インターネットにおける問題点(犯罪と炎上)

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平成 28 年 10 月 10 日
改訂:平成 28 年 10 月 12 日
改訂:平成 28 年 10 月 15 日
インターネットにおける犯罪について
柳川 行雄
内容
最初に ......................................................................................................... 2
インターネットと犯罪 ................................................................................ 2
(1)法違反とならないために ...................................................................... 2
(2)著作権法違反 ....................................................................................... 3
(3)名誉に対する罪と信用に対する罪 ....................................................... 4
(4)秘密漏洩罪と守秘義務違反 .................................................................. 4
(5)広く、犯罪の幇助及び教唆の罪 ........................................................... 4
(6)その他 .................................................................................................. 6
3 WEB サイトの運営上の“炎上”への対応 ................................................. 6
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最初に
ホームページを運営している場合、注意しなければならないこととして、法違
反を犯さないことと、“炎上”に注意することがある。この2点は、WEB サイ
トを運営しようとする限り、常に念頭におかなければならないことである。
以下に、いくつかの注意すべき事項等をまとめてみた。
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インターネットと犯罪
(1)法違反とならないために
繰り返しになるが、WEB サイトを運営していてもっとも注意しなければなら
ないことは、法令に違反したり、他人の権利を侵害する不法行為などの問題を起
こしたりしないことである。ホームページは、基本的に言論・表現の場ではある
が、言論・表現といえども無制限に許されるわけではない。言論・表現が、とき
には犯罪を構成したり、他人に違法に損害を与えたりすることもあるのだ。
言論・表現によって成立し得る犯罪の例としては、以下のようなものが考えら
れる。
【言論による犯罪の例】
Ⅰ 著作権法違反
Ⅱ 刑法違反
① 名誉棄損罪(刑法 230 条)、侮辱罪(刑法 231 条)
② 信用棄損及び業務妨害(刑法 232 条)
③ 秘密漏示(刑法 134 条)
④ わいせつ物頒布等(刑法 175 条)
⑤ 脅迫(刑法 222 条)
Ⅲ 広く、すべての犯罪についての教唆・ほう助
ただし、Ⅱの④のわいせつ物頒布、⑤の脅迫については、通常の WEB サイト
を運営しているのであれば、
“己の欲する所に従えども則を超える”ようなこと
はないだろうから、あまり気にしなくてよい。また、上記の他、インターネット
を利用した犯罪として詐欺罪が考えられるがこれも同様であろう。あえて気を
付ける必要があるとすれば、広告等を載せている場合に不適切な広告が載らな
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いように注意することくらいであろうか。
なお、著作権法違反、名誉に対する罪、信用に対する罪は、そのまま被害者へ
の民法上の不法行為ともなり得ることに留意するべきだろう。
(2)著作権法違反
上記の犯罪の例のうち、最も気を付けなければならないのは著作権法違反で
ある。基本的には、書籍・雑誌のコピーや他のサイトの図表は使用しないことで
ある。とりわけ、個人のサイトや企業のサイトの図表などは、明確に許可されて
いる場合を除いて使用しない方が無難である。確かに、著作権法で引用が認めら
れる引用の方法もあるが、知的財産については専門の裁判所が設置されている
ほどで、判断が意外に難しいのである。文章の一部引用はともかくとして、図表
をそのまま引用することは引用元を明らかにしたとしても、法違反となるかな
りのリスクを伴うと思った方がよい。
例外的に使用してもよいのは、公的な機関が公表したものや、学者の論文であ
る。ただし、引用元を明確にした上で、引用した部分とその他の部分が明確に分
かるようにしておく必要がある。インターネットから引用する場合は URL も記
しておいた方がよい。このようにしておけば、問題となるようなことはめったに
ない1)。
また、自ら撮影した写真であっても、他人が写っているものや、他人の物(著
作物)が写っている場合は注意した方がよい。とはいえ何が著作物に当たるかの
判断は難しい。尾長鶏が著作物に当たるとした判例もある。また、仮に法律上は
問題とならない行為だったとしても、抗議を受けることがあれば、そのことだけ
でもかなりのエネルギーのロスになるからである。
他人の書いたものを参考にするときは、できる限り参考文献を記した方がよ
い。また、自分のオリジナルの文書であっても、偶然に他人の書いたものに似て
しまうということはあり得よう。人間であるから、考えることは皆同じとまでは
言わないにせよ、同じようなことを考える者はいると考えた方がよい。単純なデ
ザインなどについては、偶然に他人の意匠に似ているものを使わないような注
意も必要である。
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厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」の災害事例は、
「社員教育、事業場内教育、社
員への啓蒙等での活用に限ります」との記述があるので WEB サイトには引用しない方
が無難である。
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(3)名誉に対する罪と信用に対する罪
名誉棄損や侮辱罪などの名誉に対する罪は、自然人のみならず法人相手でも
成立する(大判大正 15 年 3 月 24 日)。ここで誤解してはならないことは、真実
であれば名誉棄損にはならないというわけではないということだ。むしろ、真実
の方が被害者にとっての被害は大きいとさえいえるのだから、名誉棄損になり
得ることは当然である。この点、誤解のないようにする必要がある。
他人について書くときは(企業などの法人であっても)原則として実名は書か
ないようにした方がよい。ただし、そうしてさえも、他の公開されている情報と
照らし合わせれば個人や企業が特定できる場合もあるので注意を要する。
例外的に許されるのは、国会議員や市会議員などの公人の、政策や公務に関連
するような発言について批評を加える場合である。もちろん、WEB サイトの品
位を保つためには建設的・論理的な批評であるべきだし、公人相手であっても私
生活に関することを記すべきではない。
また、学者の学術的な意見に対して、反論を加えたり評価を加えたりすること
も名誉棄損になるとは考え難い。地方自治体や国の政策についても同様であろ
う。
(4)秘密漏洩罪と守秘義務違反
また、秘密を侵す罪については、刑法上の秘密漏洩罪は身分犯なので、これが
問題となるケースは多くはないだろう。問題となるのは、特別法による秘密漏洩
罪である。これについては、元公務員の場合は現職時代に知り得たことについて
の守秘義務に十分な注意が必要である。
基本的に、個人や企業が関わっていることについて業務上で知ったことは書
いてはならない。私も、災害事例などは、判例から引いたり、公開された報告書
などから引用したりするようにしている。オープンになっている情報以外は、使
わないという原則を確立しておくことが重要である。
もちろん、法令や通達等について書くことは何の問題もない。
(5)広く、犯罪の幇助及び教唆の罪
教唆とは、罪を犯す意思のなかった者に、罪を犯す意思を持たせることである。
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ただし、罪を犯す意思を持たせる側が、持たされる側を強く支配しているような
ケースなどでは、教唆ではなく正犯になることもあり得る。一方、幇助とは、罪
を犯す意図のある者の、実行行為を助けることである。
教唆は、普通は言葉によって行われるが、行動によって行うこともあり得ない
わけではない。一方、幇助は言葉でも、行動によっても行うことができる。
インターネットで問題になるのは、言葉や表現によって行われる、犯罪の幇助
であろう。例えば、犯罪の方法を教示したり、犯罪に用いられるプログラムを公
開したりするケースである2)。ほかにも、誰かに危害を加えようとしている者に
対して、被害者の所在を伝えるようなことも幇助になり得る。かつて米国同時多
発テロ事件の際に、米国大統領の所在場所をマスコミに漏らした外務大臣がい
たが、これなど不注意では済まない事案であった。
不注意で他人の個人情報を提供して、それが結果的に第三者による犯罪行為
を幇助するような結果になることがないよう注意しなければならない。
WEB サイトは誰でも閲覧できるものであるから、何かの犯意を持つ者が見る
おそれもあることに留意する必要がある。幇助罪は、特定の誰かを助けるという
意図でなくても、犯意のある誰かを助けようとする意図でも不確定的故意とし
て故意は認められ得る。また、「犯意のある誰かに利用されるかもしれないが、
それでも構わない」と思った場合も、未必の故意として故意は認められ得るので
ある。
また、犯罪の煽り・唆しをするようなことも、一定の具体性を持っていれば犯
罪となり得る。
「○○について○○社に対して抗議活動をしよう」と呼びかける
ような行為は、場合によっては威力業務妨害の教唆又は幇助となり得よう。もっ
とも、このような行為はたいていの場合“確信犯”ではあろうが・・・。
通常のホームページでの運営では、犯罪の幇助や教唆が問題になることはな
いだろうが、少なくとも最近の法令は複雑になっているため、その内容をよく知
らずに誤った知識で、違反となる行為を勧奨したりすることのないように気を
付ける必要がある。
また、掲示板などの運営をするのであれば、常に監視しておき、おかしな書き
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犯罪に用いられるソフトの公開は、そのソフトを使う側が、そのソフトが公開されてい
ることを知ったために犯意を生じたとすれば、理論上は教唆にもなり得よう。
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込みがあればただちに削除する必要がある。場合によっては、管理者が認めたも
ののみを掲示するような方法の採用も検討してよいかもしれない。
(6)その他
この他、よくある「炎上」事件などで、あまりにも問題のある表現をして、対
象となる者が精神疾患をきたすようなことでもあれば、理論上は傷害罪になる
ことも考えられよう。
このようなことは普通のサイトで問題になるようなことはないと思うが、一
般論を書いたつもりの記述が、何かの事件に火を点けてしまい、結果的に炎上を
煽るようなことにならないように注意しなければならない。捜査当局に誤解を
されれば、傷害罪の幇助として捜査を受ける可能性もなくはないのである。
WEB サイトの運営上の“炎上”への対応
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炎上の問題に対応するためには2つの処し方があろうと思う。ひとつは、議論
になりそうなことは一切書かないことである。とりわけ社会的な弱者を攻撃す
るようなことは書くべきではないのである。
そしてもうひとつの処し方としては、炎上するようなら、したで、自分も多少
有名になったくらいに考えて気にしないということもあり得よう。
なお、自らの個人情報については、どこまで出し、どこからは出さないかはき
ちんと決めておいた方がよい。要はその原則から外れないことである。気を付け
なければならないのは、WEB サイトの他にブログや SNS を利用している場合
である。ここにも個人情報が分かるようなことは書かないように注意する必要
がある。
自宅の近くで撮った写真をアップしないことはもちろん、個人情報について
のヒントを与えそうなことも、書かないように注意した方がよい。
また、繰り返しになるが、掲示板などの運営をするのであれば、常に監視して
おき、おかしな書き込みがあればただちに削除する必要がある。言論の自由への
抑圧などということは考える必要はない。個人のサイトの掲示板から削除され
たからと言って、言論の自由に影響などないのである。書きたければ他で書けば
よいのだ。
それよりも、自らの掲示板に、名誉棄損や信用失墜など不法故意となる書き込
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みを放置すれば、共同不法行為となりかねない。違法な書き込みは、ただちに削
除しなければならない。
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