O2-B12 九州理学療法士・作業療法士合同学会 2016 「エレベーターのボタン押し」課題を用いた理学療法の試み 二分脊椎と診断された幼児期の一症例 山口ひかり(PT) ,菊次 幸平(PT) ,髙嶋 美和(PT) 柳川療育センター 療育部 リハビリテーション室 Key Words 二分脊椎・自己有能感・Chailey 姿勢能力発達レベル 【目的】 二分脊椎は胎生期における脊椎および脊髄の先天的異 常であり,将来的な運動機能の予測として Sharrard 分 位での足底荷重を促した後,立位台に乗車して立位で「エ レベーターのボタン押し」課題を行った。 【結果】 類を参考に麻痺レベルから目標を設定することができる。 1 ヶ月後,骨盤前後傾が可能になり座位や立位におい 今回の報告目的は,脊髄病変により運動発達に遅れをき て腰椎の過前彎が減少し,3 ヶ月後には,立位台上で膝 たした幼児期男児に対する理学療法について紹介するこ 関節屈伸,四つ這い,5 ヶ月後には,体幹,上肢を支持 とである。 した立ち上がりが可能となった。半年後,筋力(MMT) 【方法】 は体幹屈曲,股関節内転・内旋,膝関節屈曲は 3 以上, 症例は在胎 27 週で胎児脊髄髄膜瘤と診断され,腰仙 股関節外転は 2 となり,Chailey 姿勢能力発達レベルの 髄(L4/5,L5/S1)以下に神経の脱落が認められた 椅子座位はレベル 6 へ,立位はレベル 4 へと向上した。 (Sharrard 分類Ⅲ群)。生後 7 ヶ月時に理学療法開始と 粗大運動は四つ這いや立ち上がり,つかまり立ち,移乗 なった。両下肢に弛緩性麻痺が認められ,両股関節脱臼 を合併していた。1 歳 7 ヶ月時,腰仙髄以下の支配神経 を獲得した。 【考察】 の筋に低緊張が認められた。筋力は自動運動の観察から 筋力増強には最大筋力の 60%以上の運動強度,6 ∼ MMT による段階づけを基準に行うと,頸部と上肢の運動, 10 秒の持続時間,週 1 回以上の頻度,12 ∼ 20 週の 体幹伸展,股関節屈曲,膝関節伸展は 3 以上,体幹屈曲, 期間の 4 つの条件が必要であり,Mattheus と Kruse 股関節内転・内旋は 2,股関節伸展・外転・外旋,膝関 (1975)は運動頻度が多いほど最大筋力が伸びた者の 節屈曲,足関節底背屈は 1 以下と判断した。姿勢は座位, 人数が多かったと報告している。本症例では週 1 回の理 介助立位が可能であり,腰椎の過前彎を特徴としていた。 学療法に加え,自宅での自主的トレーニングを行った結果, 立位を拒否することは多かったが,エレベーターのボタン 目標を達成した。また McGrow(1935)は運動発達 を押すことができる環境では立位の受け入れは良好で 過程の運動学習について,乳幼児では学習に最適な時期 あった。Chailey 姿勢能力発達レベルの椅子座位はレベ があり,運動に対する動機付けなどが不十分であれば学 ル 4,立位はレベル 3 であり,粗大運動は四つ這いやつ 習効果は期待できないと述べている。今回「運動に対す かまり立ちが困難であった。評価結果と Sharrard 分類 る動機付け」に配慮して実施し,立位時にエレベーター より将来的に杖歩行が獲得できるよう,早期から立位練 のボタンを押せたことは症例の自己有能感を高め,自宅 習を行う必要があると考え,椅子座位では坐骨から足底 での高頻度の立ち上がり動作から今回の結果に繋がった への体重移動より立ち上がりが可能になること,立位では と考える。 両手を離すことが可能になることを目標とした。この時立 【まとめ】 位では足底に体重をのせながら,両股関節脱臼による骨 乳幼児に対する理学療法では,単に動作練習を行うだ の支持性低下に対し,坐骨部に支持部を設けることで股 けでなく,児にとって意味のある「運動に対する動機付 関節への負担が軽減できるよう立位台を使用し,Chailey け」を明確に行うことが重要であり,運動頻度の確保に 姿勢能力発達レベルを指標として調整と導入を行った。プ は自己有能感を高めた運動が必要であることが示唆され ログラムの流れは,椅子座位で坐骨から足底への体重移 る。 動を 行った後,座面を前傾し足底での荷重量を増やした。座 【倫理的配慮,説明と同意】 本報告はその旨を保護者に説明し,同意を得た。
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