学習内容と現在をつなぐテーマで興味喚起し、 「自分の考えを発信する力

どんな授業なのか
教科の学びと安心安全な場で、
考えを発信する力を養う
の考えを 表 現 することにやや苦 手 意 識
をもっているようだ﹂と。
2年 次から、
コミ
だから髙 橋 先 生は、
ュニケーションに特に困 難 を 感じている
生 徒 数 名に、
始 業 前のSST
︵ソーシャル
ことは 養 護 教 諭から 教 わり 、そこから
スキルトレーニング︶を 始めた。SSTの
自 分でも勉 強したという。
ま た 、3 年 次 か ら は 、授 業 にp 4c
= 子どもの
︵ philosophy for children
ための哲 学 ︶という 教 育 手 法 も 導 入し
た。
﹁ 正 解のない問い﹂について 、みんな
で輪になって、毛 糸 玉で手 作りしたコミ
ュニティボールを 回しながら意 見 を 出し
合う手 法だ︵ 下のカコミ参 照 ︶。授 業 研
究のなかでp 4cのことを 知り、研 修 会
に参 加して 理 解 を 深めたという 。話 を
まとめない・誘 導しない・否 定しないこ
とが原 則 。生 徒の﹁ 自 分の考 えを 発 信
態 度 ﹂を育むことを狙っている。
す る 力 ﹂と﹁ 他 者 の 考 え を 受 け 入 れる
授 業の進め方としては、まずは1コマ
を 使って 教 科 書の内 容 を 押 さえ 、ある
物 事について﹁ 考 えよう というきっかけ
の 遷 都 を 学んでから 、地 理で 学んだ 立
と なる 知 識 ﹂を 生 徒が習 得 。そのう え
で、次の授 業でその知 識を使って﹁ 現 在
地 論のことも絡めて、﹁ 日 本の首 都はど
徒が多い。3年 前 、この高 校に異 動して
校 生 活になじめなかった 経 験 を もつ生
挙 権 年 齢の引き下 げの話も絡めて、﹁ 班
て学んでから、当 時 話 題となっていた選
例 え ば 、班 田 収 授 法︵6 歳 以 上に農
地 を 支 給 して 課 税 も す る 制 度 ︶につい
示 すことで 、﹃こうしたことは身 近でも
す 。そこに現 在の 社 会 とのつながりを
遠い地 域 や 遠い昔 の 話 でしかないんで
人に、こんな印 象をもったという 。
きた髙 橋 英 路 先 生は、担 任した1年 生
総勢
起こるんだ ﹄﹃ だったら学びたい﹄と生 徒
﹁ 地 理も歴 史も、興 味のない生 徒には、
こにすべき?﹂を話し合う。
ボールを渡された人は、話すことがなければ、他の人にパスしていい。これも大事なルールだ。逆に、緊張
や混乱からすぐに言葉は出ないけれど話そうと思っているなら、
ボールを持っていればいい。ボールを渡され
た生徒が沈黙すると、当初は周囲が先回りしてフォローし、結果的にその生徒の発言機会を奪うことがあ
った。髙橋先生が「パスしてもいいのだから、
すぐ答えられないときも、
ボールを持っているあいだは待ってあ
げようよ」
と話し、
そのルールが浸透するほど、全員がより安心して話せるようになった。
という形を取っている。
2 沈黙が続いても本人の意思表示を待てる
の社 会につながるテーマ﹂を 議 論 する 、
グループで対話するときは、
ボールを持っている人がしゃべり、話し
終えたら、次に意見を聞きたい人にボールを渡すというのがルー
ル。ボールの受け渡しで発言者がわかりやすく、全員にボールを
一度は回すことで、普段は話さない子も発言の機会を得られる。
田収 授 法の年 齢 基 準 、何 歳 以 上が妥 当
米 沢工業 高 校の定 時 制の生 徒には、
小・中 学 校で一度 不 登 校になるなど 、学
1 普段は話さない生徒も発言機会を得られる
に感じてほしいと思っています ﹂
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2016 OCT. Vol.414
1897年創立・1948年定時制設置/工業科・産業科/定時制の生徒数45人
(男子
29人・女子16人)
/定時制の進路状況
(2015年度実績)
就職5人、
その他2人
学校データ
コミュニティボールの効果
か?﹂を話し合う。平 城 京から平 安 京へ
﹁ 周 囲に受け入れられるか不 安で、自 分
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学習内容と現在をつなぐテーマで興味喚起し、
「自分の考えを発信する力」を育む
地理
・
歴史
米沢工業高校 定時制(山形・県立)
髙橋英路先生
教員歴9年。経済学部で地域経済学を専門に学ん
で社会科の教員免許を取得。初任校で出会った先
輩に自分から学びに出かける姿勢を教わり、県外の
研修やセミナーにも積極的に参加するようになっ
た。大人しくて目立たない生徒など、
「 手がかからな
い」
と思われやすい生徒の思いを汲み取ることを大
事にしたいという。
【Report 02】地理・歴史
「授業」で社会を生きる力を育む
髙橋先生の授業デザイン
1年次〈地理〉
⇒「書く力」を重視
そ う し て 学 び な が ら 考 え たこ と の
﹁ 発 信 ﹂にも力を入れるのはなぜか。
﹁この先の就 職 活 動でも 、仕 事でも 、自
分の考えを 説 明 することが求められて
生徒はどう変わったか
自分の視点で歴史を捉え、
考えを口にするように
心の授 業をしていたんですよ﹂
そ うした段 階 を 経て 、今や生 徒たち
はボールを 回 すことで 意 見 を 出し 合 え
授 業 外の生 徒 同 士の会 話も多 くなった。
るようになった。授 業 中の笑 顔が増え 、
今 後 行いたい授 業
授業の対話スタイルを
さらに実社会に近づける
詰まると、生 徒から頼られてボールを渡
いくからです 。そ も そ も 生 徒 たちは何
されることが多い。だから髙 橋 先 生がボ
授 業 中のグループの対 話には髙 橋 先
生 も 参 加 するが、今のところは話が煮
るよね。○ ○の会 長 と 社 長のバトルと
平 安 末 期の院 政について 学んだとき
のことだ。ある生 徒が﹁これって今 もあ
ールを持つ時 間が長 くなりやすい。この
髙 橋 先 生は、前 任 校では貿 易 ゲーム
などもやっていたそうで、以 前から生 徒
か﹂と現 在とのつながりを発 見してくれ
時 間 を 減らし 、髙 橋 先 生 も1参 加 者に
のために地 理や歴 史を学ぶのか。僕は、
た。さっそく 髙 橋 先 生は、次の授 業でそ
なることが当 面の目 標だ。
主 体のアクティブ・ラーニング︵AL︶
に
でも本 人にその意 識はない。
﹁ALが注 目されているからと、それを
を 投 げかけた。
﹁ 先 輩からの助 言・口出
の事 例も示したうえで、話し合うテーマ
積 極 的だったと言える。
やること を 目 的にす るのではな く 、今
たか﹄を理 解するだけでなく 、最 終 的に
ためではないか、と思っているんです。仕
の生 徒 たちにはどんな 授 業が良いかを
﹃ なぜそこにあるのか﹄﹃ なぜそれが起き
事や生 活で何らかの問 題に直 面したと
研修でソーシャルスキルトレーニング(SST)
を学び、
クラス担任として、
コミュニケーションなどに困難さを感じている生徒数名に、始業前にS
STを展開(次年度も継続)。
定時制3年生のみなさん
けた
授業を受 声
の
徒
生
Q 髙橋先生はどんな先生ですか?
「ユーモアを兼ね備えた先生かな、と思います。僕が(藤原道長
のことを)
ミッチーってあだ名で呼んだら、先生はフジーとか言い出
すので」
「話しやすいです。あと、
はっきりとしゃべってくれるので聞き取りや
すいです」
「全体的にいい人です。悪いところがあったら言ってくれるので」
生 徒が生き生きと活 躍できるようにな
ボールは存 在しない。そうした場でも 、
Q ボールを使った授業はどうですか?
「前よりもみんなの質問とか意見が聞けるので、
すごく楽しいです」
「今までみんながどう思っているかわからなかったけど、
みんなの考え
がわかって、
自分が思いつかなかった発想が聞けてよかったです」
「なんて言えばいいかわからなくて話せなかった人と話せるように
なったし、
クラスでも少しみんなと話すことが増えました」
「みんなと仲良くなりました」
「楽しいです。… なんか、なん
ていうんですかね。みんなでコ
ミュニケーションを取っている
なあ、
というのが」
はそれをもとに自 分の考えを 発 信 する
きに、地 理 や 歴 史で 学んだこと を 現 在
⇒個別にソーシャルスキル
その 先ではコミュニティボールからの
卒 業 も 視 野に入れる。実 社 会の対 話に
考えていきたいです。今の3年 生に対し
先 輩 も 間 違 う 、助 言 があったほうが
効 率がいいなど、生 徒たちは自 分の視 点
2年次〈担当教科なし〉
しはアリ ?
ナシ ?﹂
に結びつけて思 考し、そこで考えたこと
子たちが1年 生のときは、
いきなりの対
現状は「プリントに自分の考えを書いて」
「ボールを回して意見を出し
合う」形を取っているが、最終的にはプリントに書かなくても、
ボールが
なくても、対話できることを目指す。
ることを目 指しているからだ。
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ては﹃ 話 す ﹄授 業 をしていますが、この
⇒「話す力」の向上
を発 信して社 会と関わっていく 。そうし
4年次〈世界史〉
たことができる人になってほしい、と 思
週2回の授業を「知識習得
セッション」
と
「トークセッショ
ン」に分けて2回1セットで
実施。前の授業で身に付
けた知識をもとに、輪になっ
てコミュニティボールを用い
ながら生徒が意見を出し合
うことで、
自分の考えを発信・説明する力を育もうとしている。
をもって歴 史と向き合うことができた。
⇒「話す力」を重視
話はまだ 難しいと 考 え 、﹃ 書 く ﹄こと 中
3年次〈日本史・現代社会〉
っています ﹂
校内アンケートや学級日誌
の書き込みから、
「自分の考
えはもっていて、書く力はあ
るが話は苦手な生徒が多
い」
と把握。いきなり対話は
難しいので、授業は講義中
心、ただし論述を増やし、考えて書く力を伸ばし、その考えが受け入ら
れる安心・安全な場を目指した。
取材・文/松井大助