2016 年 10 月 11 日 市場営業統括部 米大統領選ウォッチ from New York チーフ・エコノミスト 山下えつ子 Tel: +1-212-224-4561 [email protected] No.6 【大統領選は終わった?!】 11 月 8 日の大統領選まで、あと 1 ヶ月ほどである。ところが早くも「勝負はついた」との見方も ある。雰囲気が変わったのは 7 日。大統領候補の第 1 回討論会(9/26)でトランプ氏は女性蔑視発言 をクリントン氏から攻撃されていたが、証拠ビデオがリークされたのである。放送禁止用語を含んだ 不快な内容だとしてトランプ氏への支持撤回の動きが強まり、回復は困難、との見方となっている。 トランプ氏の問題発言はいくつもあるが、このテープは 11 年前のもので、公的な発言ではない。 TV番組出演前の雑談が録音されていたようである。そのテープが今まで誰の手にあり、どのように してリークされたのか、しかも 2 回目の討論会の直前というタイミングで・・・。ナゾである。 この一本のビデオで特に共和党内部からトランプ氏支持の撤回や批判が相次いでいるため、トラン プ氏にとってはダメージが大きい。ポール・ライアン下院議長は地元のウィスコンシン州の共和党集 会へのトランプ氏招待をキャンセル。共和党重鎮のマコネル上院院内総務もトランプ氏を強く批判。 もともと共和党は重鎮主流派に対してティーパーテ 世論調査の推移 ィが一大勢力を築き、分裂している。そこにアウトサイ 51.0 ダーのトランプ氏が候補者となり、まずそこでもトラン 49.0 プ氏支持を巡って分裂、混乱していた。今回の問題で共 和党内部が再び、分裂、混乱し、結果としてトランプ 氏への支持が低下し、クリントン氏が勝利する・・。 47.0 45.0 43.0 41.0 39.0 Clinton ランプ氏を攻撃した際にも戦略勝ちだったが、クリント 37.0 Trump ン陣営は選挙戦に勝つための戦略に長けている。ただ 35.0 “野望と陰謀”という政治の裏の世界がここまで表に出 てくると、大事なはずの政策論争はどうなったのか、と 1-Jul 8-Jul 15-Jul 22-Jul 29-Jul 5-Aug 12-Aug 19-Aug 26-Aug 2-Sep 9-Sep 16-Sep 23-Sep 30-Sep 7-Oct これがクリントン側の戦略だろう。第 1 回討論会からト (資料)RealClear Politics 軽い失望を覚える。 有権者はトランプ氏支持をやめて、クリントン氏支持に回るのだろうか。世論調査ではトランプ 氏の支持率は明らかに低下した。トランプ氏の支持回復は相当に難しそうに見える。だが、クリン トン氏の支持率はほぼ横ばいである。ネガティブ・キャンペーンの場合、攻撃を受けた一方が票を失 1 米大統領選ウォッチ 2016/10/11 うことはあっても、その分の票をもう片方が獲得できるとは限らない。政策論争を通じて積極的に票 を動かしているわけではないからだ。考えられる一つのシナリオは、共和党支持者による投票率が 非常に低くなり、結果として、相対的に、クリントン氏が勝利する、というものである。これを阻 止するためには共和党は一丸となってトランプ氏を支持しなければならないが、今回の出来事で難し くなったと見るべきだろう。候補者選を闘ったマルコ・ルビオ氏のように「トランプ氏の政策には反 対の点も多いが、クリントン氏を大統領にしないために、トランプ氏支持を続ける」という複雑な心 境の共和党員もいる。だが、大統領選と同日、議会選も行われるため、議会選を睨んで、トランプ 氏と距離を置くことを選択する議員が増える可能性が高い。今回の事件後もトランプ氏を支持すれ ば、女性票を失うリスクがあるからだ。前述のように、クリントン氏の戦略勝ち、ということであろ う。クリントン氏は追及されている電子メール問題などで今後、綻びが出なければ、逃げ切れるだ ろう。 大統領候補の第 2 回TV討論会は 9 日に行われ、直後のCNNによる世論調査ではクリントン氏が 討論会では勝ったとの見方が 57%、 トランプ氏が 34%だった。 1 回目の討論会ではクリントン氏 62%、 トランプ氏 27%だったので、トランプ氏は 1 回目よりも善戦した、とも言える。2 回目の討論会は事 前に選出された有権者から直接質問を受けたほか、司会者から最近のソーシャルメディアで話題にな っている問題について質問を受ける、という形式だった。有権者からは教育、宗教、財政など質問が 広く出たものの、1 時間半の討論会の発言の中心は双方の個人攻撃となり、レベルは低いものだった。 1 回目はクリントン氏がトランプ氏の女性蔑視発言ならびに連邦税の不払いに言及して個人攻撃を したが、2 回目はトランプ氏もビル・クリントン氏のスキャンダルやヒラリー・クリントン氏の電子 メール問題を追及して反撃に出た。最終回の 3 回目は 19 日に実施されるが、この流れでは、3 回目 も互いの個人攻撃に終始しそうである。中低所得者層の多くは政策について聞きたいと思っている。 その政策で自分の生活がどう変わるのかを知りたいと思っている。だが、政治家と国民の思いが離れ た選挙戦となっている。そうした政治をどうにかしようとアウトサイダーが登場したのが今回の大統 領選であるが、簡単には変わらないようだ。 ・本レポートに関するお問い合わせは、現在お取り引き中の営業部/支店にお願い申し上げます。 本資料は純粋に情報提供を目的とし、いかなる取引の勧誘や推奨を行うものではありません。本資料は、弊行におい て、信頼に足りると判断した情報に基づき作成されていますが、その情報の正確性や完全性を保証するものではあり ません。また資料中に記載されている指標(金利・為替・経済指標等)は過去のものであり、将来を約束するもので はありません。尚、予測や見通しについては、その旨を明記しております。記載された意見や予測等は、作成当時の 執筆者の見解を示すのみであり、今後予告なしに変更されることがあります。また、データや数値の抽出範囲や基準 は任意で設定している場合があります。弊行は本資料の論旨と一致しない情報を既に発信している場合があり、今後 そのような情報を発信する場合があります。本資料は投資等に関するアドバイスを含んでおりません。本資料に記載 された内容を 投資等にご利用なさる際には、くれぐれもご自身の判断でなさるよう、お願い申し上げます。本資料 を使用することにより生ずるいかなる種類の損失についても、弊行は責任を負いません。なお本資料の一部又は全部 を問わず、弊行の許可なしに複製や再配布することを禁じます。本資料の内容は、弊行から直接提供されたお客さま 限りでご使用くださいますようお願い致します。 2
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