高頻度取引と情報生産 - 日本証券アナリスト協会

高頻度取引と情報生産
太 田 亘
(証券アナリストジャーナル編集委員会委員)
1.はじめに
性の需要は、タイミングよく取引したい、という
証券取引所が取引システムを高速化することに
需要であり、即時性の供給は、タイミングよく取
よ り、 高 頻 度 取 引(High Frequency Trading)
引する機会の提供である。デプスの需要は、大口
業者の活動が活発になり、それら業者のスピード
の売買を低コストで行いたい、という需要であり、
需要に応え、取引所が更にシステムを高速化して
デプスの供給は、大口注文を小さな価格変化で取
いる。この状況において、市場において真に必要
引する機会の提供である。理想の市場は、即時性
とされるのは、従来と同様、本源的価値を高精度
及びデプスが無限に供給されており、どのような
で推計できる参加者であろう。本稿では、高速取
タイミングで大口注文を出しても、本源的価値で
引環境の下で、高頻度取引業者を含む様々な参加
取引することのできる市場である。
者がどのように取引し、どのように情報生産が行
以下では、まず、即時性の需要と供給、デプス
われるかについて、流動性の観点から整理する。
の需要と供給、他の参加者の注文予想に基づく取
理想の証券市場を、個人が資産運用などのため
引について説明する。それを踏まえて、市場にお
に取引をしたいとき、どのような数量でも、常に
いてどのように取引が行われるか、規制はどうあ
本源的価値で取引することができる市場としよ
るべきか、を議論する。
う。将来様々なことが起こるであろうが、他の参
加者の意見が十分に反映された価格が付いてお
2.即時性の需要と供給
り、価格を見ただけで、会社の将来業績を判断で
個人は、自分に取引需要が発生した時点で注文
きる市場である。また、価格が急落したとき、下
を出し、即時性を需要するが、流動性需要に基づ
げ過ぎで割安になっているのではないか、と思案
いた注文を出すことから、流動性投資家と呼ばれ
する必要はなく、
本源的価値が急落しているのだ、
る。個人により即時性を需要するタイミングが異
と見なすことのできる市場である。
なり、売り手が多いときに価格が下落し、買い手
このような市場は、流動性の高い市場である。
が多いときに価格が上昇する。そのため、価格下
ただし、流動性にはいくつかの側面があり、本稿
落時に買って在庫を積み増し、価格上昇時に売却
では、即時性(immediacy)の需要と供給、及
することで、利益をあげることができる。これが、
びデプスの需要と供給を考察の対象とする。即時
即時性の供給であり、即時性の供給者は、マーケ
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