
=
n!
x n−x
x!(n−x)! p q
=
n!
x
x!(n−x)! p (1
− p)n−x
例 1 では 5 回中、表が出る回数を確率変数 X として考える。コインに偏りがない理論上では表が出る確率
も表が出ない (裏が出る) 確率も p = q =
P (X = x) =
1 x 1 5−x
5 Cx ( 2 ) ( 2 )
=
1 5
5 Cx ( 2 )
1
2
となるので、表が x 回出る確率は次のようになる。
=
5 Cx
1024
この式を計算した結果を確率分布としてまとめると次のようになる。
x
0
1
2
3
4
5
確率 P
0.03125
0.15625
0.3125
0.3125
0.15625
0.03125
3. 有意水準を 0.05 = 5%3 に設定する。
4. 仮説上において、5 回中 4 回表が出た場合を考える。この場合の確率を理論より考慮すると、起こり得る確
率は 0.15625 = 約 15.6%であり、これは有意水準 5%よりも大きい確率である。
1 偏りがあると仮定すると、どのくらいの程度偏りがあるのかわからないので、帰無仮説として「コインには偏りがない」と、仮説を立て
る。よって、対立仮説は「コインには偏りがある」となる。
2 取り得る値の各々に対してその値を取る確率が定まるような変数。
3 100 回中、5 回以下しか起こらないほど稀なことが起こるかもしれないという判断基準。
1
5. 4. より、(5 回中 4 回表が出る確率事象)>(有意水準) となるので帰無仮説は棄却されない。しかし、「コイン
に偏りがない」と断定できるのではなく、今回の実験からはコインに偏りがあると言えなかっただけなので、
今回の実験と帰無仮説は矛盾しないという判断とする。
ところで、実際に試行を行った際に得られる場合の数は 1 通りである。次に、この特定的な場合を考えてみる。
例 2) 1 枚のコインを 5 回投げた場合 (特定的な場合を考えるとき)
1. 帰無仮説:
「コインには偏りがない」
対立仮説:
「コインには偏りがある」
2. コインに偏りがないと仮説した上で実際に試行した場合を判断するために、1 枚のコインを 5 回振って表が
x 回出る確率事象 P を導く。
一度の試行で得られる場合の数は 1 通りなので、表が何回出ようと考えられる確率事象 P は以下のように
なる。
P=
1
2
×
1
2
×
1
2
×
1
2
× 12 × = ( 12 )5 =
1
32
= 0.03125
3. 有意水準を 0.05 = 5%に設定する。
4. 仮説上において、5 回中 4 回表が出た場合を考える (表裏表表表)。この場合の確率を理論より考慮すると、
起こり得る確率は 0.0312 = 約 3%であり、これは有意水準 5%よりも小さい確率である。
5. 4. より、(表裏表表表となる確率事象)<(有意水準) となるので帰無仮説は棄却され、対立仮説を採択する。
例 2 において例 1 と同様に理論よりコインの偏りについて判定を行ったが、特定的な場合は母集団のうちの 1 通
りの標本を取り上げており、標本の大きさが小さい場合は有意水準よりも低い確率になりやすい。従って、特定的
な場合では判定し難いと言えるので、
参考文献
[1] 兵 庫 大 学 健 康 科 学 部 健 康 シ ス テ ム 学 科 河 野 稔,「 仮 説 検 定 の 考 え 方 」 :http://hs-www.hyogodai.ac.jp/ kawano/HStat/?2015%2F12th
[2] 今野 紀雄:
「図解雑学 統計」, ナツメ社,2001 年 7 月 20 日発行
[3] 富永 敦子、向後 千春:
「統計学がわかる ハンバーガーショップでむりなく学ぶ優しく楽しい統計学」, 技術
評論社,2007 年 10 月 1 日発行
[4] 大島 利雄ほか 16 名:
「改訂版 数学 B」, 数研出版株式会社,2009 年 1 月 10 日発行
[5] 木田 祐司ほか 16 名:
「改訂版 数学 C」, 数研出版株式会社,2009 年 1 月 10 日発行
[6] 立教大学教授 山口 和範:
「よくわかる統計解析の基本と仕組み」, 株式会社秀和システム,2003 年 4 月 10 日
発行
[7] 栗原 伸一:
「入門統計学 -検定から多変量解析・実験計画法まで-」, 株式会社オーム社,2011 年 7 月 25 日発行
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