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JP 5172201 B2 2013.3.27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下(A)∼(D)の工程を含む、ハロヒドリンエポキシダーゼ含有溶液の製造方法。
(A)細胞を培養する工程
(B)工程(A)で得られた細胞を破砕して、ハロヒドリンエポキシダーゼおよび細胞破
砕片を含有する細胞破砕液を調製する工程
(C)工程(B)で得られたハロヒドリンエポキシダーゼおよび細胞破砕片を含有する細
胞破砕液にアルキルジアミノエチルグリシンまたはその塩を添加する工程
(D)工程(C)で得られたアルキルジアミノエチルグリシンまたはその塩を添加した細
胞破砕液から細胞破砕片を除去する工程
【発明の詳細な説明】
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【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞破砕液から細胞破砕片を効率的に除去してタンパク質含有溶液を製造す
る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞内に生産された有用タンパク質を単離または精製して利用する場合、物理的又は化
学的手段によって細胞を破砕した後、細胞破砕液中に共存する細胞破砕片を除去する必要
がある。細胞破砕片を除去する手段としては、遠心分離や遠心分離やろ過等の手段を用い
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(2)
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ることが一般的である。しかしながら、これら手段によって細胞破砕片を除去しようとす
る場合にはいくつかの問題点がある。例えば、細胞破砕片は細胞に比べて沈殿し難いため
、遠心分離によって細胞破砕片を除去しようとする場合には大きな遠心力が必要となる。
従って、工業的スケールでの遠心分離を行う場合には、高性能、高価な遠心分離機が必要
となり、製品のコストアップ要因となる。また、ろ過によって細胞破砕片の除去を行う場
合、ろ材の目詰まりやファウリングが生じやすく、結果としてタンパク質回収量の低下に
繋がる。
【0003】
これら問題点を解決する方法として、例えば、細胞破砕液にカチオン系高分子凝集剤を
添加する方法が知られている(特許文献1参照)。しかし、凝集剤の添加によって目的タ
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ンパク質が細胞破砕片と共に沈殿し、目的タンパク質の機能、例えば、タンパク質が酵素
である場合にはその酵素活性が消失する場合がある。 また、凝集剤の種類や添加濃度に
よっては、粘性が高くなったり、均一に溶解するまでに時間を要するといった問題点を有
する。さらにろ過により細胞破砕片を除去する場合は、その高分子量ゆえに、ろ過速度の
低下、ろ材の目詰まりやファウリングの原因になりかねない。
【0004】
【特許文献1】特開昭63−3798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
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本発明は、目的タンパク質の沈殿や機能消失、ろ過速度の低下、ろ材の目詰まりやファ
ウリング等を引き起こさず、かつ、粘性、溶解性の観点からも取り扱いやすい添加剤を適
用することによって、細胞破砕液から細胞破砕片を効率的に除去する方法を提供すること
を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために誠意研究を行った結果、両性界面活性剤を細
胞破砕液に添加することにより、細胞破砕液から細胞破砕片を効率的に除去してタンパク
質含有溶液を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
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すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)以下(A)∼(D)の工程から成る、タンパク質含有溶液の製造方法。
(A) 細胞を培養する工程
(B) 工程(A)で得られた細胞を破砕して、タンパク質および細胞破砕片を含有する細
胞破砕液を調製する工程
(C) 工程(B)で得られたタンパク質および細胞破砕片を含有する細胞破砕液に両性界
面活性剤を添加する工程
(D) 工程(C)で得られた両性界面活性剤を添加した細胞破砕液から細胞破砕片を除去
する工程
【発明の効果】
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【0008】
本発明によれば、目的タンパク質の沈殿や機能消失、ろ過時の目詰まりやファウリング
等を伴わずに、細胞破砕液から細胞破砕片を効率的に除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態について説明するが、本実施の形態は、本発明を説明するため
の例示であり、本発明をこの実施の形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要
旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施をすることができる。
【0010】
本発明は、以下のとおりである。
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(3)
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以下(A)∼(D)の工程から成る、タンパク質含有溶液の製造方法。
(A) 細胞を培養する工程
(B) 工程(A)で得られた細胞を破砕して、タンパク質および細胞破砕片を含有する
細胞破砕液を調製する工程
(C) 工程(B)で得られたタンパク質および細胞破砕片を含有する細胞破砕液に両性
界面活性剤を添加する工程
(D) 工程(C)で得られた両性界面活性剤を添加した細胞破砕液から細胞破砕片を除
去する工程
【0011】
工程(A)において、細胞とは、その生死を問わず、外界を隔離する膜構造に囲まれ、内
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部に自己再生能を備えた遺伝情報とその発現機構を持つ(あるいは持っていた)生命体を
言う。本発明における細胞の具体的な例としては、微生物細胞、動物細胞、昆虫細胞、植
物細胞等が挙げられる。微生物の具体的な例としては、例えば、細菌、酵母、糸状菌、放
線菌等が挙げられ、これらの具体例として、バチルス・ステアロサ−モフイルス、バチル
ス・ズブチリス、バチルス・セレウス・バチルス・ブレビス、バチルス・サーキユランス
、バチルス・コアギユランス、バチルス・リケニホーミス、バチルス・メガテリウム、バ
チルス・ポリミキサ等のバチルス属の細菌、エシエリシア・コリ、エシエリシア・アデカ
ルボキシラタ、エシエリシア・アネロジーネス、エシエリシア・アニンドリツカ等の大腸
菌群類の細菌、シユードモナス・アエルギノーザ、シユードモナス・アセリス、シユード
モナス・アシドボランス、シユードモナス・プチダ、シユードモナス・フルオレツセンス
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、シユードモナス・マルトフイリア等のシユードモナス属の細菌、ラクトバチルス・カゼ
イ、ストレプトコツカス・ラクチス、ラクトバチルス・アシドフイルス、ラクトバチルス
・ブレビス、ラクトバチルス・ブルガリカス等の乳酸菌、アセトバクター・アセチ、アセ
トバクター・オキシダンス、アセトバクター・ランセンス、アセトバクターロゼウム、ア
セトバクター・キシリニウム等の酢酸菌、サツカロミセス・セレビシエ、サツカロミセス
・カールスベルゲンシス、ビヒア・フアーメンタス、ピヒア・メンブランアエフアシエン
ス、ハンゼヌラ・アノマーラ、ハンゼヌラ・サチユラナス、チゾサツカロミセス・ポンベ
、チゾサツカロミセス・オクトスポラス、エンドミコプシス・フイブリガー等の酵母、ム
コール・ラセモサス、ムコール・ジヤバニカス、リゾプス・ジヤポニカス、リゾプス・ジ
ヤパニカス、アスパラギラス・ニガー等の糸状菌、ストレプトマイセス・グリセウス、ス
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トレプトマイセス・アルバン、ストレプトマイセス・バルガー、ノカルデイア・オパカ、
アクチノプラネス・ウタヘンシス、アクチノプラネス・ミリウリエンシス等の放線菌、ロ
ドコッカス・ロドクロウス、ロドコッカス・グロベルルス、ロドコッカス・ルテウス、ロ
ドコッカス ・エリスロポリス、ロドコッカス ・エクイ等のロドコッカス属細菌等が挙げ
られる。
【0012】
さらに、大腸菌(エシエリシア・コリ)のより具体的な例としては、例えば、K12株やB
株等の野生株、あるいはそれら野生株由来の派生株であるC600株、W3110株、JM109株、XL
1-Blue株、BL21(DE3)株等が挙げられる。
【0013】
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また、ロドコッカス属細菌のより具体的な例としては、例えば、ロドコッカス・ロドク
ロウスATCC999株、ATCC12674株、ATCC17895株、ATCC15998株、ATCC33275株、ATCC184、AT
CC4001株、ATCC4273株、ATCC4276株、ATCC9356株、ATCC12483株、ATCC14341株、ATCC1434
7株、ATCC14350株、ATCC15905株、ATCC15998株、ATCC17041株、ATCC19149株、ATCC19150
株、ATCC21243株、 ATCC29670株、ATCC29672株、ATCC29675株、ATCC33258株、ATCC13808
株、ATCC17043株、ATCC19067株、ATCC21999株、ATCC21291株、ATCC21785株、ATCC21924株
、 IFO14894株、IFO3338株、NCIMB11215株、NCIMB11216株、JCM3202株、ロドコッカス・
ロドクロウスJ1株(FERM BP-1478)、ロドコッカス ・グロベルルスIFO14531株、ロドコ
ッカス ・ルテウスJCM6162株、JCM6164株、ロドコッカス ・エリスロポリスIFO12538株、
IFO12320株、ロドコッカス ・エクイIFO3730株、JCM1313株等が挙げられる。
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【0014】
これらの微生物は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)や、独立行政法
人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部生物遺伝資源部門(NBRC)独立行政
法人理化学研究所 バイオリソースセンター微生物材料開発室等の分譲機関からそれぞれ
入手可能である。なお、本発明において、細胞が微生物である場合には、細胞を「菌」ま
たは「菌体」と称することがある。
【0015】
動物細胞の具体的な例としては、例えば、サル細胞COS-7、Vero細胞、CHO細胞、マウス
L細胞、ラットGH3、ヒトFL細胞等が挙げられる。昆虫細胞の具体的な例としては、例えば
、Sf9細胞、Sf21細胞等が挙げられる。植物細胞の具体的な例としては、タバコBY-2細胞
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等が挙げられる。
【0016】
また、上記細胞に加え、上記細胞に対して遺伝子操作が行われた細胞も、本発明におけ
る細胞の範囲に含まれる。遺伝子操作の種類に特段の限定はないが、例えば、細胞にベク
ターを導入する操作等が挙げられる。以下、本発明においては、このような操作を「形質
転換」と呼ぶことがあり、形質転換がなされた細胞を「形質転換体」と呼ぶことがある。
【0017】
形質転換の一つの態様として、目的タンパク質を細胞で発現させるために、目的タンパ
ク質をコードする遺伝子の上流に転写プロモーターを、必要に応じて下流にターミネータ
ーを配置した発現ベクターを構築し、該発現ベクターを細胞に導入する操作が挙げられる
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。ベクターは、それぞれの細胞に適したものを使用することができ、例えば、プラスミド
DNA、バクテリオファージDNA、レトロトランスポゾンDNA、人工染色体DNA等が挙げられる
。例えば、大腸菌細胞に適したベクターとしては、大腸菌中での自律複製可能な領域を有
しているpTrc99A(Centraalbureau voor Schimmelcultures (CBS)、オランダ;http://ww
w.cbs.knaw.nl/)、pUC19(タカラバイオ、日本)、pKK233-2(Centraalbureau voor Sch
immelcultures (CBS)、オランダ;http://www.cbs.knaw.nl/)、pET-12(Novagen社、ド
イツ)、pET-26b(Novagen社、ドイツ)等を用いることができる。また、必要に応じてこ
れらベクターを改変したものも用いることができる。発現ベクターの構築に伴うDNAの切
断および結合はいかなる方法でもよく、制限酵素を用いる方法、トポイソメラーゼを用い
る方法等を利用できる。その際、必要であれば、適当なリンカーを付加してもよい。
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【0018】
プロモーターの種類は細胞において適切な発現を可能にするものであれば特に限定され
るものではないが、例えば、大腸菌において利用できるのものとしては、トリプトファン
オペロンのtrpプロモーター、ラクトースオペロンのlacプロモーター、ラムダファージ由
来のPLプロモーターおよびPRプロモーター等が挙げられ、tacプロモーター、trcプロモー
ターのように改変、設計された配列も利用できる。枯草菌細胞において利用できるものと
しては、グルコン酸合成酵素プロモーター(gnt)、アルカリプロテアーゼプロモーター
(apr)、中性プロテアーゼプロモーター(npr)、α−アミラーゼプロモーター(amy)
等が挙げられる。ロドコッカス属細菌細胞において利用できるものとしては、ロドコッカ
ス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis) SK92-B1株由来のニトリラーゼ発現調
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節遺伝子に係るプロモーター等が挙げられる。一方、ターミネーターは必ずしも必要では
ないが、その種類も特段限定されるものではなく、例えばρ因子非依存性のもの、例えば
リポプロテインターミネーター、trpオペロンターミネーター、rrnBターミネーター等が
挙げられる。
【0019】
また、アミノ酸への翻訳にとって重要な塩基配列として、SD配列やKozak配列等のリボ
ソーム結合配列が知られており、これらの配列を変異遺伝子の上流に挿入することもでき
る。原核生物を細胞に用いるときにはSD配列を、真核細胞を細胞に用いるときにはKozak
配列をPCR法等により付加してもよい。SD配列としては、大腸菌由来または枯草菌由来の
配列等が挙げられるが、大腸菌や枯草菌等の所望の細胞内で機能する配列であれば特に限
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定されるものではない。たとえば、16SリボゾームRNAの3’末端領域に相補的な配列が4
塩基以上連続したコンセンサス配列をDNA合成により作製して利用してもよい。
【0020】
ベクターには目的とする形質転換体を選別するための因子(選択マーカー)を含んでも
よい。選択マーカーとしては、薬剤耐性遺伝子や栄養要求性相補遺伝子、資化性付与遺伝
子等が挙げられ、目的や細胞に応じて選択されうる。例えば大腸菌で選択マーカーとして
用いられる薬剤耐性遺伝子としては、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン遺伝子、ジ
ヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
【0021】
細胞へのベクターの導入方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を用いること
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ができる。細胞が細菌である場合には、例えば、カルシウムイオンを用いる方法、エレク
トロポレーション法、プロトプラスト法等が挙げられる。細胞が酵母である場合には、例
えば、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法等が挙げられる
。細胞が糸状菌である場合には、例えば、プロトプラスト法、パーティクルガン法等が挙
げられる。細胞が動物細胞である場合には、例えば、エレクトロポレーション法、リン酸
カルシウム法、リポフェクション法等が挙げられる。細胞が昆虫細胞である場合には、例
えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法等が用いら
れる。細胞が植物細胞である場合には、例えば、アグロバクテリウム法、パーティクルガ
ン法、PEG法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0022】
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上述の細胞を培養するに際し、使用する培地は、細胞が資化し得る炭素源、窒素源、無
機塩類等を含有し、細胞を効率的に培養することができる培地であれば、天然培地、合成
培地のいずれを用いてもよい。細胞が微生物である場合に用いられる炭素源としては、グ
ルコース、ガラクトース、フラクトース、スクロース、ラフィノース、デンプン等の炭水
化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類等が
挙げられる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸
アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸若しくは有機酸のアンモニウム塩またはそ
の他の含窒素化合物等が挙げられる。その他、ペプトン(牛乳、獣肉、魚肉あるいは大豆
タンパク質由来)、酵母エキス、肉エキス、コーンスティープリカー、各種アミノ酸等を
用いてもよい。無機物としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグ
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ネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、
硫酸銅、炭酸カルシウム等が挙げられる。また、必要に応じ、培養中の発泡を防ぐために
消泡剤を添加してもよい。また、ビタミン等を必要に応じて適宜添加してもよい。また、
培養中、ベクターおよび目的遺伝子の脱落を防ぐために選択圧を掛けた状態で培養しても
よい。すなわち、選択マーカーが薬剤耐性遺伝子である場合に相当する薬剤を培地に添加
してもよく、選択マーカーが栄養要求性相補遺伝子である場合に相当する栄養因子を培地
から除いてもよい。また、選択マーカーが資化性付与遺伝子である場合は、相当する資化
因子を必要に応じて唯一因子として添加することができる。例えば、アンピシリン耐性遺
伝子を含むベクターで形質転換した大腸菌を培養する場合、培養中に、必要に応じてアン
ピシリンを培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発
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現ベクターで形質転換した形質転換体を培養する場合は、必要に応じてインデューサーを
培地に添加してもよい。例えば、イソプロピル−β−D−チオガラクトシド(IPTG)で誘導
可能なプロモーターを有する発現ベクターで形質転換した形質転換体を培養するときには
、IPTG等を培地に添加することができる。また、インドール酢酸(IAA)で誘導可能なtrpプ
ロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した形質転換体を培養するときには、IAA等
を培地に添加することができる。培地の滅菌方法は、培地を増殖能力のある微生物等が存
在しない無菌状態にすることができる方法であればいかなる方法でもよく、例えば、加圧
滅菌(オートクレーブ; 例えば121℃で20分間の加熱滅菌)やろ過滅菌(例えば孔径0.4
5μmまたは0.2μmのフィルターによるろ過)等が挙げられる。なお、加熱滅菌の際に培地
成分同士の反応が懸念される場合等は、一またはそれ以上の培地成分を、それ以外の培地
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成分とは別個に滅菌し、滅菌後に混合してもよい。
【0023】
細胞を培養する条件(培養条件)は、細胞の生育が妨げられず、かつ、目的タンパク質
がその機能を有した形で適切に生産される条件であれば、特段限定されるものではない。
培養温度は、例えば、10℃∼45℃、好ましくは10℃∼40℃、さらに好ましくは15℃∼40℃
、さらにより好ましくは20℃∼37℃で行い、必要に応じて、培養中に温度を変更してもよ
い。培養時間は、例えば、5∼120時間、好ましくは5∼100時間、さらに好ましくは10∼10
0時間、さらにより好ましくは15∼80時間程度行う。培養前または培養中の培地のpHは、
細胞の生育に適した値であればよく、必要に応じてpHの調整を行いながら培養することが
できる。例えば、細胞が大腸菌であればpH6∼9に調整する。pH調整剤としては無機または
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有機酸、アルカリ溶液等を用ることができる。
【0024】
培養方法としては、固体培養、静置培養、振盪培養、通気攪拌培養等が挙げられ、細胞
の生育に適した方法が選択される。例えば、大腸菌を培養する場合、培地としては、例え
ば、酵母エキス、トリプトン、ポリペプトン、コーンスティープリカー、大豆若しくは小
麦ふすまの浸出液等の1種以上の窒素源に、塩化ナトリウム、リン酸第一カリウム、リン
酸第二カリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化第二鉄、硫酸第二鉄若しく
は硫酸マンガン等の無機塩類の1種以上を添加し、更に必要により糖質原料、ビタミン、
抗生物質、誘導剤等を添加したものが用いられる。培地の初発pHは7∼9に調整するのが適
当である。培養は、固体培養法で培養してもよいが、可能な限り液体培養法を採用して培
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養するのが好ましく、さらには、振盪培養または通気攪拌培養(ジャーファーメンター)
による好気的条件下での培養が好ましい。通気攪拌培養を行う場合、その操作方式は限定
されることなく、回分式(batch culture)、半回分式(fed-batch culture, semi-batch
culture)および連続式(continuous culture)のいずれで行ってもよい。特に、高濃度
培養により、装置あたり、時間あたり、費用あたり、または操作あたりの生産を高めたい
場合には、半回分式培養を行うことができる。半回分式で用いられる流加(fed)培地成
分は、初発(batch)培地成分と同一の組成のものを用いても、組成を変更してもよいが
、初発培地と比較して培地成分濃度はより高濃度であることが好ましい。流加培地の体積
は特段限定されることはないが、例えば、初発培地の1/2以下の体積を添加させることが
できる。流加培地を添加していく方法(feeding mode)としては、例えば、定流的流加法
30
(constant)、指数的流加法(exponential)、段階的増加流加法(stepwise increase)
、比増殖速度制御流加法(specific growth-rate control)、pHスタット流加法(pH-sta
t)、DOスタット流加法(DO-stat)、グルコース濃度制御流加法(glucose concentratio
n control)、酢酸濃度モニタリング流加法(acetate concentration monitoring)、フ
ァジー神経回路流加法(fuzzy neural network)等が挙げられるが、所望の細胞生育およ
びタンパク質生産が達成されるものであれば特段限定されるものではない。半回分式培養
実施時の培養終了時期は、流加培地の投入終了後に限定される必要はなく、必要に応じて
培養を継続し、所望の細胞生育およびタンパク質生産が達成される時点で培養終了とする
ことができる。
【0025】
40
動物細胞を細胞として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されて
いるRPMI1640培地、DMEM培地またはこれらの培地に牛胎児血清等を添加した培地等が挙げ
られる。培養は、通常、5%CO2存在下、37℃で1∼30日行う。培養中は必要に応じてカ
ナマイシン、ペニシリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。形質転換体が植物細胞ま
たは植物組織である場合は、培養は、通常の植物培養用培地、例えばMS基本培地、LS基本
培地等を用いることにより行うことができる。培養方法は、通常の固体培養法、液体培養
法のいずれをも採用することができる。
【0026】
培養によって得られた細胞は、必要に応じ、遠心分離や膜ろ過等の手段によって洗浄ま
たは濃縮を行うことができる。遠心分離は、細胞を沈降させる遠心力が供給できるもので
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あれば特段限定されることはなく、円筒型や分離板型等を利用することができる。遠心力
としては、例えば、500G∼20,000G程度で行うことができる。また、膜ろ過行う場合にお
いて利用できる膜としては、目的とする洗浄または濃縮を達成できれば、精密ろ過(MF)
膜、限外ろ過(UF)膜いずれでもよいが、通常、精密ろ過(MF)膜を用いることが好まし
い。精密ろ過は、例えば流動方向に基づけば、デッドエンド方式やクロスフロー(タンジ
ェンシャルフロー)方式に分類でき、圧力の加え方に基づけば、重力式、加圧式、真空式
、遠心力式等に分類でき、操作様式に基づけば、回分式と連続式等に分類することができ
るが、そのいずれをも利用することができる。MF膜の材質としては、高分子膜、セラミッ
ク膜、金属膜、およびそれらの複合型に大別でき、細胞または目的タンパク質の回収率(
目的タンパク質が酵素である場合には、併せて活性回収率)を低下させるものでなければ
10
特段限定されるものではないが、特に高分子膜、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルス
ルホン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリプ
ロピレン、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、
混合セルロースエステル、銅アンモニア法再生セルロースエステル、ポリイミド、ナイロ
ン、テフロン(登録商標)等の使用が好ましい。膜の孔径としては、細胞を捕捉し、洗浄
または濃縮操作が可能であればよく、通常、0.1∼0.5μm程度のものを用いることができ
る。
【0027】
上記の洗浄または濃縮時には、水、または必要に応じて緩衝液、等張液を添加して希釈
洗浄を行うこともできる。用いられる緩衝液は、細胞の適切な状態を維持し、目的タンパ
20
ク質の回収率(目的タンパク質が酵素である場合には、併せて活性回収率)を低下させな
いものであれば特段限定されるものではなく、例えば、緩衝液成分濃度5∼500mM、好まし
くは5∼150mM程度、pHとしては5∼9程度が挙げられる。緩衝液成分としては、緩衝能を期
待するpH範囲によって異なるが、例えば、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(T
ris)、リン酸ナトリウムまたはカリウム塩、クエン酸塩、酢酸塩等を挙げることがで
きる。具体的には、例えば、20mMTris−硫酸緩衝液(pH8)、20mMリン酸ナトリウム
緩衝液(pH7)等が挙げられる。また、等張液としては例えば、0.7∼0.9 %塩化ナトリウ
ム溶液等が挙げられる。目的タンパク質を安定しうる物質等があればそれらを添加しても
よい。
【0028】
30
次に、上記のようにして得られた細胞を破砕して、タンパク質および細胞破砕片を含有
する細胞破砕液を調製する(工程B)。
【0029】
細胞の破砕方法としては、超音波処理、フレンチプレスやホモジナイザーによる高圧処
理、ビーズミルによる磨砕処理、衝撃破砕装置による衝突処理、リゾチーム、セルラーゼ
、ペクチナーゼ等を用いる酵素処理、凍結融解処理、低張液処理、ファージによる溶菌誘
導処理等が挙げられ、いずれかの方法を単独または必要に応じ組み合わせて利用すること
ができる。細胞からの目的タンパク質回収率(目的タンパク質が酵素である場合には、タ
ンパク質回収率に併せて活性回収率も含む。以下、同様。)が十分高いものであれば、破
砕処理の種類は特段限定されることはない。十分高い目的タンパク質回収率あるいは活性
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回収率とは、例えば、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95
%、もっとも好ましくは99%以上である。工業的規模で細胞の破砕を行う場合は、操作性、
回収率、コスト等を勘案し、例えば、高圧処理や磨砕処理、衝突処理あるいはこれら処理
に酵素処理等を組み合わせた処理を行うことが好ましい。
【0030】
ビーズミルによる磨砕処理を行う場合、用いられるビーズは、例えば、密度2.5∼6.0g/
cm3、サイズ0.1∼1.0mmのものを通常80∼85%程度充填することにより破砕を行うことがで
き、運転方式としては回分式、連続式いずれをも採用することができる。細胞濃度は特段
限定されないが、例えば、細菌であれば6∼12%程度、酵母であれば14∼18%程度とすれば
よい。
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高圧処理を行う場合、処理圧力は、細胞からの目的タンパク質回収率が十分高いもので
あれば特段限定されないが、例えば、40∼200MPa程度、好ましくは60-150MPa程度、より
好ましくは80-120MPa程度の圧力で破砕を行うことができる。細胞濃度は特段限定されな
いが、例えば、20%以下程度であればよい。必要に応じて、装置を直列に配置したり、複
数ステージ構造の装置を用いたりすることにより、多段階処理を行い、破砕および操作効
率を向上させることも可能である。通常、処理圧力10MPaあたり2∼3℃の温度上昇が生じ
ることから、必要に応じて冷却処理を行うことが好ましい。
【0031】
衝突処理の場合、例えば、細胞スラリーを予め噴霧急速凍結処理(凍結速度:例えば1
分間当たり数千℃)等によって凍結微細粒子(例えば50μm以下)にしておき、これを高
10
速(例えば約300m/s)の搬送ガスによって衝突板に衝突させることで効率的に細胞を破
砕することができる。
【0032】
上記のような処理を行うことで、細胞は破砕され、目的タンパク質を含む細胞内タンパ
ク質が漏出し、細胞破砕片(破砕処理によって生じた細胞の一部)を含む細胞破砕液を得
ることができる。なお、目的タンパク質と共に、細胞内の核酸も漏出し得る。漏出した核
酸が原因で、処理液の粘度が上昇してハンドリングが困難になる場合、あるいは、後段の
細胞破砕片除去工程において目的タンパク質回収率が低下する場合には、必要に応じて、
核酸除去処理または核酸分解処理を行うことができる。細胞破砕液中の核酸を除去または
分解する方法としては、目的タンパク質回収率を低下させず、かつ、核酸を除去または分
20
解することができる方法であればいかなる方法でも良く、例えば、生化学実験講座5巻20
0∼201頁に記載されているように、細胞破砕液にプロタミン硫酸あるいはストレプトマイ
シンを添加することにより核酸を沈澱させる方法、核酸分解酵素で核酸を分解する方法、
デキストラン−ポリエチレングリコールを用い液々分離を行う方法等が挙げられる。また
、物理的破砕処理をさらに追加することも有効である場合がある。 これら方法のうち、
特に、工程の煩雑化を避けつつ迅速に核酸を分解したい場合には、核酸分解酵素で核酸を
分解する方法を採ることができる。核酸分解酵素処理に用いる核酸分解酵素は、少なくと
もデオキシリボ核酸(DNA)に作用し、核酸分解反応触媒能力を有し、DNA重合度を下げる
ものであればいかなるものでもよく、該形質転換体細胞内に本来存在する核酸分解酵素を
利用してもよいが、別途、外因性の核酸分解酵素を添加してもよい。別途添加する核酸分
30
解酵素としては、例えば、ウシ脾臓由来DNaseI(タカラバイオ、日本)、ブタ脾臓由来DN
aseII(和光純薬、日本)、Serratia marcescens由来核酸分解酵素Benzonase Nuclease(
タカラバイオ、日本)、Nuclease from Staphylococcus aureus(和光純薬、日本)等が
挙げられる。添加する酵素量は酵素の種類やユニット数(U)の定義により異なるが、当
業者であれば適宜設定することができる。必要に応じて、核酸分解酵素に要求されるマグ
ネシウム等の補因子を添加しても良い。処理温度は用いる核酸分解酵素によって異なるが
、常温生物種由来の核酸分解酵素であれば、例えば、20∼40℃の温度が用いられる。
【0033】
次に、上記のようにして得られたタンパク質および細胞破砕片を含有する細胞破砕液に
両性界面活性剤を添加する(工程C)。
40
【0034】
一般に、界面活性剤とは、少量で界面または表面の性質を変化させる物質であり、両性
界面活性剤とは、界面活性剤のうち、水に溶解してイオンに解離し、分子内に陽イオン性
官能基と陰イオン性官能基を一つ以上有する界面活性物質を言う。両性界面活性剤は、塩
基性条件下は陰イオン性を、酸性条件下では陽イオン性を示す。本発明において用いる両
性界面活性剤は、目的タンパク質の機能(目的タンパク質が酵素である場合にはその活性
をいう。以下、同様。)を消失させずに細胞破砕液からの細胞破砕片除去を効率よく達成
しうるものであれば如何なるものでもよいが、分子内の陰イオン性官能基がカルボン酸ま
たはスルホン酸であることが好ましく、その分子量は1000以下であることが好ましい。本
発明において用いることが好ましい両性界面活性剤の具体的な態様としては、例えば、ア
50
(9)
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ルキルアミノ脂肪酸またはその塩、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシドが挙げら
れ、より好ましくはアルキルジアミノエチルグリシンおよびその塩が挙げられ、さらに具
体的には塩酸アルキルジアミノエチルグリシンおよびアルキルジアミノエチルグリシンナ
トリウムが挙げられる。
【0035】
これらの両性界面活性剤は、単独若しくは二種類以上を組み合わせて用いることができ
、さらには他の物質、例えば高分子凝集剤等と組み合わせて用いることを妨げない。細胞
破砕液への両性界面活性剤の添加量は、その種類や細胞濃度によって異なり、目的タンパ
ク質の機能を消失させずに細胞破砕液からの細胞破砕片の除去を効率よく達成しうる濃度
であれば限定されるものではない。例えば、大腸菌細胞破砕液に対して塩酸アルキルジア
10
ミノエチルグリシンを添加する場合、破砕した大腸菌細胞の乾燥質量100質量部に対し
、1∼50質量部、好ましくは2∼40質量部、より好ましくは5∼30質量部、さらに
好ましくは10∼20質量部を添加すればよい。細胞破砕液に両性界面活性剤を添加した
後は、両性界面活性剤が均一に溶解するように撹拌を行う。 例えば、1分間から24時間
、好ましくは3分間から12時間、より好ましくは5分間から1時間程度撹拌する。両性界面
活性剤が均一に溶解した後は、静置することもできる。細胞破砕液に両性界面活性剤を添
加する際または添加後の温度およびpHは、目的タンパク質の機能を消失させずに細胞破砕
液からの細胞破砕片除去を効率よく達成しうる濃度であれば限定されるものではない。例
えば、温度は0℃∼50℃、好ましくは0∼30℃、さらに好ましくは0∼10℃とすればよく、p
Hは4∼10、好ましくは5∼9、さらに好ましくは6∼8とすればよい。pHの調整が必要な場合
20
には、酸またはアルカリを添加したり、緩衝液を加えたりしてもよい。また、目的タンパ
ク質を安定化するような物質を添加してもよい。
【0036】
両性界面活性剤の添加後に細胞破砕液または細胞破砕片に見かけ上の変化が生じること
は必ずしも必要ではないが、細胞破砕液中の細胞破砕片の大きさが変化することが好まし
い。例えば、細胞の培養条件や保存状態、破砕方法にもよるが、大腸菌細胞破砕片を高圧
(100MPa)で2回破砕して得られる細胞破砕液に含まれる細胞破砕片の平均粒径は、通常
、0.5μm∼1μm程度であるが、本発明に従って両性界面活性剤を添加すると、平均粒径は
1.5μm以上になり得る。細胞破砕片の平均粒径は、例えば、画像解析法、コールター法、
遠心沈降法、レーザー回折散乱法などにより求めることができる。
30
【0037】
次に、上記のように得られた両性界面活性剤を添加した細胞破砕液から細胞破砕片を除
去する(工程D)。
【0038】
細胞破砕片を除去する方法としては、自然沈降、遠心分離、ろ過等の方法を用いること
ができる。好ましくは、遠心分離またはろ過である。
遠心分離は前述のとおり行うことができる。すなわち、細胞を沈降させる遠心力が供給
できるものであれば特段限定されることはなく、円筒型や分離板型等を利用することがで
きる。遠心力としては、例えば、500G∼20,000G程度で行うことができる。本発明に従い
、細胞破砕液に両性界面活性剤をすることにより、細胞破砕片は沈殿しやすくなり、効率
40
よく分離を行うことができる。
【0039】
ろ過は、MF膜またはUF膜を用いたろ過は前述の通り行うことができる。本発明における
好ましい態様の一つとして、ろ過助剤を併用したろ紙またはろ布による加圧ろ過が挙げら
れる。ろ紙は、細胞破砕液から細胞破砕片を効率よく除去でいるものであれば如何なるも
のでもよく、精製した綿繊維(セルロース)主体としたものあるいはガラス繊維ろ紙等が
挙げられ、例えば、JIS P3801の規定による定性分析用(1∼4種)および定量分析用(5種
A∼Cおよび6種)のいずれかを用いることができる。好ましくは、3種、5種A、5種B、6種
、7種等を用いることができる。また、ろ布も、細胞破砕液から細胞破砕片を効率よく除
去でいるものであれば如何なるものでもよい。ろ布の材質としては、例えば、ポリプロピ
50
(10)
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レン、ポリエステル、ポリアミド(ナイロン)、塩化ビニリデン、ビニロン、綿等のもの
を用いることができる。ろ布の糸の形態としては、例えば、スパン糸(短繊維糸) 、マル
チフィラメント糸(長繊維糸) 、モノフィラメント糸(長単繊維糸) 、分割型極細繊維糸等
のものを用いることができる。ろ布の組織としては、平織、綾織、二重織、フェルト、朱
子織等が挙げられる。ろ布の通気性としては、例えば、0.01∼50(cm3/cm2・sec)ものを
用いることができる。なお、工業的スケールでの加圧ろ過の具体的な型式としては、フィ
ルタープレス(圧搾ろ過)、加圧葉状ろ過機、連続加圧式ドラムフィルター、スクリュー
プレス、ベルトプレス等が挙げられる。例えば、フィルタープレスを用いて行うことがで
きる。
【0040】
10
ろ紙またはろ布と併用するろ過助剤は、細胞破砕液から細胞破砕片を効率よく除去でき
るものであれば如何なるものでもよい。例えば、珪藻土、パーライト(真珠岩)のほか、
活性炭、セルロース系ろ過助剤等も用いることができる。珪藻土の具体的な例としては、
例えば、ラジオライト#100、#200、#300、#500、#500S、#600、#700、#800、#800S、#90
0、#2000、#3000、ファインフローA、ファインフローB、スパークルフローおよびスペシ
ャルフロー(昭和化学工業(株)、日本)、セライトFilter Cel、#577、Standard Super
Cel、#512、Hyflo Super Cel、#503、#535、#545および#560(ワールドミネラルズ社、
米国)、ダイカライト#215、Superaid、UF、Speedflow、#231、Speedplus、#375、SpeedE
X(グレフコ社、米国)等を挙げられる。パーライトの具体的な例としては、トプコ#31、
#34、#36および#38(昭和化学工業(株)、日本)、ロカヘルプ#419、#429、#439、#479
20
、#4109、#4159および#4189(三井金属鉱業(株)、日本)等が挙げられる。活性炭の具
体的な例としては、白鷺C、白鷺M、白鷺A、白鷺P、カルボラフィン、強力白鷺、精製白鷺
および特製白鷺(日本エンバイロケミカルズ(株)、日本)、クラレコールPW、PKおよび
PDX(クラレケミカル(株)、日本)等が挙げられる。セルロース系ろ過助剤の具体的な
例としては、KCフロックW-50、W-100G、W-200G、W-300GおよびW-400G(日本製紙ケミカル
ス(株)、日本)、セラ・フロックおよびアルボセル(昭和化学工業(株)、日本)等が
挙げられる。
【0041】
ろ過助剤は、プリコートまたはボディーフィードのいずれかの方法により用いることが
できる。プリコートとは、ろ材面にろ過助剤の薄い皮膜を形成する工程または方法をいう
30
。プリコートを行うことにより、ろ過の初期から清澄度の高いろ液を得ることができる。
また、細胞破砕片が含まれたろ過ケーキの剥離を容易にし、ろ材の目詰まりを防止するこ
とができる。プリコートに用いるろ過助剤を懸濁する液は、細胞破砕液の一部を用いても
よい。また、単に水または緩衝液を用いてもよい。プリコートに用いるろ過助剤量として
は、例えば、0.5kg/m2∼2kg/m2が挙げられる。
【0042】
ボディーフィードとは、原液(細胞破砕液)にろ過助剤を添加しながらろ過を行う方法
をいう。ボディーフィードを行うことにより、圧縮性粒子の抵抗が小さくなり、時間当た
りのろ過量が増大し、かつろ材が目詰まりを起こすまでの時間も延長することができる。
ボディーフィードに用いるろ過助剤の量は、ろ過を効率よく行いうる量であれば限定され
40
るものではなく、また、細胞の種類やその培養条件あるいは破砕方法、添加する両性界面
活性剤の種類や濃度、ろ過助剤の種類等によって適宜選択される。例えば、破砕した大腸
菌細胞の乾燥質量100質量部に対し、50∼500質量部、好ましくは100∼500
質量部、より好ましくは150∼500質量部の量を用いることができる。
【0043】
ろ過時の圧力は、ろ過を効率よく行いうる圧力であれば限定されるものではなく、ろ材
の耐圧等を考慮して定めればよい。例えば、0.05MPa∼1MPa、好ましくは0.1MPa∼1MPa程
度、より好ましくは0.2MPa∼1MPa程度の圧力で行うことができる。
【0044】
得られたろ液は、目的タンパク質を含むタンパク質含有溶液とすることができる。タン
50
(11)
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パク質含有溶液は、必要に応じ、酸、アルカリあるいは緩衝液成分を添加してpHを調整し
たり、目的タンパク質を安定化するような物質を添加したりすることもできる。該タンパ
ク質溶液は、その用途に供するまでの間、目的タンパク質の機能(目的タンパク質が酵素
である場合にはその活性)が消失しない条件において、保存することができる。保存時の
温度は、冷蔵保存を行う場合には、例えば、0℃∼50℃、好ましくは0∼30℃、さらに好ま
しくは0∼10℃とすればよく、冷凍保存を行う場合には、例えば、-80℃∼0℃とすればよ
い。保存時のpHは、例えば、4∼10、好ましくは5∼9、さらに好ましくは6∼8とすればよ
い。
また、該タンパク質含有溶液は、必要に応じ、タンパク質の単離精製に用いられる一般
的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、各種クロマトグラフィー(例えばゲル
10
濾過クロマトグラフィー(例えばSephadexカラム)、イオン交換クロマトグラフィー(例
えばDEAE-Toyopearl)、アフィニティークロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー
(例えばbutyl Toyopearl)、陰イオンクロマトグラフィー(例えばMonoQカラム)等)、
SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動等等の処理に供し、目的タンパク質を濃縮、単離ま
たは精製することもできる。
【0045】
かくして得られたタンパク質含有溶液は、タンパク質の機能に従い、目的とする用途に
使用することができる。目的タンパク質が酵素である場合には、適切な基質と接触させる
ことにより、酵素反応の触媒として利用することができる。また、必要に応じ、目的タン
パク質を固定化して酵素反応の触媒としてもよい。固定化の方法および固定化担体として
20
は、例えば、担体結合法による多糖(セルロース,アガロース)や無機物質(多孔質ガラ
ス,金属酸化物)、合成高分子(ポリアクリルアミド,ポリスチレン樹脂)等への固定化
、架橋法によるグルタルアルデヒド等への固定化、包括法による多糖(アルギン酸,カラ
ギーナン)、ポリアクリルアミド、ナイロン等への固定化等が挙げられる。
【0046】
ここで、本発明におけるタンパク質の具体的な態様の一つとして、ハロヒドリンエポキ
シダーゼについて詳細に説明する。
【0047】
ハロヒドリンエポキシダーゼは、ハロヒドリンハイドロゲンハライドリアーゼ、ハロヒ
ドリンデハロゲナーゼまたはハロアルコールデハロゲナーゼとも称され、後述するように
30
、1,3−ジハロ−2−プロパノールをエピハロヒドリンに変換する活性およびその逆反
応を触媒する活性を有する酵素(EC number: 4.5.1.-)である。ハロヒドリンエポキシダ
ーゼは、アミノ酸配列の相同性などから、3つのグループ(グループA, グループB、グル
ープC)に大別される(J.Bacteriology 183(17), 5058-5066, 2001)。グループAに属す
るハロヒドリンエポキシダーゼとしては、コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.
)N-1074株由来のHheA(Biosci. Biotechnol. Biochem. 58 (8), 1451-1457, 1994)、ア
ースロバクター属(Arthrobacter sp.)AD2株由来のHheAAD2(J.Bacteriology 183(17),
5058-5066, 2001)、アースロバクター属(Arthrobacter sp.)PY1株由来のDeh-PY1(J.
Health. Sci.50 (6), 605-612, 2004)などが挙げられる。グループBに属するハロヒド
リンエポキシダーゼとしては、コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)N-1074株
40
由来のHheB(Biosci. Biotechnol. Biochem. 58 (8), 1451 (1994))、マイコバクテリウ
ム属(Mycobacterium sp.)GP1株由来のHheBGP1(J.Bacteriology 183(17), 5058-5066,
2001)、アースロバクター エリシー(Arthrobacter erithii)H10a株由来のDehA(Enz
. Microbiol. Technol. 22, 568-574, 1998)などが挙げられる。グループCに属するハロ
ヒドリンエポキシダーゼとしては、アグロバクテリウム ラジオバクター(Agrobacteriu
m radiobacter) AD1株由来のHheC(J.Bacteriology 183(17), 5058-5066, 2001)、ア
グロバクテリウム チュメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens) 由来のHalB(ht
tp://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/viewer.fcgi?db=protein&val=4960076#feature_4960
076)などが挙げられる。
【0048】
50
(12)
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ここで、上記のハロヒドリンエポキシダーゼは、いわゆる野生型ハロヒドリンエポキシ
ダーゼである。野生型ハロヒドリンエポキシダーゼとは、自然界の生物より分離されうる
ハロヒドリンエポキシダーゼを指し、該酵素を構成するアミノ酸配列において、意図的ま
たは非意図的なアミノ酸の欠失、付加、挿入、もしくは他のアミノ酸への置換がなく、天
然由来の属性を保持したままのハロヒドリンエポキシダーゼを意味する。
【0049】
上述した野生型ハロヒドリンエポキシダーゼのうち、アミノ酸配列が明らかにされてい
るものについては、米国生物工学情報センター (NCBI; National Center for Biotechnol
ogy Information) により提供されるGenBankデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.go
v/entrez/query.fcgi?CMD=search&DB=protein)において、以下のAccession No.により登
10
録されている。
【0050】
Accession No. BAA14361(コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)N-1074株由来
のHheAのアミノ酸配列)
Accession No. AAK92100(アースロバクター属(Arthrobacter sp.)AD2株由来のHheAAD2
のアミノ酸配列)
Accession No. BAA14362(コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)N-1074株由来
のHheBのアミノ酸配列)
Accession No. AAK73175(マイコバクテリウム属(Mycobacterium sp.)GP1株由来のHheB
GP1のアミノ酸配列)
20
Accession No. AAK92099(アグロバクテリウム ラジオバクター(Agrobacterium radiob
acter) AD1株由来のHheCのアミノ酸配列)
Accession No. AAD34609(アグロバクテリウム チュメファシエンス(Agrobacterium tu
mefaciens) 由来のHalBのアミノ酸配列)
【0051】
本発明で例示するハロヒドリンエポキシダーゼには、上記野生型ハロヒドリンエポキシ
ダーゼに加え、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼのアミノ酸配列において1以上のアミ
ノ酸残基の欠失、付加、挿入または他のアミノ酸残基への置換が生じたハロヒドリンエポ
キシダーゼ(以下、ハロヒドリンエポキシダーゼ変異体と称することがある)をも含む。
特に、ハロヒドリンエポキシダーゼ変異体のうち、酵素としての性能が向上したもの(改
30
良型ハロヒドリンエポキシダーゼ)は、本発明の方法により製造される好適なタンパク質
の一例である。
【0052】
改良型ハロヒドリンエポキシダーゼとしては、例えば、形質転換体あたりのハロヒドリ
ンエポキシダーゼ活性、立体選択性、生成物阻害耐性、生成物蓄積能などが向上したもの
等が挙げらる。これら改良型ハロヒドリンエポキシダーゼには、形質転換体あたりのハロ
ヒドリンエポキシダーゼ活性が、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼよりも高くなる属性
を有するもの、基質1,3−ジハロ−2−プロパノールまたはエピハロヒドリンから、エ
ピハロヒドリンまたは4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを生成させた場合の該生
成物の光学純度が、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼにより同基質から同生成物を生成
させた場合の該生成物の光学純度よりも高くなるという属性を有するもの、1,3−ジハ
ロ−2−プロパノールまたはエピハロヒドリンからの生成物である塩化物イオンまたは4
−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルによる反応阻害に対する耐性が野生型ハロヒドリ
ンエポキシダーゼよりも向上しているもの、基質1,3−ジハロ−2−プロパノールまた
はエピハロヒドリンから、エピハロヒドリンまたは4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニト
リルを生成させる場合に、生成物を高濃度生成および蓄積させることができるという属性
を有するものなどが含まれる。
【0053】
1,3−ジハロ−2−プロパノールとは、以下に示す化合物である。
40
(13)
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【化1】
10
(式中、X1、X2はハロゲン原子)
【0054】
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が好ましく、塩素、臭素が特に好
ましい。具体的には1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,3−ジクロロ−2−プ
ロパノール(以下、「DCP」と称することがある)、1,3−ジブロモ−2−プロパノ
ール、1,3−ジヨード−2−プロパノール等が挙げられ、好ましくは、1,3−ジクロ
ロ−2−プロパノール、1,3−ジブロモ−2−プロパノールである。
【0055】
20
エピハロヒドリンとは、以下に示す化合物である。
【化2】
30
(式中、Xはハロゲン原子)
【0056】
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が好ましく、塩素、臭素が特に好
ましい。具体的にはエピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン(以下、「ECH」と称
することがある)、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリン等が挙げられ、特に好まし
くはエピクロロヒドリン、エピブロモヒドリンである。
【0057】
4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルとは、以下に示す化合物である。
40
(14)
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【化3】
10
(式中、Xはハロゲン原子)
【0058】
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が好ましく、塩素、臭素が特に好
ましい。具体的には4−フルオロ−3−ヒドロキシブチロニトリル、4−クロロ−3−ヒ
ドロキシブチロニトリル(以下、「CHBN」と称することがある)、4−ブロモ−3−
ヒドロキシブチロニトリル、4−ヨード−3−ヒドロキシブチロニトリル等が挙げられ、
好ましくは、4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリル、4−ブロモ−3−ヒドロキシ
ブチロニトリルである。
【0059】
20
エピハロヒドリンは種々の医薬品や生理活性物質の合成原料として有用な物質である。
例えば、(R)−エピハロヒドリンの開環シアノ化によって得られる(R)−(−)−4
−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルは、L−カルニチンの合成原料として有用である
ことが知られている(特開昭57−165352号公報)。
【0060】
本発明において、「ハロヒドリンエポキシダーゼ活性」とは、1,3−ジハロ−2−プ
ロパノールをエピハロヒドリンに変換する活性およびその逆反応を触媒する活性を意味す
る。「ハロヒドリンエポキシダーゼ活性」は、時間あたりの1,3−ジハロ−2−プロパ
ノールからのエピハロヒドリン生成量または塩化物イオン生成量を測定することにより求
めることができる。エピハロヒドリン生成量は、例えば、液体クロマトグラフィーやガス
30
クロマトグラフィーなどによって定量することができる。また、塩化物イオン生成量は、
例えば、その塩化物イオンの生成に伴って低下するpHをある一定の値に保つように連続的
または断続的にアルカリ溶液を添加し、時間あたりに要したアルカリの量から便宜的に求
めることができる。この方法により算出されるハロヒドリンエポキシダーゼ活性を、特に
「脱クロル活性」あるいは単に「活性」と呼ぶことがある。また、改良型ハロヒドリンエ
ポキシダーゼに対する抗体を作製し、ウェスタンブロットやELISA法などの免疫学的手法
によっても算出することが可能である。その他、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性が形質
転換体内における発現量と比例すると仮定する場合は、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性
が既知であるサンプルと比較することなどにより、SDS-PAGEなどの分析手段によっても間
接的に求めることができる。SDS-PAGEは当業者であれば公知の方法を用いて行うことがで
40
きる。
【0061】
なお、少なくとも一部のハロヒドリンエポキシダーゼについては、上述の「ハロヒドリ
ンエポキシダーゼ活性」に加え、シアン化合物の存在下にエピハロヒドリンを開環シアノ
化して4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを生成する反応を触媒する活性を有する
。すなわち、上述した1,3−ジハロ−2−プロパノールをエピハロヒドリンに変換する
活性およびその逆反応を触媒する活性に加え、シアン化合物の存在下にエピハロヒドリン
を開環シアノ化して4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを生成する反応を触媒する
ことが明らかになっている。
【0062】
50
(15)
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その反応を利用した例として、1,3−ジハロ−2−プロパノールから光学活性4−ハ
ロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを製造する方法(特開平03−053889号公報、
特開2001−25397号公報)およびエピハロヒドリンから光学活性4−ハロ−3−ヒ
ドロキシブチロニトリルを製造する方法(特開平03−053890号公報)が知られて
いる。この場合におけるシアン化合物としては、シアン化水素、シアン化カリウム(以下
、「KCN」と称することがある)、シアン化ナトリウム、シアン酸又はアセトンシアン
ヒドリン等の反応液中に添加した際にシアンイオン(CN−)又はシアン化水素を生じる
化合物又はその溶液等が挙げられる。
【0063】
本発明おいて、「形質転換体あたりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性」とは、「形質
10
転換体乾燥菌体単位質量あたりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性」を意味し、「菌体比
活性」とも称する(なお、本明細書中、乾燥菌体を「DC」と称することがある)。また、
「可溶性タンパク質あたりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性」とは、「可溶性タンパク
質単位質量あたりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性」を意味し、「タンパク比活性」と
も称する。さらに、本発明においては、便宜的に、一定量の形質転換体からは一定量の可
溶性タンパク質を得ることができるものとし、「菌体比活性」は「タンパク比活性」に比
例するものとする。すなわち、「タンパク比活性」が高ければ(低ければ)、「菌体比活
性」が高い(低い)ものとする。また、本発明において、「液活性」とは、単位溶液量あ
たりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性を意味する。「液活性」を、その溶液の菌濃度あ
るいは可溶性タンパク質濃度で除することにより、「菌体比活性」あるいは「タンパク比
20
活性」を算出することができる。また、本発明において「活性回収率」とは、一定の操作
前の活性を100%として、操作後に回収された活性の相対比(%)を意味する。また、「光
学活性」なる語は、一方の鏡像異性体が他方の鏡像異性体よりも多く含まれている物質の
状態、またはいずれか一方の鏡像異性体のみから成っている物質の状態を言う。また、「
光学純度」とは、「鏡像異性体過剰率(%ee)」にほぼ等しいものであるとし、次式で定
義するものとする。
【0064】
光学純度≒鏡像異性体過剰率=100×(│[R]-[S]│)/([R]+[S]) (%ee)
【0065】
ここで[R]と[S]は資料中の鏡像異性体のそれぞれの濃度を示す。また、「立体選択性」
30
とは、ハロヒドリンエポキシダーゼが、基質から生成物を生成する際に、いずれか一方の
鏡像異性体が生成する反応を優先的に触媒する性質を言うものとする。
【0066】
前記培養物中からハロヒドリンエポキシダーゼを単離精製は、疎水クロマトグラフィー
(例えばbutyl Toyopearl)、陰イオンクロマトグラフィー(例えばMonoQカラム)等、SD
Sポリアクリルアミドゲル電気泳動等を単独でまたは適宜組み合わせて用いることにより
、前記培養物中からハロヒドリンエポキシダーゼを単離精製することができる。単離した
ハロヒドリンエポキシダーゼは、上述の細胞または菌体と同様に、適当な担体に保持し固
定化酵素として使用することもできる。
【0067】
40
上述のようにして製造されたハロヒドリンエポキシダーゼ含有溶液またはそれに含まれ
るハロヒドリンエポキシダーゼは、酵素触媒として物質生産に利用することができる。す
なわち、以下(1)∼(3)に示す変換反応に供することができる。
【0068】
(1)1,3−ジハロ−2−プロパノールのエピハロヒドリンへの変換
本変換反応は、1,3−ジハロ−2−プロパノールを上述のようにして製造されたハロ
ヒドリンエポキシダーゼ含有溶液またはそれに含まれるハロヒドリンエポキシダーゼと接
触させることにより行う。基質である1,3−ジハロ−2−プロパノールは、式(1)に
示す化合物である。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が好ましく、塩
素、臭素が特に好ましい。具体的には1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,3−
50
(16)
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ジクロロ−2−プロパノール、1,3−ジブロモ−2−プロパノール、1,3−ジヨード
−2−プロパノール等が挙げられ、好ましくは、1,3−ジクロロ−2−プロパノール、
1,3−ジブロモ−2−プロパノールである。
【0069】
変換反応液中の基質濃度は、 0.01∼15(W/V) %が好ましい。この範囲内であると酵素
安定性の観点から好ましく、0.01∼10%が特に好ましい。基質は反応液に一括添加あるい
は分割添加することができる。分割添加により基質濃度を一定にすることが蓄積性の観点
から望ましい。
【0070】
反応液の溶媒としては、酵素活性の最適pH4∼10の付近である水または緩衝液が好
10
ましい。緩衝液としては、例えば、リン酸、ホウ酸、クエン酸、グルタル酸、リンゴ酸、
マロン酸、o-フタル酸、コハク酸又は酢酸等の塩等によって構成される緩衝液、Tris
緩衝液あるいはグッド緩衝液等が好ましい。
【0071】
反応温度は、5∼50℃、反応 pH は4∼10の範囲で行うことが好ましい。反応
温度は、より好ましくは10∼40℃である。反応 pHは、より好ましくはpH6∼9
である。反応時間は基質等の濃度、菌体濃度あるいはその他の反応条件等によって適時選
択するが、1∼120 時間で終了するように条件を設定するのが好ましい。尚、本反応
においては、反応の進行に伴い生成する塩素イオンを反応系内から取り除くことにより、
光学純度をより一層向上させることができる。この塩素イオンの除去は、硝酸銀等の添加
20
によって行うことが好ましい。
【0072】
反応液中に生成、蓄積したエピハロヒドリンは公知の方法を用いて採取および精製する
ことができる。例えば、酢酸エチル等の溶媒で抽出を行い、減圧下に溶媒を除去すること
によりエピハロヒドリンのシロップを得ることができる。また、これらのシロップを減圧
下に蒸留することによりさらに精製することもできる。
【0073】
(2)1,3−ジハロ−2−プロパノールの4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルへ
の変換
本変換反応は、1,3−ジハロ−2−プロパノールを上述のようにして製造されたハロ
30
ヒドリンエポキシダーゼ含有溶液またはそれに含まれるハロヒドリンエポキシダーゼと接
触させることにより行う。基質である1,3−ジハロ−2−プロパノールは、式(1)に
示す化合物である。好ましくは1,3−ジクロロ−2−プロパノール、1,3−ジブロモ
−2−プロパノール等である。
【0074】
また、シアン化合物としては、シアン化水素、シアン化カリウム、シアン化ナトリウム
、シアン酸又はアセトンシアンヒドリン等の反応液中に添加した際にシアンイオン(CN
−
)又はシアン化水素を生じる化合物又はその溶液を用いることができる。反応液中の基
質濃度は、 酵素安定性の観点から0.01∼15(W/V) %が好ましく、0.01∼10%が特に好ま
しい。また、シアン化合物の使用量は、酵素安定性の観点から基質の1∼3倍量(モル)
40
が好ましい。
【0075】
反応条件は、上記(1)と同様に行うことができる。反応液中に生成、蓄積した4−ハ
ロ−3−ヒドロキシブチロニトリルは公知の方法を用いて採取および精製することができ
る。例えば、反応液から遠心分離等の方法を用いて菌体を除いた後、酢酸エチル等の溶媒
で抽出を行い、減圧下に溶媒を除去することにより4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニト
リルのシロップを得ることができる。また、これらのシロップを減圧下に蒸留することに
よりさらに精製することもできる。
【0076】
(3)エピハロヒドリンの4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルへの変換
50
(17)
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本変換反応は、エピハロヒドリンを上述のようにして製造されたハロヒドリンエポキシ
ダーゼ含有溶液またはそれに含まれるハロヒドリンエポキシダーゼと接触させることによ
り行う。基質であるエピハロヒドリンは、式(2)に示す化合物である。ハロゲン原子と
しては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が好ましく、塩素、臭素が特に好ましい。具体的に
はエピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリ
ン等が挙げられ、特に好ましくはエピクロロヒドリン、エピブロモヒドリンである。
【0077】
また、シアン化合物はシアン化水素、シアン化カリウム、シアン化ナトリウム、シアン
酸又はアセトンシアンヒドリン等の反応液中に添加した際にシアンイオン(CN−)又は
シアン化水素を生じる化合物又はその溶液を用いることができる。反応条件、採取および
10
精製方法は、上記(2)と同様に行うことができる。
【0078】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例1】
【0079】
発現プラスミドおよび形質転換体の作製
コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)N-1074株由来のハロヒドリンエポキシ
ダーゼHheB(Biosci. Biotechnol. Biochem. 58 (8), 1451 (1994))であって、2番目の
開始コドンから翻訳されるHheB(2nd)のアミノ酸配列(配列番号1)において、
(1) N末端から2番目のアラニン残基がリジン(A2Kと称す)に、199番目のアスパラギ
20
ン酸残基がヒスチジン(D199Hと称す)にそれぞれ置換された改良型ハロヒドリンエポキ
シダーゼ(以下、HheB(2nd)-D199Hと呼ぶことがあり、そのアミノ酸配列は配列番号2で
示される)を発現する発現プラスミドpSTK002-D199H、
(2) N末端から2番目のアラニン残基がリジンに、133番目のスレオニン残基アラニン(
T133Aと称す)に、199番目のアスパラギン酸残基がヒスチジンにそれぞれ置換された改良
型ハロヒドリンエポキシダーゼ(以下、HheB(2nd)-T133A+D199Hと呼ぶことがあり、その
アミノ酸配列は配列番号3で示される)を発現する発現プラスミドpSTK002-T133A+D199H
、
(3) N末端から2番目のアラニン残基がリジンに、133番目のスレオニン残基アラニンに
、136番目のフェニルアラニン残基がセリン(F136Sと称す)に、199番目のアスパラギン
30
酸残基がヒスチジンにそれぞれ置換された改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ(以下、Hh
eB(2nd)-T133A+F136S+D199Hと呼ぶことがあり、そのアミノ酸配列は配列番号4で示され
る)を発現する発現プラスミドpSTK002-T133A+F136S+D199H、
をそれぞれ以下のように作製した。発現ベクターとしてpKK233-2(Centraalbureau voor
Schimmelcultures (CBS)、オランダ;http://www.cbs.knaw.nl/)を、宿主として大腸菌W
3110株を用いた。
【0080】
まず、発現プラスミドpSTK002を鋳型とし、プライマーMDH-09およびMDH-10を用いて、D
199H部位特異的変異の導入を行った。なお、プラスミドpSK002は、以下のように調製した
。まずは、翻訳開始コドンによりコードされるアミノ酸残基の1残基下流のアミノ酸残基
(2番目のアミノ酸残基)がリジンに置換された改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを発
現する発現プラスミド(発現ベクターpKK233-2)を以下のように作製した。
ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子hheB(2nd)をPCRにより増幅した。PCR反応液組成(
全量50μl)は表1の通りである。
【0081】
<表1>
40
(18)
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10
プライマーとして用いたオリゴヌクレオチドの配列は以下の通りである。
DH-09:GATCATGAAAAACGGAAGACTGGCAGGCAAGCG(配列番号5:33ヌクレオチドからなり、そ
の配列中に制限酵素BspHI認識部位(TCATGA)およびハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子h
heB(2nd)の翻訳開始コドン以降を有し、2番目のアミノ酸に対応するコドンはAAAでリジ
20
ンをコードする)
DH-07:CGCCTGCAGGCTACAACGACGACGAGCGCCTG (配列番号6:32ヌクレオチドからなり、そ
の配列中に制限酵素Sse8387I兼PstI認識部位(CCTGCAGG)およびハロヒドリンエポキシダ
ーゼ遺伝子hheB(2nd)終止コドン下流領域を有する)
【0082】
また、鋳型として用いたpST111は、特公平5−317066公報に記載されており、pS
T111を含む組換えベクターによる大腸菌形質転換体JM109/pST111は、受託番号「FERM P-1
2065」として独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに平成3年3月1
日付けで寄託されている。
【0083】
30
調製した50μlのPCR反応液をそれぞれ表2の熱サイクル処理に供した。
<表2>
40
【0084】
熱サイクル処理を行ったのPCR反応液をGFX PCR DNA band and GelBand Purification k
it(GEヘルスケアバイオサイエンス)により精製した後、制限酵素BspHIとPstIで二重消
50
(19)
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化を行った。消化産物をアガロースゲル電気泳動で分離後、ハロヒドリンエポキシダーゼ
遺伝子全長を含むバンド(約0.8kb)をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)で精製し
た。一方、pKK233-2(Centraalbureau voor Schimmelcultures (CBS)、オランダ;http:/
/www.cbs.knaw.nl/)の誘導体であり、WO2006/041226号に記載の方法によ
り調製することができる発現ベクターpKK233-2(+Sse)を、制限酵素NcoIとPstIで消化後、
フェノール抽出・クロロホルム抽出・エタノール沈殿(Molecular Cloning, A Laborator
y Manual, 2nd ed.(Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)))により精製した。
これを、上述のハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子全長を含むPCR増幅産物と混合した後
、該混合液にSolution I(DNA Ligation Kit ver.2(タカラバイオ)を添加してライゲー
ション混合物を作った。この混合物を12時間、16℃でインキュベートすることでPCR増幅
10
産物と発現ベクターpKK233-2(+Sse)を結合した。
【0085】
予め調製しておいた大腸菌JM109株コンピテントセル(大腸菌 JM109株をLB培地(1% バ
クトトリプトン、0.5%バクトイーストエキス、0.5% NaCl) 1mlに接種し37℃、5時間好気
的に前培養した後、前培養液 0.4mlをSOB培地 40ml(2%バクトトリプトン、0.5%バクトイ
ーストエキス、10mM NaCl 、2.5mM KCl 、1mM MgSO4 、1mM MgCl2 ) に加え、18℃で20時
間培養し、得られた培養物を遠心分離(3,700×g、10分間、4℃)により集菌した後、冷T
F溶液 (20 mM PIPES−KOH (pH 6.0)、200 mM KCl 、10 mM CaCl2 、40mM MnCl2)を13 ml
加え、0℃で10分間放置し、再度遠心分離(3,700×g、10分間、4℃)して上清を除いき、
得られた大腸菌菌体を冷TF溶液 3.2 mlに懸濁し、0.22 mlのジメチルスルホキシドを加え
20
0℃で10分間放置した後、液体窒素を用いて-80℃にて保存しておいたもの)200μlを、上
記ライゲーション産物10μlに加え、0℃で30分放置した。続いて、当該コンピテントセル
に42℃で30秒間ヒートショックを与え、0℃で2分間冷却した。その後、SOC 培地 (20 mM
グルコース、2%バクトトリプトン、0.5%バクトイーストエキス、10 mM NaCl、2.5 mM KCl
、1 mM MgSO4、1mM MgCl2)を1ml添加し、37℃にて1時間振盪培養した。培養後の培養液2
00μlを、LB Amp寒天培地(アンピシリン 100mg/L 、1.5%寒天を含有するLB培地)に塗
布し、37℃で一晩培養した。寒天培地上に生育した形質転換体コロニー複数個を、1.5ml
のLB Amp培地(アンピシリン 100mg/Lを含有するLB培地)にて37℃で一晩培養した。得ら
れた培養液を各々集菌後、Flexi Prep(GEヘルスケアバイオサイエンス)を用いて組換え
プラスミドを回収した。キャピラリーDNAシーケンサーCEQ2000(ベックマン・コールター)
30
を用いて、添付のマニュアルに従って、プラスミド中にクローニングされているPCR増幅
産物の塩基配列を解析し、PCR反応におけるエラー変異が生じていないことを確認した。P
CR増幅由来DNA断片がクローニングされたプラスミドをpSTK002と命名し、また、そのプラ
スミドを含む大腸菌JM109株形質転換体を、JM109/pSTK002と命名した。
【0086】
上記プラスミド(pSTK002)の特徴は以下の通りである。
pSTK002:2番目のアミノ酸残基(アラニン残基)がリジンに置換されている改良型ハ
ロヒドリンエポキシダーゼHheB(2nd)をコードする改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺
伝子が発現ベクターpKK233-2上にクローニングされている。
【0087】
40
次に、T133A、F136SおよびD199Hの各アミノ酸残基置換を生じさせるプライマーとして
、以下のものを作製した。
【0088】
・MDH-09:CGACTGCCCGAGAGCACGCGCTGCTCGCG(配列番号7:29ヌクレオチドからなり、配
列番号1で示されるアミノ酸配列からなるハロヒドリンエポキシダーゼHheB(2nd)の199番
目のアスパラギン酸残基をコードするコドン(GAC)がヒスチジンをコードするコドン(C
AC)に変更されているセンスプライマー)
【0089】
・MDH-10:CGCGAGCAGCGCGTGCTCTCGGGCAGTCG(配列番号8:29ヌクレオチドからなり、MDH
-09の相補配列を有するアンチセンスプライマー)
50
(20)
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【0090】
・MDH-05:CGCTGGCCTACAGCGCGGCGCGTTTCGCT(配列番号9:29ヌクレオチドからなり、配
列番号1で示されるアミノ酸配列からなるハロヒドリンエポキシダーゼHheB(2nd)の133番
目のスレオニン残基をコードするコドン(ACG)がアラニンをコードするコドン(GCG)に
変更されているセンスプライマー)
【0091】
・MDH-06:AGCGAAACGCGCCGCGCTGTAGGCCAGCG(配列番号10:29ヌクレオチドからなり、M
DH-06の相補配列を有するアンチセンスプライマー)
【0092】
・MDH-28:CGCTGGCCTACAGCGCGGCGCGTTCCGCT(配列番号11:29ヌクレオチドからなり、
10
配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるハロヒドリンエポキシダーゼHheB(2nd)の133
番目のスレオニン残基をコードするコドン(ACG)がアラニンをコードするコドン(GCG)
に、136番目のフェニルアラニン残基をコードするコドン(TTC)がセリンをコードするコ
ドン(TCC)にぞれぞれ変更されているセンスプライマー)
【0093】
・MDH-29:AGCGGAACGCGCCGCGCTGTAGGCCAGCG(配列番号12:29ヌクレオチドからなり、M
DH-28の相補配列を有するアンチセンスプライマー)
【0094】
部位特異的変異導入はQuickChange Site-Directed Mutagenesis Kit (STRATAGENE社)に
よって行った。反応液組成(全量50ul)は表3のとおりとした。
20
【0095】
<表3>
30
上記組成の各反応液について、表4の熱サイクル処理を行った。
【0096】
<表4>
(21)
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10
添付のマニュアルに従い、熱サイクル処理を行った各反応液にDpnIを1ul添加し、37℃
で1時間インキュベートした。
【0097】
大腸菌W3110株コンピテントセルは、大腸菌 W3110株をLB培地(1% バクトトリプトン、0
.5%バクトイーストエキス、0.5% NaCl) 1mlに接種し、37℃、5時間好気的に前培養した後
、前培養液 0.4mlをSOB培地 40ml(2%バクトトリプトン、0.5%バクトイーストエキス、10m
20
M NaCl 、2.5mM KCl 、1mM MgSO4 、1mM MgCl2 ) に加え、18℃で20時間培養し、得られ
た培養物を遠心分離(3,700×g、10分間、4℃)により集菌した後、冷TF溶液 (20 mM PIP
ES−KOH (pH 6.0)、200 mM KCl 、10 mM CaCl2 、40mM MnCl2)を13 ml加え、0℃で10分間
放置し、再度遠心分離(3,700×g、10分間、4℃)して上清を除き、得られた大腸菌菌体
を冷TF溶液 3.2 mlに懸濁し、0.22 mlのジメチルスルホキシドを加え0℃で10分間放置し
た後、液体窒素を用いて-80℃にて保存しておいたものを使用した。
【0098】
その大腸菌W3110株コンピテントセルを融解した溶液200ul に、上記DpnI処理液に加え
、0℃で30分放置した。続いて、42℃で30秒間ヒートショックを与え、0℃で2分間冷却し
た。その後、SOC 培地 (20 mM グルコース、2%バクトトリプトン、0.5%バクトイーストエ
30
キス、10 mM NaCl 、2.5 mM KCl 、1 mM MgSO4 、1mM MgCl2) 1mlを添加し、37℃にて1時
間振盪培養した。培養後の培養液を各200ulずつ、 LB Amp寒天培地(アンピシリン 100mg
/L 、1.5%寒天を含有するLB培地)に塗布し、37℃で一晩培養した。寒天培地上に生育し
た形質転換体コロニー複数個を 1.5mlのLB Amp培地(アンピシリン 100mg/Lを含有するLB
培地)にて37℃で一晩培養した。得られた培養液を各々集菌後、Flexi Prep(GEヘルスケ
アバイオサイエンス)を用いて組換えプラスミドを回収した。
【0099】
キャピラリーDNAシーケンサーCEQ2000(ベックマン・コールター)を用いて、添付のマニ
ュアルに従って塩基配列を解析し、HheB(2nd)遺伝子にD199H部位特異的変異が導入されて
いることを確認した。該プラスミド、該プラスミドを含む大腸菌W3110株形質転換体、該
40
形質転換体により生産されるハロヒドリンエポキシダーゼタンパク質をそれぞれpSTK002D199H、W3110/pSTK002-D199HおよびHheB(2nd)-D199Hと命名した。
【0100】
続いて、T133A部位特異的変異の導入を行った。鋳型としてpSTK002-D199Hを、センスプ
ライマーとしてMDH-05を、アンチセンスプライマーとしてMDH-06を用いること以外は、上
述したD199H部位特異的変異の場合と同様に、部位特異的変異導入、大腸菌W3110株形質転
換、プラスミド抽出および配列確認行った。得られたプラスミド、該プラスミドを含む大
腸菌W3110株形質転換体および該形質転換体により生産されるハロヒドリンエポキシダー
ゼタンパク質をそれぞれpSTK002-T133A+D199H、W3110/pSTK002-T133A+D199HおよびHheB(2
nd
)-T133A+D199Hと命名した。
50
(22)
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【0101】
さらに、F136S部位特異的変異の導入を行った。鋳型としてpSTK002-T133A+D199Hを、セ
ンスプライマーとしてMDH-28を、アンチセンスプライマーとしてMDH-29を用いること以外
は、上述したD199H部位特異的変異の場合と同様に、部位特異的変異導入、大腸菌W3110株
形質転換、プラスミド抽出および配列確認行った。得られたプラスミド、該プラスミドを
含む大腸菌W3110株形質転換体および該形質転換体により生産されるハロヒドリンエポキ
シダーゼタンパク質をそれぞれpSTK002-T133A+F136S+D199H、W3110/pSTK002-T133A+F136S
+D199HおよびHheB(2nd)-T133A+F136S+D199Hと命名した。
【実施例2】
【0102】
10
細胞の培養および細胞破砕液の調製
実施例1で得られた大腸菌形質転換体W3110/pSTK002-T133A+D199HおよびW3110/pSTK002
-T133A+F136S+D199Hの培養を以下のように行った。
【0103】
W3110/pSTK002-T133A+D199HおよびW3110/pSTK002-T133A+F136S+D199Hのコロニーをそれ
ぞれ、500mlフラスコ中に調製した100mlの前培養培地(ポリペプトンN 20g/L、酵母エキス
5g/L、リン酸二水素カリウム 1.5g/L、アンピシリンナトリウム0.1g/L;pH7.2)に植菌し
、温度37℃、回転数210rpmにて、6時間振とう培養を行った。前培養培地は、アンピシリ
ンナトリウム以外の各成分必要量を水に溶解して100mlにメスアップした後に加熱滅菌(1
21℃、20分間)を行い、室温に冷却後、予め0.45μmのフィルターでろ過除菌しておいた
20
アンピシリンナトリウム水溶液(100g/L)を無菌条件下にて100ul添加して調製した。得
られた各前培養液20mlを、3Lジャーファーメンター中に調製した1.6Lの本培養初発培地(
フルクトース 40g/L、ポリペプトンN 20g/L、酵母エキス 5g/L、リン酸水素二カリウム 1
.5g/L、硫酸マグネシウム七水和物 2.375g/L、硫酸マンガン五水和物 0.2g/L、塩化カル
シウム二水和物 0.02g/L、硫酸亜鉛七水和物 0.02g/L、アンピシリンナトリウム 0.1g/L
、プルロニックL-61(株式会社ADEKA、日本) 0.5g/L)に2本ずつぞれぞれ植菌し、温度37
℃、回転数750rpm、通気量2L/min、常圧、pH6.8-7.2制御(水酸化ナトリウム25%水溶液お
よび硫酸24%水溶液を使用)で培養を行った。本培養初発培地は、必要量のフルクトース
を水に溶解して400mlにメスアップした後に加熱滅菌(121℃、20分間)したものと、フル
クトースおよびアンピシリンナトリウム以外の各成分必要量を水に溶解して1.2Lにメスア
30
ップした後に加熱滅菌(121℃、20分間)したものとを無菌条件下で混合し、室温に冷却
後、予め0.45μmのフィルターでろ過除菌しておいたアンピシリンナトリウム水溶液(100
g/L)を1.6ml添加して調製した。培養開始約16時間後より、約15ml/hrの一定速度で本培
養流加培地(フルクトース 300g/L、ポリペプトンN 187.5g/L、アンピシリンナトリウム 0
.3g/L、プルロニックL-61 1.25g/L)の添加を開始した。本培養流加培地は、アンピシリン
ナトリウム以外の各成分の必要量を水に溶解して上記濃度となるようにメスアップした後
、温度50℃程度に加熱し、別途予め加熱滅菌しておいた0.45μm混合セルロース製フィル
ター(アドバンテック(株)、日本)および加圧ろ過器を用いて無菌条件下で加圧ろ過(
0.2MPa)を行い、室温に冷却後、予め0.45μmのフィルターでろ過除菌しておいたアンピ
シリンナトリウム水溶液(100g/L)を0.3g/Lの終濃度となるよう添加して調製した。培養
40
中は適時サンプリングを行いながら、計約71時間培養を行った。培養の溶存酸素濃度は、
培養開始約10時間前後において1ppm前後にまで低下したのち7ppm前後に回復した。流加培
地を添加してからは再度低下して、大部分の時間帯は1ppmから5ppmの間で推移した。培養
終了後、菌体の集菌、洗浄を行った。W3110/pSTK002-T133A+D199H については、2本のジ
ャーファーメンター培養液を混合したものから3076g(OD630=111)を採り、12,000rpm(
141,000G)で10分間遠心分離を行い、湿菌体370gを得た。該湿菌体に水1625gを加え、均
一になるよう再懸濁して菌体懸濁液(OD630=161)を得た。得られた菌体懸濁液を約10℃
に冷却した後、高圧ホモジナイザーPA2K(NiroSoavi社、イタリア)を用いて約100MPaで
破砕処理を行った。再び約10℃まで冷却した後、再度約100MPaで破砕処理を行い、菌体破
砕液(細胞破砕液)を得た。また、W3110/pSTK002-T133A+F136S+D199H については、1本
50
(23)
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のジャーファーメンター培養液より1821g(OD630=154)を採り、12,000rpm(141,000G)
で10分間遠心分離を行い、湿菌体367gを得た。該湿菌体に水1305gを加え、均一になるよ
う再懸濁して菌体懸濁液(OD630=155)を得た。得られた菌体懸濁液を約10℃に冷却した
後、高圧ホモジナイザーPA2K(NiroSoavi社、イタリア)を用いて約100MPaで破砕処理を
行った。再び約10℃まで冷却した後、再度約100MPaで破砕処理を行い、菌体破砕液(細胞
破砕液; OD630=8.3、pH6.8)を得た。
【実施例3】
【0104】
両性界面活性剤を添加した細胞破砕液からの遠心分離による細胞破砕片の効率的除去
実施例2で得られたW3110/pSTK002-T133A+F136S+D199H由来細胞破砕液1mlを6系列準備
10
し、各系列に、水0.1ml(対照とする)、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン(10%溶液
)0.1ml、カチオン系凝集剤K-403B(10%溶液)0.1ml、カチオン系凝集剤K-408(10%溶液
)0.1ml、カチオン系凝集剤K-409(10%溶液)0.1mlおよびカチオン系凝集剤K-415(10%溶
液)0.1mlをそれぞれ添加した。K-403B、K-408、K-409およびK-415はカチオン系高分子凝
集剤であり、ダイヤニトリックス(日本)より入手した。懸濁後、室温で20分間静置した
後、4,500rpmでの1分間の遠心分離を行った。得られた上清について、それぞれ吸光度お
よび脱クロル活性を測定し、活性については各系列の液活性相対値を算出した(水を添加
した系列の液活性値を100%とした)。吸光度の測定は、試料を適宜希釈し、波長630nmで
測定した。脱クロル活性の測定は、以下のように測定した。
【0105】
20
100mlの活性測定用反応液(50mM DCP、50mM Tris−硫酸(pH8))を調製して、温度を
20℃に調整した。該反応液に、希釈した各形質転換体由来の粗酵素液添加し、反応を開始
した。ハロヒドリンエポキシダーゼ活性による塩化物イオンの遊離に伴うpHの低下を、pH
自動コントローラーを用い、0.01規定の水酸化ナトリウム水溶液を用いて、pHを8に保つ
よう連続的に調整した。10分間の反応の間に、pHを8に保つために投入された0.01規定の
水酸化ナトリウム水溶液の量から、塩化物イオン生成量を算出し、ハロヒドリンエポキシ
ダーゼ活性(脱クロル活性)(U)を算出した。1Uは上記条件下でDCPから1分間あた
り1μmol塩化物イオンの脱離する酵素量に相当するものと定義した。。結果を表5に示
す。
【0106】
30
<表5>
40
50
(24)
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【0107】
水を添加した系列の遠心上清の吸光度は5以上であり、細胞破砕片が十分に沈殿除去さ
れていないことが認められた。カチオン系高分子凝集剤K-403B、K-408、K-409およびK-41
5を添加した系列の遠心上清の吸光度は0.01∼0.02であり、細胞破砕片が沈殿除去されて
いることが確認されたが、その活性は大きく低下しており、該凝集剤の添加によって、ハ
ロヒドリンエポキシダーゼが失活しているか、または細胞破砕片と共に沈殿しているもの
と考えられた。一方、塩酸アルキルジアミノエチルグリシンを添加した系列は、活性を保
持したまま、細胞破砕片が十分に沈殿除去されている(吸光度0.01)ことが確認された。
【実施例4】
【0108】
10
両性界面活性剤を添加した細胞破砕液からのろ過による細胞破砕片の効率的除去(その1
)
実施例2で得られたW3110/pSTK002-T133A+F136S+D199H由来細胞破砕液30mlを4系列準備
し、各系列にそれぞれ、水3ml、7.4%塩酸アルキルジアミノエチルグリシン水溶液3ml(終
濃度0.67%となる)、8.4%塩酸アルキルジアミノエチルグリシン水溶液3ml(終濃度0.76%
となる)および10%塩酸アルキルジアミノエチルグリシン水溶液3ml(終濃度0.91%となる
)を添加した。それぞれ約10分間撹拌した後、3gのラジオライトクリアフロー(昭和化学
工業(株)、日本)を加え、さらに約5分間撹拌した。予め1gのラジオライトクリアフロ
ーをプリコートしておいたろ過面積約12cm2のNo.5Aろ紙(アドバンテック(株)、日本)
および加圧ろ過器(アドバンテック(株)、日本)を用い、圧力0.2MPaで加圧ろ過を行い
20
、20分後に得られたろ液量および該ろ液のハロヒドリンエポキシダーゼ活性(脱クロル活
性)を測定した。結果を表6に示す。
【0109】
<表6>
30
【0110】
塩酸アルキルジアミノエチルグリシンを添加していない試料(0w/v%)に比べ、塩酸ア
ルキルジアミノエチルグリシンを添加した試料は、その濃度に依存してろ過性が向上し、
一定時間に多くのろ液が得られることが確認された。また、細胞破砕液と比較して、活性
40
は低下することなく保持されていることが確認された。
【実施例5】
【0111】
両性界面活性剤を添加した細胞破砕液からのろ過による細胞破砕片の効率的除去(その2
)
実施例2で得られたW3110/pSTK002-T133A+F136S+D199H由来細胞破砕液より470ml(系列
1)および467ml(系列2)の2系列を準備し、各系列にそれぞれ、10%塩酸アルキルジアミ
ノエチルグリシン水溶液を47.4mlおよび46.5ml添加した(それぞれ終濃度0.91%となる)
。それぞれ約10分間撹拌した後、系列1には47.0gのセライトHyflo Super Cel(ワールド
ミネラルズ社、米国)を、系列2には46.7gのラジオライトスペシャルフロー(昭和化学
50
(25)
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工業(株)、日本)を加え、さらに約5分間撹拌した。予め9gのろ過助剤(系列1はセラ
イトHyflo Super Cel、系列2はラジオライトスペシャルフロー)をプリコートしておい
たろ過面積約163cm2のNo.5Aろ紙(アドバンテック(株)、日本)および加圧ろ過器(ア
ドバンテック(株)、日本)を用い、圧力0.2MPaで加圧ろ過を行った。得られた系列1お
よび系列2の両ろ液、および対象として実施例2の細胞破砕液について、ハロヒドリンエ
ポキシダーゼ活性(脱クロル活性)、乾燥残分濃度、糖濃度およびタンパク質濃度を測定
した。乾燥残分濃度は、各試料を120℃で恒量となるまで乾燥し、残分の質量を測定して
求めた。糖濃度は、フェノール硫酸法の原理により、水で100倍希釈した試料溶液0.5mlに
5w/w%フェノール溶液を0.5ml加えた後、濃硫酸2.5mlを添加・混和し、室温で1時間静置、
冷却後、波長490nmの吸光度を測定することにより求めた(既知濃度のグルコース溶液を
10
用いて得られる検量線から試料の糖濃度を算出)。タンパク質濃度はバイオラッド・プロ
テインアッセイ(Bio-Rad社、米国)を用い、添付のプロトコールに従って求めた。結果
を表7に示す。
【0112】
<表7>
20
【0113】
細胞破砕液に比べ、塩酸アルキルジアミノエチルグリシンを添加してろ過を行った系列
1および系列2のろ液は、脱クロル活性を保持したまま、乾燥残分濃度、糖濃度、および
30
タンパク質濃度が低くなっていることが認められた。すなわち、塩酸アルキルジアミノエ
チルグリシンを添加したろ過により、細胞破砕片を含むと考えられる乾燥残分や糖が効率
よく除去されていることが確認された。
【実施例6】
【0114】
両性界面活性剤を添加した細胞破砕液からのろ過による細胞破砕片の効率的除去(その3
)
実施例2で得られたW3110/pSTK002-T133A+D199H由来細胞破砕液より1845mlを採り、10%
塩酸アルキルジアミノエチルグリシン水溶液を185ml添加した(終濃度0.91%となる)。約
30分間撹拌した後、185gのセライトHyflo Super Cel(ワールドミネラルズ社、米国)を
40
加え、さらに約15分間撹拌した。予め9gのろ過助剤(系列1はセライトHyflo Super Cel
、系列2はラジオライトスペシャルフロー)をプリコートしておいたろ過面積約163cm2の
No.5Aろ紙(アドバンテック(株)、日本)および加圧ろ過器(アドバンテック(株)、
日本)を用い、圧力0.2MPaで加圧ろ過を行い、1623mlのろ液(=「ろ液」)を得た。続い
て、水186gをろ過ケークが残っている加圧ろ過器に入れ、再度圧力0.2MPaで加圧ろ過を行
い、173mlの洗浄液(=「水洗浄液1」)を得た。さらに、水186gをろ過ケークが残って
いる加圧ろ過器に入れ、再度圧力0.2MPaで加圧ろ過を行い、163mlの洗浄液(=「水洗浄
液2」)を得た。ろ液、水洗浄液1および水洗浄液2のうち微量を採取しておき、残りの
ろ液、水洗浄液1および水洗浄液2を混合して混合ろ液1937mlを得た。細胞破砕液、ろ液
、水洗浄液1、水洗浄液2および混合ろ液について、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性(
50
(26)
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脱クロル活性)を測定し、液活性値および総活性値(液活性値と液量の積で表される)を
求めた。結果を表8に示す。
【0115】
<表8>
10
【0116】
ろ過ケークを水で洗浄することで、ケーク中に残っている活性を回収することができ、
最終的に細胞破砕液の総活性の9割弱を回収できることが確認された。
20
【実施例7】
【0117】
両性界面活性剤を添加して細胞破砕片を除去して得られたハロヒドリンエポキシダーゼ含
有溶液を用いた、1,3−ジハロ−2−プロパノールおよびシアン化合物からの4−ハロ
−3−ヒドロキシブチロニトリルの製造
実施例2で得られたW3110/pSTK002-T133A+F136S+D199H細胞破砕液(=「細胞破砕液」
とする)および実施例5で得られた該細胞破砕液由来の系列1のろ液(=「ろ液」とする
)を、シアン化カリウム(KCN)存在下、1,3−ジクロロ−2−プロパノール(DC
P)と接触させることにより、4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリル(CHBN)
を以下のように製造した。反応液基本組成は表9のようにし、反応スケールは2mlで行っ
30
た。
【0118】
<表9>
40
【0119】
反応は20℃にて3時間行った。反応終了後、以下に示す分析条件により、反応液中のD
CP、ECHおよびCHBN濃度および生成R−CHBNの光学純度を分析した。
【0120】
<反応液中のDCP、ECHおよびCHBN濃度分析>
50
(27)
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反応液中のDCP、ECHおよびCHBN濃度分析は、逆相系HPLCにより行った。
逆相系HPLC分析条件を表10に示す。
【0121】
<表10>
10
【0122】
反応終了液100μlを、上表記載の移動層400μlにより希釈混合した後、上表記載の分析
条件により分析を行った。予め、濃度既知のDCP、ECHおよびCHBN溶液を用いて
20
検量線を作成し、該検量線を用いて反応液中のDCP、ECHおよびCHBN濃度を求め
た。
【0123】
<生成CHBNの光学純度分析>
生成CHBNの光学純度分析は、CHBNをエステル化後、順相系HPLCにより行っ
た。順相系HPLC分析条件を表11に示す。
【0124】
<表11>
30
40
【0125】
反応終了液約400μlに等量のジイソプロピルエーテル(以下、IPEと称することがあ
る)を加えて抽出を行った。IPE層を分取し、少量の無水硫酸ナトリウムを加えて撹拌
した。IPE層を100μl分取し、10μlの(R)−α−メトキシ―α―(トリフルオロメチ
ル)フェニルアセチルクロライド(以下、(R)−MTPAと称することがある)および40
μlのピリジンを添加した。室温で一晩反応させた後、IPEを添加して約400μlとした
。1規定の塩酸を400μl加えて抽出を2回行った後、分取したIPE層に飽和炭酸水素ナト
リウム水溶液を400μl加えて抽出を2回行った。分取したIPE層に少量の無水硫酸ナト
リウムを加えて撹拌した後、アスピレーターによりIPE層を揮発させた。残存物を上表
50
(28)
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記載の移動層により懸濁した後、上表記載の分析条件により分析を行った。(R)−CHB
N−(R)−MTPAエステルおよび(S)-CHBN−(R)−MTPAエステルのエリア面
積比から各濃度を算出し、CHBNの光学純度を算出した。結果を表12に示す。
【0126】
<表12>
10
【0127】
ろ液を用いた場合でも、細胞破砕液を用いた場合と遜色ない反応成績が得られることが
確認された。
【実施例8】
【0128】
20
両性界面活性剤添加前および添加後の細胞破砕片の粒径測定
実施例2の方法により、大腸菌W3110株のジャーファーメンター培養を行った。得られ
た培養液を12,000rpm(141,000G)で10分間遠心分離を行い、上清を除いて湿菌体を得た
。除いた上清と等量の水を該湿菌体に加え、均一になるよう再懸濁して菌体懸濁液(OD63
0=約150)を得た。得られた菌体懸濁液を約10℃に冷却した後、高圧ホモジナイザーPA2K
(NiroSoavi社、イタリア)を用いて約100MPaで破砕処理を行った。再び約10℃まで冷却
した後、再度約100MPaで破砕処理を行い、菌体破砕液(細胞破砕液)を得た。該細胞破砕
液の一部を採り、終濃度0.91w/v%となるよう塩酸アルキルジアミノエチルグリシンを添加
して、常温で30分間撹拌を行ったものを「細胞破砕液(両性界面活性剤添加)」とした。
得られた細胞破砕液および細胞破砕液(両性界面活性剤添加)について、Multisizer3(
30
ベックマン・コールター、米国)を用い、以下の条件により、電気抵抗法により粒度分布
を測定した。
【0129】
アパチャー径:30、50μm
分散剤:0.1%ヘキサメタリン酸ナトリウム
超音波:3分
試料は、ISOTONII(ベックマン・コールター、米国)で、Multisizer3の適正濃度となる
ように定量希釈して測定を行った。結果を表13に示す。
【0130】
<表13>
40
(29)
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10
【0131】
塩酸アルキルジアミノエチルグリシンを添加することにより、細胞破砕片の平均径、中
位径が1μm未満から2μm以上に大きくなっていることが確認された。
【配列表フリーテキスト】
【0132】
配列番号2∼4:変異ペプチド
配列番号5∼12:合成DNA
【配列表】
0005172201000001.app
20
(30)
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フロントページの続き
(56)参考文献 特開2007−049932(JP,A) 特開2005−185281(JP,A) 特開2000−026894(JP,A) 特開昭63−003798(JP,A) Proc.Natl. Acad. Sci. USA,1980年,Vol.77, No.8,p.4623-4627
社団法人 日本生化学会編,「タンパク質I−分離・精製・性質−」,1990年,p.31-34,53
-71
10
(58)調査した分野(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/00 C12N 15/00 CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
PubMed