1 糖尿病の頻度とその変遷

1.疫学・頻度
1
糖尿病の頻度とその変遷
まとめ
⿠日本の糖尿病の有病者数は増加しており,2015 年時点で約 700〜
1,000 万人と推計されている.
■糖尿病の頻度とその変遷
❶国民健康・
❶
栄養調査
⿠健康増進法(2002 年)に基づいて,毎年実施され
ている調査で,2013 年には全国から抽出された
3,285 人を対象に「糖尿病が強く疑われる人」の頻
度が調べられた.
⿠「糖尿病が強く疑われる人」(HbA1c≧6.5%あるい
は糖尿病治療を受けている人)は,男性 16.2%,
女性 9.2%で,経年的にわずかに増加している(図
1).
⿠2012 年の調査では,日本の「糖尿病が強く疑われ
る人」は 950 万人と推計された.
❷包括的な
糖尿病有病率
❷
調査
⿠国民健康栄養調査,糖尿病実態調査,多目的コホー
ト研究,久山町研究,舟形町研究などを対象とした
約 16 万人の調査である.
⿠日本を代表する地域住民を対象としたコホート研究
も含まれ,対象者が大規模であるが,国民健康栄養
調査に比べて一般化可能性は劣る.
⿠男女合わせた糖尿病(医師からの糖尿病診断,空腹
時血糖値≧126 mg/dL,75 g 経口ブドウ糖負荷後
(%)
50
40
男性
女性
30
20
12.3
15.3 13.7 15.9 16.6 15.7 15.2 16.2
10
8.2
0
平成 18
7.3
7.4
19
20
9.4
9.2
7.6
8.7
9.2
21
22
23
24
25(年)
図 1 「糖尿病が強く疑われる人」の経年的な頻度
(厚生労働省.平成 25 年国民健康・栄養調査結果の
❶
概要 より)
6
498-12370
全体
16
12
830 万人
10
8
971
万人
604
万人
6
4
1990
2000
2010
2020
2030 (年)
図 2 包括的な糖尿病有病率調査
(Charvata H, et al. J Diabetes Investig. 2015;
❷
6: 533-42 より)
2 時 間 血 糖 値≧200 mg/dL,HbA1c≧6.5%,の
いずれかを満たす場合)の頻度は,1990 年に 6.6%
(604 万 人),2000 年 に 7.1%(714 万 人),2010
年に 7.9%(830 万人)であり,2030 年には 9.8%
(971 万人)まで上昇するものと予測された(図 2)
.
❸国際糖尿病連合
(IDF)による
糖尿病有病率調査
⿠2015 年 版〔International Diabetes Federation
(IDF)Diabetes Atlas,第 7 版: http://www.
idf.org/diabetesatlas〕で は,世 界 の 糖 尿 病 患 者
は約 4 億 1,500 万人で 11 人に 1 人は糖尿病を有
すると推計された.
⿠日本の糖尿病有病者数は約 720 万人で世界第 9 位
と推計された(図 3).
糖尿病有病者数
1 中国
1 億 960 万人
2 インド
6,920 万人
3 アメリカ
2,930 万人
4 ブラジル
1,430 万人
5 ロシア
1,210 万人
6 メキシコ
1,150 万人
7 インドネシア
1,000 万人
8 エジプト
780 万人
9 日本
720 万人
10 バングラデシュ
0
20
710 万人
40
60
80
100
120
図 3 IDF Diabetes Atlas,第 7 版(http://www.idf.
org/diabetesatlas)
498-12370
1
疫学・頻度
糖尿病有病率
(%)
粗有病率
年齢標準化有病率(2010 年日本人口)
14
7
■参考文献
❶厚生労働省.平成 25 年国民健康・栄養調査結果の概要.
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushin
ka/0000106403.pdf
❷Charvata H, Goto A, Goto M, et al. Impact of
population aging on trends in diabetes prevalence: A
meta-regression analysis of 160,000 Japanese adults.
J Diabetes Investig. 2015; 6: 533-42.
〈後藤 温〉
8
498-12370
2
年齢・男女差
まとめ
⿠加齢とともに糖尿病有病率が上昇するが,加齢によりインスリン感受性
やインスリン分泌能が低下するものと考えられている.
られる.
⿠日本では,糖尿病有病率は女性よりも男性のほうが高い.
⿠糖尿病有病率の男女差の理由として,肥満度や性ホルモン作用の違いな
どが想定されている.
■年齢・男女差
❶国民健康・
❶
栄養調査
⿠年齢による標準化を行うと,男性では「糖尿病が強
く疑われる人」の割合がわずかに増加している傾向
がみられた(図 1).
⿠男女別にみると,2013 年は,「糖尿病が強く疑わ
れる人」が男性 16.2%,女性 9.2%であり,女性
より男性で頻度が多い(Ⅰ-1 の図 1 参照).
⿠年齢階級別の「糖尿病が強く疑われる人」の頻度は
男女とも年齢とともに上昇しており,加齢によって
糖尿病有病者数が増える傾向がみられる(図 2)
.
20 歳以上,平成 18~25 年
(%)
50
男性
40
女性
30
20
10
9.8
7.1
0
平成 18
12.2
10.2
6.1
5.9
19
20
12.6 12.7 11.7 11.4 11.6
7.8
7.4
6.1
7.0
7.0
21
22
23
24
25
(年)
図 1 年齢標準化後の「糖尿病が強く疑われる人」の経
年的な頻度
(厚生労働省.平成 25 年国民健康・栄養調査結果の概要.
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou10904750-Kenkoukyoku-Gentaisakukenkouzoushin
❶
ka/0000106403.pdf より)
498-12370
9
1
疫学・頻度
⿠日本では,主に人口の高齢化により粗有病率が増加しているものと考え
(%)
50
40
男性
女性
30
20
24.4
19.5
16.2
10
0
17.6
11.7
9.2
6.4
0.0
11.5
1.8
0.0
1.9
1.4
5.5
総数 20~29歳 30~39歳 40~49歳 50~59歳 60~69歳 70歳以上 総数 20~29歳 30~39歳 40~49歳 50~59歳 60~69歳 70歳以上
(1,377)(91) (109) (141) (180) (364) (492)(1,908)(104) (215) (284) (272) (489) (544)
図 2 年齢階級別の「糖尿病が強く疑われる人」の頻度
(厚生労働省.平成 25 年国民健康・栄養調査結果の概要.http://www.mhlw.go.jp/
file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gentaisakukenkouzou
❶
shinka/0000106403.pdf より)
男性
16
糖尿病有病率
(%)
粗有病率
年齢標準化有病率
(2010 年日本人口)
14
12
10
8
6
4
623
万人
499 万人
355
万人
1990
女性
16
2000
2010
2020
2030 (年)
糖尿病有病率(%)
粗有病率
年齢標準化有病率(2010 年日本人口)
14
12
10
331 万人
8
6
4
349
万人
250
万人
1990
2000
2010
2020
2030 (年)
図 3 包括的な糖尿病有病率調査
(厚生労働省.平成 25 年国民健康・栄養調査結果の概要.
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou10904750-Kenkoukyoku-Gentaisakukenkouzoushin
❶
ka/0000106403.pdf より)
10
498-12370
❷包括的な
糖尿病有病率
❷
調査
⿠年齢による標準化を行うと,男女を合わせた糖尿病
有病率の経年的な変化を認めなかった(Ⅰ-1 の図
2 参照).
⿠男 女 別 の 糖 尿 病 の 粗 有 病 率 は,1990 年 に 男 性
8.1%,女 性 5.3%,2000 年 に 男 性 8.7%,女 性
れ,女性より男性での頻度が高かった(図 3).
⿠年齢による標準化後,男女別の糖尿病有病率は経年
的に女性でやや減少,男性でやや増加していた(図
3).
■参考文献
❶厚生労働省.平成 25 年国民健康・栄養調査結果の概要.
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushin
ka/0000106403.pdf
❷Charvata H, Goto A, Goto M, et al. Impact of
population aging on trends in diabetes prevalence: a
meta-regression analysis of 160,000 Japanese adults.
J Diabetes Investig. 2015; 6: 533-42.
〈後藤 温〉
498-12370
11
1
疫学・頻度
5.6%,2010 年に男性 9.9%,女性 6.1%と推定さ