バカしか来ない人理修復 蓮根 ︻注意事項︼ このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にP DF化したものです。 小説の作者、 ﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作 品を引用の範囲を超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁 じます。 ︻あらすじ︼ 潤いを忘れずに行きたい。 ││付いて来れるか 目 次 ⋮そんな昔のことは忘れた 何がバカってそもそも召喚サークルが ││││││││││ ︻序章︼特異点F 戦闘バカ │││││││││││││││││││││││ │││ ! 序 章 最 終 話 人 の ふ り 見 て 我 が ふ り 直 し た ダ ヴ ィ ン チ ち ゃ ん 天才と紙一重な連中に武器持たせた結果がこれだよ 1 ? 5 11 ︻一章︼そうだ、旅をしよう。中世フランスツアーだ ナンパ野郎の人脈をこんなことに使おうとは⋮侮れんな ││ 歴史の歪曲、復讐の焔 │││││││││││││││││ ちなみに裏ではダヴィンチちゃんがオペ子を絞ってます ││ 閑話:丘の向こうで ││││││││││││││││││ ︻別視点︼勝利の誓い、決死の刃 ││││││││││││ 夜中もお祭りテンション系カルデア │││││││││││ 19 23 25 31 34 38 15 │ ︻序章︼特異点F ﹁おいエミヤ ⋮そんな昔のことは忘れた ﹂ ! ﹂ よほど死にたいと見える﹂ ﹁君さては分かっててやってるだろう ﹁座れ⋮⋮狗扱いか ﹁いや、君ではないから座れ﹂ ﹁貴様⋮獣と言ったな、アーチャー﹂ ば前日の昼までに頼みたまえ。仮にも騎士を名乗るならな﹂ ﹁やかましい、これはマスターのだ。獣ではあるまいし、欲しいのなら 弁当寄越せ アで聞こえるのは少々意外に感じる。 時計塔は魔術協会の中心地のため、アトラス院の流れを汲むカルデ とも繋がってくるのだが、関係するのはそちらではあるまい。 さらに遡ると、グレート・セント・メアリー教会、つまり聖堂教会 ンの鐘の音色。 みのこのメロディ、実は世界的に有名なイギリスの時計塔・ビッグベ 昼休み開始のチャイムが鳴る。日本では学校のチャイムでお馴染 キーンコーンカーンコーン⋮ 何がバカってそもそも召喚サークルが ? は水よりも濃いということなのだろう。 のだった。それこそ、犬のように。いかな因縁があろうと、やはり血 モードレッドはエミヤの美味な弁当を味わい、すっかり彼に懐いた めないが。 初の険悪さはどこへやら、マブダチのような関係になっているのは否 言うまでもない。まあ、ほぼ毎回の聖杯戦争で顔を合わせるため、最 第五次聖杯戦争での因縁から、エミヤとクーフーリンの犬猿の仲は 飯をせびるモードレッド。 いつものように仲良くケンカを始める、エミヤとクーフーリン。ご ! ? 1 ! クーフーリン︵狗︶、モードレッド︵犬︶、そしてエミヤ︵おかん︶。 この3名が、現在のカルデアに所属しているサーヴァントである。 ダメでしょマスター、捨ててきなさい。 ││嫌だよ、ちゃんと飼えるもん。 でもその犬、因果逆転の呪いの槍とか投げるわよ。もう一匹は父上 大好きビーム出すの。ちゃんと飼える ││うん。飼える。 仕方ないわね。自分で面倒見るのよ はい、お小遣い︵聖晶石︶。 今日も今日とて彼らの喧騒の板挟みになって白目をむいていたマ スターは、そんな白昼夢を見ていた。女口調のエミヤは実に気味が悪 かった。 ﹂ と、そこへカルデア医療班のトップ、ドクターロマンが大変焦った 世紀末なバトルジャンキーがサークルから 寝ても覚めて ! 様子で駆け込んできた。 ﹁親方 ﹂ サンキュードクター、一発で目ぇ覚めた も悪夢なんだけどさ ﹁⋮⋮ハッ ! ﹁令呪を用いての空間跳躍は、相手のクラスを確認してからが好まし い。ランサーはセイバーと相性が悪いからな、ここのシステム上﹂ ﹂ ﹂ ﹁そしてアーチャーはランサー、つまり俺と相性が悪い。なぁおい、シ ロウ モードレッドはつまみ食いしない 君の名だろうに﹂ ﹂ ﹁⋮⋮貴様、表へ出ろセッタ﹂ ﹁あァ ﹁何だね ﹂ ﹁サンキュー兄貴、エミヤ ﹁むぐっ ! また大喧嘩になりそうな話題をぶった斬るために、具田はモード ! ? !? 2 ? ? ﹁お、またか。なんかあったら令呪使って喚べよ、マスター﹂ ! !? ! ? ? レッドを生贄にした。南無三。 ﹃喧嘩するなら宝具は使用禁止 ﹄の言いつけを守ってくれるからま だ何とかなっているが、またヒートアップしないとも限らない。 何より、壊れた施設を修理するのはダヴィンチちゃんだ。余計な仕 ⋮はぁ、揃って健啖家とは⋮⋮ 事を増やすのは流石に悪い。まあ、修繕の材料はエミヤの投影で調達 するのだが。 ﹁なっ、少し目を離すとすぐ君は⋮⋮ で、ポンポン出てくる。 じゃあ召喚時の聖晶石はどうしてるの いるらしい。 足りなくならないの ら持ち出された莫大な魔力によって世界に英霊の霊基を固定させて はあるのだが、どういうわけか第二魔法が発動しており、並行世界か もちろん、無から有を生み出すのは魔術の原則に反している。消費 ? 二つ目は、召喚者不在で不定期に英霊が召喚されることだ。オート イバーで呼ばれるのはアルトリアのはずだ。 喚されている。エミヤとクーフーリンはまだわかるが、冬木ならばセ に英霊が召喚されること。モードレッドを含む三騎とも、冬木市で召 異変の一つ目。その特異点への縁の有無などお構いなしに、無差別 拠だ。 ンすら解決していないのに、モードレッドがこの場にいるのがその証 現在、カルデアの召喚サークルは混乱している。特異点・オルレア そう言うと、具田はカルデアの長い廊下を駆け出した。 ﹁わかった、楽しみにしてるよ。じゃあ行ってきます﹂ れそうだ﹂ もう仕方あるまい。マスター、今から改めて準備する。君の昼食は遅 ! ││異変の3つ目。表向き、聖晶石の消費がゼロになった。 ? 3 ! ﹃詳しいことはわからないよ。けれど、世界の壁を超えて願望実現機 が機能してるみたいなんだ。具体的に言うと、別世界で多くの人に望 まれた英霊が、ピックアップという形でここに来ている﹄とは、某万 能人の言。 その後彼は、ボソボソと﹃メタ的なことを言うと、人気、あるいは 誰か⋮この次元軸に影響をもたらすような位置にある第三者の好み、 独断なんかが﹄と言っていたが、よく聞こえなかった。 ﹁これ、どうにかしないとなぁ⋮⋮﹂ そう言って具田が懐から取り出したのは、初めて冬木へとレイシフ トした際に召喚した︻宝石剣ゼルレッチ︼だ。第二魔法を発動させて いるのは、間違いなくこれだろう。 ﹁先輩、こんにちは。何が起こるかわからないので、私の後ろへどう ぞ﹂ あれこれ考えるうちに召喚ルームへ到着。一足先に着いていたマ シュが、自分の後ろに隠れるよう進言してきた。 マシュの構える大盾に身を隠しながら、慎重に開閉ボタンを押す。 プシューッ、と空気の抜ける音がして、隔壁が開かれた。 4 戦闘バカ 全身に浴びた、刺すような殺気⋮⋮否。 これは純然たる闘志││ ﹂ ﹂ ﹁ラァッ ﹁ぐっ ! と、耳障りな衝突音が響く。一瞬間に20以上の斬撃を加 ﹁殴って﹂ 目にも留まらぬ2撃目、3撃目、4、5、6⋮⋮ ﹁││要するに﹂ 女の盾に叩き込んだ。 男の姿が搔き消える。と、一瞬でマシュの眼前に出現、拳を一発彼 ﹁これが闘いの根源だ││﹂ 男が呟く。 真名解放だ。 更に膨れ上がる戦意、吹き荒れる魔力。間違いない、これは宝具の 言うと、男は手に持つ二本の長剣を消し、無手になった。 ちゃんだ⋮⋮どれ﹂ ﹁て め え は 戦 闘 員 ⋮ じ ゃ あ、な さ そ う だ な。に し て も 打 た れ 強 え 嬢 ﹁マシュ ﹂ え、強烈な回し蹴りを見舞うと、盾ごとマシュを吹き飛ばした。 ギンッ 金髪の屈強な男が、両手に握った剣をマシュの盾に叩きつけた。ガ ! ! 数えるのも億劫になる神速の乱打に、蹴りが追加される。 5 !? ! ﹁蹴って﹂ 頭突きも加わり、男の全身が凶器と化す。 ﹁立っていられた方の勝ち、﹂ ﹂ まだ加速する。 ﹁ってなァ 悪夢のような速度で放たれる連撃は、まるで拳が、脚が、無数に存 在するかのようだ。盾を拳が打ち据えるたび、施設が振動している。 どれほど重い一撃なのか、神秘の薄い現代に生まれた一般人である具 田には想像もできない。 なんだ、この男のクラスは⋮⋮この男はどこの英霊だ 真名⋮⋮くっ、看破するにも知識が足りていない はバツの字の大きな傷痕がある。 英雄であることはわかる。筋骨隆々の上半身に纏う衣服はなく、胸に 闘いの根源と言っていたため、相応に旧い英霊、雰囲気から純正の ? ダメだ、ちんたら考えていたら間に合わない ﹁││ぶっ飛べ﹂ 丸一日は必要だろう。 べ、逃げるよう目で訴えかけてくる。傷ついた霊基を復元するのに、 マシュは、攻撃を盾で受けてなんとか堪えつつ苦悶の表情を浮か ! ﹁令呪起動││来い、アーチャー ﹂ 男が最後にして最大の一撃を放つ寸前、具田は叫んだ。 で間違いあるまい。 を持つ⋮⋮宝具が剣でないことだけが懸念事項だが、恐らくセイバー 相手は言葉を話す。よって狂化はついていないと見た。そして剣 ! バーサーカーという言葉と、起源を同じくする名を持った英雄。王 そしてエミヤは把握した。 ﹁了解した。サーヴァント・アーチャー、これより戦闘に入る﹂ !! 6 !! より与えられた名剣を用いず素手で竜を退けた、イギリス最古の伝承 に登場する英雄。その名も⋮⋮ 神秘も薄い。⋮⋮アラヤの奴隷から成り ﹁よう、弓兵。手に持つは双剣、纏うは聖骸布││なるほど、てめぇ ﹂ 真っ当な英霊じゃねえな 上がったか そんな馬鹿な !! バーサーカーがいようとは﹂ ﹁ばっ、バーサーカー !? 相当な有名どころじゃん ﹂ ! か﹂ ﹁⋮私か はっ、君もさっき言ったろう。所詮は抑止の奴隷だよ﹂ 思ったんだが⋮⋮まあ、なんだ。骨のありそうなやつもいるじゃねえ ﹁そ う さ な。正 直、守 り き れ な い な ら 早 々 に 見 切 り つ け て 帰 ろ う と るえばどうなるかぐらい分かるだろうに﹂ ﹁よく言う。竜をも凌駕するその拳、サーヴァントとはいえ少女に振 かめたかっただけだ﹂ ﹁嬢ちゃんには寸止めするつもりだったさ。どんぐらい硬えのか、確 ﹁聞いたことあるよそれ 古に近いドラゴンスレイヤーだ。名を、ベオウルフという﹂ 手、怪物グレンデルを滅ぼし、より強力なその母をも拳で打倒した、最 ﹁ああ。よく見ておくといい⋮この男こそ魔剣フルンティングの担い 予想外の答えに、具田は声を裏返して聞き返す。 ﹂ ﹁⋮⋮いや、大した眼力だ。驚いた。よもや、こうまで理知的に話せる その言葉を聞いたエミヤが、驚愕にその顔を染めた。 ? ! ﹁身体そのものが宝具とはな。恐れ入った﹂ ふっ、と、ほぼ同時に息をつく。次の瞬間には、二人の姿は掻き消 7 ? ﹁なんでもいいさ││語れる拳が、剣がありゃあそれでいい﹂ ? えていた。 ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ ガ 機関銃のように響く打突音。エミヤが両手に携えた白黒の双剣は、 ベオウルフの打ち出す拳を巧みに弾き、逸らし、受け流す。右下から 迫る雌剣、莫耶による切り上げをスウェーで躱し、そのまま後ろに倒 れこみつつ、宙返りの要領で蹴りを放つ。そのベオウルフの蹴り上げ を、エミヤは双剣を重ねて叩きつけることで相殺せんと試みる。 しかし、筋力値が桁違いだった。ベオウルフはA、エミヤはD。競 ﹂ ﹂ り負けたのはエミヤだ。大きく距離をとって、互いに体勢を立て直し た。 ﹁フラフラしてんなよ ﹁技術もない力業に押されようとはな⋮呆れた筋力値だ﹂ 令呪起動、来いランサー 戦況は、ジリジリとベオウルフ有利になっていった。 ﹁もうなりふり構っていられるか ! ? ﹁お 戦士の戦いに水差すなんて野 ? ﹁兄貴の登場だけで止まるなら、もっと早く喚ぶんだったなぁ﹂ 考えると私の投影宝具は使えないし、ここらでやめにしたい﹂ ﹁生憎、この身は戦士ではなく贋作者なのでね。カルデアへの被害も 暮な真似はしねえぞ、俺は﹂ なんだよ、続けてていいんだぜ それを見て、エミヤとベオウルフの打ち合いが止む。 いてクランの猛犬と呼ばれたその人が姿を現した。 吹き荒ぶ魔力。武芸者としてはエミヤの上を行く、アルスターにお ! 8 !!!!!! ? ﹂ ﹂ 強い圧力を放つサーヴァントたちの前に、先程から黙りがちの具田 はボソリと呟くことしかできない。 なんのことだ ﹁青い兄チャン⋮⋮アンタ、俺の同類だな ﹁あ ? れに答える。 ﹂ ニヤリと笑みを浮かべながらベオウルフが問い、クーフーリンがそ ? ? ﹂ ﹁最も強く望むのは ﹁強敵との戦い﹂ ﹂ ﹂ ﹁負けて死んだら ﹁本望だ﹂ ﹁人の命は ﹁軽くはねえ﹂ ﹁無理難題には ﹁心が踊る﹂ ? ﹁そいつぁどうも。なんなら今から死合うか ﹁いいねえ。んじゃ、﹂ ﹂ 屋外ってことは、宝具も⋮⋮﹂ ? ? ﹁ここじゃなしだ。修練場にレイシフトしてえんだが、頼めるか スター﹂ ﹁え、大丈夫なの兄貴 マ ﹁ハッハッ、いいなお前。そうでなけりゃあ古代の戦士とは言えねえ﹂ いくつかの問答を経て、ベオウルフは満足したように笑った。 ? ? を歩く、ベオウルフとクーフーリン。 そう言って、互いに闘志をぶつけ合いながら伴ってカルデアの廊下 じゃあ死んでも二日後にはピンピンしてんだしよ﹂ ﹁ん な こ た わ ぁ っ て ん だ よ。心 配 す ん な、こ の カ ル デ ア の シ ス テ ム ? 9 ? 時代は違えど、二人とも間違いなく大英雄だ。 なに、エミヤ﹂ ﹁⋮⋮⋮あとは彼に任せておけば問題あるまい。ところでマスター﹂ ﹁ ﹁君が私を喚んだのは、仕方あるまい。むしろ時間稼ぎの得意な私を 喚んだことは褒めたいぐらいだ⋮あれがモードレッドなら、こうもい くまい。きっと本気で斬り合っていた﹂ マスター﹂ ﹁うっわ、考えたくねえ⋮喚ばなくてよかった⋮⋮﹂ ﹁だがな まモードレッド一人だ﹂ ﹁私は、料理をしていた。もうほぼ出来ていたんだが││厨房には、い る。 エミヤが表情を強張らせて、冷や汗を一筋こめかみから垂らしてい ? 具田の昼飯抜きが決まった。 10 ? ﹂ 天才と紙一重な連中に武器持たせた結果がこれだよ ﹂﹂﹂ ﹁フランスに行きたいかぁぁ ﹁﹁﹁うおおおおおおお まえ ﹂ ﹂ ﹁ベオウルフ、事あるごとに守護者のことを思い出させるのはやめた 暇レベルじゃねえのか ﹁まあそう固いこと言うな、弓兵。アラヤの任務に比べりゃ、心労は休 構えで臨むのはいかがなものかと思うぞ﹂ ﹁マスター。苦言を呈するようだが、人理の懸かった戦いにそんな心 茶を淹れながらため息をついた。 マスターの呼びかけに応じた3名の英霊とは対照的に、エミヤは紅 カルデアのブリーフィングルーム。 !!!! ? ﹁ブルギニョンだ﹂ ﹂ ﹁そう、それギニョンがやたらと美味くてさ なとこか気になるんだ、行ってみてえ ﹂ フランスってのがどん ? ! 思ってたんだけどな。この⋮ブ⋮⋮ニョン ﹁キャメロットの警護してた頃は、本土の連中なんざみんな蛮族だと ! ﹁ふむ。特異点とはいえ、フランスはフランス。ブルギニョンに使う マンは、降って湧いた幸運に小躍りしていた。 レフカメラを手渡しながら、エミヤもまた表情を緩める。ちなみにロ 新品だったのに⋮⋮と、目に涙を溜めたロマンに投影品の高級一眼 ラを粉砕された。 一同。ロマンは密かに写真に収めようとして、エミヤにデジタルカメ にぱっと笑い、顔を輝かせるモードレッドを見て思わず頬を緩める ! 11 !!! ! ﹂ ゲッシュの悪用さえされなけりゃ、疲 ⋮⋮あっ、恩だなんて思わねえからな 香草の調達も出来るかもしれんな。また作ると約束しよう、モード レッド﹂ ﹁本当か ﹁フッ、わかったわかった﹂ ﹁ま、百年戦争の延長なんだろ ! ﹂ 弊 し た 軍 の 万 や そ こ ら に 負 け る 気 は し ね え な。⋮⋮ に し て も ア ー ﹂ ﹂ ﹂ チャー、お前ちと騎士サマに甘くねえか ﹁誰が母親か ﹁まだ言ってねえよ ﹁言うつもりはあったのだろう ? れて、ちょいとルーン更新するわ﹂ ﹁今 日 は 私 と モ ー ド レ ッ ド も 参 加 し て い い か だったんだが、せっかくなら実地訓練がいいだろう﹂ ﹁せっかくならってんなら、もういっそ特異点行っちまうかぁ ハ、なーんつっ⋮⋮﹂ !? ? ない冗談だときちんと理解してもらえたはずだ。 腕が鳴るぜ⋮おら、準備急げよ槍兵 しかし今、彼の前にいるのは、 ﹂ ﹁おう、いい考えじゃあねえか 遅えのは好かん ! い⋮⋮なるべく早く。││行くか、フランス﹂ モードレッドを心底満足させるとなると⋮⋮うぅむ、香草も厳選した ﹁ブルギニョンか⋮⋮牛もなるべく良いものを使いたいな。しかし、 ! クーフーリンが何の気なしに放ったこの冗談。普段ならば、くだら ガハ この後鍛錬する予定 ﹁ああ、先に行ってろ。確か今日は剣の修練場だったからよ。念を入 ﹁そうと決まりゃあ、早速準備だ。身体慣らしといくか、槍兵﹂ !? ! ! バトルジャンキー、つまるところ戦闘バカと、 ! 12 ? !? ﹂ 馬があればもっと気分も乗るんだけどなあ⋮﹂ 世話好きの料理バカ兼親バカ、 ﹁お、もう行けるのか 最初から行くって話じゃなかった 無邪気にバカを言う実年齢一桁、 ﹁は 児。 この四人だった。 お土産にチーズ チーズ ﹂ ! ﹁はいはーい ! 絶対こいつに人理なんて任せてはいけないレベルのバカな18歳 ? ! て、 ﹁じゃあ、強行軍と洒落込もうぜ。準備はいいな、野郎共 彼も立派に、仕事バカだった。 ﹂ クーフーリンはしばし絶句した後、ニヤリと大きく笑みを浮かべ ポニテのおバカもいた。それでいいのか、責任者。 ! ﹁お願い⋮⋮誰か、誰かあの人たち止めて⋮⋮﹂ 繰り返す、断じてノリではない。 だ。 を把握し、彼我間の戦力差も念入りに考察した上で行動しているの ただし、彼らはノリだけで動いているわけではない。きちんと現状 ! 13 ? ブリーフィングルームの片隅で、さめざめと涙を流す後輩がいたと かいなかったとか。 14 序 章 最 終 話 人 の ふ り 見 て 我 が ふ り 直 し た ダ ヴ ィ ン チちゃん ダヴィンチちゃんの説教を受けて、そりゃそうだとようやく目を覚 ました彼ら。 まあ結局、明日にでも出発することになったのだが。 そっかそっか、第一特異点に行きたいのか。⋮⋮へえ ダヴィンチちゃん曰く、 ﹃⋮⋮ふぅん え に理解しているのかい 令呪起動││﹂ した槍男に足をつつかれまくった。 サーヴァントではない具田は回復も遅く、先に立ち直ってニヤニヤ 坐り直すことも許されなかったのだ、無理からぬことだろう。 虫の息だ。経験者であるエミヤすら、顔をしかめて足を揉んでいた。 が未知の領域に達して撃沈した。可哀想に、ひ弱なロマ二などはもう 正座の文化など経験したこともないエミヤ以外の4人は、足の痺れ れた。 これが導入。この後ロマ二を含んだ全員、正座で2時間ほど説教さ 長い。 し、見抜くなんて造作もないよ﹄ 家、星の開拓者たる万能の天才なんだ。人間の表情なんて見飽きた ⋮⋮ああ、もちろん。見れば分かるとも。これでも解剖学者で芸術 これは文句じゃない、純然たる怒りだよ。 行くような面差しじゃないか。ふざけないでくれたまえ。 ところがどうだ、君たちの様子を見るに、まるでピクニックにでも これは人類の存続が懸かった戦いなんだ。 ? いや、別に文句があるというわけではないよ。ただね、君たち本当 ? ﹁お前小学生かよ ! 15 ? ﹁せ ん ぱ い ﹂ 呼ばれ方にトラウマでもあるのだろうか 女に叱られる、と。ははは、やるなマスター﹂ あんまりいじめないで下さい ﹂ ﹁うるっさいなもう、こちとらそこらの有象無象なの 傑物じゃないの ﹁へーへー、わりいわりい﹂ ! んで なら、せめて今日は静養するんだ。英気を養いたま ﹁うわむっかつく⋮﹂ 君らみたいな ﹁説教食らっておいて早速くだらねえことに令呪使おうってか ? る。怖い、この後輩怖い。関係ないエミヤも何故か震えていた。⋮⋮ 令呪を使って止めようとしたが、マシュに鋭く睨まれて我にかえ ? あるだろう。立ちたまえよ﹂ ﹂ 痛い、足が痛ぁい !! うわああああああん まだまだ仕事は ? カクッてなった、今カクンッ !! フに用意させるから⋮⋮ほらロマニ、何してるんだ え。エミヤくんも、たまには夕食の準備を休むべきだ。今日はスタッ ﹁反省したかい ! ? ﹂ それを機に、無言で足の痺れに耐えていたベオウルフが立ち上が る。 ﹁なあおい。ここの連中は、休めと言われて休む軟弱者なのか 即応するは、やはり青タイツのこの男だった。 ﹁ハッ、冗談﹂ 戦術だとかしゃらくせえ そんなチマチマやってられっか ﹁お 前 さ ん な ら そ う 言 う と 思 っ た ぜ。足 さ え 治 り ゃ あ も う い い だ ろ ? 16 ! ? ﹁むっ無理無理無理 てなったよ !! ダヴィンチちゃんが、ロマニを引きずって部屋から出て行った。 !!! ! ﹂ ﹁おうよ ! ? よ、行こうぜフランス ﹂ と、ここでようやくモードレッドが復活。 哀れダヴィンチちゃん。君の言葉は、クレイジーな時代の連中には 通じなかったようだ。 ﹁やめなさい、モードレッド。無理を通すのは本当にどうしようもな い時だけだ。言われた通り、今日は休むべきだろう﹂ 唯一、話にきちんと納得していたエミヤが苦言を呈するも、三人の 勢いは止まらない。 ﹂ ﹁ならエミヤ。お前、目の前に厨房があってもう食材も用意されてる ﹂ のに、明日まで手を出すなと言われた。⋮どうする ﹁ふざけるな。そんな指示に従うわけが⋮⋮ハッ モードレッドが満足げに笑う。 ? ﹁え ですか 反論しなきゃダメですよねこれ﹂ なんでそんな﹃やれやれ、一本取られたな﹄みたいな顔してるん 苦笑して肩をすくめる、浅黒い肌の弓兵。 ふと周りを見れば、皆同じような顔でエミヤを見ていた。 !? ﹁まったく、敵わないな。だがマスター、君は令呪を切るのが早すぎ 宝具撃った方が圧倒的に戦闘終わるの早いじゃん﹂ る。そこにだけ気をつけてくれ﹂ ﹁え ﹁いやお前、冬木の竜牙兵にオレの宝具の真名解放するのはねえって。 あんなのに使わされると流石にプライド傷つくぞ﹂ ﹁⋮⋮あ、そういうものなんだ。ごめん、気をつけるよ﹂ 17 ! 後輩の言葉は無かったものとされる。 ? ? ? ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 果たしてこの馬鹿野郎は本当にわかっているのだろうか。皆、そう ・ 思った。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 実は制御の未熟さから対象を間違えただけで、混戦中の気配遮断に ・ ・ ・ より誰もが気付けなかったアサシンのシャドウサーヴァントを狙っ ていたなどと││誰が考えようか。 今の ﹃⋮⋮あ、そういうものなんだ﹄ は、 ﹃あ、英霊と言えどアサシンの気配遮断を破るほどの洞察力を持って るってわけじゃないんだ。へえ、俺って案外凄いのかもね﹄ という意味で発された言葉だ。洞察力で気配遮断を破れると思っ ているあたり、やはり残念である。 バカと天才は、いつだって紙一重なのだ。 18 ﹂﹂﹂﹂﹂ ﹁さあ、そうと決まれば││﹂ ﹁﹁﹁﹁﹁行くぜ、フランス 後輩の呟きは、即座に彼女の胃痛へと昇華した。 せん﹂ ﹁⋮⋮私のために犠牲になった英霊さん。早くも私はダメかもしれま !!! ︻一章︼そうだ、旅をしよう。中世フランスツアーだ ﹂ れっ、レオナルド レイシフト作動してる ﹂ ナンパ野郎の人脈をこんなことに使おうとは⋮侮れ んな ﹁⋮⋮ ﹁なんだって !! 静まり返る部屋。 ﹂ ! おいおいおい、何し 誰だ、レイシフト許可出したの 待てよ、ちょっ、はああああああ その瞬間、ダヴィンチちゃんが、キレた。 ﹁はああああ !!? ればならないはずだ ﹁それはおかしい、こちら側からレイシフトプログラムを起動しなけ た。 り念入りに特異点のモニターを行なっていたロマンが、異変に気付い ここはカルデア管制室。明日にも発つであろう彼らのため、普段よ ! 手を挙げるオペレーター嬢。 ﹁あ、あの⋮⋮私が⋮⋮﹂ ! ⋮いや、言いたまえよ﹂ ﹁レオナルド、後にしてくれ ﹁ ヒッ、はっハイ ﹂ ﹁チッ⋮⋮小娘、そこに正座しておけ﹂ ﹂ てしまう、手を貸して欲しい ! ! おい、何とか言ってみろ ? このままでは彼らの意味消失が始まっ れないが、それはおかしいんじゃないかな てくれてるんだいお嬢さん。席を外していたのは私の落ち度かもし ? 19 !? !? ! !? 返事したまえ ﹂ ていうかコフィンから出ろ ﹂ こ 思わず言葉が乱れる天才。たおやかな女性の容姿を手に入れよう と、根本的な気性はやはり男性なのだ。 具田くん しかしなんだろう、ニューハーフ美人の素を見た気分である。 ﹁具田くん ﹃ほほーい。生きてまーす﹄ ﹁今すぐレイシフトを中止するんだ ちら側ではもう制止不可能な行程に入っている ﹂ ﹃点呼取りますねー﹄ ﹁話聞けよ ﹂ ﹃具田大和、じゅうはっさい。趣味は陶芸です﹄ ﹁それ点呼じゃなくて自己紹介だから クーフーリン。いまーす﹄ ! まずは火の扱いから⋮⋮﹄ ははははっ、なんていい子なんだモードレッド ぜひオレを超えて貰わねばな ! ﹃むっそれは本当か ど⋮えっと、⋮⋮エミヤに料理教えて欲しくて⋮⋮﹄ ﹃最強の騎士にして王の後継者、モードレッド様だ 趣味はない。け ﹃オ メ ー の 趣 味 な ん ざ 分 か り き っ て る か ら い い っ て の。ラ ン サ ー、 銘と名乗ることもあるがね。趣味は、﹄ ﹃ふむ、召喚順で行くか。サーヴァントアーチャー、真名はエミヤ。無 ! ! !? ら英霊だぞ 野営の経験ぐらいあるわアホか。⋮⋮おっと、真名ベオ 誰にも読めない。それがバカだ。 ん。自分にすら理解不能ということ自体、理解不能なのだろう。 流れるように全員が自己紹介を終え、呆然とするダヴィンチちゃ ライト、デミサーヴァントです⋮⋮います﹄ ﹃ごめんなさいダヴィンチさん⋮⋮私じゃ力不足で⋮マシュ・キリエ ウルフ、理性ありのバーサーカー。趣味は鍛錬だな。いるぜ﹄ ? 20 !! ! !! ! ? !!! ﹃少し静かにしろ親バカ。しかも火の扱いって⋮⋮過保護かお前。俺 !! ﹁⋮⋮あっ、具田くんキミ謀ったな 時間稼ぎかコレ ﹂ !!! もっともらしいことを言って煙に巻こうったって、 だったことを、急ピッチで進めるスタッフたち。 よ う や く 時 が 動 き 始 め た。手 が 止 ま っ て い た 数 分 の 間 に す べ き ロマンは、あえて大きな声で自分たちのすべきことを示す。 ﹁⋮⋮さっ、さーて、仕事しなきゃね∼、サポートサポート∼﹂ 誰も、何も音を発さない。静謐とはこんな空間を指すのだろうか。 捕まえると、ダヴィンチちゃんは無言で廊下へと消えていった。 そんな悟ったような不気味な表情でオペレーター嬢の首根っこを 能に近い。 幸福とも言われるその微笑みから、正確に感情を読み取ることは不可 嘲りとも、悲しみとも、怒りとも、慈愛とも、諦めとも、寂寥とも、 の名画、モナ・リザの笑みがあった。 巨匠、レオナルド=ダ=ヴィンチが世に残した最高傑作。名画の中 ﹁か⋮⋮絵画になってる⋮⋮﹂ ン。そこにあったのは。 俯いて黙りこくるダヴィンチちゃんの顔を、恐る恐る覗き込むロマ ﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂ グランドオーダー発動││レイシフト 実行 そうは││﹂ ﹁やかましいわ ヴィンチちゃん﹄ ﹃気 付 い た 頃 に は も う 遅 い。戦 い と は 常 に そ う い う も の な ん だ、ダ !? ひとまず彼らの意味消失は食い止められた。あとは、そう││。 21 ! ﹁レオナルドの我慢と、マシュの胃が保つことを祈るだけだね⋮⋮﹂ 22 歴史の歪曲、復讐の焔 金銀と、華美な装飾が壁一面を覆っている。真っ赤なカーペット も、一目で高級品だとわかるものだ。天井は高く、部屋の奥の祭壇に は、祈りを捧ぐための十字架が設えられていた。 大きな礼拝堂、あるいは教会といった風情だ。 事実その通りなのだろう、隅で這いつくばってガタガタ震える小太 りの男は、これまた華美な司祭服を着ている。 そんな男を酷薄な笑みをもって見下し、黒い甲冑を纏う少女は、謡 うように、挑むように言葉を紡ぐ。 ││告げる 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、こ 23 の意この理に従うならば応えよ 誓いを此処に。我は常世全ての悪を敷く者。 されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし 汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者││ 汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ│ │ おお││おお、おおお ! ! 愛しき聖女よ、未だ世界は貴女を愛している フランスを、間違い あなたの怒りが、無念が、遂に晴らされる の眼前の様子に歓喜し、落涙した。 少女と並ぶように立った珍妙な格好の男は、にわかに光り出した己 虚ろに巡った声が消える頃、変化は起きた。 れは聖域を隅々まで侵さんと、縦横無尽に室内へ広がる。 少女の声が、がらんどうの教会に響く。金属質な響きを伴って、そ ! を正せと、そう言っている !!! !! ほどなくして光から現れたのは、五つの人影。いずれも、放つ雰囲 気が人という枠を超越している。 時代に名を残した偉大な魂。狂化という穢れを付着させて、なお衰 えぬその精強な在り方。 ﹁ようこそおいで下さいました。私が貴方達のマスターです﹂ そう言って、満足げに各々の顔を見渡す少女。 ﹁私が貴方がたに望むのは一つよ││蹂躙なさい。完膚なきまでに叩 き潰し、徹頭徹尾略奪しなさい。奪われる前に奪うのよ。それを許さ ないと言うのなら、私は何だって敵に回すわ﹂ 眉をひそめたバーサーク・ライダーを見て、安心させるように、忍 24 び寄る堕落の蛇のように、優しく甘美な響きを含ませ、彼女は言った。 ﹁大丈夫。きっと主は││全ての悪逆をお許しになるわ﹂ そう言って、狂ったように笑う彼女。 ﹂ 自らの命運を悟った司祭は、もはや茫然自失の体で、鼻と言わず口 と言わず、様々な液体を垂れ流すことしかできなかった。 それでも最後に願うことが許されるのならば。 ﹁おお⋮哀れな魔女の魂を、救いたまえ⋮⋮どうか⋮⋮っ その答えは、神のみぞ知る。 俗物が最期に抱いた純粋な祈りは、天に届くのだろうか。 ! 聖杯はどこにあるのか ちなみに裏ではダヴィンチちゃんがオペ子を絞って ます ﹁何でしょうか、あれ⋮⋮﹂ ﹁さあねぇ⋮⋮﹂ おそらくフランス、広大な草原に到着。 歴史に歪みを生じさせているのは何か 情報は著しく不足している。 ? なんだ、あれ 輪だった。 ﹃魔術⋮ 衛星軌道上に⋮⋮下手をすれば北米大陸に 上。空一面を覆うように広がる、皆既日食時のプロミネンスが如き光 それも問題ではあるが、具田とマシュがいま問題視しているのは頭 ? ﹂ ﹁フ・ラ・ン・ス アァァァァ ふざっけんなバカ ⋮⋮ベオウルフ、何とかならね ﹁いきなり叫ぶんじゃねえ、るっせぇんだよこのバカ なんじゃねえの えかコイツ﹂ ああもう、バカ ヒャアァァァァァァァァアアアアハハハハアアア ターのとった行動は││ 身動きできない状態の中、人類史を存続させんと世界が選んだマス 圧倒的な情報不足。未知の現象という不安要素。 を理解していた。 ロマンも、送信される映像から何か尋常ではないモノだということ 匹敵するぞ、あの規模は﹄ ? 真剣な顔で、力の限り、叫ぶことだった。 !! !? !! !!!!!!! !! 25 ? ﹁アアアアアアァァァァアアアアァァァァアア ﹁無茶言うなや。殴れば死ぬだろ、生身だし﹂ ﹁殴るしか選択肢ねえのかよ⋮⋮﹂ ﹁Fooooooooooo ﹂ ﹂ ﹂ 間違いなく、現状一番の問題児は具田だった。 カ2人は常在戦場の精神で神経を尖らせている。マジモードだ。 保護者︵エミヤ︶同伴で遠くの丘の向こうを見てくると言い、戦闘バ ところがどうだ、そのモードレッドは確かに興奮していたものの、 た。はしゃいで跳ね回り、近くのものを壊すだろうと。 特異点に到着して、初めに騒ぐのはモードレッドだと思われてい と見開き叫び続ける18歳児。 いきなり耳元で叫ばれ、憤慨するクーフーリン。なおも目をくわっ !!!!!!! ﹂ おーい。お前が叫ぶから戻ってきてやったぞ。⋮⋮大 ﹁な、なんだ。何かあったのかね ﹁さあ⋮⋮﹂ ﹁いきなり意味もなく叫ぶような奴だったか 丈夫か、コイツ﹂ ﹁おい、具田 ? い続ける具田。 そんな具田の様子を見て、後輩系マシュマロサーヴァントはため息 ﹂ を一つついて、瞳からハイライトを消し去った。 そして一言。 ﹁せ ん ぱ い 紅いのと青いのが、その様を見て冷や汗をかく。 ﹁はいもう充分ですねいい子にしますですハイ﹂ ? 26 !!!!!!! 英霊たちの困惑をよそに、真摯な瞳でバーサーカーのように振る舞 ? ? ﹁⋮⋮なあアーチャー。気のせいかもしれねえが、今⋮⋮﹂ ﹂ ﹁⋮⋮奇遇だなランサー。私も多分同じことを思い出している﹂ ﹁⋮⋮だよなぁ ﹂ ﹁ああ。アレが怖くて、私は家の中で迂闊にライダーと話せなかった﹂ ﹁なんだ、弓兵。お前、なんか苦手なもんでもあんのか ? もう無理して言わなくていいんだ ﹂ ここに黒い後輩はいね ﹁いや。別に。苦手ではないよ。⋮むしろ⋮⋮好⋮⋮ぐっ﹂ ﹁やめろ ﹂ !! なあエミヤ、教えろよぉ ! えんだ、アーチャー 俺も混ぜろ ! 人には掘り起こされたくねえ記憶だってあんだよ ﹁な、なんの話してんだ ﹁や め ろ 騎 士 殿 ﹂ ? !! ! ﹂ ⋮ゴホン。そんなことないぞ、マシュ﹂ ﹂ クーフーリンさん ﹁こっちで先輩が静かになったと思ったら⋮⋮随分楽しそうですね エミヤ先輩 ﹁うわマジか⋮ ﹁さっ、さく││ ? 周囲警戒 ﹂ ! ﹂ ﹁おっと。弓兵、槍兵 ﹁おう、了解 ! でも思い出したくない記憶というものはあるのだ。 知りたくてうずうずしているモードレッドには申し訳ないが、誰に ヤ。 光を失ったままの瞳を見て、露骨に狼狽するクーフーリンとエミ ! ! ﹁ベオウルフ ﹂ で行っておいた方がいいっぽいぞ で兵士の相手だ ! 盾女は具田を守れ。エミヤと俺 オレの直感なんだけどさ、丘の向こうには槍男とお前 から迫ってきているようだった。 あれだけぎゃいぎゃい叫べば、当然だろう。武装した集団が、周囲 ﹁ふむ。意外と早いお出ましだな﹂ ! ! 27 ? ! ! ? ? ! モードレッドの直感。ランクはB。未来予知に迫るような精度こ ⋮ああ、竜種か﹂ そ無いものの、自分たちにとって最適な展開を感じ取るその能力は非 俺の出番、ねえ⋮ 常に強いカードだ。 ﹁⋮ふむ この特 ! ﹃具田くん てたか⋮とほほ﹄ ﹂ わかってるとは思うけど、殺しちゃダメだよ ﹁ごめんドクター、通信切るよ ﹃ああ、待って ! フランス兵とワイバーンが接近ちゅ⋮⋮あれーもう知っ どうやら戦闘を開始したらしい。 強引に突破し、二人は丘の向こうへと消えていった。響く異形の声。 ドウッ と、凄まじい踏み込みから跳躍。少しずつ狭まる包囲網を ﹁こちらは任せろ。暴れてこい、二人とも﹂ な﹂ ﹁あー、なるほどな。デカブツ狩りに慣れてるのは、確かに俺らだわ ? ﹄ ﹂ ああ、いっそ武器ごと変えた方がいいな。モードレッド﹂ ? ﹂ の闇が嘘のようだ。問題は、こちらの獅子だろう。 ふふん、と得意げな後輩は心配あるまい。実に可愛らしい、先ほど ﹁ええ、やれますよ。デミサーヴァントですから﹂ ﹁盾で峰打ち を補足したようです。⋮峰打ちでいきます﹂ ﹁ええ、先輩。どうやら、あちらのワイバーンから逃げる途中で私たち ﹁あ、じゃあもしかして﹂ 味方だよ 異点、幻想種⋮たぶん、主に竜種が跋扈してるんだ。人間は基本的に ! ? 28 ? ! ! ! ﹁ねえ、エミヤ。非殺傷の武器って出せる ﹁む ? ﹁お ﹂ 放られたのは、ベコベコに凹んだ、いかにも撲殺専用というような 金属バット。宝具でこそないが、フランス兵の纏う防具もまた宝具で はない。エミヤの強化も施されており、サーヴァントの筋力であれば 鎧などあって無きが如しだろう。 いかにもしぶしぶ、クラレントを鞘に収めるモードレッド。無理も 変なこと考えてません なんかあるのか ﹂ ﹂ ﹁こういうとき聞こえないふりしますよね、エミヤ先輩﹂ ﹁﹁カチコミじゃあああああ 特攻服に木刀を構える、細身だが屈強な弓の英霊。 猛々しい剣の英霊。 番長スタイルの学ランに撲殺用の金属バットを携えた、麗しくも 装束だった。二人は即座に、霊体化を用いて着替える。 エミヤが投影したのは、改造された学ランと、特攻服と呼ばれる戦 ておけ。 あくまでマシュの声は無いものだ。制止の声なぞ、犬にでも食わせ ﹂ ない、剣は騎士の誇りだ。その様子を見て、エミヤは何事か思案を始 めた。 ﹁エミヤ先輩 ﹁え ﹁モードレッド。気分が乗らないなら、服も武器に合わせてみるか ? ﹁ああ。私も木刀を投影したことだしな﹂ ? ? ? ﹂﹂ きっと気のせいだとマシュは思うことにした。 後 方 で 具 田 が 羨 ま し そ う な 顔 を し て い る 気 が し な い で も な い が、 なんだこれ。ロマンは言葉が出ない。 !!!!! 29 ? ? ﹂ 先輩 !! ﹁俺も着てえ⋮っ ﹂ 30 なんで言葉にしちゃうんですか ほんと、もう、バカァ !! ! ! ﹁なんで言っちゃうんですか のバカ !! 閑話:丘の向こうで ﹁⋮なあ、槍兵﹂ ベオウルフは正面のワイバーンに右手の長剣を一閃、背後から迫る 尾の一撃を振り向きざまの回し蹴りで迎撃しながら、少し離れた場所 で竜種の両眼を横薙ぎに切り裂いている朱槍の男に声をかける。 ﹁なんだ﹂ ﹁アレ、どう思うよ﹂ 竜鱗の擦れ合うギチギチという音、ワイバーンの鳴き声、武器を振 るう金属音、そして単純な距離。それらを無視して会話を成り立たせ 31 る五感は、さすが英霊というところだろう。 ﹁⋮どうもこうもねーよ﹂ ベオウルフが指したのは、特攻服に学ラン、二騎のサーヴァントが フランス兵を吹き飛ばす光景だ。その後方ではマシュがマスターに ヘッドロックをかけているが、彼女のふくよかな胸が後頭部に当たっ ており、具田は幸せそうな顔をしている。 ﹁⋮嬢ちゃんウブだしなぁ。気付いてねえんだろうなあ﹂ ﹁あー、だろうな﹂ ベオウルフは、ワイバーンの翼の付け根を握り潰し、機動力を奪っ た上で首を搔き切る。 ﹂ ﹁そっちじゃねえよ﹂ ﹁は ? 竜種狩りという、世界から一目置かれるに足る行いを片手間に済ま せながら、二人は当たり前のように会話を続ける。 ﹂ ﹁あの野郎、とんだ食わせ者かもしれねえぞ﹂ ﹁⋮具田か ﹁ああ。叫びだしたときは何事かと思ったが⋮ときに槍兵。今お前は 戦ってんだろが﹂ 何してるよ﹂ ﹁何って⋮ 言葉を一つ交わす間に、死骸が3つは増えている。一騎当千、強力 無比な戦士が、神秘の体現とも呼べる者たちを紙くずのように斬り散 らしていく。 ﹂ ? ﹂ ? ﹁ああ、その通り。戦ってるな。何とだ ﹂ ﹁⋮空飛ぶトカゲ、かね﹂ ﹁どこから来た ﹂ ? ﹁そういうこった﹂ ││敵は何か 竜種だ。 ││ここはどこだ とは間違いない。 ││敵がわかれば なる。 そう、聖杯を探せる。少なくとも、探索の方針は立てられるように ? 兵士の鎧の模様や武装から鑑みるに、少なくともフランスであるこ ? ﹁⋮ああ、なるほどね。野郎が叫んだからだな⋮⋮⋮﹂ ﹁じゃあなぜ来た ﹁南西からじゃなかったか ? ? 32 ? ? ﹁意外と計算高えのな、あのバカ⋮﹂ 突然叫んで、敵味方の区別なく︻情報源︼をおびき寄せる。そして、 必要な情報を一気に手に入れたのだ。 以前ダヴィンチちゃんから聞いた話では、特異点の主人側にとっ て、カルデア勢力が介入することは規定事項なのだそうだ。 つまり、明確な害意があったならカルデアに対して相応の警戒・対 策をしているはずであり、それは今回ワイバーンを放つという形で為 されていたのだった。 この時代の異物は、幻想種。 ならばその主こそ、この特異点における聖杯の所持者。人理の在り 方を歪めている者。 気付けば、ワイバーンの大群は姿を消していた。代わりにあるの は、竜種の鱗と爪だけだった。 33 ﹁さて、万年バカのマスターと、悪ノリしたら止まらねえバカ野郎止め て く る か。っ と に ア イ ツ は ⋮⋮ な ぁ に が﹃イ ナ ダ 8 匹 目 フ ィ ィ ッ ﹂ それこそ心配いらねえって。あの子は純粋過ぎる シュ﹄だよ。んなこと言うキャラじゃねえだろ⋮⋮⋮﹂ ﹁盾の娘は ﹁ん、嬢ちゃんか 立派に仕事バカな二人なのであった。 まり仕事大好き人間。 戦うことは仕事であり、義務。そして彼らは、戦うことが好き。つ は、この程度は日常茶飯事だったのかもしれない。 街中をぶらつくかのように、力みのない歩みを見せる彼ら。生前で ﹁ならいいんだがな﹂ が、芯はある。騎士サマに関しては言う必要すら感じねえし﹂ ? ? ︻別視点︼勝利の誓い、決死の刃 ﹁アアアアアァァァァァァァァアアアア ﹂ 俺たちがそんな声を聞いたのは、悍ましいトカゲの怪物から逃げて いる最中だった。 他の分隊は、とうに奴らの胃袋の中へと消えていた。勇敢にも立ち 向かった仲間はいたが、漏れなく新鮮な食い物になってついばまれ た。 絶望。 体をちろちろと舐めながら、迫り来る炎。火炙りの刑。それがもた らす恐怖は、どれほどのものだったろうか。彼女には、彼女の処刑を 許した民衆⋮俺たちこそがワイバーンに見えていたに違いないのだ。 なのに、彼女は粛々と死を受け入れて微笑んだ。主は貴方がたを愛 していますよ、と││。 怖かった。なぜそうも心から信じられるのかが全くわからなかっ た。なぜこの︻聖女︼は、教えの下の救国という大義があれば、敵国 の騎士とはいえ殺してしまうのか。それが本当にわからなかった。 この聖女││ジャンヌ・ダルクという少女は、狂っているのではな いか ランスは、疑惑の中にあった聖女を見殺しにした。 俺は見殺しにされるわけにはいかない。 俺は死ねない。 荒廃しきったこの国ではもう、男手なしには生きられまい。こんな ところで死んでは、年老いた父母や俺の帰りを待つ恋人に、なんと詫 びれば良いのか。 畜生。なんとしてでも生き延びてやる。先程聞こえた、若い男の叫 び声。向こうにワイバーンがいるのかも知れない。申し訳ないが、も う少しだけ時間を稼いでもら│││ 34 !!!!!! そして結局、イギリスの大き過ぎる怒りを受けて旗色を悪くしたフ 初めはその程度の認識だったろう。 ? ﹁フ・ラ・ン・ス アァァァァ た。 ﹂ ﹁おい、いたぞ﹂ ヒャアアアァァァァアアッハハハァァァァア 長引く戦争、迫る怪物に精神をやられてしまったの ﹁ああ。思った通り、可哀想な男だ﹂ ﹁⋮心のバランス崩しちゃったんだね﹂ ﹁だが、フランスの者ではなさそうだぞ ? 黒髪に黒い瞳など⋮そんなフランス人いたか ﹂ 遠過ぎてよくわからないが、 降下してくる前に、奴らの視界から外れ、移動を済ませる必要があっ る方││を示し、俺たちは慎重に進む。上空で旋回するワイバーンが 仲間に安全な方角││愉快で、哀れで、勇敢な男の叫び声が聞こえ だろう。 我々の仲間か 楽しそう。羨ましい。 あ、いないわこれ。こっちの道、キチ●イいるだけだわ。すっげえ !!! ? の涙を禁じ得なかった。 嗚呼、いっそ狂ってしまえたなら、どんなに楽なことか しかしだ。今、我々は生死がかかった局面にある。 言う﹃神の愛﹄とやらを受ける資格はないだろう。 あの哀れむべき同胞には本当に申し訳ない。きっと、俺には聖女の ! 軽蔑したように。俺はどちらでもなく、ただひたすらに共感し、同情 その後も、仲間が口々に感想を言う。ある者は警戒して、ある者は は異国風だな﹂ んて遠過ぎてわからないよ。勘弁してくれ。⋮だが、少なくとも服装 ﹁さあな。俺はお前ほど視力が良くないんだ、ここからじゃ瞳の色な 隊長である俺に、そんなことを聞いてきた。 ? 35 !!!!! 俺たちのために│││死んでくれ。 許してくれとは言わない。恨んでくれ。恨んで恨んで、俺が死んだ らぜひ恨み言を言いに来てくれ。これまで助けられず見捨てた同胞 たちへと共に、君にも永劫、謝り続けると誓おう。 さっと散開指示を出し、前触れなく黙り込んだ男を包囲する。気の せいだろうか、男の周囲の空間が揺らめいている気がする。どことな く、異常を感じさせる光景だった。 俺はギリ、と歯を食いしばり、なんとか涙をこらえる。こうまで人 ﹂ を変えてしまうのか、戦争というものは。 ﹁クソッ⋮⋮竜の魔女め⋮⋮ッ 俺が耐えきれず、ポソリと漏らしたその瞬間だった。 先ほどまで狂奔の体であったはずの男が、極めて冷静な眼差しをチ という地響きと共に、男の目前に二つのクレーターが出来 ラリと寄越したのだ。一瞬ではあったが、間違いない。この男は正気 だ⋮⋮。 ドウッ ﹁ま、魔術師⋮⋮ ﹂ 無言で武器をかかげ、俺たちは鬨の声をあげながら男目指して突き ﹁⋮やろう、皆﹂ だが、戦わなければ勝ち目は存在できない。 だろう。 敵国のスパイかもしれない。戦ったとしても、正直勝ちの目はない だ。 男は同胞などではない。魔術師だ。全き正気を保つ、外法の使い手 誰かが震える声で呟く。ああまったく、その通りだよくそったれ。 ! 36 !! る。そこで初めて、俺たちは人影が一つではないことに気付いた。 ! 進む。 次の瞬間、男の傍らにいたはずの二人の剣士がなぜか目前に迫って おり、俺の視界は剣士の片方が握る謎の金属棒の輝きに包まれてい た。 父さん母さん、故郷の恋人よ。本当にごめんなさい。俺の人生は、 よくわからないベコベコの棒で終わるみたいだ。 視界が暗転。さあ、幸せな夢でも見ようか。 37 ﹂ 夜中もお祭りテンション系カルデア ﹁バカなんですか ﹁ハイそうです﹂ ﹁⋮これに関しては申し開きも無いな﹂ 焚き火を囲んで、夜。 自分の考えを伝えもせず、突如叫んで現場を混乱させたマスター。 何となく彼の意図を察しながらも、場の空気に任せて悪ノリしたエ ミヤ。 二人とも、もれなく正座である。 ちなみにモードレッドは着せられてはしゃいだだけなので逆転無 罪。マシュ後輩が控訴ないし上告しなかったので、判決は確定してい る。殺人も犯していない。 ﹂ ﹁な、なあマシュ。この服結構気に入ってるんだけど⋮着てたらダメ か ﹁ダメです﹂ ﹂ ﹂ これだからギャラハ│││﹂ ダメなものはダメなんです ﹁⋮どうしてもか ﹂ ﹁ダメです﹂ ﹁なんでだ ﹁なんでもです ﹁だああもう、本当頭固えなてめえ !! らいいぜ﹂ 思 わ ず 失 言 し そ う に な っ た モ ー ド レ ッ ド を 鋭 く 睨 ん で 諌 め つ つ、 クーフーリンがマシュに加勢する。マシュに宿る英霊の真名は、マ 学ランっつーんだっけ、 シュ自身が見つけるべきなのだ。安易に口に出すべきではない。 ﹁な、なんだよお前まで⋮意外と硬いんだぞ ? 38 ? ﹁おーうおう、騎士サマよ。その服が鎧より武器を通さねえってんな ! ! ! ? ? これ﹂ 動きにくいし﹂ ﹁鎧の方が頑丈だろうが﹂ ﹁アレはその分重いぜ ﹁は それがなんだってんだ。脱げよ、まどろっこしい﹂ ﹂ ﹁うるせえよ上半身マッパの癖に 槍男 ないかね ﹂ ﹂ こいつには何も言わねえのかよ、 ﹁てめーは黙って正座してろこの親バカ ﹂ ﹂ ﹁たしかにそれもそうだな。モードレッドにだけ言うのは不公平では モードレッドがモードレッドたる所以なのだが。 ⋮単純に﹁あいつだけズルい﹂と思った可能性も否定できないのが、 い。 モードレッドからすれば、見くびられていると思ったのかもしれな 自 分 の 薄 着 が 許 さ れ な い の に、ベ オ ウ ル フ は 当 然 の よ う に 上 裸。 ? ! おいおい、なんで俺なんだよ 男⋮⋮⋮⋮ではなく何故か隣のベオウルフを睨んだ。 モードレッドはそこはかとなく怒りを窺わせる眼差しで、眼前の槍 い。 て認めている証拠だったりするのだが、叛逆の騎士には通じていな 以て知っている。女性だからといって態度を変えないのは戦士とし ところで、クーフーリンは、女性でも優れた戦士がいることを身を ちなみに彼女は、女扱いされてもキレる。 男扱いされている。それは、数多く存在する彼女の逆鱗の一つだ。 ﹁いや兄貴、その言い草はちょっと⋮﹂ ﹁は ﹁⋮サラシ以外着てないんだけど、中﹂ ﹁知ってるがダメだ。いますぐ脱げ﹂ ? ﹁フゥー⋮君はいつもそれだ。母親ではないと何度言わせる !! ! ? 39 ? ? ! ﹂ ﹁だぁからまだ言ってねえっての ﹁だが間違いなく言うだろう ﹁えっ ﹂ いや、いない。││はずだ﹂ ﹁実際のところ、エミヤ先輩にお子さんはいなかったのでしょうか ﹁けど兄貴の言う通りだよねえ。親バカだよ、エミヤは﹂ !! お前は。 ﹂ した。具田は火のついた枝を空中で振っていた。何をしているんだ、 エミヤ。槍男と上裸男は、それだけで生前の彼が何をしていたかを察 マシュの問いにきりりと表情を引き締めるも、否定しきれなかった ? !? 死ぬか体を許すか選べ、というような逸話 ﹁あー⋮⋮まあ、な。俺も散々やらかしてるしよ﹂ ﹁オイフェさん、でしたか ﹂ だったと記憶しています﹂ ﹁知ってんのかよ ? ﹁﹁ヒッ ﹂﹂ ﹁いえ、私は別に構いませんよ ﹂ ﹁おおおう、そっそうだなアーチャー﹂ ないか﹂ ﹁まっマシュには聞かせられない話だ。ランサー、この話はやめにし ろ。そう黒化しながら目で訴えている。 マシュが怖い。男の不実によって、犠牲になる女性の思いを考え !? は厳に戒めている。 ? ﹁なあベオウルフ。男ってのは、そんなに女が欲しいもんなのか ﹂ 責任が取れないなら手を出すな。王の血筋に生まれた者として、彼 武勇が高じて王にまで至った男、ベオウルフは嘆息する。 ﹁⋮⋮なーにやってんだ、このバカども﹂ ? 40 ? ! ﹁⋮⋮そうさな。肉欲にも色々ある。槍兵の方は、オイフェって女を 殺したくねえから興奮を鎮めるために仕方なく、てな感じか。弓兵の 方は⋮⋮まあ、なんだ。求められれば断らないの精神なんだろうな、 アレは﹂ その2人はといえば、具田、エミヤの隣に更にクーフーリンを加え て正座させられ、火力の上がった焚き火で背中を炙られている。非常 ﹂﹁先輩 ﹂ に暑苦しそうだ。 アンサズ ﹁F ルーンを刻んでいたらしい。 ﹂ ﹂ ﹁バッカじゃねえのマスター んの あちぃわ死ね ﹁見よう見まねで﹂ ﹁死ね !? ﹂ !! げるかな ﹂ ﹂ ﹂ ﹁不敵に笑ってんじゃねえ、後ろ髪焦げてるじゃねえか ちぃ ﹁ふふふ、熱くてもそこを動いてはダメですよ あちっ、あっ ﹁勝負だクーフーリン。貴様の意地と私の忍耐、どちらが先に根をあ ﹁意味がわからねえよ ﹁いや、恋愛の話だからさ。炎は高く燃え上がるかなって⋮熱ッ﹂ !! おま、なんでしかも俺のルーン使えて バカが火力を底上げした。先ほど振っていた枝は、どうやら空中に !? ? ⋮具体的には寝取り野郎が2人﹂ ﹁湖 の 騎 士 と、愛 の 秘 薬 の 逸 話 だ な。ト リ ス タ ン だ っ た か ⋮⋮ 悲 ﹁⋮⋮なあベオウルフ。ウチの身内にも何人かそういうのがいてさぁ 少し離れた位置で、その喧騒を見守るブリテン組。 触れてしまったのだろうか。 もう、ど単純にバカである。救いようがねえ。そしてマシュは泥に ? !! ? 41 !! !? ! !! 恋ってのは手に負えねえ。本人たちが禁忌と自覚した上でやってん だ、燃え上がりこそすれど、止まるわけがねえからな﹂ ﹁やっぱそういうもんなのかぁ⋮オレ、恋愛とかいまいちよく分かん なくてよ﹂ ﹁無理もねえ。お前も嫌がってねえで本読めよ。学んでいけ。⋮⋮あ そこで説教食らってる2人とギリシャ神話以外からなら、それでい い﹂ 彼らの夜は更けていく。人毛の焼ける匂いと共に。 42
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