北原麻衣 - 愛知学院大学 薬学部 医療薬学科

平成 28 年度 卒業論文「膵臓がんに対する新規体液バイ
オマーカー探索」
愛知学院大学薬学部医療薬学科
生体有機化学講座
11A051 北原 麻衣
膵臓がんは、日本におけるがん部位別死亡者数が 5 番目に多く、10 年相対生
存率は 4.9%と 18 種類の様々ながんの中で最低である。自覚症状に乏しく発見
が遅れることが多いことが原因である。早期の段階で発見することができれば
外科切除が可能となり、生存率の向上が期待できる。そのためのツールとして注
目されているのが血液、尿、唾液などを利用した体液バイオマーカーである。既
存の膵臓がんマーカーは正確性に欠けるため、より精度の高い体液バイオマー
カーの発見が望まれている。本研究では、体液バイオマーカーの強みである簡便
さと低侵襲性に加えて、膵臓がん患者を確実に発見できる高い識別能を持った
新規体液バイオマーカーの探索を行った。
ROC 曲線分析から算出された AUC 値の比較を行った。AUC 値がマーカーと
しての信頼基準値である 0.9 を超えたものは 4NuQ(0.91)、5NuQ(0.95)、4NuQ
と CA19-9 のコンビネーションマーカー(0.98)、miR-143 と miR-30e のコンビ
ネーションマーカー(0.92) 、apoAII-ATQ/AT(0.94)の 5 つであった。miR-143、
-30e、4NuQ、apoAⅡ-ATQ/AT は、単独マーカーと比較して、コンビネーション
マーカーで AUC 値の向上が見られたことから新規バイオマーカー候補物質の探
索と併せて、既存マーカーもしくは新規マーカーとのコンビネーションマーカ
ーの探索が必要である。
膵臓がんは、PanIN と呼ばれる微視的な病変を経て膵臓がんに進展する。PanIN
を発見できるマーカーが確立されれば、早期に治療を開始することができ膵臓
がん患者の予後の向上につながると考え、PanIN 組織において発現変化の見られ
る物質について調査を行った。その結果、miR-196b が PanIN-3 組織で、miR-155
が PanIN-2 及び-3 組織で発現が増加していることが明らかとなった。
本研究より、ステージ I の IDACP 患者を識別することのできる apoAⅡ-ATQ/AT、
そして膵臓がんの前駆病変である PanIN で発現増加が見られる miR-196b、-155
が、膵臓がんに対する新規体液バイオマーカー候補物質として有用であると考
えられる。今後一層研究が進められることで医療現場での実用化が期待される。