先端医工学研究センター 2016年度第2回学術交流講演会

先端医工学研究センター
2016年度第2回学術交流講演会
The 2nd AMEC Research Seminar (FY2016)
2016 年 10 月 3 日 (月) 16:00
~ 17:30 姫路駅サテライトラボ会議室
OCTOBER 3, 2016, 0400PM-0530PM@HIMEJI STATION SATELITE LABORATORY
大西
新 博士(医学)
(Arata Oh-Nishi Ph.D)
KITASATO UNIVERSITY
北里大学理学部物理学科生物物理研究室
株式会社 RESVO, CTO
e-mail: arata@resvo -inc.co m
(向かって左
大西博士、右
故ポール・パターソン教授)
神経発達障害に対する先制医療の可能性について
PR E E MP T I VE M ED I CI N E FO R N E U RO D E V ELO P M EN T AL D I SO R D E R S
妊娠中の母体の内分泌的障害や強い免疫活性化が出生児に起こる神経発達障害の原因になっている可能性が示唆されており、近年、
我々はモデル動物を用いてその障害メカニズムと先制医療の可能性について研究を行っている。
発達段階の甲状腺ホルモンレベル低下によって起こるクレチン症は精神発達遅滞を引き起こすことが知られているが、そのメカニズムの詳細
は解っていない。そこで、我々はクレチン症モデル動物における、認知機能に深く関与するドーパミン D2 受容体(D2R)機能を電気生理
学的に解析した。その結果、発達期において海馬 D2R は甲状腺ホルモンによってグルタミン酸性シナプス伝達に対し興奮性(促進性)か
ら抑制性に変換されることを発見した(Oh-Nishi 2005)。この知見はクレチン症に観られる精神発達遅滞は大脳辺縁系の D2R 機能が
甲状腺ホルモンレベルの低下によって十分に成熟しないことが一因になっている可能性を示唆している。更に先天性甲状腺機能低下症にお
いて早期に甲状腺ホルモンを補充する先制医療は、その神経発達障害に対して有効であることも示唆している。
内分泌的な障害だけではなく、胎児期の母体の感染症による強い免疫活性化(MIA)もまた胎児脳神経発達に悪影響を与え、出生
児の精神・神経疾患(統合失調症や自閉症を含む)発症リスクになることが疫学研究によって示されている(Brown&Derkits 2010)。
しかしながら、その病態は詳しく解っていない。そこでモデルラットを調べた結果、MIA は出生児に統合失調症患者に観られる病態と類似し
た病態を引き起こすことが明らかになった。MIA ラットは幼弱期から既に海馬シナプス機能障害が起こっており(Oh-Nishi 2010)、この時
期に薬物治療介入することで成熟期に顕在化する神経障害や認知機能障害を緩和出来ることが報告されている(Piontkewitz 2011,
2012, Patrich 2016)。これらの知見は MIA に関連した神経発達障害もまた早期治療介入によって改善する可能性を示唆している。
しかしながら、MIA 関連神経疾患を早期に発見する方法は確立していない。そこで、我々は MIA ラットの血清に含まれるタンパク質を網
羅的に解析したところ、Ig light chain (ヒトでは FLC)が早期リスク判定に有用であることを見出した(Oh-Nishi 2016)。現在、クレチン
症は先制医療が行われているため、先進国での発症は殆ど皆無である。MIA ラットの実験結果は、近い将来、MIA 関連神経疾患(統
合失調症/自閉症を含む)もまた、クレチン症と同様に早期に発見し先制医療を行うことで制圧できる可能性を示唆している。
主催
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先端医工学研究センター・工学研究科 電気系工学専攻 小橋昌司
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