化学構造の表現(1)

第2回 タンパク質・核酸・糖鎖の構造について知っておくべきこと
…GAGAATCACACGTTGGT…
核酸
……
……
…ENHTLVFKCSW…
ペプチド……
……
…(Glc)b1-4(Glc) b1-4(Glc) b1-4(Glc) b1-4 …
……
糖鎖
……
今回の目的
1)立体構造固有の情報:立体(3D)構造の場合、1次元(配列)や2次元(化学
式)では表せない情報を含む。例えば化学式で書くと全く同じ分子でも3
次元では異なることがある -> 立体配置・立体配座の意味を理解する
2)生体分子の情報: 核酸・タンパク質・糖鎖などの生体分子に特徴的なパラ
メータや用語を理解する
3)原子の結合パターン:分子構造を決定するには原子座標(x, y, z) の情報以外に、
どの原子間に結合があるか定義する必要がある
-> 結合距離・結合角・ねじれ角の定義と(できれば)計算法を理解する
化学構造の表現(1) 化学式が同じでも立体構造が違う場合
立体配置(configuration) 分子に固有の原子配置
光学異性体は 原子の種類と数,および結合は同じだが,鏡像関係にあり, 結合を
切って付け替えないとお互いに重ね合わせることの出来ない分子. 生体分子は
ほとんどの場合どちらか一方の光学異性体を使っている(例えば生体アミノ酸
はL型)
R
HOOC
R
C
NH2
H2N
H
L-アミノ酸(生体で使用される)
R
見分け方
HOOC
H
C
NH2
C
COOH
H
D-アミノ酸
水素を 手前 に置いた時に
COOH R NH2 が時計
(右)回りならL体.逆ならD体
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化学構造の表現(2) 化学式が同じでも立体構造が違う場合
立体配座(conformation)
回転異性体(rotamer/atrop
isomer)
単結合(single bond)が回転することで、原子の種
類・数・結合パターンは同じ(=結合を切らなくて
も重ね合わせることが出来る)が原子の位置が違っ
た分子になる. 通常の温度域・環境で相互変換可能
である.
へリックスが巻く
180度回転
ペプチド
アミノ酸
αへリックスモデル
5.4Åの規則構造?
αパターン
アストベリーのペプチド回折実験(1949年)
アストベリーは様々な合成ペプチドのX線回折実験から、αパター
ン、βパターンという、タンパク質構造中になんらかの規則構造の
存在を示す回折パターンを観測した。
ポーリングのαへリックスモデル(1950年)
ポーリングはケラチンの回折パターンを説明する構造モデルを作ろ
うとしていた(これはαへリックスとは違う)。風邪をひいてホテル
にこもっていたときに、紙にポリペプチドの画を描いた模型を使っ
て、ポリペプチドが規則的ならせんを作るモデルを見つけたとされ
る。これがαへリックスで、ポーリングの求めていたケラチンのモ
デルにはならなかったが、後に多くのタンパク質中に存在する構造
単位であることが判明した。
WT. Astbury
L. Pauling
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アミノ酸
正電荷
親水性(hydrophilic)
負電荷
側鎖
主鎖
Asp
Lys
Arg
His
Ile
Val
Leu
Gln
両義性(ambivalent)
Thr
Ser
Ala
疎水性(hydrophobic)
Gly
Asn
Glu
Pro
Cys
芳香族
Phe
Met
Tyr
Trp
ペプチドの構造(1) 二次構造(secondary structure)
O
主鎖のアミノ基( N )とカルボニル基(
の水素結合(
)で出来る構造
N末端
)
1巻き�
n=3
n=4
n=5
310へリックス(three-ten helix)
αへリックス(α helix) (主要)
πへリックス(π helix)
へリックス
(helix)
R
O
R
N
R
N
C末端
R
O
R
R
C末端
N
O
N
N
R
R
O
N
N
O
O
O
N
R
R
N
N
O
N
O
N末端
N
N
O
R
O
N末端
N
O
R
C末端
N
R
βシート(β-sheet) 平行シート (parallel sheet)
逆平行シート(anti-parallel sheet)
N
O
R
N
O
N
N
O
R
R
R
O
N
1ピッチ
= 3.6 残基
= 5.4 Å
ストランド間隔 = 4.5 Å
i+n
O
N
R
N末端
R
i
O
O
N
R
O
N
O
N
O C末端
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DNAの2重らせんモデル
R. Franklin
M. Wilkins
らせんの一巻?=34 Å
塩基の積み重なりの周期?
=3.4 Å
フランクリンとウィルキンスのDNA結晶回折実験(1953年)
DNAは結晶にすることができる。X線を照射して回折させると上の様な像が得られる。
この像は、DNAが一巻き34Åのらせんを描いていること、その中に3.4Åの繰り返し
単位(塩基の積み重なり周期)がある、という風に解釈することができる。結晶の密度
から見てらせんはDNA2本か3本で出来ている。
核酸・ヌクレオチド
糖リン酸骨格
塩基
A: Adenine
G: Guanine
DNA
RNA
C: Cytosine
GCペア
水素結合=3
T: Thymine
ATペア
U: Uracil
水素結合=2
AUペア
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DNA二重らせん
主溝(major
groove)
副溝(minor
groove)
B型DNA
幅
= 20 Å
右巻き
(主要)
1ピッチ = 10塩基対 = 34 Å
A型DNA
Z型DNA 左巻き
糖鎖の構造(1):モノマー
五員環糖
(フラノース)
主要なモノマー
3
5
2
4
1
ガラクトース
六員環糖
(ピラノース)
2
グルコース
マンノース
3 4
1 5 6
核酸の構成要素
リボース(RNA)・
デオキシリボース
(DNA)
βアノマー
互換可能
αアノマー
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糖鎖の構造(2):ポリマー
糖鎖は同じモノマーが重合して違う性質のポリマーが出来る
αアノマー
(Glc) a1-4(Glc)
O
アミロース
(澱粉)
O
O
2
6
4
3
O
1
直鎖構造
5
O
O
O
O
グリコーゲン
分岐鎖構造
(Glc) b1-4(Glc) a1-6(Glc)
O
βアノマー
O
O
(Glc) b1-4(Glc)
セルロース
直鎖構造
生体高分子の特徴
タンパク質
主鎖
(ペプチド)
核酸
糖鎖
ペプチド結合
糖-リン酸ジエステル
エーテル結合
(結合パターンは一種類) 結合
(結合パターンが多数ある)
(結合パターンは一種類)
側鎖
20種類
DNA4種類・
RNA4種類 なし
一次構造
基本的に一本鎖
基本的に一本鎖
二次構造
へリックス・
シートなど
2重らせん
なし(?)
三次構造
多様な折り畳み方
(フォールド)
比較的単調な構造
なし(?)
厳密に側鎖に相当する
ものはない
分岐鎖
決まった三次構造は取ら
ないとされる
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化学構造の計算(1)
z
分子構造は原子座標で表現される:
原子の座標=(x,
y, z)
原子
y
x
原子座標から導かれる分子構造を定義する3つの主要なパラメータ
結合距離(bond distance)
結合角(bond angle)
ねじれ角(torsion angle)/二面角(dihedral angle)
原子3
原子2
原子2
結合距離
原子1
原子3
結合角 原子2
原子1
原子1
…
4個目
3個目
2個目
1個目
原子4
ねじれ角
原子1
化学構造の計算(2)
結合距離(bond distance)
原子1
原子2
原子1の座標=(x1, y1, z1)
原子2の座標=(x2, y2, z2)
d12 =
(x2-x1)2+(y2-y1)2+(z2-z1)2
d12
結合角(bond angle)
原子1
v12
v12 v13 = d12 d13 cos θ
v13
θ = cos-1
θ
原子3
原子2
=
cos-1
v12 v13
d12 d13
(x2-x1) (x3-x1)+ (y2-y1) (y3-y1)+ (z2-z1) (z3-z1)
(x2-x1)2+(y2-y1)2+(z2-z1)2 (x3-x1)2+(y3-y1)2+(z3-z1)2
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化学構造の計算(3)
ねじれ角(torsion angle)/二面角(dihedral angle)
原子2
v23
v12
φ
v34
原子4
原子3
原子1
原子4
φ
原子3
原子2
r123
r234
φ
原子1
r123 = v12 x v23 =
{(y2-y1)(z3-z2) - (z2-z1 )(y3-y2), (z2-z1)(x3-x2) - (x2-x1)(z3-z2) , (x2-x1)(y3-y2) - (y2-y1)(x3-x2)}
r234 = v23 x v34 =
{(y3-y2)(z4-z3) - (z3-z2 )(y4-y3), (z3-z2)(x4-x3) - (x3-x2)(z4-z3) , (x3-x2)(y4-y3) - (y3-y2)(x4-x3)}
φ = cos-1
r123 r234
d123 d234
第2回のポイント(講義ノート)
1)化学式が同じ分子でも立体構造が違う場合、主な原因は立体配置
(configuration)か立体配座(conformation)である。
2)ペプチドのへリックスは、巻き方の緩やかな順にπへリックス、αへ
リックス、310へリックスの3種類ある。一番頻度の高いαへリックスの1
ピッチは3.6アミノ酸残基で5.4Åである。
3)DNAの2重らせんには、A型・B型(右巻き)、Z型(左巻き)がある。 B型
DNAの1ピッチは10塩基対で34Åである
4)分子の立体構造を決めるために必要な3つのパラメータは、結合距離、
結合角、ねじれ角である。
5)原子1の座標が(x1, y1, z1)、原子2の座標が(x2, y2, z2)のとき、これ
らの原子間の距離を表すと…
d12 = {(x2-x1)2+(y2-y1)2+(z2-z1)2}1/2
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