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解答例
この記事では、入居者同士や近隣住民との交流を促進する賃貸物件が紹介されている。
人間関係の希薄化が叫ばれて久しい現代において、このような地域とのつながりをつくり
だそうとする取り組みが人々の関心を引いていることには、どのような背景があるのだろ
うか。
古来より定住と農耕を生活の軸としてきた日本人にとって、本来地域の人同士のつなが
りはわざわざつくろうとせずとも自然に生まれるものであっただろう。しかし、近代にな
って「個人」や「自由」を重要視する新たな価値観が社会に浸透すると、地域社会のつな
がりは固定化した価値観で個人の自由を縛るものとして否定的に捉えられ、弱まっていく。
「ムラ社会」という言葉にも表れているように、そもそもコミュニティーは閉鎖性や排他
性へとつながる性質をもっているのである。
とはいえ、人は一人では生きられない。自由を求め他者とのつながりを断ち切ったがゆ
えに、孤独感を抱えこむ人の増加や、公共心の欠如といった様々な問題が起こっている。
このような状況のなかで、近年、コミュニティーの復権を求める動きが活性化してきた。
コミュニティーがもつ相互扶助という実用的な機能はもちろん、人と人とのつながりがも
たらす情緒的な機能も見直されつつあるのだ。
このようにつながりを求めながらも、自力で他者との関係をつくることができなくなっ
た現代人の需要に応えるものとして、コミュニティー賃貸の取り組みが現れたのであろう。
近隣の入居者同士のつながりを築くことは、その地域への愛着を深め、関心を強めていく
ことにもなる。そこから交流の取り組みをさらに外へと進めていくことで、地域社会のつ
ながりを強めることができるだろう。
しかし、単に従来の地域コミュニティーを復活させるだけでは、閉鎖性や排他性といっ
た問題を解決することはできない。これを乗り越えるためには、盲目的に他者に同調する
のではなく、個人としての意識を大切にしつつ、常に外へ開かれた視点をもつことが必要
である。記事で取りあげられている、コミュニティー賃貸の敷地や施設を地域住民に開放
する取り組みは、そのようなあり方の可能性を示している。このような住宅は、地域住民
をはじめとして様々な人が集まる開かれた場として機能することで、多様な価値観の交流
を生みだし、刺激を与えてくれるだろう。個人を尊重しつつ、人とのつながりも大切にす
る新たなコミュニティーの形成が期待される。